太田光海 / Akimi Ota

映像作家・人類学者。『カナルタ 螺旋状の夢』監督。マンチェスター大学映像人類学部博士課…

太田光海 / Akimi Ota

映像作家・人類学者。『カナルタ 螺旋状の夢』監督。マンチェスター大学映像人類学部博士課程修了。コムアイさんと胎児の旅を記録する最新作『La Vie Cinématique 映画的人生』制作中。現在、ブラジルに拠点。noteでは僕の日々の活動の最前線を綴ります。

マガジン

  • カナルタ コトハジメ

    2021年10月2日(土)より全国のミニシアターで劇場公開されるドキュメンタリー映画『カナルタ 螺旋状の夢』。僕自身がひとりでアマゾン熱帯雨林に飛び込み、かつて「首狩り族」として恐れられていたシュアール族と呼ばれる人々の村に1年間住み込んで撮った映画です。この連載では、『カナルタ』をより深く味わってもらえるように、撮影に至るまでの様々なエピソードを綴ります。

最近の記事

「このために『カナルタ』をエクアドルで上映したかった」と確信した、緊張感ある上映後ディスカッション

今日4月12日の『カナルタ 螺旋状の夢』上映後のディスカッションが色んな意味でとても刺激的だったので、書き留めておきたい。 『カナルタ』のキト劇場公開も今日で4日目。俺は期間中、毎晩上映後に劇場に行ってお客さんたちとディスカッションを行っている。毎回、全然違う人たちと出会い、交流することができていて、非常に刺激的だ。初回上映は観客の人数も多く、あまり多くの人と話せなかったが、様々な人に声を掛けられた。 目に涙を浮かべながら「神があなたを祝福する」と頬にキスをしてきた人。自

    • 『イレイザーヘッド』(1977年、デヴィッド・リンチ)

      グロテスクで、腐敗臭がして、バッドトリップだった。だが、これ「も」なければ、映画は面白くない。何がどうなったからどうなるのかがわかってしまったら、失われるセンサーがある。映画の中でくらい、そんなロジックは脇に置かせてほしい。リンチはこの作品を通してとりあえずそう言っている。 この映画が世に存在しているからといって、我々を日々がんじがらめにする現実の理屈は一向に消えやしない。現実の機序にとってこの作品は何も悪いことはしていない。だけど、このバッドトリップを経てしまった我々は、

      • 『カナルタ 螺旋状の夢』を、4年越しで撮影国エクアドルに届ける旅

        エクアドルの首都キトに来ている。4月9日から14日までの6日間、『カナルタ 螺旋状の夢』が劇場で公開されるためだ。 会場はOcho y Medio(8と2分の1という意味)という独立系映画館。 新市街の文化的なエリアにあり、キトでほぼ唯一と言っていい、継続的にアートハウスシネマを上映するシアターだ。 映画祭以外で、『カナルタ』が日本国外で劇場公開されるのは、これが初めて。色々と想いが詰まっている上映なので書きたいことがたくさんあるけれど、まずは実現に至った経緯を振り返り

        • リベルダージ:地球の裏側で日系コミュニティを覗いて見えたもの

          ブラジル・サンパウロには、世界最大級とも言われる日本人街が存在する。街の中心のやや東側にある、リベルダージ地区だ。 1910年代にはすでに日本人が集住していたというリベルダージ地区は、100年以上の時をかけて、変化を経験しつつ今も日系ブラジル人たちの拠り所であり続けている。また、高まる日本食人気や韓国・中国系の人々や文化の合流によって、サンパウロにおけるポップカルチャーの一つの中心地とも呼べる場となっている。ヨーロッパで仲が良かったブラジル人の友人からよく話を聞いていて、何

        「このために『カナルタ』をエクアドルで上映したかった」と確信した、緊張感ある上映後ディスカッション

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        • カナルタ コトハジメ
          11本
          ¥990

        記事

          サンパウロの展示で感じた、ブラジルにおける表現の切実さ

          南米最大の街なだけあり、サンパウロは展示の宝庫だ。短い滞在期間中に全て観られるとは到底思えないが、できるだけ観てこの土地特有の美術・展示シーンから吸収したい。 そこで今回訪れたのは、街の中心を貫くパウリスタ通り沿いにある、写真やアーカイブ・マテリアルを展示の中心に置くInstituto Moreira Salles(IMS)だ。 今行われている展示は、2つ。 一つは、ブラジル軍事政権下の1960〜1980年代に活躍した映像作家、リポーター、写真家のジョルジュ・ボダンスキ

          サンパウロの展示で感じた、ブラジルにおける表現の切実さ

          遠くて近い国、ブラジル

          ブラジルはサンパウロに来て、はや2日が経つ。 ポーラ美術振興財団による「若手芸術家の在外研修助成」に申請する際に、行き先としてブラジルを選んだのはすでに約1年半前。申請するからには絶対に実現させたかったので、必死に計画書を書いた。その甲斐あってか、無事に選考に通ったものの、その後様々な事情によりすぐに出発することができずにいた。しかし、失効期限ギリギリの今月、何とか帳尻を合わせて飛行機に飛び乗ることができた。 しばらく寝かせていたnoteでは書き記していないが、ブラジルへ

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          金子遊氏の性加害疑惑について、現時点で紡ぐ言葉

          東京ドキュメンタリー映画祭のディレクターであり映像作家・批評家の金子遊氏が、2023年7月23日に亡くなった(死因は非公表)水井真希さんから生前に性加害を告発されていた事実が広まったことで、ディレクターを降板した。下が、水井さんの一連の告発ツイートだ。 水井さんの告発内容は、端的に言って現実に起きたのが信じられないほど身の毛のよだつものだ。そして、最悪なことに、昨年12月からツイートは公開されていたにも関わらず、私にはこの情報が入ってきていなかった。普段Twitterを常用

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          地球にわずかに残された、生き物たちが開いている場所

          ペルーに入国してからすでに1ヶ月半、今滞在中のアマゾン熱帯雨林にあるワンピス族の村に来てからも、1ヶ月が経った。村にあるWi-Fiが通じるポイントに来て、超久しぶりに文章を更新している。スマホで打っているけど、スマホで長文を打つのが苦手なので短めに。 人類学のフィールドワークでこの村に5ヶ月くらい滞在したのが6年前。その後、博士論文を提出した直後の2019年11月ごろにも数日だけ滞在したので、それ以来約4年ぶりだ。 過ごしてみてつくづく思うのは、物事が身体に馴染むのには時

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          この空を見るために俺は生まれてきた

          ペルーのアマゾン熱帯雨林にひっそりと存在する、御伽話の世界のような小さな町、サンタ・マリア・デ・ニエバ。道路がこの町で終わり、以降は水路での移動しかできなくなる。観光の「カ」の字もないこの地は、真の意味で地元の主に先住民系の住民たちの交易や行政のささやかな中心地であり、交錯地点だ。 俺は6年前、人類学のフィールドワークを行う目的でこの地を訪れ、ここに充満する湧き上がるようなエネルギーにすぐさま魅了された。日本はおろか、欧米や南米内からの観光客も皆無に近いこの町では、完全なる

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          水中撮影ロケ!

          今日は早くも5月19日。前回が5月8日だったから、10日以上も空いてしまった! 毎日様々なことが起きていて、ざっと振り返るだけでも8日は歌舞伎鑑賞、9日は三河島水再生センターで行われたコムちゃんの水をアートで考える活動「HYPE FREE WATER」の取材に同行。さらに、その日は映画『La Vie Cinématique 映画的人生』クラウドファンディング最終日だったので、最後の追い込みをかけた。結果的に、ストレッチゴールも超える850万円以上が集まり、製作に向けて途轍も

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          青石太郎という存在

          昨日5月7日は、映像作家・青石太郎の作品上映会に行って、『Lilypop』と『時空は愛の跡』を鑑賞。多摩市の映画カフェ「キノコヤ」という場所だった。 太郎は高校の同級生で、1年生のときにクラスが一緒だった。俺が高校時代に一番影響を受けた友達の1人だ。映画や音楽、服などの粋(いき)について色々と教えてもらったり、ブレずに突き詰めることを教えてくれた友達で、ずっと尊敬している。 高校卒業後、彼は武蔵野美術大学映像学科に進学して映画を撮り始め、卒業作品の『Please Plea

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          カナルタ、セバスティアン

          映画『カナルタ 螺旋状の夢』主演の1人であるセバスティアン・ツァマラインが、9月8日に息を引き取りました。2019年に最後に彼の元を訪ねたあと、少しずつ体調を崩していき、最後は全身に癌が転移した状態でした。 去年10月に劇場公開が始まった頃にはかなり病状が悪化していて、都会で入院することもしばしばでした。そしてここ半年は、彼の病状が急変したと彼の家族から聞くたびに死を覚悟したことが何度もあり、その度に涙が溢れ出そうになっていました。 しかし、映画を届けることが何よりも彼が

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          『カナルタ 螺旋状の夢』下高井戸シネマ満席最終上映を終えて

          映画『カナルタ 螺旋状の夢』都内再上映は昨日4月29日(金)に下高井戸シネマで最終回を迎え、満席の会場と共に会期を終えました。 残念ながら僕自身は当日会場にいませんでいたが、フルに埋まった館内を想像するととてつもない高揚感を感じます。ご来場いただいた皆さん、本当に心よりありがとうございました。 思い返せば、コロナ禍でロックダウンとなり、八方塞がりとなったヨーロッパを急遽後にし、2020年に約10年ぶりに日本に拠点を移した僕には、家族や学生時代の友人などを除いてほとんど知り

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          作家・田口ランディさんによる映画『カナルタ 螺旋状の夢』評 「存在をかけて信じる力」

          作家・田口ランディさんから、『カナルタ 螺旋状の夢』に向けたエッセイをご寄稿いただきました。この場を借りて発表させていただきます。田口ランディさん、心よりありがとうございます。 -------------------------------------------- 『カナルタ 螺旋状の夢』 存在をかけて信じる力 田口ランディ  幻覚植物によるトリップという題材は、古今東西の多くの映画や文学に取り上げられてきたよね。だけど、描かれ方は一方通行。「幻覚を見て覚醒しました

          作家・田口ランディさんによる映画『カナルタ 螺旋状の夢』評 「存在をかけて信じる力」

          連載「カナルタ コトハジメ」#11 未知の大陸、南米に旅立つ前に僕がかましたハッタリのこと

          *2021年10月2日(土)より全国のミニシアターで劇場公開されるドキュメンタリー映画『カナルタ 螺旋状の夢』。僕自身がひとりでアマゾン熱帯雨林に飛び込み、かつて「首狩り族」として恐れられていたシュアール族と呼ばれる人々の村に1年間住み込んで撮った映画です。この連載では、『カナルタ』をより深く味わってもらえるように、自分の言葉でこの映画にまつわる様々なエピソードや製作の裏側にあるアイデアなどを綴っていきます* _______________________________

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          連載「カナルタ コトハジメ」#11 未知の大陸、南米に旅立…

          連載「カナルタ コトハジメ」#10 アートと学問の垣根を越える:マンチェスター大学映像人類学部の「不可能な挑戦」

          *2021年10月2日(土)より全国のミニシアターで劇場公開されるドキュメンタリー映画『カナルタ 螺旋状の夢』。僕自身がひとりでアマゾン熱帯雨林に飛び込み、かつて「首狩り族」として恐れられていたシュアール族と呼ばれる人々の村に1年間住み込んで撮った映画です。この連載では、『カナルタ』をより深く味わってもらえるように、自分の言葉でこの映画にまつわる様々なエピソードや製作の裏側にあるアイデアなどを綴っていきます* _______________________________

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