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『カナルタ 螺旋状の夢』下高井戸シネマ満席最終上映を終えて

映画『カナルタ 螺旋状の夢』都内再上映は昨日4月29日(金)に下高井戸シネマで最終回を迎え、満席の会場と共に会期を終えました。

残念ながら僕自身は当日会場にいませんでいたが、フルに埋まった館内を想像するととてつもない高揚感を感じます。ご来場いただいた皆さん、本当に心よりありがとうございました。

思い返せば、コロナ禍でロックダウンとなり、八方塞がりとなったヨーロッパを急遽後にし、2020年に約10年ぶりに日本に拠点を移した僕には、家族や学生時代の友人などを除いてほとんど知り合いがいない状態でした。

手元にはそれまで拠点だったイギリスで必死に完成させた『カナルタ』という、まだ誰も知らない映画だけがありました。人類学の博士号を活かした進路も考えましたが、研究で疲弊しきった心身をリフレッシュさせ、紆余曲折を経たあと、自分が一番成し遂げたいことは何か、自分自身に問いかけました。そして、この映画をあらゆる人に届けることに全てのエネルギーを注力することに決めました。

映画界に何の繋がりもなかった僕は、とにかく映画祭に応募しまくりました。ベルリンやロッテルダム、サンダンスといった大きな映画祭には全て落選し、たくさんのお金を無駄にしました。最近になってようやく、こういう映画祭には「通常のルート」ではほぼ入選できないことを知りました。それでも、小さな映画祭でいくつか受賞することができ、一つ一つの受賞に対して涙が出るほど喜びました。

何者でもない人間が何物でもない映画を作ったとき、オーディエンスを「0→1」にし、そこから輪を広げていくのは、とても骨の折れるプロセスです。実験的なアプローチを取り入れ、型にはまらない形でアマゾン熱帯雨林の世界と鑑賞者をつなぐ映画を作ったつもりでしたが、最初期に見せた多くの人たちからは必ずしも理解を得られませんでした。劇場公開など夢のまた夢で、自分の意識にすら上りませんでした。

砂漠を彷徨うような感覚で「どこかに伝わる人がいるはずだ」とひたすら自分と作品を信じて進みました。少しずつこの映画を「面白い」と掛け値なしに言ってくださる方に出会い始めましたが、彼らは僕が最初に想定していたオーディエンスとは全く違う界隈の人たちでした。僕は迷わず人類学という狭い世界へのこだわりを捨て、彼らの世界に飛び込んでいきました。「学術的記録」などと言わず、一つの純粋な「映画」としてとことんまでこの作品と勝負に出る決意を固めました。『カナルタ』の全国的な広がりや昨日の満席上映は、まっさらな目で純粋に本作を評価してくれた彼らがいてこそ、達成できたことです。彼らのような人たちとの出会いに、言葉にならないほど感謝しています。

僕は今でも、『カナルタ』のオーディエンスが1人もいなかったあの時を覚えています。今でも、会場にお越しくださる1人1人の方がチケットを手にスクリーンの前に座る姿を見るたびに、心が震えます。1人1人のご感想をいただくたびに、「ここにもまた、伝わった人がいたんだ」と、胸が締め付けられるほど嬉しくなります。

それは「自分が評価された」という感覚よりは、アマゾンの森で僕が投げ出した命と、それに呼応してくれた現地の人たちの間に生まれたかけがえのない繋がりに対して、この世界における存在意義を認めてくれることに対する感謝の気持ちに近いかもしれません。それくらい、この映画は触れるとすぐに切れてしまうか細い糸のような、物事に対する脆く繊細な感覚に支えられていると思っています。

この映画のテーマの一つは「信じる」ということです。本もなく、手軽に学べる動画もなく、教師もいない、自分の肉体しか存在しないような世界で、どうやってこの世界を嗅ぎ分け、理解し、命を紡ぐことができるのか。その感覚を僕はアマゾンの友人たちから学び、今もそれとともに生きています。

『カナルタ』の劇場上映の機会は今後非常に限られるでしょう。その代わり、オンライン配信を目指してすでに具体的に動き出しています。各地で自主上映会の企画を受け付けられるように体制も整えます。『カナルタ』劇場公開プロジェクトは、これにてひとまずの区切りを迎えますが、この映画自体は今後何年もかけて消化されていくことを願っていますし、そうなっていくと確信しています。

また、僕自身の著作出版や新作の映画についても具体的に動き出しています。相変わらず立ちはだかる壁はとてつもなく高く見えますが、これまで乗り越えてきたたくさんの壁を思い出して、これからも楽天的に、努力の大切さを忘れず、前に進んでいきたいと思います。

これからもよろしくお願いします!

追伸:『カナルタ』は沖縄県沖縄市(旧コザ)のミュージックタウン音市場にて、5月6日(金)まで上映中です。沖縄の皆様、ぜひお越しください。

ミュージックタウン音市場HP:https://www.otoichiba.jp/cinema/kanarta/

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