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自由律俳句

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「自由律俳句まとめ」

「自由律俳句まとめ」

#1   消された写真の方が私の写りはよかった
#2   校庭見下ろす姿をずっと見上げていた
#3   私の座った椅子だけ固定されてる
#4   火葬場の食堂でも大盛りに出来る
#5   月と君だけが浮かぶプール
#6   口笛を吹いて気まずさが増す
#7    険悪な雰囲気のなか名物パフェの登場
#8   便所で迎える花火のフィナーレ
#9   君を起こさぬようそっと麺を啜る

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「自由律俳句」

「自由律俳句」

#30    時間稼ぎの小石がなくなったベンチ

 もう何時間こうしているだろう。オレンジ色に染まっていたはずの君の横顔は、いつの間にか公園の街路灯にぼんやりと照らされている。
 考えていた面白い話も出し尽くして、僕はベンチの下に転がる小石をずっと蹴り続けている。
 僕が何かを伝えようとしていることは明白で、この不自然に流れる時間や空気に君は気付かぬふりをしてくれている。
 覚悟を決めたはずの言葉

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自由律俳句#29 「不評な映画が面白くて不安」

自由律俳句#29 「不評な映画が面白くて不安」

 みんなで酒を飲んでいると最近観たドラマや映画の話になったりする。
 サブスクで視聴できる話題のドラマから始まり、最後に映画館で観た映画は何かという感じで移行していくのだが、「先週○○を観に行ったで」と答えた時に「俺も観に行った、あれ全然おもんなかったよな」と返されることがある。

 自ら先陣を切って答えたのだから、勿論面白いと思って発言したはずなのに、「そうやなぁ…ちょっと内容が薄かったよなぁ…

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自由律俳句 #28 「思ったよりも旅館の周りは寂れていた」

自由律俳句 #28 「思ったよりも旅館の周りは寂れていた」

 ゆっくり温泉にでも浸かりたいとスマホで旅行サイトを検索すると、宿泊料金はそこまで高くはないが外観や部屋の雰囲気もよく、ロビーまで綺麗で清潔感のある旅館がたまにヒットする。
 口コミなどを見ても悪いことはほとんど書かれておらず、朝食まで豪華で美味しいという嬉しい情報がまたプラスになる。これは最高の宿を見つけたとさっそく予約をするのだが、実際に行ってみると、旅館はイメージ通りであってもその周りが想像

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自由律俳句 #27 「もうすぐ着くの感覚が合わない」

自由律俳句 #27 「もうすぐ着くの感覚が合わない」

 友人や恋人、今まで色んな人間と待ち合わせをしてきたなかで、「もうすぐ着く!」とメッセージが届いてから七分以内に姿を現した人間を見たことがない。
 大抵は十分以上過ぎてから現れるか、「今駅着いた!」とさらに遅れるであろう内容のメッセージが届くばかりである。
 あの「今駅着いた!」という台詞は不思議なもので、もちろん駅の改札前などで待ち合わせしていた場合の「今駅着いた!」はもう到着の判定でいいと思う

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「#26 窓に映る東京タワーをずっと見ている」

「#26 窓に映る東京タワーをずっと見ている」

 まだ上京したばかりの頃、タクシーで夜の高速を走っていると一緒に乗っていた誰かが「東京タワーだ!」と声を上げた。ライトアップされた東京タワーを皆が食い入るように眺める中で、僕は皆の視線とは反対側の、タクシーの窓に映る東京タワーをずっと見ていた。
 窓に映った東京タワーは淡く滲んだようなオレンジ色の光を放ち、いつもよりも優しいその輝きに何故か胸を締め付けられた。

 誰もが夢を叶える為に、成功を掴む

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「#25 あの巨大な料理がここにも来るのか」

「#25 あの巨大な料理がここにも来るのか」

 テレビでデカ盛りグルメを紹介する番組がやっていると必ず見てしまう。
 大食いの人が挑戦するような特別メニューのあるお店ではなく、「お客さんにお腹いっぱい食べてもらいたいと考えた結果、いつの間にかこんなにも大盛りなメニューになっちゃいました」的なお店を大好きなのだ。

 若い頃は番組を見ながら「ここやったすぐ行けるから一回食べてみたいなぁ〜」なんて思っていたが、今ではもう絶対食べれないので、「お願

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 「#24 百円ショップの募金箱に千円」

「#24 百円ショップの募金箱に千円」

 考えごとをしながら自転車を駐輪場から出したせいで、なんとそのまま自転車を押して目的のカフェまで歩いて行ってしまったことがある。
 店に到着して自転車の鍵をかけたところで「うわ、自転車乗るの忘れてた」と我に返ったのだ。

 スマホで時間を確認すると見事に15分ほど遅刻していて、ずっと自転車を押しながら歩いたせいで汗だくにもなっていた。
 急いで店に入り、待ち合わせしていた友人に事の顛末を話したのだ

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「#23 ラーメンを頼んでも炒飯のスープは来る」

「#23 ラーメンを頼んでも炒飯のスープは来る」

 町中華やラーメン屋で炒飯の単品を注文すると、ネギが少し入った鶏ガラベースのスープが付いてくることが多い。

 シンプルながらコク深い味わいは馬鹿に出来ない美味しさであり、「せっかくだから、お味噌汁代わりじゃないけどこれどうぞ!」みたいな店側の気遣いを感じるとても良いサービスである。たまに溶き卵や野菜の切れ端などが入ってる店もあり、ちょっと得した気分にだってさせてくれる。

 ただラーメンと炒飯の

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「#22 このまま歩けば試供品をもらえる」

「#22 このまま歩けば試供品をもらえる」

 4月8日に誕生日を迎え44歳になった。
 今まで特に年齢など気にせずに生きてきたが、歩いていてふと自分の年齢を考えた時に、44かぁ〜、えっ!44歳なんっ!?と驚いてしまうことがある。平日の昼間にスニーカーで街中をふらふらと歩いている44歳は僕だけなのではないかと辺りを窺ってしまうようになった。
 人それぞれ歩幅も歩き方も違うものだが、やはり大人としてこれからは成熟していきたいものである。その一歩

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「#21 排気ガスで舞う桜吹雪」

「#21 排気ガスで舞う桜吹雪」

 いつも花見の時期になると道路は人でごった返し、信号の設置された横断歩道にも警備員や警察官によって規制が張られる。
 ただの通勤経路として利用しているだけの僕も漏れなくその規制の網にかかり、警備員の怒号に近い交通誘導の指示に花見客と肩を寄せ合い従っている。信号が青に変わり歩き出すが、信号待ちで並ぶ列の真ん中ぐらいにいた僕の目の前で「もう信号が変わりますっ!」というひび割れた怒号と共に、警備員によっ

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「#20 粉チーズを小皿で出される誤算」

「#20 粉チーズを小皿で出される誤算」

 トマト系のパスタに粉チーズなんて、かければかけるだけ美味しい。

 イタリアの偉人がたしかこんな名言を残してはいなかっただろうか、そう思うほどトマト系のパスタと粉チーズの相性は抜群である。初めてパスタに粉チーズをかけたのは、家族でファミレスに行ってトマトパスタを頼んだ時ではないだろうか。父親に「これかけてみろ、うまいから」と言われ食べた時の衝撃を、今でも鮮明に憶えている。
 もうすでに完成されて

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「#19 船から笑顔で手を振る知らない人達」

「#19 船から笑顔で手を振る知らない人達」

 港に隣接された公園は海沿いを長く続いている。等間隔に白いベンチが並び、読書をしている人や、愛を語り合う男女、高らかにトランペットを吹く老人など、皆が思い思いの時を過ごしている。ゆっくりとベンチの前を横切って歩く僕を、次々とランナー達が追い越していく。
 ボーという汽笛の音が聞こえ、立ち止まって振り向くと白い大きな船が見えた。甲板の上には沢山の乗客の姿があり、笑顔でこちらに手を振っている。僕はその

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「#18 店員が焼いてくれてるので会話できない」

「#18 店員が焼いてくれてるので会話できない」

 東京のお好み焼き屋では客が自ら鉄板で焼くパターンが多いらしいが、各テーブルに鉄板の設置されている大阪のお好み焼き屋では、基本的には厨房で焼いてくれたものを持って来てくれるか、テーブルの鉄板を使い目の前で店員が焼いてくれるパターンが多い。
 持って来てくれる場合は、テーブルの鉄板を使い最後までお好み焼きを熱々の状態で食べられるだけなので問題ないが、店員が目の前で焼いてくれる場合だと、知らない人が目

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