マガジンのカバー画像

自由律俳句

23
運営しているクリエイター

記事一覧

「#23 ラーメンを頼んでも炒飯のスープは来る」

「#23 ラーメンを頼んでも炒飯のスープは来る」

町中華やラーメン屋で炒飯の単品を注文すると、ネギが少し入った鶏ガラベースのスープが付いてくることが多い。

シンプルながらコク深い味わいは馬鹿に出来ない美味しさであり、「せっかくだから、お味噌汁代わりじゃないけどこれどうぞ!」みたいな店側の気遣いを感じるとても良いサービスである。たまに溶き卵や野菜の切れ端などが入ってる店もあり、ちょっと得した気分にだってさせてくれる。

ただラーメンと炒飯の

もっとみる
「#22 このまま歩けば試供品をもらえる」

「#22 このまま歩けば試供品をもらえる」

4月8日に誕生日を迎え44歳になった。
今まで特に年齢など気にせずに生きてきたが、歩いていてふと自分の年齢を考えた時に、44かぁ〜、えっ!44歳なんっ!?と驚いてしまうことがある。平日の昼間にスニーカーで街中をふらふらと歩いている44歳は僕だけなのではないかと辺りを窺ってしまうようになった。
人それぞれ歩幅も歩き方も違うものだが、やはり大人としてこれからは成熟していきたいものである。その一歩

もっとみる
「#21 排気ガスで舞う桜吹雪」

「#21 排気ガスで舞う桜吹雪」

いつも花見の時期になると道路は人でごった返し、信号の設置された横断歩道にも警備員や警察官によって規制が張られる。
ただの通勤経路として利用しているだけの僕も漏れなくその規制の網にかかり、警備員の怒号に近い交通誘導の指示に花見客と肩を寄せ合い従っている。信号が青に変わり歩き出すが、信号待ちで並ぶ列の真ん中ぐらいにいた僕の目の前で「もう信号が変わりますっ!」というひび割れた怒号と共に、警備員によっ

もっとみる
「#20 粉チーズを小皿で出される誤算」

「#20 粉チーズを小皿で出される誤算」

トマト系のパスタに粉チーズなんて、かければかけるだけ美味しい。

イタリアの偉人がたしかこんな名言を残してはいなかっただろうか、そう思うほどトマト系のパスタと粉チーズの相性は抜群である。初めてパスタに粉チーズをかけたのは、家族でファミレスに行ってトマトパスタを頼んだ時ではないだろうか。父親に「これかけてみろ、うまいから」と言われ食べた時の衝撃を、今でも鮮明に憶えている。
もうすでに完成されて

もっとみる
「#19 船から笑顔で手を振る知らない人達」

「#19 船から笑顔で手を振る知らない人達」

港に隣接された公園は海沿いを長く続いている。等間隔に白いベンチが並び、読書をしている人や、愛を語り合う男女、高らかにトランペットを吹く老人など、皆が思い思いの時を過ごしている。ゆっくりとベンチの前を横切って歩く僕を、次々とランナー達が追い越していく。
ボーという汽笛の音が聞こえ、立ち止まって振り向くと白い大きな船が見えた。甲板の上には沢山の乗客の姿があり、笑顔でこちらに手を振っている。僕はその

もっとみる
「#18 店員が焼いてくれてるので会話できない」

「#18 店員が焼いてくれてるので会話できない」

東京のお好み焼き屋では客が自ら鉄板で焼くパターンが多いらしいが、各テーブルに鉄板の設置されている大阪のお好み焼き屋では、基本的には厨房で焼いてくれたものを持って来てくれるか、テーブルの鉄板を使い目の前で店員が焼いてくれるパターンが多い。
持って来てくれる場合は、テーブルの鉄板を使い最後までお好み焼きを熱々の状態で食べられるだけなので問題ないが、店員が目の前で焼いてくれる場合だと、知らない人が目

もっとみる
「#17 先に着いてしまった祈祷師」

「#17 先に着いてしまった祈祷師」

最寄駅へ向かう途中にあるアパートの取り壊しが始まり、気づけばあっという間に更地になっていた。町中華屋や古着屋など様々な個人商店が並ぶその通りには、以前から気軽に作業のできるカフェがあればいい思っていたので、僕は淡い期待を抱きながらその土地の動向を注視していた。

一週間ほどすると更地には侵入禁止のロープと共に建設予定の看板が設置され、この後に何が建てられるのか、そのヒントがあるのではないかと

もっとみる
「#16 夏の海を眺めるだけの歳になった」

「#16 夏の海を眺めるだけの歳になった」

遊歩道からビーチへと下りる石段の途中に腰掛けて海を眺めている。とても良く晴れた穏やかな天気の下で、サーファー達は昼寝でもするように皆プカプカと波間に漂っている。
何か明確な目的があった訳ではない。ただ海が見たいと思った。喉を締めつけられるような閉塞的な日常の中で、どこまでも続く海と、果てなく広がる空を眺めていれば、ほんの少しだけ心は軽くなるような気がした。

照りつける日差しの熱を皮膚がゆっ

もっとみる
「#15 イルカではなくずぶ濡れの子供に拍手」

「#15 イルカではなくずぶ濡れの子供に拍手」

イルカショーのタイムスケジュールを確認してから水族館への到着時間を決める。最初に半分ほどの展示を見て周り、イルカショーを挟んでから残りの半分を楽しむという流れが理想である。イルカショーを水族館の締めにすると、イルカ達が躍動してショーの盛り上がりが最高潮に達した瞬間に、「あぁ〜もうこれで最後なんだなぁ・・」と花火大会のフィナーレを見ている時の複雑な感情が湧き上がってしまう。展示を後半に半分残してお

もっとみる
「#14 また浴衣の女性とすれ違いスマホを開く」

「#14 また浴衣の女性とすれ違いスマホを開く」

まだ上京したばかりの頃は、知り合いも少なく事務所から振られる仕事もほとんど無かった。バイトの面接を受けても感触は悪く、実際に採用の通知連絡もなかった。たまにしっかりとした会社は不採用でも連絡をくれるのだが、電話を切った後の自分が急に不採用の人となって鏡に映し出されるのが恥ずかしかった。
ようやく合格したのはブラック企業のコールセンターで、バイト全員が恐れ慄く社長の口癖は「人を動かすために最も必

もっとみる
「#13 市民プールの匂いが自転車を加速させる」

「#13 市民プールの匂いが自転車を加速させる」

自転車用のチャイルドシートに座る僕の視界は、父親の背中で遮られ良好ではない。いっそのこと目を瞑って、聞こえてくる音と、漂う匂いと、肌に触れる感覚を頼りに、自分の周りに広がる景色を把握しようと試みる。自転車が前方に少し傾きスピードを増すと、ぬるく漂っていた空気が頬をさらりと撫で、油の切れた耳触りなブレーキ音と共に、電車の通り過ぎる音が頭上で大きく響いた。駅前の坂を下ってから高架下を通り抜けるこのル

もっとみる
「#12 もうインターフォン鳴るのが怖い時間」

「#12 もうインターフォン鳴るのが怖い時間」


昼間と夜ではガラッと印象が変わることがある。例えば昼間どんなに楽しく過ごした学校であってもそうだ。どの運動部よりも遅くまで残っていたサッカー部の練習終わりに見上げる校舎は、昼間よりもずっしりと重くそびえ立ち、あれだけ昼間に走り回っていた廊下も、先の見えない闇の中をどこまでも続いているように感じる。「忘れ物はぁ・・まぁ明日でいっか・・・」と洗濯するはずの体操着を諦めて、そそくさと帰宅することに

もっとみる
「#11 新聞配達のバイクが朝を吹き出して行く」

「#11 新聞配達のバイクが朝を吹き出して行く」

学校が休みの前日には、夜中によく友達の家に集まった。高校に入りそれぞれの新しい生活が始まっていたが、それでも僕らは地元の仲間と一緒に過ごす夜が好きだった。メンバーは四人で、皮肉屋のメガネと、読書家の坊主、人見知りのキャプテンと、古着好きの堅物という構成であった。この四人で地元の寝屋川から南港まで五時間かけて初日の出を見に行ったエピソードは、日本版「スタンド・バイ・ミー」と言っても過言ではないだろ

もっとみる
「#10 明日のパンとして買われた今日のパン」

「#10 明日のパンとして買われた今日のパン」

幼稚園の帰りに母とスーパーへ行くと、「ほら明日のパン選んでおいで」とよく言われた。好きなパンを選べるのは嬉しかったが、棚にたくさん陳列された「明日の」と呼ばれているパン達が可愛そうだなぁと思っていた。チョコレートでコーティングされたり、ホイップクリームが盛られていたり、チーズやマヨネーズ、大きなソーセージまで挟まれたキラキラしたパン達の前で、「あっ、すいません今日じゃなくて明日のなんです」と申し

もっとみる