難波麻人

僕のささやかな奮闘記をエッセイにしたり、たまに短い物語を書きたいと思います。

難波麻人

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マガジン

  • 自由律俳句

  • ショートショート

    僕は電車の待ち時間が異様に嫌いなので、そんな時に読めるものが書ければと思います。

  • BAR HOPE

    小さなBARに訪れる風変わりな客達の、お酒にまつわるショートストーリーを書いていきます。

  • エッセイ

    今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。

  • 物語

    小さな物語や、小説も書いていければと思います。

最近の記事

「#21 排気ガスで舞う桜吹雪」

いつも花見の時期になると道路は人でごった返し、信号の設置された横断歩道にも警備員や警察官によって規制が張られる。 ただの通勤経路として利用しているだけの僕も漏れなくその規制の網にかかり、警備員の怒号に近い交通誘導の指示に花見客と肩を寄せ合い従っている。信号が青に変わり歩き出すが、信号待ちで並ぶ列の真ん中ぐらいにいた僕の目の前で「もう信号が変わりますっ!」というひび割れた怒号と共に、警備員によって素早くロープが張られてしまう。 「いやまだ変わらへんから。もう二列は黄色にな

    • ショートショート 「能力者」

      エライジャ・クレイグのロックを注文してから腕時計を見ると、もう22時を過ぎていた。今日は朝から仕事で色んな人間の話を聞いてる。違う人間から同じような内容の話を聞き、似たような質問を繰り返すだけのくだらない作業。 俺は後頭部に鈍い痛みを感じながら、ここで何杯か酒を飲んで頭をほぐせばそのまま帰ってぐっすり眠れそうな気がしていた。 ウィスキーを一口飲んだところで店のドアが開き、スーツを着た中年の男が入って来る。男は常連らしくマスターと挨拶を交わすと、俺の二つ隣のカウンターの

      • 「BAR HOPE」

        ⑤マティーニ〜 ビル・エヴァンスのピアノをかき消すような彼女たちの笑い声が扉の外から聞こえてくる。 莉子さんと亜美さんは一件目でワインをしこたま飲んだその帰りに、いつだって大笑いしながら二人で店にやって来る。 彼女達におしぼりを渡しながら「今日も楽しそうですね」と声をかけると、二人はまた大笑いしながらそれを受け取り、いつも揃ってマティーニを注文する。 マティーニは「カクテルの王様」と呼ばれるほど歴史のあるカクテルであり、アメリカのホテルで働いていたマルティーニという

        • 「帰省」

          もうどれくらいライブに出ていなかっただろう。舞台に立つ感覚が鈍っているというよりも、自分が舞台に立っていたことが想像できないような感覚だった。 中学時代からの友人が、地元の寝屋川で開催する朗読ライブにゲストという形で声をかけてくれたのだが、必要なものは全部分かっているのにそれが一つも手の中に無いような心理状況で、何から始めればいいのか順番さえ選べずにいた。 だからといって感覚を戻すために、今さら中野や下北のインディーズライブにお願いして出演させて貰う訳にもいかない。皆

        「#21 排気ガスで舞う桜吹雪」

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        • 自由律俳句
          21本
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          13本
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          5本
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          35本
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          6本

        記事

          「萱島祭り」

          お気に入りのTシャツに着替え家の外に出ると、むっとした熱気が体に纏わりついてきた。胸の高鳴りをごまかそうと、顔を差す西日にわざとらしく顔をしかめた。 短髪に整髪料をなすり付けた髪型が崩れぬように、Tシャツの脇や背中の部分が汗で濡れてしまわぬように、待ち合わせした橋の上まで、ゆっくりとした速度で自転車を漕ぐ。 昔通っていた幼稚園を通り過ぎ、その先にある神田神社の前を右に曲がると僕らの通う中学の校舎が現れる。夏休みに入って人気のない校舎は静かに佇み、グラウンドでは昼間の激

          「萱島祭り」

          「花瓶の葬式」

          花瓶を割った。 その花瓶は僕の友人がまだ若く金もない頃に、それでもどうしようもないほどに魅了されて購入したものである。それから十年以上大事に使っていたその花瓶を、友人は僕の働くBARのカウンターに置いてくれと持ってきた。それは友人がもうその花瓶に飽きたとか、もっと高価でいいものを見つけたからという理由ではない。友人は自分の大事な花瓶と、その想いを僕に託したのだ。そして僕は、その花瓶を割った。 その日は年末で、正月休みに入る前の在庫点検や大掃除をするために店を訪れてい

          「花瓶の葬式」

          「#20 粉チーズを小皿で出される誤算」

          トマト系のパスタに粉チーズなんて、かければかけるだけ美味しい。 イタリアの偉人がたしかこんな名言を残してはいなかっただろうか、そう思うほどトマト系のパスタと粉チーズの相性は抜群である。初めてパスタに粉チーズをかけたのは、家族でファミレスに行ってトマトパスタを頼んだ時ではないだろうか。父親に「これかけてみろ、うまいから」と言われ食べた時の衝撃を、今でも鮮明に憶えている。 もうすでに完成されていると思っていたトマトソース美味しさが激変するのでなく、爆発的に増幅する衝撃を受

          「#20 粉チーズを小皿で出される誤算」

          「限界突破」

          東京から大阪へ車で向かうことになった。メンバーは僕と友人、そして友人の呼んだ後輩の三人である。色々と運ばなければいけない荷物があったのでバンタイプの大きな車を借り、僕らは朝早く出発して大阪を目指した。 東京から大阪までは車で早くても5〜6時間、安全を考慮して休憩を取りながらとなると8時間ほどかかってしまう。車の運転は見た目よりずっと神経をすり減らすもので、普段運転などしない僕らにとってはかなりの集中力を必要とする。そんなこともあり、通常は免許を持った者が二人以上いて、交

          「限界突破」

          「今年最後の美容院」

          今年の一月から新しい美容院に通い始めている。去年まで髪を切ってくれていた美容師さんが年内いっぱいで離職するということで、なるべく家の近くにある美容院を探したら居心地のよさそうな店を見つけることができた。 去年まで担当してくれていた美容師さんは、「難波さんのカットのデータは残しときますので、次回指名なしでこのまま来ていただいても引き継げるようにしときます」と言ってくれたのだが、新しく担当になる美容師さんへの心配ではなく、そのまま通い続けた場合お店の美容師さん達に自分がどう思

          「今年最後の美容院」

          「あの夢の余韻」

          久しぶりに足を挫いた。こんなにもちゃんと足を挫いたのはいつ以来だろうか。 こうして右足首から迫り上がってくる久しぶりの痛みに、哀愁を帯びた懐かしさまで感じている。 歩いてる途中にちょっと足を捻ったぐらいであればわざわざこうして文章にすることはない。サッカーの試合中に、ファール覚悟の殺人スライディングを食らった時ぐらい足首を挫いたのである。 その日はお酒を飲んで気分が良くなっていた。先輩に誘われまずは4人でカウンターだけの鮨屋で日本酒や焼酎を嗜み、そこからBARに移動

          「あの夢の余韻」

          「#19 船から笑顔で手を振る知らない人達」

          港に隣接された公園は海沿いを長く続いている。等間隔に白いベンチが並び、読書をしている人や、愛を語り合う男女、高らかにトランペットを吹く老人など、皆が思い思いの時を過ごしている。ゆっくりとベンチの前を横切って歩く僕を、次々とランナー達が追い越していく。 ボーという汽笛の音が聞こえ、立ち止まって振り向くと白い大きな船が見えた。甲板の上には沢山の乗客の姿があり、笑顔でこちらに手を振っている。僕はその光景を目の端で捉えながらも、気づいていない振りで船に背を向けまた歩き始める。

          「#19 船から笑顔で手を振る知らない人達」

          「雨宿り」

          自分が普通とは違うのだと気付いたのは5歳の頃だった。教室の隅で体育座りをしている女の子があまりにも寂しそうだったので、「幼稚園で知らない子を見つけても喋りかけてはいけない」という母親の言いつけを破り話しかけたら、「1人で何してるの?」と先生に声を掛けられた。 「 1人じゃないよ、この女の子とお喋りしているんだよ」と先生に教えてあげると、先生は一瞬だけ怪訝な顔を浮かべ、その後は優しい笑顔で僕を抱きかかえた。 お昼寝の時間にもその子は1人だけ部屋の隅に座っていたから、僕の隣で

          「雨宿り」

          「#18 店員が焼いてくれてるので会話できない」

          東京のお好み焼き屋では客が自ら鉄板で焼くパターンが多いらしいが、各テーブルに鉄板の設置されている大阪のお好み焼き屋では、基本的には厨房で焼いてくれたものを持って来てくれるか、テーブルの鉄板を使い目の前で店員が焼いてくれるパターンが多い。 持って来てくれる場合は、テーブルの鉄板を使い最後までお好み焼きを熱々の状態で食べられるだけなので問題ないが、店員が目の前で焼いてくれる場合だと、知らない人が目の前にいるという状況に、僕は持ち前の人見知りを発揮してしまう。 まずお好み焼

          「#18 店員が焼いてくれてるので会話できない」

          「#17 先に着いてしまった祈祷師」

          最寄駅へ向かう途中にあるアパートの取り壊しが始まり、気づけばあっという間に更地になっていた。町中華屋や古着屋など様々な個人商店が並ぶその通りには、以前から気軽に作業のできるカフェがあればいい思っていたので、僕は淡い期待を抱きながらその土地の動向を注視していた。 一週間ほどすると更地には侵入禁止のロープと共に建設予定の看板が設置され、この後に何が建てられるのか、そのヒントがあるのではないかと近づいて見てみたが、手がかりになるような情報を得ることは出来なかった。 さらに

          「#17 先に着いてしまった祈祷師」

          「僕とプリンとの関係性」

          たまにプリンが食べたくなることがある。ただ甘い物が食べたいという訳ではなく、バスクチーズケーキでも生ドーナツでも替えの利かない、プリンが食べたいという欲求のみが湧き上がるのである。プリンの中でも、コンビニで売ってるようなゼリーみたいなプリンや、とろけるようにクリーミーな食感のプリンではなく、昔ながらの喫茶店にあるような、少し硬めの食感に苦味のあるカラメルがたっぷりかかっているクラシカルなプリンである。「自家製」なんて文言がメニューの添えられているプリンなら尚更良い。 そ

          「僕とプリンとの関係性」

          「ショートショート 座敷わらしの住むアパート」

          住んでいたアパートが取り壊されることになった悠人が、スマートフォンで物件情報を閲覧していると、一件の古びたアパートがその目に止まった。 「緑陽荘」、このいかにも古めかしい名のアパートに悠人は見覚えがあった。すぐにスマートフォンで検索をしてみると、それは以前テレビで放送された心霊番組の中で、座敷わらしの住むアパートとして紹介された物件であった。番組の中ではラップ音や子供の笑い声などがはっきりと収録されており、悠人の記憶には印象的に残っていた。しかしその時、恐怖よりも悠人の脳裏

          「ショートショート 座敷わらしの住むアパート」