難波麻人

僕のささやかな奮闘記をエッセイにしたり、たまに短い物語を書きたいと思います。

難波麻人

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マガジン

  • ショートショート

    僕は電車の待ち時間が異様に嫌いなので、そんな時に読めるものが書ければと思います。

  • 自由律俳句

  • エッセイ

    今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。

  • BAR HOPE

    小さなBARに訪れる風変わりな客達の、お酒にまつわるショートストーリーを書いていきます。

  • 物語

    小さな物語や、小説も書いていければと思います。

最近の記事

「預言者」

 淀川は琵琶湖から流れ出る唯一の河川であり、最終的には大阪湾まで流れ込む。  その淀川にはいくつもの大きな橋が架かっていて、その一つの橋の下に広がる河川敷で男は生活をしている。  乱れた白髪は肩口まで伸び、元は白かっただろう黄ばんだTシャツと、サイドに白い三本ラインの入った真っ赤なオールドアディダスのジャージスタイルという男は、何故かいつもサングラスをかけ、誰かがバーベキューで使っていただろうボロボロの折りたたみイスに腰掛け頭上の空を眺めている。  男がサングラスを外した姿

    • 毎週ショートショートお題 「残り物には懺悔がある」

       暗闇の中で目を覚ました。  酒を飲み酷く酔っぱらった記憶だけが頭には残っていて、今がまだ夜なのか、それとも昼間なのかも分からないまま、頭の下にある枕の手触りでここが自分の部屋なのだと認識する。  時間を確認しようとスマホに伸ばしかけた手を、そのまま眼前に広がる闇の中へ差し出してみた。  時間が抜け落ちてしまったこの空間は、まるで世界の終わりのようだ。この静かな世界の終わりに、なぜ僕は生き残ったのだろう。  産まれるに値しない人間など存在しないが、きっと生き残るに値する人間

      • 「自由律俳句」

        #30    時間稼ぎの小石がなくなったベンチ  もう何時間こうしているだろう。オレンジ色に染まっていたはずの君の横顔は、いつの間にか公園の街路灯にぼんやりと照らされている。  考えていた面白い話も出し尽くして、僕はベンチの下に転がる小石をずっと蹴り続けている。  僕が何かを伝えようとしていることは明白で、この不自然に流れる時間や空気に君は気付かぬふりをしてくれている。  覚悟を決めたはずの言葉を何度も飲み込み、スニーカーの踵で地面に埋まった小石を掘り出す。  最後に残っ

        • 毎週ショートショートお題 「ときめきビザ」

           留学して間もない不安と緊張の中で、仲間達が開いてくれたパーティーが嬉しくて飲みすぎてしまった。  スマホも財布もバッグの中に入っていたが、その中に入れていたビザが見当たらない。昨日の服のまま目覚めたベッドの上で、私は酔ってバッグの中身を床にぶち撒けたことを思い出した。  このまま見つからなかったらどうしよう?悪用される可能性は?  一気に押し寄せる不安の中で突然インターフォンが鳴り、モニターを見るとそこにはノアの姿があった。 「お届けものです」  その言葉でピンときた

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        • ショートショート
          33本
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          31本
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          58本
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          7本

        記事

          毎週ショートショートお題 「モンブラン失言」

           ショーケースいっぱいに並んだケーキを眺めながら、彼女はうっとりしている。 「ぜ〜んぶ美味しそうなんだけど、やっぱりもう秋ってことでモンブランかな!」 「うん、この店のはマロングラッセが上に乗ってて美味しそうだね」 「それってモンブランなんだから当たり前じゃない?」 「はははっ、日本では確かにそのイメージが強いけどね、モンブランは別に栗のケーキって意味じゃないんだよ。フランス語で『白い山』を意味して、アルプス山脈にある実際の山を模して作られたケーキさ」  僕は彼女の

          毎週ショートショートお題 「モンブラン失言」

          「外野という未知の領域」

           小学生の頃からサッカー部に所属して、野球は父親がテレビの前で缶ビール片手に観戦するものだと思っていた。  しかし大人になるにつれ、知り合いや先輩などから野球を見に行こうと誘われる機会が増え、実際に球場まで足を運びビール片手に応援したりしている。  応援するチームは誘ってくれた人によって変わるのだが、選手達の迫力あるプレーや客席の熱気、球場グルメの豊富さや、ビールサーバーを背負い走り回る売り子の脚力に至るまで、野球観戦という新鮮な魅力に毎回驚かされている。  先日はついに初

          「外野という未知の領域」

          毎週ショートショートお題 「誘惑銀杏」

           会計を手をした店員がこちらのテーブルに向かう姿を見てほっとした。  面倒な会社の飲み会がある度に、このくだらない会話がいつまで続くのだろうと辟易する。 「よし、明日休みだからもう一軒行くか!」  明日の予定が入ってる日に限って苦手な上司から誘われる。  わざとなのか無自覚なのか、この人が発する声のトーンや大きさにはどこか断りづらい雰囲気があった。 「もし酔ってはぐれたらここに集合な」  上司から送られてきたURLを開くと、「スナック銀杏」という店の情報が表示された。

          毎週ショートショートお題 「誘惑銀杏」

          「メンテナンスの星の元に生まれた天才」

           前回のエッセイでピッキング業者さんの話を書いたが、昔に知り合いのカフェで深夜だけBARのお手伝いをさせてもらっていた時のことを、文章を作りながら思い出した。  その日お店に行くと、僕と交代になる社員から食器洗浄機が動かなくなり、昼間にそのメーカーの修理担当の業者に来てもらったと聞かされた。  当時その食洗機はまだ設置してから2年もたっておらず、そんなに早く壊れるのはそもそも食洗機自体に問題があったのではないかと僕は言ったが、担当は何も言わず普通に修理代を請求して帰って行っ

          「メンテナンスの星の元に生まれた天才」

          「真夜中のピッキング」

           BARで飲んでいたお客さんが酔っ払い、トイレから出る時にかなり勢いよくドアを閉めたなぁと思っていた。  その後会計が終わりお客さんがお店を出た後に確認をすると、酔ってトイレから出る際の解錠が中途半端になっていたのか、ドアを勢いよく閉めた拍子に内側から鍵がかかった状態になってしまっていた。  トイレの扉が開けられない現状に「うん?」と30秒ほど固まってしまい、「おいおいおいおい!これどえらい事態に陥ってんのちゃうんか!」という感情が後から波のように押し寄せて来た。  その時

          「真夜中のピッキング」

          毎週ショートショートお題 「ひと夏の人間離れ」

          「あれ?あんたもう帰ってきたんね。明日の午後や言うてたのに」 「うん。講義が休講になったから、友達も昨日から帰省してるし」 「そうね。お父さんは朝から山入ってて、よう子はいつもの川で遊んでるから迎え行ってあげてくれん」  大学の夏休みで久しぶりに帰ってきた実家は、あっけらかんとするほどいつも通りで、照りつける日差しも、忙しなく鳴き続ける蝉の声も、なぜか東京にあるエアコンの効いた 部屋よりも心地よかった。 「兄ちゃん帰ってきたん!見て、魚三匹も捕まえたんよ!」  妹の

          毎週ショートショートお題 「ひと夏の人間離れ」

          「ゲリラ豪雨の中でも」

           雨の予報などなかったはずなのに突如として空が黒い雲に覆われ、「ゴゴゴゴゴッ…」と雲の中にいる龍が唸り声をあげたような音が空にこだまする。  すると大粒の雨が一斉に地面を激しく叩き始め、傘を持たぬ人達は悲鳴をあげながら避難する。  そんなゲリラ豪雨に近頃よく遭遇するのだが、先日はその影響で電車のダイアが乱れ、駅のホームで足止めを食らった。  向かいのホームが白くぼやけて見えるほどの激しい雨の中、「カンッカンッ」と金属を叩くような音が聞こえてきた。  ホームの左の方に視線を向

          「ゲリラ豪雨の中でも」

          毎週ショートショートお題 「黒幕甲子園」

          「あれ?古田さん、ここで何してんすか?捜査の一環ですか?」 「阿呆、俺は休みで甲子園見に来ただけや。こう見えても昔は高校球児やったからな。てかお前こそ何してんねん?」 「いや僕は野球にはあんま興味ないけど、ちょっとおもろい噂を聞きましてね」 「なんやそれ?」 「今年の甲子園、えらい不可解な判定が多いと思いません?」 「…確かにそう言われたら、一回戦からそれ判定逆ちゃうかってシーンは多かったな」 「そうなんです。しかもその全てが、今この決勝に残った二チームにとって有

          毎週ショートショートお題 「黒幕甲子園」

          「BAR HOPE」

          ⑥ ライターズ・ティアーズ〜  あまりお客さんのいない日曜の夜に、龍治さんは時々ノートパソコンを抱えてやって来る。  たとえ客が龍治さん一人だとしても、「パソコン開いてもいいですか?」と律儀に了承を得てからいつも作業を始める。  初めの二杯ほどは珈琲だけど、そこからはスコッチやバーボンをロックで飲みつつ、キーボードの小気味いいタッチ音を店内に響かせている。  もちろん僕からはパソコンの画面が見えないので龍治さんが何をしているのかは分からなかったが、龍治さんの選ぶウィスキーの

          自由律俳句#29 「不評な映画が面白くて不安」

           みんなで酒を飲んでいると最近観たドラマや映画の話になったりする。  サブスクで視聴できる話題のドラマから始まり、最後に映画館で観た映画は何かという感じで移行していくのだが、「先週○○を観に行ったで」と答えた時に「俺も観に行った、あれ全然おもんなかったよな」と返されることがある。  自ら先陣を切って答えたのだから、勿論面白いと思って発言したはずなのに、「そうやなぁ…ちょっと内容が薄かったよなぁ…」などと取り繕って答えてしまう。 「俺は観てないけど、俺の知り合いも期待外れやっ

          自由律俳句#29 「不評な映画が面白くて不安」

          毎週ショートショートお題 「鋭利なチクワ」

          「ご苦労様です、被害者はこの居酒屋の店主で、厨房での仕込み中に後ろから首を切られています。  第一発見者は従業員の男性ですが、店内には忍び込まれた後や争った形跡もなく、凶器の発見もできておりません」 「お店にある刃物類は全部調べたんだね?」 「はい、この店にある物が凶器として使用された形跡はないということです」 「困ったねぇ、このシンクにばら撒かれたちくわはなんだい?」 「これは客のお通し用に店主が斜切りにしていたところ、襲われてシンクに落ちたようです」 「僕が言っ

          毎週ショートショートお題 「鋭利なチクワ」

          「泡のような夜の思い出」

          「なんか炭酸が飲みたいなぁ…」  これは僕が子供の頃に時々聞いた、母親の口癖のような言葉だ。  家にスナック菓子やチョコレートなどは基本的に置いておらず、小学校の二年になるまでは駄菓子屋にも行ったことがなかった。  お菓子や甘い物を食べたい時は、いつだって母親の手作りが当たり前だった。  駄菓子屋で買ったお菓子をビニール袋に入れて公園を走り回る光景に憧れはあったものの、子供のためを想い、愛情を込めて作られる母親のお菓子やケーキはとても美味しくて不満などなかった。

          「泡のような夜の思い出」