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エッセイ

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今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。
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「器に愛された店主」

「器に愛された店主」

いよいよ夏本番を迎えテンションが上がる反面、若い頃のように海へ泳ぎに行ったり、大きな花火大会に行ったりする体力がなくなってきた。海に関しては単純に上半身を露わにさせることも恥ずかしい。
そんな今の僕が夏を迎えて楽しむことと言えば、以前かっぱ橋道具街で購入したお気に入りの器でざる蕎麦を食べることである。
数年前にざる蕎麦にハマり家でずっと食べていたのだが、せっかく高い蕎麦を買うのなら、器とかも

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「ホームルーム」

「ホームルーム」

中学生の頃、クラスメイトに増田さんという生徒がいた。
ショートカットで大きな眼鏡をかけた増田さんは、授業中にいつも左手で眼鏡を抑え 、眉間に皺を寄せながら黒板の文字をノートに書き写していた。

「眼鏡の度数がぜんぜん合ってないんやな」

それが増田さんに対して僕が初めて抱いた印象である。
同じクラスになったのは一年生の時だけで、大して仲良くもなく喋ることもあまりなかったが、そんな増田さんを

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「星に願いを」

「星に願いを」

大阪府枚方市は七夕伝説ゆかりの街として知られている。
枚方市駅のすぐ近くを流れる一級河川の天野川は、天上の天の川になぞらえ平安歌人によって七夕にちなんだ数多くの和歌が詠まれた。
現代でも七夕イベントとして枚方七夕まつりが毎年開催され、七月七日には街中が色とりどり短冊と地元民で埋め尽くされる。

当時、僕は枚方市に隣接する寝屋川市に住んでいたので枚方の七夕まつりを目にすることがあり、その日も

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「金色の髪」

「金色の髪」

中学三年のクラス替えで、最初に席が隣になった女の子は金髪だった。
校則が厳しく男子の髪染めや整髪料は禁止されていて、女子に至ってはそれにプラスして肩にかかる髪は黒のヘアゴムで縛らなければいけなかった。
そんな厳しい校則の中で、彼女だけが何故か完全な金髪だった。校則をものともしない彼女の気合いとその風貌に恐れおののいて、他の生徒達はその姿を遠巻きに眺めるだけだったが、僕は三年になり最初に指定さ

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「夢の暗示するもの」

「夢の暗示するもの」

BARでお客さんと話していると夢の話になった。夢に詳しい男性のお客さんがいて、寝ている時に見る印象的な夢は、今の精神状態や近い未来への暗示などであることが多く、夢だからといって馬鹿にできないということであった。
すると一人の女性客が、昨晩寝ていたら大きな怪物に追いかけられる夢を見て汗びっしょりで目を覚ましたけど、何か不吉なことがあるのだろうかと不安そうに聞いた。
それは精神的に追い詰められて

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「チラッと読んでみてもいいかも」

「チラッと読んでみてもいいかも」

ビジネスホテルなど初めての施設では、寝るのが怖くて電気を消せないと告白すると、その気持ちが分かるという者も、あまり気にせず寝れるという者も同じぐらいいた。

そこで僕が自分の家でも月に二〜三日はなんか怖い夜があって、真っ暗な状態では眠れないことがあると言うと、「それはない」とか「ビビりすぎだ」と馬鹿にされた。
その中の一人に「じゃあ豆電球点けて寝てるの?」と聞かれたので、「いやそういう時は間

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「猫と僕の関係」

「猫と僕の関係」

玄関を開けると猫の鳴き声が聞こえて、玄関前に置いたオリーブの植木鉢から三毛猫が顔を出した。
この猫は近くに住んでいるのかたまに遊びに来てくれて、僕が玄関を開けて外に出る度に、いつも「にゃ〜」と挨拶をしてくれる。雨の日のには玄関前のひさしで雨宿りしてることもあり、引っ越して来てからずっと良好な関係を築けている。

以前住んでいたマンションにも一匹の猫がよくやって来ていたが、そいつはなかなかにふ

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「漫才みたいな」

「漫才みたいな」

夜中に通った事のない道を一人で散歩をしていると、角を曲がった所で少し広めの公園が現れた。樹木に覆われた公園のフェンスに沿って歩くと、公園内からサッカーボールでドリブルをする音が聞こえてきた。

小気味いいドリブル音からは、中々のテクニシャン振りがうかがえる。
昔は自分もこうして夜中に一人公園でドリブルの練習をしていたものだと、懐かしい気持ちで入り口から公園を覗いてみた。
しかし公園にはドリ

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「ニトリ信者」

「ニトリ信者」

ニトリをもの凄く利用してる事に気付かされた。
僕としては必要な時に必要な物を買いに行っていただけで、標準的な利用回数だと思っていた。だが、友人と飲みに行った時に「今日何してたん?」と聞かれたので、昼間ちょっとニトリに行ってたと答えると「いやどんだけニトリ好きやねん。今月でそれ聞いたの三回目ぐらいやわ」と驚かれた。その時初めて、ニトリに月三回は行き過ぎなのだと知ったのだ。

僕はなんだか恥ずか

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「新店長就任記念キャンペーン!」

「新店長就任記念キャンペーン!」

駅前に新しい居酒屋が出来てもう一年ほどになる。僕は毎日店の前を通るのだがいつも何かしらの目玉キャンペーンがやっていて、機会があれば一度の飲みに行きたいなぁと思っていた。
先日お店の前を通ると「今日から一週間ドリンク半額!」と書かれた張り紙を見つけ、その下には大きく「新店長就任記念キャンペーン!」と書かれていた。

僕はその張り紙を見た瞬間に「やった!ドリンクが半額で飲める」という喜びよりも、

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「本物のモンスター」

「本物のモンスター」

東京に住み始めてから十四年ほど経つのだが、僕のような生活をしている人間は、荷物も少なくお金もないので引っ越しを自分達で済ませてしまうことが多い。引っ越しと聞くと「手伝いますよ!」と、小遣い稼ぎに駆けつけてくれる後輩の存在も非常に心強く助かっている。

ただ一つ問題があり、僕の家には十年以上前に友人から貰った、ドラム式洗濯機という名の悪魔が鎮座しているのだ。この旧式の悪魔は、衣類を傷めず縦型の半

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「怪奇現象に悩む家」

「怪奇現象に悩む家」

一昔前によくテレビの心霊番組内で、怪奇現象に悩む家という企画が放送されていた。そして当時は、まさか自分がそんな家に住むとは思ってもいなかった。

番組内で起こる怪奇現象といえば、深夜のラップ音から誰かが廊下を歩く足音、部屋に設置した定点カメラには、住人以外ではない誰かの呻き声や喋り声、黒い靄のような人影がハッキリと録画されていた。
廃病院や心霊トンネルなど番組内で放送される他の心霊スポットと

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「世界のバランス」

「世界のバランス」

大阪から東京に仕事で来た後輩と久しぶりに会う約束をした。
あまり東京に来たことがない後輩を案内して回り、お昼には僕がオススメのラーメン屋へ連れて行った。その店はラーメンも勿論美味しいのだが、なによりも炒飯が絶品で後輩にも絶対食べて欲しいと思い、ラーメンの大盛りを頼もうとしていた後輩を説得してラーメンセットの食券を二枚と、ラーメン大盛りの食券を購入した。

「僕そんな、どっちも食べれますかねぇ」

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エッセイ 「真夜中の怪談」

エッセイ 「真夜中の怪談」

夏の気配を感じる蒸し暑い夜に、飲みながら怖い話を聞く機会があった。
話してくれたのはTVやライブなどでも怪談話を披露したことのある人で、子供の頃から霊感のある自身の体験談を中心にいくつか聞かせてもらったのだが、話を聞いているうちにどんどんと引き込まれていく臨場感や、おどろおどろしいだけではない妙なリアリティーがあり、大人になってから怪談話で寒気がするほど怖いと思ったのは初めてだった。
「やはり

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