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「ニトリ信者」


 ニトリをもの凄く利用してる事に気付かされた。
 僕としては必要な時に必要な物を買いに行っていただけで、標準的な利用回数だと思っていた。だが、友人と飲みに行った時に「今日何してたん?」と聞かれたので、昼間ちょっとニトリに行ってたと答えると「いやどんだけニトリ好きやねん。今月でそれ聞いたの三回目ぐらいやわ」と驚かれた。その時初めて、ニトリに月三回は行き過ぎなのだと知ったのだ。

 僕はなんだか恥ずかしくなり、別にニトリが好きな訳じゃなくて、ただニトリが一番便利で使いやすいだけなのだと説明した。たとえばキッチン用品や調理用品、百均で売ってる品は使いにくかったり、引っ付いたり、熱に弱いなど強度に問題がある。逆に専門店で売ってる品は使いやすく強度もあるが、気軽に揃えるには値段が高すぎて、もうちょい安く出来ひんもんかなぁと首をひねってしまう。
 そんなやるせない想いを解消してくれるのがニトリなのである。使い勝手や強度、そして値段も含め、自分の想い描いていた通りの品が見つかる。まさにベスト。
「ニトリに行くと、今まで乱れてた心が全てちゃんとあるべきところに収まったような気持ちにさせてくれるんだよ」と友人に訴えると、もうお前はニトリ信者だと一喝された。

 何も僕はニトリを全肯定している訳ではない。ニトリのストロングポイントはあくまでも生活の中で利用する、小型から中型までの商品だ。ソファーやタンスやテレビボードなどの家具の類になってくると、使いやすいぶん万人受けする品が多くなり、空間をデザインするには物足りなかったり、面白味に欠けてしまう部分はある。正直ニトリと同じ価格帯でデザインの優れた家具屋も存在する。
 そういった部屋のアクセントやイメージの中心になるような家具はニトリ以外で吟味して購入している。
 ニトリ信者ではないことを証明したいはずなのに、何だか文章を打ち込みながら自分でも言い訳がましく思えてくる。もしかしたらニトリに対して盲目的な人間より、更に自分がもう一つ深い場所にいるような気がしてきた。

 手頃なアイテムを買うときに、必ずしもニトリだけに行っている訳だはないのだが、よくよく考えればその動機も少しおかしいのかもしれない。
 普通はニトリで気に入った物がなかったから他の店に行くか、他の店を見たが値段が予想より高かったので、同じデザインで手頃な値段の品をニトリに探しに来たりするものである。
 でも僕は、ニトリの良さを再認識する為にわざわざ他の店に行ってるような節がある。ニトリに気に入った物がなかったわけでもなく、我慢してニトリに行くわけでもない。ただ他の店の商品を眺めながら「凄いなぁ〜、これをニトリではあの値段で売ってるんやぁ。なんやったら値段半分ぐらいやけどニトリの方がクオリティーは上やで。よし、ちょっと迷ってたけど今度ニトリ行ったら絶対買おう!」とか思ってる。

 迷っていた気持ちに踏ん切りをつける為のようなこの行動は、結婚を決断する前に合コンや女遊びを何度か繰り返し、最後にもう一度自分の彼女の価値を測ろうとするタイプの気持ち悪い男と同じではないのだろうか。
 だとすれば、僕はニトリにとても失礼なことをしているのかもしれない。そんなものニトリの信者でもなんでもない。
 ニトリの存在があって僕が生かされているのではなく、僕がより良く生きていく為にニトリを利用しているだけなのではないか。
 いや、ニトリってそもそもそういうものだ、ホームセンターなんだから。

  深く考えている内に少し頭がこんがらがってしまい、変な思想が首をもたげかけた。冷静になる為にも一旦窓を開け夜風にあたろう。
 窓際に近づかなくてもこのニトリ製3D首振りサーキュレーターがあれば、部屋に溜まった空気をスピーディーに循環させて、いつだって心地いい風を部屋に送り込んでくれるのだから。

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