見出し画像

「チラッと読んでみてもいいかも」


 ビジネスホテルなど初めての施設では、寝るのが怖くて電気を消せないと告白すると、その気持ちが分かるという者も、あまり気にせず寝れるという者も同じぐらいいた。

 そこで僕が自分の家でも月に二〜三日はなんか怖い夜があって、真っ暗な状態では眠れないことがあると言うと、「それはない」とか「ビビりすぎだ」と馬鹿にされた。
 その中の一人に「じゃあ豆電球点けて寝てるの?」と聞かれたので、「いやそういう時は間接照明を点けて寝てる」と答えると、それまでの馬鹿にする空気がさっと掻き消え、それなら別に電気点けて寝ててもアリやなという空気が充満し始めた。

「怖くて電気が消せない」ということに変わりはないが、消せないのがメインの照明なのか、間接照明なのかで他人に与える印象がまるっきり変わってしまうのである。
 この不思議な現象がなぜ起きるのかと考察してみると、人間は間接的なものに惹かれたり、直接的でないものに魅力を感じたりする傾向にあると気付いた。

 そう考えると、メイン照明よりも間接照明の方が確かにお洒落に感じるし、パリ直行便よりもヘルシンキ経由の方がなんだかカッコよく感じてしまう。
 戦隊モノでもレッドよりブルーに憧れたし、セーラームーンよりセーラーマーキュリーの方が可愛く見えた。純日本人よりハーフの方が洗練された印象だし、右利きよりも左利きの方が天才的なセンスを持ってそうだ。

 彼女にするなら女子バスケ部員よりも、断然バスケ部の女子マネージャーの方がいいし、「めちゃくちゃ可愛いね!」と正面から笑顔で言われるより、「なんだよ、お前けっこう可愛いとこあんじゃん」とぶっきらぼうに言って、こちらの反応を見づにそまま何処かに行ってしまう方が女子は嬉しいのだ。
 そしてその相手は、自分より先に親友が好きになった男子だったりする。

 東京都心より横浜や湘南に住んで、スターバックスでドリップコーヒーを飲むよりもブルーボトルでカフェラテをテイクアウトする。
 メイン通りの定食屋で一人一品頼むより、ちょっと脇道に入った隠れ家的なイタリアンでパスタもピザも両方頼んでシェアして食べたい。
 恋人と一緒に一番映画の見やすい中段やや後ろの真ん中の席ではなく、最後列の端に座り一人集中して鑑賞したい。

 本当に信頼し合える絆ではなく表面的な関係を築いていき、笑顔を絶やさず裏で陰口を叩く。全てを共有するのではなく、自分に利がある部分だけで繋がろうとする。いつまでも続くのではなく、いつ崩壊しても大丈夫な状態を保っていたいのかもしれない。

 そして最終的に辿り着いたBARでは、何かで割ることなくストレートでウィスキーを注文するオッサンが格好良く見えたりする。

 なんだか、人間は難しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?