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荷物に聴いてくれ(短編小説・改訂)
《あらすじ》
背負った荷物が生まれつき我が身の一部である醜く不運な男がその荷物から逃れようと様々な手を使って苦闘するが…
〔本文〕
彼は日常生活の中で異様に大きな荷物を引きずって歩いていたので誰からも相手にされなかった。
その荷物を引きずって歩く姿がいかに醜悪なものであるかを彼は充分に知っていたのだが彼にはそれをどうすることも出来なかったのだ。
彼はバスに毎日同時刻に乗ってくる美しい女に恋をし
連載小説『恋する白猫』第三章・クロワッサン
ほぼ1年ぶりに逢う両親は大層、太った以外はあまり変わらない、
むしろ歳より若々しいくらいだが、母はそのことをここぞとばかりに自慢げにこう力説した。
『人間ってね、
あんまりガリガリだと老けて見えちゃうものなのよ、
貧相っていうのかね、私もお父さんもふっくらしてるから顔もパーンと張ってて色艶もいいし、健康的に見えるでしょ?
私達が若々しく見えるのはその為よ、
欲望に無闇と逆らわないの、
あんまり我
連載小説『恋する白猫』第ニ章・噂
亜希子の飲む“夜の珈琲”を淹れた後、光(みつる)はそれを持って、もと喫茶店の古くて狭い厨房から猫部屋へと出た。
そこで胸にスミ子を抱き寄せてソファーに座る亜希子がスミ子に向かって小声で何かを頻(しき)りに囁やきかける姿を、光は思わず立ち止まって凝視(み)た。
白猫スミ子の耳はさながら粉砂糖をまぶした羽二重餅(はぶたえもち)を薄く延ばして三角形にしたような耳である。
そしてその表も裏も淡く仄甘い
連載小説『恋する白猫』第一章・スイートハート
《あらすじ》
自己肯定感が低く、どこか卑屈な陰が否めない29歳の山田光(みつる)はそれを隠して猫カフェの店員として横浜でひっそりと暮らしている。
猫カフェの常連客であるどこか訳あり風の年上の女性、
亜希子に何故か心惹かれつつも女同士という思いからその気持ちをおくびにも出せずにいる光、
そんなある日、光は姉の瞬(まどか)の親友が自殺したことを知る。
のちにそのことに奇妙な附合、そしてある人物への疑
この世界に生まれてきてくれて有り難う、私と出逢ってくれて有り難う20年一緒に生きてくれて本当に有り難う貴方でよかった、貴方でないと駄目だった…
11月の7日の明け方四時20分、私のベッドで我が愛猫が逝きました。
最後、喉が渇いているのが解った為シリンジでお水を3回に分けてゆっくり飲ませると上手に飲んでくれました。
二十年前、同じキジトラ3兄弟揃って段ボールへ入れられたまま、ガムテで固く封じられ、ゴミの集積所へうちの坊やは遺棄されていたのです。ゴミ収集車へすんでのところでおじさんに投げ込まれそうなところ中から聴こえてくる弱々しいミャアミャア
note・shock!
未完成の詩作がアップする操作をしていないのにいきなり勝手にアップされてしまい、またそれが下書きへ降りてくれずフリーズ、やっとの思いで取り下げたものの今日の日付けで載ってたけどもともと2016年作品なんだけどな、これだからnote不安定でやってて怖い時がある
小説『エミリーキャット』第77章・suddenly
『彩さん?ついたわよ』
順子の声に彩はまるで階段の最上階を一段、踏み外すような衝撃の中、急に目覚めた。
虚ろなウィンカーの音が小刻みに鳴っていることに彩は気づき、そこが順子の車中であることを、彼女は唐突に理解すると同時に酷く狼狽した。
そして身の置き所がたちまち失われてゆくような恐怖感に囚われて彩は声を失った。
運転席の順子を見ると、彼女はやや眠たげなあの重たい瞼の下からその小さいが妙に円
小説『エミリーキャット』第76章・メリーさんの羊
若い癖に寝つきの悪い貞夫は何度も寝返りを打ち、枕の上で荒々しいため息をついた。
そして思わずアパートの低い天井の片隅をまるでそこに親の仇(かたき)でも居るかのように睨みつけた。
夜風にガタつく安普請な櫺子窓(れんじまど)からしみ通る隙間風に幽かに揺らぐ蜘蛛の巣を、ずっと前から知ってはいたものの、そこに蜘蛛そのものを見たことが無い為に貞夫はそれを何とはなしに放置していたのだった。
カーテンレー
小説『エミリーキャット』第75章・origin
しかしその下に現れた彼は恐らくは実年齢より、はるかに若く見える人懐っこい笑顔の英国紳士だった。
彼はその若々し過ぎる容姿とは裏腹にまるで玩具のように小さな老眼鏡を掛けていた。
ビリー・ダルトンは鼻先にまで、ずらした老眼鏡越しのその瞳で、まるで下から掬(すく)い上げるように貞夫を見つめると、満面の笑みを浮かべてこう言った。
『佐武郎さん彼がそうですか?』
その笑顔は時々画集の巻末でも見かける画
小説『エミリーキャット』第74章・abyss
『彩さん大丈夫?』
順子は車で自分の家へ共に帰った彩が、家に着くなり少し横にならせて欲しいと頼むその顔を見て思わず言った。
タロウが主人のベッドに再び横たわる彩の帰還を悦んで、共に寝たがるあまりバタバタと尻尾を振りつつベッドの上で忙(せわ)しなく動き廻るのを順子は優しく制し、彩の額に手を当てるとこう言った。
『彩さん少し熱っぽいわ、
きっと疲れたのよ、
鷹柳先生のほうが私達よりはるかにご年配
小説『エミリーキャット』第73章・シレーヌ達
『奇妙なもの?』
刑事はまるで何かに取り憑かれたかのような顔つきになって頷いた。
『彼女はそれをこう呼んだんだ、
”これはあと何年も何年も遠い先の未来、ここに立ち、私と同じように孤独で深く傷ついた人がここで流した泪の”結晶”なのよ。”って、
”時を超えて、今その人と同じ場所に立つ私にその人が未来の自分の存在をここに居る私に知らせる為にたった今、これを私達に見せてくれているんだわ”って』
『そ
小説『エミリーキャット』第71章 ・コヨーテの鳴く夜に
彩は無自覚というものがさながら自分という人間が誰か別の人格に操られていつの間にか動いてしまっている、
というはっきりとした結果をもたらすことがあるという事実を今まで知らずにいた、と、まるで見知らぬ人から急に人混みの中で腕の皮膚をつねられたかのように刺激的に知覚した。
何故なら彩ははっと我に返った時には既にカウンター席に座って珈琲を飲む鷹柳教授の肩を大胆にも後ろからポンと叩いていたからだった。
振り