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140文字小説

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Twitterで日々投稿している140文字小説をまとめたものです。
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2021年7月の記事一覧

行け!インビジブルマン (140文字小説)

行け!インビジブルマン (140文字小説)

 変身!インビジブルマン!

 俺は透明のヒーロー。

 む?夜道を一人で歩く女性。

 危険だ。

 俺は女性をつける。

 女性は不安から、たまに後ろを振り返る。

 部屋にも誰か潜んでいるかもしれない。

 中には誰もいないな。

 生着替えを確認して、俺は部屋をあとにした。

 うむ、今日もいい仕事をした。

夏の空 (140文字小説)

夏の空 (140文字小説)

 朝陽が、まぶたをこじ開けた。

 透明度が高い海を漂っていたような。

 夢はもうどこかへ飛んだ。

 私は厚みがない布団の中で、おもいっきり四肢を伸ばす。

 窓の外は、暴力的な求愛の叫び。

 日に日に、蟬の数は増えている。

 机の上のカードを首に掛け、私は玄関の扉を開く。
 
 さあ夏休みが来た!

エプロン姿の彼女の十八番 (140文字小説)

エプロン姿の彼女の十八番 (140文字小説)

 明日、うちでご飯食べない?

 突然の誘いに、俺は期待をした。

 翌日、エプロン姿の彼女が出迎えてくれた。

「私の得意料理なの!」

 ソースがかかった、美味そうなトンカツが運ばれて来た。

 一口頬張ると、甘味と衣と脂の濃厚なハーモニーに吐き気がもよおした。

 ソースがチョコレートだと!?

おいしいチャンス (140文字小説)

おいしいチャンス (140文字小説)

 なんておいしい。

 二死満塁。サヨナラ逆転の場面。

 一打放てば、来季は年棒UPだ。

 彼女も呼んでおいて良かった。

 オーロラビジョンに彼女の姿が映った。

 誰だ?隣の男は!?

 おい!なぜ顔を近づける!?

「バッターアウト!」

 監督は激怒し、彼女はおいしく食べられた。

 俺は全てを失った。

占拠!国会議事堂 (140文字小説)

占拠!国会議事堂 (140文字小説)

 こちら国会議事堂前です。

 爆弾を所持した男が、議事堂を占拠しています。

 前代未聞のテロ事件で、永田町は騒然としています。

 あっ、犯人の要求が判明した模様です。

 読みます。

 IOCの会長を呼べ。

 柔道に続き、空手も正式競技に加えやがって。

 なぜ相撲を入れない。

 現場からは以上です。

理想の夫婦 (140文字小説)

理想の夫婦 (140文字小説)

 結婚25年、妻の思いがわかりませぬ。

 長く連れ添うと、阿吽の呼吸と言いますか、お互いの心がわかるらしいのです。

 どうやら、私にはその力が欠如しているようです。

 今日の妻は冷麺の気分だったそうです。

 私は鍋を作りました。

 今日も罵声を浴びました。

 嗚呼、理想の夫婦とはなんぞや。

思い出を語りましょう (140文字小説)

思い出を語りましょう (140文字小説)

 ねえ?覚えてる?

 三度目のデートを。

 あなたが照れくさそうに、つき合ってくれって言った日だよ。

 つき合って二年、私の誕生日にプロポーズしてくれたよ。

 覚えてないの?

 引戸がガラッと開き、女が怒鳴り込んできた。

「このストーカー!性懲りもなく彼の記憶を改竄しようとしてるわね!」

さあ、占いましょう (140文字小説)

さあ、占いましょう (140文字小説)

「いまの彼とはうまくいかないわ」

 今日も、私の前には長蛇の列。

 自信が無い人達が、選択を私に委ねに来る。

 自分のことはどうだろう。

 しこりが疼く。

 拒絶した求婚。

 あのとき受諾していたらと、今も思う。

 人生に間違いはつきもの。

 大切なのは、そこからの学び。

 さぁ、次の人どうぞ。

真実の行方 (140文字小説)

真実の行方 (140文字小説)

 また痣が…

 隣の部屋の高校生が、怪我をしている。

 父親の虐待…もう通報だ。

 その日の夜、また隣から暴れる音が。

 通報すると警察はすぐ動き、父親は現行犯で逮捕された。

 もう安心だよ。私は彼に声をかけた。

「なにするんだよ!親のパンチに何発耐えられるかのギネスに挑戦するのに!」

私じゃないよね? (140文字小説)

私じゃないよね? (140文字小説)

 私に似てる。

 TVを見て娘が呟いた。

 行方不明者のドキュメンタリー番組で、幼い頃の娘に似た子供が映っていた。

 他人の空似ってあるのね、と私は和やかに答えた。

「私じゃないよね?」

「そんなわけないでしょ」

 大丈夫、あなたじゃないよ。

 あなたは、赤ん坊の時に捨てられたのだから。

最幸のプレゼント (140文字小説)

最幸のプレゼント (140文字小説)

 小窓を覗くと、二本あった。

 便座の上で、私は涙をこぼした。

 彼の笑顔が脳裏に浮かぶ。

 もう五年、私達は無理した笑顔を交換してきた。

 月末の彼の誕生日に、最高のプレゼントができる。

「ようやく授かったわ」

「本当かい!?」

 もう、これでいい。

 不妊の原因は、私ではないのだから。

男たるもの、強くあれ (140文字小説)

男たるもの、強くあれ (140文字小説)

 資料もまともに読めんのか!?

 やる気あるのか!?

 入社三年目の部下が、項垂れて席に戻っていく。

 部下を奮起させるため、俺はあえて厳しい言葉を吐く。

 さて家に帰るか。

「なに、ゴミもう帰ってきたの」

「虫!邪魔!どいてよ」

「汚物、物置行け!」

 俺、負けるな…

 部下よ、強くあれ。

事実が小説より奇なり (140文字小説)

事実が小説より奇なり (140文字小説)

 事実は小説より奇なり、とよく言う。

 だが実際は小説が奇だ。

 退屈な人生に、刺激よ降れ。

 そう思いながら、私は待ち合わせ場所に向かう。

 大きく手をふる彼に、私は軽く手をあげる。

 それが合図のように、彼が突然倒れた。

 そのうしろには、ナイフを携えた男。

 いやぁぁぁぁぁぁぁあああ!

数字の思惑 (140文字小説)

数字の思惑 (140文字小説)

 給料日、楽しみが来た。

 若い販売員は私を見ると、マークシートを用意してくれる。

 独身の五十路男のしがない趣味だ。

「決まりました?」

「いやぁ」

「14106。なんてどうです?」

「なにかの語呂合わせかい?」

「ふふ」と彼女は微笑む。

 くじはハズレた。

 だが"愛してる"とは、まさかな。