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お気に入りのエッセイをまとめてみました。
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#エッセイ

東京の夜桜と、Tさんのナルシシズム

東京の夜桜と、Tさんのナルシシズム

 東京のドラッグストアでアルバイトをしていた十九歳の頃。バイト仲間にTさんという一つ歳上の男性がいた。彼はいつも周囲の視線を気にして、すました顔をしている。彼の殆どの行動は「かっこいいと思われたい」という動機に基づいているものなのだ。私はそんな彼のナルシストぶりを観察することが、密かな楽しみだった。

 バイト先の隣には美容院が建っている。アシスタントと思われる若手の美容師さんたちが、仕事に必要な

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僕の近くの優しい人の多くは、『他のどの人も自分と同じぐらい優しい』と思っている節がある。
それは素晴らしい考えだけど、優しい人が『世間には全然優しくない人も大勢いる』ことに気付いて愕然とするケースも多い。正直者が馬鹿を見る世の中、したたかな考え方も必要なようだ。

目に虫が入っちゃった日

目に虫が入っちゃった日

あるところに、自他共に認める、と〜ってもコミュ力の高い、宝くじ販売員がいました。
名前はタマミーヌ。いつもニコニコしている販売員。だが、彼女の本性は…とても気分屋で、腹黒い女だったのです…

仕事の日のある朝。いつもどーりタマミーヌは自転車をかっ飛ばし、駅の駐輪場に向かっていたところ、右目に虫が飛び込んできたのです。

イタッ!こんなとき、タマミーヌはいつも思うのでした。
「もーーーっ!なんでよ!

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三鶴✖️仲川光  共作小説 「白い春~君に贈る歌~」 連載開始のお知らせ

三鶴✖️仲川光 共作小説 「白い春~君に贈る歌~」 連載開始のお知らせ

noteの皆様へ

いつもご覧くださり、誠にありがとうございます。

この度、温めていた新企画を謹んで発表させていただきます。

三鶴✖️仲川光🌸
共作小説「白い春〜君に贈る歌〜」5月最終週〜連載開始✨
(週2回更新予定)

【あらすじ】

【三鶴・仲川光🌸の自己紹介】

おそらく、お互いのアカウントには、三鶴をご存知ない方、仲川光をご存知ない方がいらっしゃると思うため、あらためまして2人の紹

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婚活ちゃん(狙うはハイスペ!の巻き)

婚活ちゃん(狙うはハイスペ!の巻き)

以前、「婚活ちゃん」というタイトルで記事を書いた。
宝くじをよく買いに来る30代前半の女性がいる。
彼女の夢は《結婚》とにかく結婚したいらしい。
出会いを求めて日々精力的に活動している。
自分にとって完璧な人、理想通りの人と結婚したい!妥協はしない!と言い切る彼女を、私は密かに「婚活ちゃん」と呼んでいるのだ。

婚活ちゃんは、宝くじで大当たりを当てた。
かなりの大金を手に入れた彼女は、タクシー移動

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最期の似顔絵を描く

最期の似顔絵を描く

 足音がよく響くホスピス病棟の廊下。その音で私だとわかり、笑顔で迎えてくれる患者さんがいる。

 ホスピスとは、末期がんの患者が穏やかに人生の終末を迎えられるように援助する施設のことである。本人の尊厳を守りながら、最期のときを迎えるまで、いかにその人らしく生活できるか、ということを大切にしている。そのためには、苦痛を取り除くために麻薬を使用したり、カウンセリングをして精神的ケアを行ったりもする。

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川に飛び込んだ小学生

川に飛び込んだ小学生

 三年四組の教室で、帰りの会が行われていた。この時間、胸に黒い靄がかかり始め、息ができなくなるほど苦しくなる。
 廊下側の窓から、二人の男が睨みつけるような視線をこちらに向けている。隣のクラスのTとOだ。彼らと目が合うと、体が震え、視界が暗くなるような錯覚に陥る。今日も彼らと一緒に帰らなければならない。
 彼らは、自分たちのやっていることを「修行」と言った。でも、わかっていた。私の身に起きているこ

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地球の端を歩いているような

地球の端を歩いているような

 もう十七年くらい前のことである。ライブによく来てくれていた、私よりひと回りくらい歳上のSさんとJさんがいた。とても穏やかなカップルといった印象で、いつも微笑ましく私のステージを見守ってくれていた。
 彼らがライブに来るようになったのは、たまたま私のホームページに訪れたことがきっかけだった。曲の歌詞を読んで、深く共感するところがあったのだと言う。二人は、重度の精神疾患を抱えて生活保護を受けていた。

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かんちがい

かんちがい

駆け込むようにやってきた外国人女性。
パッと見で40代。

『oh my god、oh my god……』あとは聞き取れないが、胸に両手を当てて興奮気味になにやら言っている。
興奮している人や怒っている人への対応は、敢えて抑えたトーンで冷静に!
これ鉄則!接客の仕事をして覚えたことの1つだ。
優しくやさ〜しく、落ち着いたトーンで
『いらっしゃいませ〜どうしましたか〜?』
『ア、アタリ!コレアタリネ

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映画を選ぶように夢は見れないけれど

映画を選ぶように夢は見れないけれど

予告編を眺めて見たい映画を見るように、自分が見たい夢は選べない。

半年前、色々なことが重なって、目覚めると変な汗をかくことが多かった。
まだ雪が残る寒い季節だったのに。

恐らく覚えていないけれど悪い夢を見てうなされていたのだろう。

どんな夢を見ていたのか分からない。
疲れ果てて布団に入るなりすぐに意識がなくなっても深夜に必ず一度は目が覚めてしまう。床に入る時間が遅くても大抵2時か3時頃に目が

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野菜が食べられない

野菜が食べられない

 私は食べ物の好き嫌いが激しい。特に苦手なのは野菜である。そのことにより、とても辛かったのは小学校の給食だ。

 小学一年生の頃、昼休みはいつも給食を食べていた。他のクラスメイトたちがグラウンドへ遊びに行く中、私は教室に取り残され、プラスチックの皿にのった野菜をじっと見つめていた。
 担任の若い女性教師の鋭い視線を感じる度に、鼻を塞いで口に運ぶ。苦手なものを目の前にし、ずっと格闘しているのだから、

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STOP the 地球温暖化

STOP the 地球温暖化

熱く、力強く、地球温暖化について語る男がいた。
男の熱弁はまるで、当選後には何をしているんだかさっぱりわからなくなる、選挙の時だけやたらと熱く語る候補者のようだった。

突然やってきて『1枚くれぃ!』とおじちゃんは、三代続いた生粋の江戸っ子さながらの口調でそう言った。

『只今発売中のクジは、1枚100円のがございますが、それでよろしいですか?』に、おじちゃんは『おぅ!それでいいよ、1枚ね』と、人

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一人部屋にまつわる思い出の行方

 実家を離れると、多くの場合、一人部屋は物置部屋になる。
 私の一人部屋は今、ごみ屋敷のような状態である。とても人には見せられない。絶対にこの部屋には誰も招くことはせず、見られないにしようと決めていた。

 この週末、用があって二人の子どもを連れて実家へ行く機会があった。
 両親が子どもと遊んでくれているときに、ふと、とある音楽が頭を過り、どうしてもその曲が聴きたくなった。そのCDは自分の部屋にあ

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あの日、あの場所を通らなかったら

あの日、あの場所を通らなかったら

 Takaちゃんと会ったのは、原宿駅の神宮橋で路上ライブをやっていたときだった。
 神宮橋は路上ライブやコスプレの人気スポットである。ゴスロリファッションをした女性がたくさん聴いてくれている中、ギターを抱えた若い男性と小柄な女性が足を止めて聴いてくれた。曲が終わると、男性が「いいっすねえ」と笑顔で声をかけてきた。彼がTakaちゃんだった。

 彼は当時の私と同じ二十歳で、歳下の彼女と手を繋いでいた

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