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お気に入りのエッセイをまとめてみました。
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記事一覧

東京の夜桜と、Tさんのナルシシズム

東京の夜桜と、Tさんのナルシシズム

 東京のドラッグストアでアルバイトをしていた十九歳の頃。バイト仲間にTさんという一つ歳上の男性がいた。彼はいつも周囲の視線を気にして、すました顔をしている。彼の殆どの行動は「かっこいいと思われたい」という動機に基づいているものなのだ。私はそんな彼のナルシストぶりを観察することが、密かな楽しみだった。

 バイト先の隣には美容院が建っている。アシスタントと思われる若手の美容師さんたちが、仕事に必要な

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天国のおばあちゃんへ

天国のおばあちゃんへ

あるところに、自他ともに認める、と〜ってもコミュ力の高い、宝くじ販売員がいました。
名前は、タマミーヌ。いつもニコニコしている販売員。だが、彼女の本性は、、、
食い意地の張った女。食べてばかりいる女。
「スイーツ大好きなんですぅ」とか「食べることが大好きですぅ♡」とか、そんな可愛らしい
ものではなく、色気より食い気が優先な女でした。(色気が欲しい!)

夢売りBOXで働くタマミーヌは、一部のおじい

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いとしのボイスレコーダー

いとしのボイスレコーダー

ちょっと、いや大分変な中学生だったことは先日のハードボイルドな記事で露呈してしまった。

そんな黒歴史エピソードを一つ思い出した。

中学校の修学旅行は京都・奈良・大阪の関西方面を巡るというもので、ゆとり世代全盛期の僕らは「総合的な学習の時間」という名の下、自分たちが見学、体験したい場所をあらかじめリサーチし公共交通機関や四つ葉タクシーを駆使しながら生徒のみで巡るという自由放任主義的なものだった。

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あるリビングの風景

あるリビングの風景

この前、友人のAさんと再会した。
久しぶりの再会ということでAさんの自宅に招かれた。

Aさん宅を訪ねると息子のR君は「おじさん、おじさん」となついてくる。
あぁ、僕はもうお兄さんではなくおじさんと呼ばれる年齢になってしまったのだなと改めて感慨にふける。

ミニカーやぬいぐるみでR君の遊び相手をしているとリビングに飾られていた奥様の手書きのメッセージカードが目に入った。

Rちゃんへ
子どもの日、

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(読書)アリスが語らないことは

(読書)アリスが語らないことは

ピーター・スワンソン
務台夏子 訳
(電子書籍)

(内容紹介)

大学卒業を数日後に控えたある日、
ハリーは父親が事故死したという知らせを受ける。
急ぎ実家に戻ると、傷心の美しい継母アリスが待っていた。
葬儀の翌日、ハリーは刑事から意外な話を聞かされる。
父親は海辺の遊歩道から転落して死亡したが、
その前に何者かに殴られていたという。
しかしアリスは父の死について話したがらず、
ハリーは疑いを抱

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ひろく学ぶ

ひろく学ぶ

大学で教職についていた時、私は巣立っていく教え子たちに、このような話をしては広く学ぶことの意義を話すことにしていた。自分が進もうとしている道には関係なさそうに見える学問、否、もっと極端に、逆の方向の学問を一生懸命勉強することを勧めることにしていた。自分のやりたい学問と距離のある学問であればあるほど、後になって創造的な仕事をする上で重要な意味をもってくるからである。
(中略)
若い人たちへのこのよう

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青ペン先生

青ペン先生

毎週木曜日夕方に書道教室に通っていることが縁で、僕が数学関係のNPOに所属しているということが話題にのぼった時、

ある生徒の保護者の方から

是非ともうちの子の家庭教師をお願いします。

とお願いされた。

そんなわけで毎週土曜日にその方の自宅で数学を教えている。
当然、ボランティアなので無報酬だ。

中学生なのでそんなに複雑な数学をやっているわけではないものの、初めて新しい概念を学ぶ際にどのよ

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僕の近くの優しい人の多くは、『他のどの人も自分と同じぐらい優しい』と思っている節がある。
それは素晴らしい考えだけど、優しい人が『世間には全然優しくない人も大勢いる』ことに気付いて愕然とするケースも多い。正直者が馬鹿を見る世の中、したたかな考え方も必要なようだ。

いつかは、はじめましてじゃなくなる日に

いつかは、はじめましてじゃなくなる日に

札幌に滞在する時はきまっていつも同じホテルに宿泊している。
会合を終え夜にチェックイン手続きをしようとフロントに顔を出すと

お待ちしておりました。
竹内様、いつもありがとうございます。

とホテリエさんから声がかかる。

朝食会場でも、いつも決まって牛乳を注文しているので
僕が何も言わず席についても

今日は牛乳はいかがなさいますか?

と尋ねてくれる。

すっかり常連さんとしてホテルでは定着さ

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よくわからない会合に出た話

よくわからない会合に出た話

昨日(2024/9/27)、社長の代理で北海道大学工学部創立100周年記念式典に参加した。会場は札幌の京王プラザホテル。

大学は同じと言えど工学部卒ではないので個人的な知り合いがいるわけではないため、俱知安から札幌へ向かう前に会社員人生の先輩に

よくわからない会合に参加する際の身の振り方を教えてください。

と尋ねたら

それは二つしかないでしょうね。
一つはパーティーを思いっきり楽しんで参加

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音楽と私 #1

40代になって、人生も後半に突入。
やりたいことをやっておきたいって思うようになってきた。

私のやりたいこと
いつかまた楽器を演奏して、人と一緒に曲を奏でること。

その道のりをここに記していこうと思います。

ギムレットにはまだ早い

ギムレットにはまだ早い

中学生の頃、どんな本を読んでいたのか。
昨日の記事を書いた後から思い返してみるとハードボイルド小説にハマっていた時期があった。

手首に包帯をくるくる巻いて、さも能力者であるかのように振る舞う中二病を卒業した頃、

やっぱ特殊能力よりトカレフっしょ、

という現実路線(方向性は相変わらず間違えているような気がするのだが)に走ったのだと思う。

その頃、大藪春彦「野獣死すべし」や大沢在昌の「新宿鮫シ

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【読了記録】 『アンナ・カレーニナ』(レフ・トルストイ) 感想

【読了記録】 『アンナ・カレーニナ』(レフ・トルストイ) 感想

今回も私事から入って誠に恐縮だが、僕はこの2ヶ月間noteにいなかった。
だがそれは本も読まずにのんべんだらりと暮らしていたことを意味するわけではない。この世界的大文豪の超大作に取り掛かっていたのだ。

新潮文庫の木村浩訳で読んだ。実のところ再挑戦だった。
学生の頃に読んだ時には、中巻の前半部分で頓挫したのだが、今回ついに夢が叶って、下巻の最後まで読むことができた。

世界中の大手出版社や新聞にお

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20年というのは

20年というのは

中学3年生の冬だった。
ありがたいことに僕は高校の推薦枠を取れたので、高校受験のための受験勉強をしなくてよかった。

しかし推薦入試には面接が必須だったので、放課後に先生が模擬面接の練習に付き合ってくれた。

色々な面接を想定した方がよいということで、個別面接の他に集団面接やグループディスカッションのようなこともやった。

僕以外にも面接枠を獲得した数名の生徒と一緒に練習に臨んだのだが、たしか集団

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