スマートフォンで撮る理由 短編「サマータイム」を語る

映画はサイレントだと思っているので、まずはセリフや音楽より写真を撮ることに集中します。それには最も使いやすい道具を選ぶ必要があるのでは、と思っているわけです。

リュミエール兄弟が写真を動かしたその日から、実は変わらないかもしれません。散々、小説や脚本の執筆で格闘した後なので、画だけで勝負しようと思い立ち、スマートフォンを手にしました。

前回記事にも書きましたが(かなり頭に血が上っていますが)、

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summer time

監督・撮影・編集 上野修嗣

ライク・ア・ヘル・エッジ・ロード(8)

思えば、男性と同じ空間でこんなに長い時間を過ごすのは、初めてかもしれなかった。
 少なくとも、ブチ殺そうと考えずにいること自体が奇跡だ。アドにとっては、男性というだけで憎悪の対象。それが普通だった。

「昔──」

「う?」

「昔、好きな男の子がいた。同じ小学校の子で──今思えば、足が早かったとか……そんな程度のことでしかなかったんだけど」

 当時のアドには、その気持ちを示すだけの知恵が無かっ

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ライク・ア・ヘル・エッジ・ロード(7)

ボクサーに銃口を向けたのは初めてだった。ヘビー級を遥かに超えた体格だろうが──それより厄介なのはブラスナックルとブレーサーだ。
 顔や体に当てようとするのは得策ではない。アドはすぐにそう判断し、足元を狙ってとにかくトリガーを引く。BLAM!
 少年の手を引っ張り、トリガーを絞り続ける。BLAM! BLAM!
 しかし、シスターは意に介していない。ここは車両の最前列。いくら撃たれようと逃げ場は無いの

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MALTAの鷹

朝からずっと降り続く雨はまだやまない。用心して喫煙コーナーでしばらく様子をうかがってみたが、尾行されてはいないようだった。充電の切れたアイコスを投げ捨て、レインコートの襟を立てて通りを横切り、目的のTSUTAYAに入店した。

「新譜が欲しい」
レジのやる気のなさそうな店員に、手短に伝えた。
「新譜と言われても分からないな」
「マルタのなんだったかな」
「サックスプレイヤーの?」
「いや、加藤和彦

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寒山拾得

「 昔、中国の山の中に寒山と拾得という、汚い二人の中年男が住んでいた。腹が減ると、近くの寺へ食い物をあさりにやって来る。着物を着た猿のようでもあり、いい年をして、積んだ年齢が意味をなさない子供のような騒ぎ方をするから、寺の僧達もいい気はしない。「今度来たらとっちめてやろう」と思っているところへ、もう一人変人がやって来た。豊干和尚というれっきとした出家者だが、虎を連れている。虎に乗って放浪生活を続け

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『水が溢れる、首縊の谷』

今日も河川敷に死体が打ち寄せられた。この街で死体は珍しいものではないが、その死骸は頭部に強い衝撃を受け即死したようだった。検視する俺を無視して死体を運び去ろうとする小男を殴りつける。「あっちのやつ持ってけ!」少し先に転がる事件性の薄い死体を指さすと小男はヘコヘコしながらそっちに駆けていった。この街に火葬場は存在しない。全て銭湯の燃料として焼き尽くしてしまうからだ。

改めて死体を見る。男性30代、

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ゴッド、ブレス、ユー
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ライク・ア・ヘル・エッジ・ロード(6)

セントラルパークを出ると、アドは自分のスカートがドロドロになってしまっているのに気がついた。
 着替えたい。車で行くつもりだったから、このメイド服は恐らく目立つ。
 少年は人通りの多さと摩天楼の高さに圧倒されたのか、目をきらきらさせながらあちこちに視線を向けている。
 とにかく時間がない。

「キョロキョロすんなよ。ついてこい」

 前向きに考えるべきだ。メイドが子供の手を引いて移動する。それ自体

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凄腕エージェントはトライアングルを武器にする

僕は、ある組織のエージェントだった。

その組織のメンバーは、様々な特殊能力を持ち、その人外の能力を利用して裏社会で生きていた。

僕も例に違わず、ひとつの特殊能力を持っていた。
コードネームは、トライヒュプノス。

僕の能力は、トライアングルを使った強制催眠だ。

対象者と目を合わせて、トライアンアングルを打ち鳴らすことで、強制催眠に陥らせる。
効力は、トライアングルの音が鳴り止むまで。

タイ

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書評|凶犬の眼

何事にも良しあしがある。その考えがふと頭に浮かぶ場面が最近は多い。なるべく大局的に物事を把握し、本質を捉えたいと思う。そのためには、さまざまな視点に立つことが必要であり、長期的に見ればバランスを見出すことが重要になる。僕が高校生の頃から思っていることだ。この後の文中では作品の核心や結末が示唆されているため、気になる読者は読むのを避けてもらいたい。

 柚月裕子の『凶犬の眼』は一言で言えば「バランス

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