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たんぽぽの綿毛が飛ぶように

 深夜、居間に一人でテレビを観ていると、祖母が入ってきた。 「親方は? ねぇ、親方は?」  祖母の口から親方なんて聞いたことがなかった。思い当たる人もいない。何のことを言っているのかわからない。  こんなとき、どうすればいいのだろうか。  返答に窮する間に、祖母の注意は切り替わる。少しバランスの悪い歩き方で、暗い廊下を歩き、玄関の方へ向かっていった。   「親方はここにいないよ」  慌てて祖父母の寝室へ連れて行く。  深夜に居間にいると、しばしばこのようなやりとりをしな

    • あの日、あの場所を通らなかったら

       Takaちゃんと会ったのは、原宿駅の神宮橋で路上ライブをやっていたときだった。  神宮橋は路上ライブやコスプレの人気スポットである。ゴスロリファッションをした女性がたくさん聴いてくれている中、ギターを抱えた若い男性と小柄な女性が足を止めて聴いてくれた。曲が終わると、男性が「いいっすねえ」と笑顔で声をかけてきた。彼がTakaちゃんだった。  彼は当時の私と同じ二十歳で、歳下の彼女と手を繋いでいた。言葉は訛りが強くて、時々何を話しているかわからない。でも人柄も話し方も、とても

      • あの人も、あの街も

         路上ライブをやっていると、たくさんの出会いがある。そのほとんどが、二度と会うことのない、一生に一度の縁である。  看板を立てたりフライヤーを配布したりして、固定客が増えることを目指していても、そのとき出会った人は、いつも一期一会として受け止めている。  ただ、偶然に再会する奇跡も稀にある。  二十歳の頃、その日も池袋駅で路上ライブを演っていた。すると、長い黒髪の若い女性が足を止めた。  演奏が終わって、その女性に挨拶する。彼女は目を合わさずに、ぼそぼそと喋った。  彼女

        • 共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」⑤ 最終話

           上野さんが亡くなってから一ヶ月後、坂本さんに居酒屋へ誘われた。佐々木さんを含めて、三人で酒を飲むことになったのである。 「それにしても、三浦くんがSeijiさんと歌うなんて、ホントにびっくりしたな」  坂本さんが二杯目のビールを飲みながら話し始めた。このメンバーで集うということは、上野さんやSeijiさんの話が出てくる。それは覚悟していた。  佐々木さんがやや興奮した調子で反応した。 「そうそう。あのSeijiですよ! 知り合いだったなんて。どうして早く言ってくれなか

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          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」②

           病院祭から一週間が経った。  あの日から、上野さんの容態が急速に悪化した。酸素の投与や医療用麻薬の持続皮下注射が開始された。痛みや倦怠感が強く、ベッドから離れることはできない。  確かに、病院祭の前から背中の痛みや動悸などの違和感を訴えることが増えていた。が、あまりの突然な変化に多くのスタッフが驚いていた。  詩を考えたり、書いたりすることも辛いようで、リハビリのできない日が続いた。作業療法の内容を変更して、身体機能に対するアプローチを施そうとするも、彼女から断られてしまっ

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」②

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」①

           三月二十八日。年に一度の病院祭の日を迎えた。今年は、前島病院の創立百三十周年記念であり、例年より盛大に開かれることになった。  僕は実行委員として、会場であるホスピスのホールを忙しく歩き回っていた。  当日になってもスペシャルゲストは教えられず、開場時間になっても来ない。とても不安だ。誰かもわからない人物は、本当に来るのだろうか。  会場には細長いテーブルが並べられ、その上に栄養課の調理室で拵えた焼きそばやたこ焼きが置かれている。その他にも、かき氷や綿飴を作って配って

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」①

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第4章「好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい」④

          好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい【エッセイ】  髪を切ってもらいながら、美容師さんの好きな音楽について聴いていた。すると、あるバンドの名前があがった。私はそのバンドのボーカルを少し知っている。だが、黙ってそのまま聴いていた。  美容師さんの話は、だんだんと熱が入る。笑顔で相槌を打ちながら、Sさんのことを考えていた。  Sさんは日本武道館で歌っていた。  偉大なミュージシャンたちも、昔の恋人も、彼に夢中だった。  人は彼を、カリスマボーカリストと呼んだ。  多少の贔

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第4章「好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい」④

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第4章「好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい」③

           病院から車で三十分程度のところに、花見の名所がある。そこは河津桜の名所であり、二月上旬から三月上旬が例年の開花時期である。  上野さんの希望を聞いて、今しかないと思った。これを逃したら、もう彼女に桜を見せてあげられないかもしれない。  医師に相談したところ、最初は反対された。彼女には、身体への負担が大きすぎるというのだ。だが、佐々木さんや坂本さんも賛成してくれた。看護師長も動いてくれた。彼らが協力し説得してくれたおかげで、医師の心を動かすことができた。  もちろん、その分の

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第4章「好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい」③

          共作小説【白い春~君に贈る歌~】第3章「繋ぎとめるもの、思いとどまらせるもの」③

          繋ぎとめるもの、思いとどまらせるもの【エッセイ】  インドカレーが好きである。  特に好きなメニューはバターチキンカレーだ。チーズナンとサフランライス、そして野菜にオレンジ色のドレッシングも添えてあるのが最高である。  ああ思い浮かべるだけで唾液が分泌されてくる。ここ数年食べていないから、無性に食べたくなる。  東京に住んでいた頃、隣の駅近くに行きつけのインドカレー屋があった。  そこへ友人や恋人をよく連れて行き、夜遅くに一人で食べに行くことも多かった。頻繁に通っていたと

          共作小説【白い春~君に贈る歌~】第3章「繋ぎとめるもの、思いとどまらせるもの」③

          共作小説【白い春~君に贈る歌~】第3章「繋ぎとめるもの、思いとどまらせるもの」①

           身体がビクッとして、目が覚めた。  誰かの声が聞こえたような気がする。上野さんかな。いや、まさか。変な夢を見ていたようだ。  鼓動が高鳴っている。誰かに不審に思われていないかを確認した。    目の前では、医師と看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーがテーブルを囲んで話をしている。  ここは、ホスピスのカンファレンス室。毎日、昼休憩の後には会議が行われている。  手元にリハビリカルテを開き、読んでいるように目を伏せる。この時間が非常に眠い。再び眠りそうになって、

          共作小説【白い春~君に贈る歌~】第3章「繋ぎとめるもの、思いとどまらせるもの」①

          共作小説【白い春~君に贈る歌~】第2章「海を眺めていた」①

          海を眺めていた【エッセイ】  夏がやってきた。うだるような暑さ。蝉が騒がしい。その声に耳を澄ましていると、瞼の裏に海の景色が映る。この現象は毎年のことである。それは十六年前の房総半島、ある女性が隣にいたときの記憶である。  プロのミュージシャンを目指していた二十歳の頃、頻繁に池袋駅の前で路上ライブを行っていた。もう辞めようかと思っていたとき、一人の女性が足を止めて熱心に聴いてくれた。それが彼女との初めての出会いである。  十八歳の彼女は千葉から上京し、バスガイドの仕事をし

          共作小説【白い春~君に贈る歌~】第2章「海を眺めていた」①

          共作小説【白い春~君に贈る歌~】第1章「ホスピス」②

          「失礼します」 「あ。はーい」  ずいぶん明るい声だ。ホスピス病棟で、こんなに明るい声を聴いたことがあっただろうか。  カーテンを捲る、ほんの一秒にも満たない時間、上野さんの顔を想像する。なぜかわからないが、昔の恋人がつけていた香水の香りがほんのりと鼻をかすめた。が、もちろん、気のせいだった。     真っ白い肌の女性が、ベッドの頭側を上げて座っている。テーブルで本を読んでいたようだ。ブックカバーをかけているから、何の本かはわからない。しかし、猫と魚のお洒落な柄である。手

          共作小説【白い春~君に贈る歌~】第1章「ホスピス」②

          共作小説【白い春~君に贈る歌~】第1章「ホスピス」①

           青春ドラマが苦手である。テレビで目にしてしまったなら、すぐにリモコンの電源ボタンを押すほど拒絶してしまう。  でもそれは、羨ましいからだと最近ようやく認められるようになった。僕には青春と呼べるほど、美しい時代がなかったのだ。  愛する人と別れ、病を得て、夢に破れ……いつも憂鬱を抱えていた。振り返ると、後悔ばかりの人生を生きてきた。  春が青くなかったら、何色になるのか。  ぱっと思いつくのは、黒だ。  暗黒時代。黒い世界。黒い春。  何も見えない暗闇の中、呼吸することも

          共作小説【白い春~君に贈る歌~】第1章「ホスピス」①

          三鶴✖️仲川光 共作小説 「白い春~君に贈る歌~」 連載開始のお知らせ

          noteの皆様へ いつもご覧くださり、誠にありがとうございます。 この度、温めていた新企画を謹んで発表させていただきます。 三鶴✖️仲川光🌸 共作小説「白い春〜君に贈る歌〜」5月最終週〜連載開始✨ (週2回更新予定) 【あらすじ】 【三鶴・仲川光🌸の自己紹介】 おそらく、お互いのアカウントには、三鶴をご存知ない方、仲川光をご存知ない方がいらっしゃると思うため、あらためまして2人の紹介をさせていただきます。 【三鶴】 三鶴のnoteはこちら。↓↓ 【仲川光🌸】

          三鶴✖️仲川光 共作小説 「白い春~君に贈る歌~」 連載開始のお知らせ

          娘の朝に思い出す事など

           最初に断っておくが、今回のエッセイは、かなり親ばかな記録である。  ある程度はそのことを自覚しているつもりだが、思ったことをそのまま綴りたい。  保育園の送迎。  この時期に多くのパパ、ママを悩ませるものの一つだ。  私も漏れなくその一人である。  先日、二歳の娘が保育園に入園した。  保育園に送り届けるのは私の役目である。昨日から出勤前に娘と園に行く生活が始まった。  一日目、娘は泣かなかった。  私が保育士の先生に引き渡すと、抱っこされて教室に連れて行かれた。離れ

          娘の朝に思い出す事など

          そんな人間だから、君は成功できなかったんだよ

           ナースステーションの前を通ったとき、後ろから声をかけられた。 「あの、私、今度結婚することになったんです」 「それはそれは。おめでとうございます」    若い女性看護師のIさんだった。呼び止めてまで報告するような関係でもない。だから何か話したいことがあるのだと、すぐに察した。 「彼は……Aなんですよ。みつるさん、知ってますよね?」 「あ、ああ……知ってますよ」  気まずい。もう話を打ち切りたかった。が、Iさんは続けた。 「Aがみつるさんは今どうしているのか、気に

          そんな人間だから、君は成功できなかったんだよ