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#海外文学のススメ

おすすめの作品や作家、注目している国や地域を教えてください!

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「闇の奥」" Heart of Darkness "J.コンラッド(改訂)~映画「地獄の黙示録」

今回は「モダニズム文学」の簡単な説明と、その先駆の一例として、コンラッド作「闇の奥」を取り上げます。 また、同小説から翻案された映画「地獄の黙示録 "Apocalypse Now"」にも、最後に少し触れておきます。 Apocalypse Now「地獄の黙示録」 監督・脚本 F.F.コッポラ(1979アメリカ) 「読みづらさ」で名を残す奇書「闇の奥」は、ポーランド出身のイギリス作家ジョセフ・コンラッドによる中編小説です。 この作品は、今日でも、「英語で書かれた名作ランキ

輝く季節を旅する -フォークナーの小説『八月の光』の美しさ

【水曜日は文学の日】 光あるところに影があるように、物事には、二つの対照的な側面があります。 しかし、例えば一つの小説の中で全く対照的な物語を進めることは、案外困難で、少ないように感じます。 アメリカの小説家ウィリアム・フォークナーの1932年の長篇『八月の光』は、二つの異なった物語を合わせた傑作であり、しかも、驚くべき後味のよさを持つ作品です。 物語は、リーナ・グローブという少女の話から始まります。身重の身の彼女は、お腹の子供の父親であるルーカス・バ

♡今日のひと言♡バーナード・ショー

バーナード・ショー(1856- 1950~アイルランド・文学者、政治家) ヴィクトリア朝時代から近代にかけて活躍、53本もの戯曲を残し、「他に類を見ない風刺に満ち、理想性と人間性を描いた作品を送り出した」として1925年にノーベル文学賞を受賞した。 代表作「ピグマリオン」(1912)は、オードリー・ヘップバーン主演の映画「マイ・フェア・レディ」の原作として知られている。

♡今日のひと言♡フョードル・ドストエフスキー(改訂)

お時間ございましたら、ぜひ、こちら(ドストエフスキー早わかり)をご一読下さい ⇓⇓⇓ フョードル・ドストエフスキー(1821-1881~ロシア・小説家、思想家) 19世紀後半のロシアを代表する文豪の一人。代表作に『罪と罰』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』など。キリスト教の立場から、人間存在の根本問題を追究した重厚な名作群を残した。

カート・ヴォネガットに届いた、ある少年からの手紙(頭木弘樹さまの記事を中心に)

『絶望名人カフカの人生論』(新潮文庫)をはじめとする、多くの著書で知られる「文学紹介者」頭木弘樹さんによる記事の紹介です。 ある日、作家カート・ヴォネガットの愛読者である14才の少年から一通の手紙が送られて来ました。そこに書かれていた上掲の言葉に、ヴォネガットは大きな感銘を受けたと言われています。 以下は、このエピソードをはじめとした、頭木さんの「愛」にまつわる記事です。自分は目から鱗が落ちました。 5分で通読できますので、この名文をぜひ。 ―――――――――――――

書いて私を発見する -ジッドの小説『狭き門』の魅力

【水曜日は文学の日】 なぜ私たちは書くのか。勿論、人によって様々な理由があります。 しかし、書くという行為には、根本的に「信仰告白」のようなところがあって、自分が生きて信じているものを、何かの形にしたいという欲望が込められているのは、間違いありません。 フランスの小説家、アンドレ・ジッドの小説『狭き門』は、そうした信仰告白を、捻れた形で凝縮して小説にした名作であり、書かれている事柄は古くても、今とてもアクチュアルに読める作品に思えます。 語り手のジェロ

波の中の失われた愛 -デュラス『アガタ』の魅惑

映像と言葉とは、本来別のものです。 私たちは映像に言葉を載せて一致させる、「映画」を何の疑いもなく享受しているけど映像と言葉が切り離されたらそこに何が生まれるのか。 フランスの小説家マルグリット・デュラスが監督した一連の映画は、そうした部分を探究する大変興味深い映画です。 そして、私が好きな1981年の『アガタ』は、原作の戯曲もデュラスが監督した映画も、言葉と映像が、魅惑的な関係を結んでいます。キーワードは「愛が失われること」です。 マルグリット・デュラ

力と欲望を味わう -バルザックの小説の面白さ

【水曜日は文学の日】 今は2024年、21世紀の前半。ということは、私のように、20世紀生まれの人間がそれなりに生きているということです。 世紀で区切ることはできても、実際のところは、それをまたがって生きる人間がいるわけで、そこですっぱりと時代が変わるわけではない。実のところ、20世紀後半に生まれた人間は、19世紀の影響もまた残っていると思っています。 バルザックは、そんな19世紀のある種の特徴を、広範に捉えることができた小説家です。 そして

甘いノスタルジア -小説『お菓子とビール』の魅力

【水曜日は文学の日】 文字は書かれた瞬間に過去になるのですから、全ての小説は、回想だとも言える。 私が好きな回想は、プルーストの『失われた時を求めて』のように、一人の語り手が、ゆったりとした語り口で過去を紐解くように語る小説です。 もっとも、プルーストの小説は、単なる回想とは言い難い、「語り手の知りえないこと」を含む、かなり複雑で曖昧な語り口です。 それが魅力的でもあるのですが、時折その長さと相まって、読むのに疲れてしまうこともあります。 その点

♡今日のひと言♡マルセル・プルースト

マルセル・プルースト(1871- 1922~フランス・小説家) 19世紀末から第一次世界大戦勃発までの頃の、パリが繁栄した華やかな時代をパノラマ的に描いた大作「失われた時を求めて」(1913~1927)で有名。「意識の流れ」の手法により、同作品は当時の「前衛」である「モダニズム文学」の代表作として、後世の文学に大きな影響を与えた。

耽美主義文学の入口「ナイチンゲールとばら」~オスカー・ワイルド(改訂、ネタバレ有)

オスカー・ワイルドは、「耽美派」の筆頭として挙げられる作家です。 耽美(唯美)主義とは、19世紀後半に西洋で発達した芸術思潮の一つで、その時代の主流であった写実主義に反して「美しさ」に最高の価値を置くものです。 それは「美に耽(ふけ)る」の文字通り、常識にとらわれず美しさをとことん追求する姿勢ですので、一線を超えて非道徳的になったり残酷になることが多く、そこが魅力でもあります。 その特徴が顕著な「サロメ」などで知られるワイルドですが、「幸福な王子」(1888)をはじ

中世フランス、冬の終わりの恋物語「オーカッサンとニコレット」~作者不詳(改訂)

恋の歌人たち、宮廷詩人「トルバドゥール」 1000年に及ぶ「暗黒時代」とも呼ばれた中世ヨーロッパですが、その終盤には徐々にルネサンスの曙光がさしてきます。 12世紀ごろになると、南フランスで「宮廷文学」が流行しました。 それは、宮廷に雇用された騎士の中で、才能のある者が詩をつくり、王侯貴族の前で披露したものでした。 彼らは「トルバドゥール」(宮廷詩人)と呼ばれていました。 騎士道精神にのっとり、女性を高貴な存在として崇め、その人にとこしえの愛を捧げる・・・彼らはそのよ

♡今日のひと言♡ヘルマン・ヘッセ

ヘルマン・ヘッセ(1877- 1962 ドイツ・小説家、詩人) 様々な職に就きながら著述活動を行い、穏やかな人間の生き方を描いた作品を数多く残した。代表作は他に「車輪の下」(1906)「デミアン」(1919) 「シッダールタ」(1922)「荒野のおおかみ」(1927)など。1946年にノーベル文学賞を受賞。

思考を届けるために -J・S・ミルの自伝の面白さ

【水曜日は文学の日】 自伝というのは、面白いジャンルだと思います。 当然ながら自分の全生涯の全行動を書くわけにはいかない。あらゆる伝記と同様、取捨選択が必要になる。 その選択をする人間が自分自身の場合、他人が書く伝記とはまた違った選択があり、興味深い記述になる場合があります。私の好きな哲学者の一人、J・S・ミルの自伝は、そんなサンプルの一つです。 ジョン・スチュアート・ミルは、1806年、ロンドン生まれ。父親ジェイムズは、『英領インド史』等を書いた著

『ライ麦畑でつかまえて』(The Catcher in the Rye)J.D.サリンジャー ~ここは、「勝ち負け」を決めるための場所なんかじゃない!                                      

今回は、昨今では村上春樹氏の翻訳でも知られる、「ライ麦畑でつかまえて(キャッチャー・イン・ザ・ライ)」(1951)を取り上げます。 すでに多くの評論や解釈が行なわれてきた作品なので、ここでは特に個人的に印象に残った人物や場面などを挙げ、感想は末尾で少し述べるにとどめておきます。 尚、記事内の日本語訳の一部は、野崎孝氏版(白水Uブックス)をベースに少し調整を加えさせていただいております。 クリスマス前夜、ある少年の孤独な三日間 まず、作品の概要をまとめておきます。 主

言葉の大洋でたゆたう -名作小説『白鯨』の魅力

【※いつもの水曜日の文学に関する投稿の、振替です】 名作小説と言われて読んではみたものの、何が面白いのか分からずに、途中でやめてしまった、もしくは我慢して最後まで読んだけど、やっぱり退屈でわからなかった、という経験は多くの人があると思います(私も結構あります)。 アメリカのハーマン・メルヴィルの小説『白鯨(モービィ・ディック)』は、おそらく、プルーストの『失われた時を求めて』と並ぶそんな「挫折する小説」の一つでしょう。 私はこの作品を偏愛していますが、

胸を打つクリスマス休戦と、戦争のむごさ◇『銃声のやんだ朝に』

 1914年のクリスマス。  第一次世界大戦のさなかにあって、前線で対峙していたイギリス軍とドイツ軍の兵士たちは、いっとき休戦し、ともにクリスマスを祝った。互いの塹壕に挟まれていた戦場は、つかの間、サッカー場に――。  実際にあったというクリスマス休戦を題材に、17歳のサッカー選手を主人公にして描かれた物語がこちらです。 ジェイムズ・リオーダン『銃声のやんだ朝に』 (残念なことに、版元絶版になっているみたい。古書なら手に入るかもしれません。私は図書館から借りて読みました

いま借りている本。ギャレット・フレイマン=ウェア『マイ・ハートビート』、テレサ・トムリンソン『水のねこ』、アーモンド『星を数えて』『肩甲骨は翼のなごり』、オッペル『エアボーン』、ウェストール『ゴーストアビー』、メリック『だれかがドアをノックする』、ハーン『時間だよ、アンドルー』

少年の心を忘れずにいたい大人たちへ◇『ロス、きみを送る旅』

 性別にかかわらず、未成年だったころの感覚をずっと大切にしたいと思っている、という意味でいえば、わたし自身が「少年の心を忘れずにいたい大人」といえます。  そんなわたしと似た思いを抱いている人たちへ、ご紹介したい本に出合いました。  キース・グレイ『ロス、きみを送る旅』  親友のロスが事故で死に、自殺の疑いもかかるなか、やり場のない気持ちを抱えたブレイクとケニーとシムは遺灰を持ち出して旅に出ます。ロスが生前、行きたいと話していた「ロス」という名の町を訪ねて。イングランドの

ソクラテス~プラトンの入口『ソクラテスの弁明』他(改訂)

①「西洋哲学の祖」ソクラテス 時は紀元前400年頃の古代ギリシャに遡ります。 この時代の哲学は、プロタゴラスに代表される「相対主義」が主流でした。 「世の中に絶対的なことなどないのだ」「価値観は人それぞれであり、状況次第で変わるものなのだ」という考え方です。 それはある面において柔軟な考え方であると言えます。 しかし一方で、何でも「時と場合による」で済ませてしまっては「高い理想(イデア→後述)や真理を求める」という姿勢が欠落してしまうという一面があります。 民主主義

美しく危うい青春の恋、そして…◇『禁じられた約束』

 子どものころに「こんな大人がいてほしい」と願ったような大人に、いまの自分は、なることができているだろうか。いろんな言い訳をして、自分のことは棚に上げ、子どもや年下に「こんな人でいてほしい」を押しつけてはいないだろうか?  ストーリーとは直接関係ないけれど、ロバート・ウェストール『禁じられた約束』を読んで、そんな問いが残りました。  ロバート・ウェストール『禁じられた約束』  第二次世界大戦が始まる直前のイギリス。14歳のボブは、同級生の病弱な少女ヴァレリーと、ひょんなこ

夏の一コマ④【読書】

子どもたちと一緒に寝てしまい、 目が覚めると、まだ日付が変わる前だったので、 もう今日は読み切るぞ、と、そこから一気に怒涛のラストまで。 筒井康隆の解説読み終わったら 3:00a.m. そこから寝‥‥られる訳がなく、 今に至ります。 とりあえず、夏休みの宿題が一つ終わりました。

愛する存在を書くために -バルトによるミシュレの美しさ

【水曜日は文学の日】 誰かについて書く時、どうやって書けばいいか、悩むことがあります。 表面的なその人生の事件や、業績について説明することは必要なことです。しかし、それだけでは、その人全てを書けるとは到底思えない。 実はこういう性格の人で、周りにはこう思われていた、という説明も勿論よいことです。しかし、それだけでは、何かが抜け落ちている気がする。 何というか、その人が生きていた「核」のようなものがあって、それを掴むことこそが、最も大切なことのように思え

穏やかに輝く日々の結晶 -名作小説『晩夏』の魅力

【水曜日は文学の日】 小説には様々な楽しみ方があるのが、その魅力の一つでしょう。 オーストリアの小説家シュティフターの長篇小説『晩夏』の素晴らしさは、ある意味退屈でありながら、読むうちに作品が段々と熱を帯びて、不思議な感動を覚えるところにあります。 アーダルベルト・シュティフターは、1805年、現在のチェコ領のオーバープラーン生まれ。麻の商売をも手掛ける農家で農業の手伝いをしながら育ちます。ウィーン大学で法学を学ぶも、家庭教師をしながら、画家として

ウィリアム・モリスの小説、読んだことある?|絵画と文学

ウィリアム・モリスの手がけたデザインが一大ブームとなって久しい。最近、100円ショップにまで《いちご泥棒》をあしらったグッズが登場していておどろいた。 モリスといえばあのテキスタイルが真っ先に思い浮かぶ方も多いと思うが、今回取り上げるのはモリスの作家としての顔である。 ウィリアム・モリスってどんな人なの? モリスはたしかに芸術家であるが、実業家、作家などなど二足の草鞋どころではない状態で多忙な日々を送っていたのであった。 彼は「アーツ・アンド・クラフツ運動」を唱え、優

神秘をかたどる -小説『フランケンシュタイン』を巡る随想

【水曜日は文学の日】 人類の創作の中には、元の作品世界を超えて、ある種の人類共通の象徴になった存在があります。神話の中から現実のイコンになったような存在。 「フランケンシュタイン」は、そんなイコンの中でも、かなり数奇な広まり方をした例でしょう。 イギリスの作家メアリー・シェリーの創作した小説『フランケンシュタイン』から出てきた怪物は、ポピュラー・カルチャーの中に深く浸透しています。 メアリー・シェリーは、1797年ロンドン生まれ。本名メアリー・ウルストン

スナップ写真のように。

時々、子どものころの写真を見返してみる。 なにかの記念に撮った、かしこまった写真ではなく、「写ルンです」でいたずらに撮った、なんでもない日のスナップ写真。 庭にしゃがみこんで、土だかなんだかをこねくり回している3歳くらいの私。 畳に寝転がったまま、ガリガリ君を頬張っている7歳くらいの私。 祖母の家の台所から撮ったと思しき、木蓮の幹だけが映ってる写真。 どこかの山。 ただの青空。 りんごの包装紙だけが映ってるのもある。 そんな、日常のきれはしみたいな写真を前に、私は切り取ら

フランス文学まずはここから!初めてでも読みやすいおすすめ作品5選

パリオリンピックが始まりましたね🏆 これを機にフランス熱が高まる方もいるのではないかな〜と思ったので、フランス文学を初めて手に取る方にもおすすめの読みやすい作品を5作紹介したいと思います!いずれも大好きな作品なので、ぜひぜひ読んでみてください~! ①悲しみよ、こんにちは/フランソワーズ・サガン 15歳の夏に読んで本当に衝撃を受けた一冊。 少女の危うさと繊細さをここまで描けるのはサガンしかいません。  作品全体に漂う気怠い空気感がリアルに感じられるのは絶対に夏、この時期に読

続・夏の読書感想〜翻訳の賞味期限〜

「翻訳には賞味期限がある」 この言葉を読んだとき、私は目からウロコがぽろっと落ちた。 それと同時に「たしかにそうだ…」という、深い納得感があった。 このことを教えてくれたのは、前回の記事で紹介した「グレート・ギャツビー」の訳者あとがきでのことだった。 翻訳者は村上春樹さん。 (前回の記事です) このあとがきもとてもおもしろいので(そして作品への愛に溢れているので)、興味があればぜひ読んでみてもらいたいのだが、そこにはこんなことが書かれていた。 たしかにそうだ。 私が

永遠の今~『シッダールタ』ヘルマン・ヘッセ(改訂)

ヘッセは、詩と小説によって知られる20世紀前半のドイツ文学を代表する作家です。 「シッダールタ」(1922)は、あるインドの求道者が悟りの境地に達するまでの体験を描いた作品です。 ヘルマン・ヘッセ(1877- 1962 ドイツ・小説家、詩人) 様々な職に就きながら著述活動を行い、穏やかな人間の生き方を描いた作品を数多く残した。代表作は他に「車輪の下」(1906)「デミアン」(1919) 「シッダールタ」(1922)「荒野のおおかみ」(1927)など。1946年にノーベル

「サンテグジュペリ」という名の薔薇

【スキ御礼】「妻が「薔薇」だということは」 星の王子様ミュージアムが2023年3月末で閉館になっています。 訪れたのは2021年の6月。 そこには、サン=テグジュペリが好んだという赤いバラを集めたバラ園がありました。その中に「サンテグジュペリ」と名付けられた薔薇がありました。 薔薇のほかにも写真を少し撮っていたので、あわせてお名残に公開します。 バラの「サンテグジュペリ」は、フランスのブランド、デルバール社の品種。 デルバールはフランス中部オーベルニュ地方の小さな町、マリ

ほのかな光の中の青春 -小説『感情教育』の魅力

【水曜日は文学の日】 私たちは生きているうちに、様々な歴史的事件に遭遇します。 しかし、それが事件かどうかは、渦中に居る時は分からない。何かの変化はその内部にいるとなかなか分からないものです。 フランスの小説家フロベールの『感情教育』は、そんな歴史の「感触」を味合わせてくれる名作小説です。 ギュスターヴ・フロベールは、1821年、フランスのルーアン生まれ。裕福な外科医の息子です。 最初は法学を学びつつ小説を書いていたものの、病気のため、ルーアン郊外に隠遁。父

2024年8月読書記録 神童、安吾、女性たちがたどってきた道

アニー・エルノー『嫉妬/事件』(堀茂樹・菊地よしみ訳・ハヤカワepi文庫)  エルノーは一昨年のノーベル文学賞受賞者。オートフィクションの作家として知られるそうです。自分の経験を小説にしている作家という意味らしい。日本の作家だと、金原ひとみさんが挙がっていましたが、太宰治などもそうなのでしょうか?  「嫉妬」は、文字通り、別れても好きな男が今付き合っている女性に対する嫉妬を書いた短編です。ドロドロした感情というよりは、嫉妬に駆られてバカなことをやったり、妄想に駆られたりする

「説得」 - ジェーン・オースティン。

ああ、面白かった。 期待通りの余韻が残る。 「完璧な芸術」という歴史的評判の通り、ジェーン・オースティンの最後の小説である「説得」は、ウェールズの海、山、川へと移動する夏休みのキャンプ中、私の心にずっと付き添っていた。 夏休み用にと、日本のアマゾンから購入していた数冊の本の中で、私はエミリー・ブロンテの「嵐が丘」をキャンプに持って行くつもりだった。しかし、両本数ページづつ読んでみた時点でやはりキャラクターの描写が際立つオースティンをお供に選んだ。 正確には、キャンプ前半

読書記録「Carver's Dozen」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です! 今回読んだのは、レイモンド・カーヴァー 村上春樹編・訳「Carver's Dozen レイモンド・カーヴァー傑作選」中央公論新社 (1997) です! ・あらすじ 3月30日、東京読書倶楽部の読書会にて紹介いただき、著者の名前と本著を知る。 先日の京都は出町柳の古書店 エルカミノにて購入。「状態が悪いですが大丈夫ですか」と店主に言われた。「構わない」と返答した。 読書会で紹介された人は、ご自身も物書きをしているらしく、「とても

デカダンス文学の入口~引きこもり小説『さかしま』 J.K.ユイスマンス(改訂)

デカダンスとは「退廃」「衰退」を意味するフランス語です。 19世紀半ばを過ぎると、ヨーロッパ文学はロマン派に対抗した写実主義、自然主義が主流となりました。 科学・技術・産業、さらにはジャーナリズムの発展により、社会問題や事実・現実をありのままに描写することが要求されたのです。 しかし、そのさらなる反動として、19世紀末に向けて主にフランスで起きたのがデカダンス芸術でした。 その特徴は、伝統的な規範や道徳に背を向け、病的な趣味を重んじ、退廃的で人為的な美を追求する傾

♡今日のひと言♡ジョン・アーヴィング

ジョン・アーヴィング(1942- アメリカ・小説家) 現代アメリカ文学を代表する作家です。 1965年より大学の創作科でカート・ヴォネガットに師事、フィクションの可能性を継承し拡大させました。 1968年に「熊を放つ」でデビュー。その後、「ガープの世界」(1978)が世界的ベストセラーになりました。 映画化された「サイダーハウス・ルール」(1985)では自ら脚本を手がけ、アカデミー賞最優秀脚色賞を受賞。 その他「ホテル・ニューハンプシャー」(1981)「オウエンのた

【ネタバレなし】「三体」がおもしろいと感じる人の傾向3選

『三体』、文庫本になったの?妹とのメッセージのやりとりで知りました。 『三体』がね。文庫本になっているんですね。 トーク内の画像を拡大します。 祝 文庫本! 「文庫本になったタイミングで、安くなったことだし。」 「Netflixで話題らしいし」 と、いろんな理由で『三体』に手を伸ばす人がいるのでしょうか。 そうなのであれば、 『三体』が気になっているけど、 決め手に欠けていて、読みとどまっている迷い人 へ向けて記事を書きます。 以下、原作本について話します。

ベロニカは死ぬことにした【死が差し迫る時アナタなら…】

"死ぬことにした" ってなかなか強烈なタイトルですよね。 普通に生活していると、"死"を意識することはほとんどないと思います。 "死ぬ気で頑張る" "死に物狂いで努力する" という言葉もありますが、これらで使われる"死"という単語は、もはやただの形容詞のようなものです。 最近では、ビジネス書や自己啓発本で、 ・自分がいつか必ず死ぬことを意識して今を精一杯生きよう ・明日死んだとしても後悔しないような生き方をしよう というメッセージを謳う本もあります。 それはきっと正しい

「母の日」に、ジョージ・エリオット『サイラス・マーナー』(改訂)

ディケンズと並び称される、19世紀イギリス文学を代表する女流作家です。 彼女の代表作のひとつ「サイラス・マーナー」は、「大人のためのおとぎ話」として海外では広く読まれている作品です。 「他人への愛」や「因果応報」をテーマとしたシンプルな内容ですが、端役にいたるまでの緻密な人物描写・心理描写が感情移入を促します。 読後感がこの上なく素晴らしい物語です。 女性が愚かであるということを 私は否定しませんが 全能の神は 男性につりあうように 女性を作られたのです

妻が「薔薇」だということは

【スキ御礼】歳時記を旅する50〔薔薇〕前*ことごとく刺す意あらはに薔薇の棘 童話『星の王子さま』で、王子様がいたという星は、家ほどの大きさだった。そこにある一本のバラは、妻のコンスエロ・ド・サン=テグジュペリがモデルになっているという。 ということは、話の中の「家ほどの大きさの星」とは、作者にとって妻のいる家庭が「星のような家」だったということなのだろう。 二人の現実の家庭が一つの星のようだった、ということはコンスエロの言葉にも見て取れる。 著者アントワーヌ・ド・サン=

ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』友廣純訳、早川書房

1950年代のアメリカ、ノース・カロライナ。大西洋側の湿地が多い地域が舞台だ。親兄弟に見捨てられ、粗末な家でたったひとりで生きる少女の話。と聞いていたので、さぞ暗くて重い話なのだろうと構えていた。でも読み始めると、とても面白くてスイスイ読んでしまった。(アメリカでベストセラーになる本だから読みにくいわけはないのだ。) そんな過酷な環境で育ったということは、きっと読み書きも満足にできない、半分野性の少女なのだろうと想像していたが、途中で近所の少年に読み書きを教えてもらい、つい

しなやかな私の言葉 -ホイットマンの詩の魅力

【水曜日は文学の日】 詩には東洋、西洋を問わず、韻律や形式の複雑な規則があります。でも、その規則を破って自分独自の世界を築き上げた人もいます。 アメリカの詩人、ホイットマンは、そんな独特な世界観の詩人の一人です。 ウォルト・ホイットマンは1918年、ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。父親は大工で、十代の頃から新聞社で働き、ジャーナリストとして活動。19歳で自分の新聞を創刊したりしています。 その後、教職や出版社を転々とし、1855年、36歳の時に、詩集『草

一語の宇宙 | 黙示録 | apocalypse | 闇の奥

apocalypseは小文字で書くと「世の終末、大災害」という意味。 「the Apocalypse」と大文字で書くと、新約聖書の「ヨハネの黙示録」のことを指す。 アメリカ映画の「Apocalypse Now」(地獄の黙示録)という映画は、ベトナム戦争のことを描いた映画だか、ジョゼフ・コンラッド作「闇の奥」を下敷きにしている。 コンラッド「闇の奥」は、アフリカを舞台とした小説なので、「地獄の黙示録」は、舞台をベトナムに移した翻案だと言える。 #地獄の黙示録 #闇の奥

リア王のキャラクターとしての魅力

「シェイクスピアなんて古臭い」と感じる人もいるかもしれません。 しかし、「今でも十分に面白い!」と言い切れる理由があります。それは、シェイクスピアのキャラクターたちが非常に魅力的で、個性が際立っているからです。今回はその魅力を、特に『リア王』を例にとってご紹介します。 まず、『リア王』を一言で説明すると **「過去の栄光にしがみついたリア王が、人生の最期に失敗する物語」**です。 物語の冒頭では、リア王は老いを感じ始め、自分の権力を娘たちに譲ろうと決心します。 キャ

時空系ミステリーはお好き?

 「時空もの」と称される作品たちがあります。  タイムトラベル/タイムスリップして過去や未来を訪れたり、死んだと思って気が付くと過去に戻っていたり、同じ日を何度も繰り返していたりなど… そんな時間と空間の関わりが、ストーリー上、重要な役割を果たしてるものを「時空もの」と呼んでいるのです。  小説や映画ばかりでなく、マンガやアニメ、テレビドラマなんかでも、繰り返し使われているモチーフですよね。  それだけに、設定やプロットに工夫され、様々なバリエーションがあるんです。  

書籍レビュー『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス(1966)時の流れによって変化する自分

※2500字以上の記事です。  お時間のある時に  お付き合いいただけると嬉しいです。 幼児並みの知能だった チャーリイが生まれ変わる以前から気になっていて、 ずっと読みたいと思っていました。 映像化もされていますが、 そちらの方は 一度も観たことがありません。 そんな状態で 手に取った作品でしたが、 ストーリーもさることながら、 その表現手法にも 感心させられる作品でした。 主人公のチャーリイ・ゴードンは、 32歳、パン屋で働いています。 彼は知的障がい者で、

燃える言葉の力 -ドストエフスキーを巡る随想

【水曜日は文学の日】 『罪と罰』、『カラマーゾフの兄弟』のドストエフスキーは、文学史上に聳え立つ巨峰であり、今でも様々な意味でアクチュアルな作家の一人でしょう。 間違いなく人類の文学史上、トップテンに入ってくる作家であり、好きとか嫌いとかを通り越して、普遍的な重要性を持った作家でもある。 過去から現在に至るまで、あまりにも色々な角度から語られているため、とても短い紙幅では、全てを語り切れませんが、今日はこの作家について、思うことをつらねたいと思います。

私のおすすめ韓国文学

noteをはじめて1ヶ月ちょっとが経ちました。 はじめてよかったな、と。 やっぱり自分が書いたものを誰かに読んでもらえていると思うと、うれしい気持ちになります。 ありがとうございます。 今回は、みなさんに私からおすすめの本をご紹介したいと思います。 いままで韓国文学に触れる機会がなかった方でも、これをきっかけに読んでいただけると、とてもうれしいです。 (なんかこういう誰かに向けた文章書くのとても苦手みたいです。。恥ずかしいです…… はじめます!) ①チェ・ウニョン『わ

決して手が届くことのない「美」~ウラジミール・ナボコフ 『夢に生きる人』(改訂)

ナボコフは、19世紀末に帝政ロシアで生まれました。 しかし、革命後の1919年にイギリスへ亡命、ベルリンやパリへの移住を経て1940にアメリカに帰化しました。 「ロリータ」(1955)であまりにも有名ですが、他の長編・短編・詩ともに多くの作品を残しています。 また、レールモントフの「現代の英雄」の英訳や「不思議の国のアリス」のロシア語訳など、翻訳の分野でも功績を残しています。 チョウの研究者としても知られ、4000もの標本を欧米の博物館に残しています。 小説は難解な作品