堀井

本と美術と旅行が好きです。Twitter→ @Tiffa1121

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マガジン

  • 百年文庫を読む

最近の記事

最も魔法使いに近い人 #テオヤンセン展

前の職場の課長から、急にLINEが来て、何かと思ったら「テオヤンセンが非常に良かった」という話でした。めちゃくちゃ親しいとかでもなく、辞めてから年始の挨拶程度だったのに、急にその熱量で連絡が来たのが嬉しかったです。 ということで、ギリギリスケジュールの合間を縫って絶対に行きたく、年始から千葉まで足を運びました。 テオヤンセン、あまりよく知らなかったのだけど見に行ったら楽しすぎた! 美術館初心者にこそ足を運んでほしい展覧会だし、千葉でしかやっていないのもったいない。会場が千

    • 解放感、幸福感、孤独 #マティス 自由なフォルム展

      マティスは昨年も見たので、どうしようかなと迷いつつ、行ったら非常に良かったので共有。 もちろん初マティス(?)としても楽しめるけど、個人的には去年の上野のマティスを見ている方こそより楽しめるのではないかと思いました。 去年のマティスは画家としての、いわゆる美術史上のマティス、を満喫することのできる展覧会で、今回はむしろそれ以外のマティス、画家としての括りからははみ出すマティスを堪能できる企画展の気がします。 メインビジュアルになっている「花と果実」をはじめ、マティスがここま

      • 百年文庫60 肌

        「肌」というテーマからイメージされるような生々しい雰囲気の作品は無くて、作品は共通して「話の筋は暗いのに暗い雰囲気のない作品」だった。 交叉点/丹波文雄 「落ちるところまで落ちた」-そんな思いで住みついたアパートみどり荘で、川上は隣室の若い女にふとした好奇心を抱く。憐れみから惰性へと関係を深めてしまう男女のあやうさ。 友子が可哀想だけれど、その気持ちに自分を殉じることまではできない男。本人も言っているけど、ヒモの男よりも残酷な気がする。終わり方が友子が部屋に戻る直前で切

        • 百年文庫59 客

          客が印象的な作品は、それぞれ毛色は違えどなんとなく非現実的な三篇だった。客という存在自体、「千と千尋」みたいな日常と非日常との境目の存在なのかもと思う。 海坊主/吉田健一 銀座の繁華街で出会った大男は、「人間は食べないよ」と言ってにやりと笑った。異界の者との滋味豊かな交流を描く。 どこか不気味な「客」が描かれた他の二篇とは対照的に、すごく気持ちのいい短編。(オチをばらしてしまいたくはないのだけど)もののけに遭うタイプの異類譚なのだが不思議にすっきりして楽しい気持ちになる

        最も魔法使いに近い人 #テオヤンセン展

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          55本

        記事

          2021年読了本ベスト10

          今年は全然本を読んでいないのでやらない(できない)かなと思ったのですが、振り返ってみたら思っていたよりは読めていたので。嬉しいことに、これは別枠で記録しておきたい!と思える本にも何冊か出会えたのでやっぱり2021年もやることにしました。 百年文庫はまた別途まとめるつもりなので入れずに10冊選ぼうかと思っていたのですが、例年より読了本の数が少なかったこともあり8位以下は審査基準に達しなかったため受賞者無しのピアノコンクールといった様相を呈してしまいかけたので、特に印象的だった

          2021年読了本ベスト10

          百年文庫58 顔

          なんとなく不気味な印象の三篇。顔を主題に据えるのは普通の話を書くのには生々しすぎて、サスペンス的なものになるのかもしれない。 追いつめられて/ディケンズ なぜ私はだまされたのか?彼の顔を読み違えたのか?生命保険会社で長年、訪れる客を審査してきた「私」が遭遇した意外な復讐劇。 一読だと話の展開がよくわからなくて二回読んだ。ディケンズ、たしかにサスペンスぽいものも書くイメージがあったのだけどこんなものも書いているんだな〜と驚いた。わかりにくいのは主語や目的語が省かれた語りが

          百年文庫58 顔

          百年文庫57 城

          城というテーマを持ってくるところが面白かった。 具体的に城がイメージできる作品のところも良い。自分がもし選ぶとしたら、と思った時に城を舞台装置にした作品ってあるようで意外と思いつかないな、と思ったし、こうやって括られたものを読むことで「城がテーマの作品」というタグが自分の中に新しく置かれるなあということも考えた。 ポルトガルの女/ムシル 領地をめぐる攻防戦に身を投じる城主は、異国からめとった新妻を城にのこして戦場に寝起きする。冷静にして苛烈な男が激しい動揺に見舞われる瞬間

          百年文庫57 城

          百年文庫56 祈

          祈というテーマにこめられた「切実さ」を感じさせる作品たち。状況はどれも三者三様に切羽詰まったものがあるのに、読後感は不思議と明るい。直接的に祈る描写が主軸にはなっておらず、思索と祈りの中間みたいな作品たち。 春雪/久生十蘭 盟友の娘の婚礼に出席した池田は、人生の花盛りを知らずに夭折した姪・柚子を思うと無念でならない。しかし、生前の柚子には叔父に隠し通したある秘密があった。 柚子の秘密が紐解かれていくにつれて、隠されていた悲しみや裏切られた気持ちというよりやり切った清々し

          百年文庫56 祈

          百年文庫55 空

          個人的には、面白くなかったわけではないのだけれどあまり入り込めない作品群だった。空という感じもあまり受けなかった。逆にここまで読んできて「あまり入れなかった一冊」もなかったので、面白い一冊があるようにそこまではまらない一冊も明確にあるのだなと面白かった。 聖家族/北原武夫 早春の美しい朝、画家になることを決意したその日から、いくのの新しい人生が始まった。理想の生活をひたむきに追い求め、辿りついたあまりにも無垢で素朴な生。 話が大きく展開していくので、どこに向かっているの

          百年文庫55 空

          百年文庫54 巡

          ロマンティックな描写が散りばめられた三篇で、テーマがなんだったか思い出せなくてしばらく考えてしまった。巡という漢字自体にロマンティシズムを含んだ雰囲気があるのは否めないけれど。選出に特に意図はないと思うけれど、作品自体の構造が気になる三篇だった。理論的なことを考えた末の作だから、意図的ではなくても感性よりもそういった技巧的なところに凝りがちになるのかな。 アトランティス物語/ノヴァーリス 年老いた王の美しいひとり娘が、ある日、忽然と姿を消したー。伝説の地を舞台にくりひろげ

          百年文庫54 巡

          百年文庫53 街

          三篇を通して、あまり街という印象は受けなかったように思う。でも思えば街の中で進む話というのもそんなには無いし、どこにでもある題材の割には選び辛いテーマのような気もする。 感傷の靴/谷譲次 「ああ、日本人、ヘンリイも日本人、俺も日本人」ー。カナダ兵として戦勝パレードに参加した同期の雄姿を、「私」は感慨深く見つめた。 わたしはナショナリズム的な感情は薄いほうだと思うけれど、それでも海外で出会う同郷人は無条件に好意から入ってしまう。単純に言葉が通じる安心感もあるけれど、それだ

          百年文庫53 街

          百年文庫52 婚

          どことなくコメディタッチな作品が多い印象。 シェイクスピアとかでも結婚のモチーフはちょっと喜劇的なイメージがあるし、明るい話題だからこそそういう形で扱いやすかったりもするのかな。 求婚者の話/久米正雄 単刀直入を身上とする「鈴木君」は、道ゆく洋傘の女性に一目惚れし、30分後には結婚の約束を取りつけた。がむしゃらに夢を追う男の生きざまをユーモラスに描いた。 「鈴木君」の気持ちよく進んでいく人生を鈴木君の気持ちになって一緒に楽しく見ているつもりでいるからこそのオチが印象的。

          百年文庫52 婚

          百年文庫51 星

          意図的かどうかわからないけれど、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンと北欧作家の作品でまとめられているのが面白かった。確かにイタリアやアジアの作品で「星」のイメージは薄い気がする。 ひとり者のナイトキャップ/アンデルセン 「結婚しない」という条件で異国の地に赴き、店番をしながら老いていったアントンさんの熱い涙。 ドイツからデンマークに移住している老人が主人公のお話。ドイツからデンマークに旅した時、ほとんど地続きで言葉もなんとなく意味がわかるくらいに近いのにそれでもやはり

          百年文庫51 星

          百年文庫50 都

          三作すべてにローマが取り上げられていたのが面白かった。世界文学の中から「都」を選ぶならやはりローマなのだなと思った。東京とか、都ではあるけど「みやこ」というイメージは確かにないものね。 それぞれの作品が毛色が違えど三篇とも面白く、一冊の短編集としてかなり手元に置いておきたい作品。 くすり指/ギッシング 伯父とローマに滞在するケリン嬢は、朝食のテーブルで知り合ったイギリス人青年に惹かれていく…「永遠の都」で願った恋の行方。 展開が読めるような読めないような緊張感のあるスト

          百年文庫50 都

          百年文庫49 膳

          美味しそうな文章が大好きだ。写真よりも文章を読む方が、より美味しそうなイメージが湧くような気がする。なのでこれは楽しみな気持ちが大きかったタイトル。 茶粥の記 ほか/矢田津世子 想像力で食べたこともない旨そうな食べ物の話をし、雑誌に記事まで書いていた夫。役所の戸籍係だった亡夫を「食べ物」で回想する。 作者の目線がとても優しくて、きっと本人もこういう心持ちの人なのだろうと思った。根本的に目線の優しさが無いと選べない言葉づかいや文章のような気がする。 二篇収録されていて二篇

          百年文庫49 膳

          百年文庫48 波

          「波」というタイトルの通り、人生の波に翻弄される人々を描いた三篇。波に揉まれつつも最後に希望を持った終わり方の作品が多かったところが好きだった。 俊寛/菊池寛 謀叛に失敗し島に流された男が、絶望のなかに新たな人生人生の境地を見出していく。 詳しくない時代の歴史が下敷きになっていたものの、作品の本質は歴史の部分には無く普遍的な人間を描こうとしているので特に気にならず読めた。 俊寛については全く知らなくて、この短編を読んで興味が湧いて調べたのだが、歌舞伎の題材にもなっている

          百年文庫48 波