みも

猫好き、本好き。でも読んだ本を片っ端から忘れるので、忘れないように2021年から記録し…

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猫好き、本好き。でも読んだ本を片っ端から忘れるので、忘れないように2021年から記録し始めました。 どれも勝手な感想ばかり。おまけにネタバレありなので未読の方はご用心ください。

最近の記事

紫式部『源氏物語』瀬戸内寂聴訳、講談社

読み始めたのが7月の終わり。ついにきのう(9月21日)読み終わった。猛暑の日々。わたしの長い夏が終わった……。 あらためて『源氏物語』の感想を書くのはたいへん難しいけれど、まずは思いつくままに書いてみるとー ・現代語訳はいくつも出ていて、寂聴訳は読みやすいとの評判だった。が、読んでみると読みやすすぎて平板に感じた。あとで図書館でいくつか見てみたが、円地文子のが自分の好みだった。リサーチ不足。 ・表現にバリエーションはあるものの、登場人物が美しいと述べる記述が非常に多くて

    • 宮崎智之『平熱のまま、この世界に熱狂したい』ちくま文庫

      実はいま源氏物語(現代語訳)を延々と読んでいて、合間にそれ以外の本も読んでいるという感じ。この本はリチさんのnoteで知って読みたいと思いました。素敵な題名だし。著者がどういう人か全然知らなかったのですが。 読み始めたときは、以前読んだ星野源のエッセイみたいだと思った。若い男性がユーモアを交えながら、日々考えていることを誠実に綴っている。アルコール依存症やらいろいろな病気や怪我、離婚のことなど。ただ、この人の場合はそういう日々の思いの中に、ごく自然に彼が読んだ本の一節が出る

      • 今村夏子『あひる』角川文庫

        表題作の「あひる」と共に、連作の「おばあちゃんの家」と「森の兄妹」が収録されている。どれもは変な話だ。変だし、不気味だし、わけのわからない不安を駆り立てられるようだった。字数が少ないせいか、行間を広く取ったレイアウト。 「あひる」はある一家の話。語り手は無職の長女で資格試験の勉強をしているが、あまり進んでいない。両親は静かに暮らしていたのだが、あるときひょんなことから、あひるを一羽もらってくる。あひるはとても可愛くて、初日から家の前を通る子どもたちの人気者になる。子どもたち

        • 島田潤一郎『長い読書』みすず書房

          ひとり出版社「夏葉社」を運営する著者のエッセイ集。彼の人生と、そのときどきの本の思い出をつづったもの。少年時代、大学生時代、そして小説家を目指して苦しんだころ、ブラック企業勤務のころ、そして現在。それぞれのとき、傍には小説があって、読むものも読み方も変化していく。 全体に無理のない、静かな書きぶり。決してカッコよくない、話を盛り上げようとしない、正直で淡々とした文章がつづく。自分が書くことばを、「これでよいか」と常に確認している。(こういう文章を読むと自分のnoteの雑な書

        紫式部『源氏物語』瀬戸内寂聴訳、講談社

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        記事

          ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』友廣純訳、早川書房

          1950年代のアメリカ、ノース・カロライナ。大西洋側の湿地が多い地域が舞台だ。親兄弟に見捨てられ、粗末な家でたったひとりで生きる少女の話。と聞いていたので、さぞ暗くて重い話なのだろうと構えていた。でも読み始めると、とても面白くてスイスイ読んでしまった。(アメリカでベストセラーになる本だから読みにくいわけはないのだ。) そんな過酷な環境で育ったということは、きっと読み書きも満足にできない、半分野性の少女なのだろうと想像していたが、途中で近所の少年に読み書きを教えてもらい、つい

          ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』友廣純訳、早川書房

          バナージ&デュフロ『絶望を希望に変える経済学』村井章子訳、日本経済新聞出版

          常々不思議に思っていた。経済学という学問があるのだから、経済学者はなぜもっと景気の先行きを予測したり、経済学知識を広めて政府や経営者にもっと賢くなってもらわないのだろう。経済学者ってふだん何をしているのか知らないけど、もっと何か世の中の実際の役に立つことをすればいいのに、と。そこへこの本の題名である。「絶望を希望に変える」って、そりゃあ読みたくなるでしょう。(よく見ると原題はGood Economics for Hard Timesだったけど。) 読んでみるととても面白かっ

          バナージ&デュフロ『絶望を希望に変える経済学』村井章子訳、日本経済新聞出版

          井坂洋子『黒猫のひたい』幻戯書房

          こないだ読んだ『はじめの穴、終わりの口』が面白かったので同じ作者のエッセイをもう1冊。『はじめの穴~』よりもやや格調が高めか。こちらもよかった。特にそのテーマが多いわけではないのだが、生と死についての文章が印象に残った。 たとえば「父のステーション」。亡くなった父親が特に社交的でもなかったのに最後に、駅に行きたい、人が見たいと言っていたこと。それが叶わず、家から出棺したときにやっと外に出られたという話だが、その終わりに作者は死のイメージについて語る。 「私には幸福な死のイ

          井坂洋子『黒猫のひたい』幻戯書房

          ポール・オースター『幽霊たち』柴田元幸訳、新潮文庫

          10年以上ぶりに読むポール・オースター。『幽霊たち』は短い小説だ。若い私立探偵が謎めいた依頼を受け、ある人物を見張って定期的に報告する。でも、依頼の目的はわからないし、その人物の向かいのビルの部屋から観察するものの、彼があまりに動きがないので報告することも特にない。そんなことが長いあいだ延々と続く。 登場人物には私立探偵が「ブルー」、依頼者が「ホワイト」、謎の人物が「ブラック」などの色の名前がついているので、寓話的な話なのだとわかる。何を寓話的に表したものなのか。ブラックは

          ポール・オースター『幽霊たち』柴田元幸訳、新潮文庫

          カポーティ『ティファニーで朝食を』村上春樹訳、新潮文庫

          どんなさびれた町のどんな小さい本屋にも、必ず棚にありそうな『ティファニーで朝食を』。もちろんそんなに人気があるのはオードリー・ヘップバーン主演の映画のせいでしょう。わたしは映画はだいぶ昔に見たけれど小説はまだだった。今回ちょっと事情があって読むことになりました。映画の内容は冒頭に変な日本人が出ること以外はもう覚えていなかったから好都合。村上は、ホリーのイメージが固定されるから表紙にはヘップバーンの映画の写真を使わないでほしいと希望したらしい。たしかにヘップバーンではホリーを演

          カポーティ『ティファニーで朝食を』村上春樹訳、新潮文庫

          平松洋子『小鳥来る日』毎日新聞社

          毎日新聞の日曜版に連載されていた短いコラムを集めた本。日曜の朝にふさわしいような短めのさらりとした文章だ。(平松さんのエッセイということで期待して読むと、さらりとしすぎて物足りなく思う人もいるかもしれない。) 平松さんというと、いつも自分の芯がぶれない人で、おまけにユーモアも教養もあるというイメージだったのだが、ときには落ち込むこともあるのだなぁと(当たり前のことだが…)この本を読んで思ったりもした。書き方はどれもさらりとしているのだけど。 印象に残ったエッセイは二つ。ま

          平松洋子『小鳥来る日』毎日新聞社

          村田喜代子『ゆうじょこう』新潮社

          だいぶ前に村田喜代子の本を数冊まとめて買ったことがあった。でもこの本は買ってから後もずっと読めないでいた。理由は簡単で、文庫カバーの絵が嫌いだったから。こういう感じの内容なの? だったら読みたくないなぁと、1年以上もそのままにしていた。でもある日やっと、カバーを取って読んでみようと思いたち、そして読んでみたら面白かったのだった。 明治時代の話。硫黄島で海女をしていた少女が九州の廓に売られていく。貧しい親が金に困って娘を売るのである。少女の名はイチ。彼女が買われた廓は幸いなこ

          村田喜代子『ゆうじょこう』新潮社

          柴崎由香『待ち遠しい』毎日文庫

          相変わらずの低調な毎日。やるべきことをさぼって、その代わりどんどん本を読んでしまう。今日は初めての柴崎由香の小説。少し前にADHDについて書いたこの人の本『あらゆることは今起こる』を読んでから興味を持ったので。 舞台は大阪。ある家の母屋にゆかり(夫を亡くして東京からやってきた63歳)、その離れに以前からの間借り人の春子(恋愛に興味が持てない独身39歳)、近所にゆかりの親類にあたる沙希(ちょっとヤンキーっぽい新婚25歳)が暮らしており、この3人が特に仲が良いわけでもないが時に

          柴崎由香『待ち遠しい』毎日文庫

          アガサ・クリスティ『五匹の子豚』『葬儀を終えて』早川書房

          暑がりの人間にとっては辛い季節の到来だ。おまけに春からずっと公私ともに低調である。大きな不運に見舞われたわけではないのだが、ちょこちょことどうでもいいような不運が順番にやってくる。落ち込む、落ち込む。こんなときには面白い推理小説を読んで、しばし現実を忘れたい…..。 それで選んだのはクリスティの2冊。どちらも「知る人ぞ知る」的なクリスティの傑作らしい。『そして誰もいなくなった』とか『オリエント急行殺人事件』とか、ああいう超有名なものではなく、筋金入りのクリスティ・ファンが認

          アガサ・クリスティ『五匹の子豚』『葬儀を終えて』早川書房

          きたやまおさむ『「むなしさ」の味わい方』岩波書店

          著者名は「きたやまおさむ」という表記になっているけれど、わたしにとってこの人は「北山修」、それも「さん」付けしないではいられない人だ。フォーク・クルセーダーズが大ヒットしたときはたしか中学生だったと思う。ファンというよりも、彼は憧れの人だった。 ほかのメンバーたちは音楽の仕事をつづけたが、北山さんはしばらくして歌の世界からあっさり消えて、精神分析の道に進んだ。やっぱりエリートなんだな、と思った。ちょっとさびしかった。 それから何十年もたって、ある日加藤和彦の自殺のニュース

          きたやまおさむ『「むなしさ」の味わい方』岩波書店

          藤本和子『砂漠の教室―イスラエル通信』河出書房新社

          ブローティガンやトニ・モリスンの名訳で知られる藤本和子がイスラエルに滞在したときのエッセイ。読む前から重い本だろうとある程度は予想していた。またイスラエルが狂気のような勢いでガザ侵略をつづけているいま、イスラエルについての本を読んでどう感じるのだろうという懸念も少しあった。 この本は大きく3つのパートに分かれる。最初の部分「砂漠の教室」は藤本がヘブライ語を学ぶためにイスラエルにある学校に短期で留学したときの体験記だ。粗末なホテルに滞在しながら、昼間はそこで開かれる教室に参加

          藤本和子『砂漠の教室―イスラエル通信』河出書房新社

          カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』土屋政雄訳、早川書房

          長かったです。ほんとうに長かった……。途中で何度やめようと思ったことか。最後までなんとか読んだ自分を褒めたい。 寝る前に読む本としてこの本を枕元に持ってきたのは、あれはいつのことだったのか…(遠い目)。それから3ページ読んでは眠りに誘われ、2ページ読んではあくびをし、1ページ読んだだけで即、寝落ち。という夜がつづいた。ただでさえ寝つきの良いわたしである。その上に、この小説、なんだかわけがわからん。大昔のイギリスで、老夫婦がある日、「息子に会いに行きましょう」と旅に出るのだが

          カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』土屋政雄訳、早川書房