みも

猫好き、本好き。でも読んだ本を片っ端から忘れるので、忘れないように2021年から記録し始めました。 どれも勝手な感想ばかり。おまけにネタバレありなので未読の方はご用心ください。

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猫好き、本好き。でも読んだ本を片っ端から忘れるので、忘れないように2021年から記録し始めました。 どれも勝手な感想ばかり。おまけにネタバレありなので未読の方はご用心ください。

最近の記事

石井千湖『積ん読の本』主婦と生活社

こういう本には抵抗できなくて買ってしまう。とにかく本がたくさん写っているとそれだけでうっとり眺めてしまうのだ。ETVで定期的にやっている読書家宅を訪問する番組も大好き。自分と好みが近い人の本棚をよだれを垂らして見ている。 と言うわりには、実は自分では本はできるだけ増やしたくない。大いなる矛盾である。わたしは本に限らず物がたくさん家にある状態が嫌いなのだ。物は捨てられるだけ捨てたい。本の場合はさすがにじゃんじゃん捨てるわけにはいかない。特に仕事関係は捨ててはいけない。でも自分

    • マーガレット・アトウッド『昏き目の暗殺者』鴻巣友季子訳、早川書房

      この長編小説を読むのは実は2回め。初読はかなり前のことだったのだけど、読むにつれてだんだん思い出してきた。ある一族の歴史が年老いた主人公アイリスを語り手として語られるが、彼女の現在の様子(いつものようにアトウッドは知的な老女を描くのが本当にうまい)や彼女が振り返る過去の話が交互に出る。当時の新聞の記事が挿入される。さらにはところどころにローラの死後に発表されるハードボイルド風のフィクション『昏き目の暗殺者』が入り、そのフィクション中に男が思いつくままに様々な物語を語る。そんな

      • 和田博文編『星の文学館 ー銀河も彗星も』ちくま文庫

        短編アンソロジー『トラウマ文学館』を読んでみようかと思いながら、同じシリーズの『星の文学館』を図書館でなんとなく借りてしまった。トラウマよりも星について考えた方が精神衛生によさそうではないか。 たくさんの人の短編小説、エッセイ、詩、戯曲などが収められているが、大きく分けるて科学的なものと文学的なものがある。科学的センスのまったくないわたしは当然ながら後者をより面白く感じた。中でも印象的だったのが、寺山修司の戯曲「コメット・イケヤ」と、大江健三郎の「宇宙のへりの鷺 ー書かれな

        • 原田ひ香『口福のレシピ』小学館文庫

          前回の平松さんの本でこの作者のことを思い出して、新しいものを読んでみた。だいぶ前に読んだ『ランチ酒』は気楽に読めて料理の話も楽しかったので。 今回の本は以前のよりももっと小説らしさが増している。ひとつのレシピ(豚の生姜焼き)をめぐって、その料理が昭和初期の日本でどのように考案されたか(ある料理学校が舞台)、そして現代の働く女性(料理学校の経営者の末裔だが祖母や母に反抗している)がその料理をどのように改良していったかが、昭和と令和の話を交互に縄のように編みながらつづられる。今

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        • 文学
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        記事

          平松洋子『おんなのひとりごはん』筑摩書房

          平松さんの料理エッセイ。じゃなくてこれは一応、小説だ。短編小説集である。「一応」と断ったのは、小説の体をした料理エッセイとしか思えないから。どの話も登場人物はそれぞれ違うし、違う名前もついているけれど、少しも小説らしい手ごたえがない。料理について、食べ物屋についての蘊蓄も、いつもの平松さんのままだ。そういえば巻末にはお勧めの店がリストになっているから、小説の体をしたガイドブックということか。その中途半端さが個人的には残念な本だった。 料理や料理屋を登場させる小説というアイデ

          平松洋子『おんなのひとりごはん』筑摩書房

          デーリン・ニグリオファ『喉に棲むあるひとりの幽霊』吉田育未訳、作品社

          作者の自伝的要素が濃い小説。アイルランドなら誰でも知っている18世紀の女性アイリーン・ドブの長編詩に惹かれた主人公が、この詩を翻訳したいと思い、そのためにアイリーンの人生を調べていく。主人公は3人の子育て真っ最中の若い女性で、そのうえ4人めの子を死産しかけたり、自分の胸にしこりが見つかったりし、いい加減忙しいのに、その上に人助けもしないではいられない性分。大変な生活のなかで、必死で時間を作り出してアイリーンについて調べる。だんだんアイリーンの人生が自分の人生に重なっていく。

          デーリン・ニグリオファ『喉に棲むあるひとりの幽霊』吉田育未訳、作品社

          岸政彦『リリアン』新潮社

          『リリアン』、よかった。以前読んだ岸政彦の小説はあまり感心しなかったのだけど、これはよかった。全篇大阪弁なので、感想もつい(エセ)大阪弁になってしまいそうだが、それは悪趣味だろうから我慢して、標準語で書く。 語り手は「音楽で飯を食っている」男で、ライブハウスで演奏したり、スクールで楽器を教えたりして生活しているが、その状態にあまり満足していない。かといって、東京に出て華々しく成功したいなどとはまったく思わないタイプの男。ただ、自分の音楽が「中途半端」だと感じていて、それなの

          岸政彦『リリアン』新潮社

          小川洋子『博士の愛した数式』新潮文庫

          この小川洋子の代表作(?)を買ったのは、実は知り合いの高校生男子にプレゼントしようと思ったから。小説を読まない彼でも楽しく読めるものをと考えて買ったのだが、そういえば彼は数学好きではなかった。思い直して贈るのをやめ、本が手元に残った。そしてわたしはと言えば、映画を見ただけで読んだ気になっていたが実は未読。まったく数学好きではないのだけれどせっかくだから読むことにした。 先日、理系男性2名と飲んでいたとき、「数式の美しさ」「数学の楽しさ」を二人は目を輝かせて語り、わたしは聴い

          小川洋子『博士の愛した数式』新潮文庫

          紫式部『源氏物語』瀬戸内寂聴訳、講談社

          読み始めたのが7月の終わり。ついにきのう(9月21日)読み終わった。猛暑の日々。わたしの長い夏が終わった……。 あらためて『源氏物語』の感想を書くのはたいへん難しいけれど、まずは思いつくままに書いてみるとー ・現代語訳はいくつも出ていて、寂聴訳は読みやすいとの評判だった。が、読んでみると読みやすすぎて平板に感じた。あとで図書館でいくつか見てみたが、円地文子のが自分の好みだった。リサーチ不足。 ・表現にバリエーションはあるものの、登場人物が美しいと述べる記述が非常に多くて

          紫式部『源氏物語』瀬戸内寂聴訳、講談社

          宮崎智之『平熱のまま、この世界に熱狂したい』ちくま文庫

          実はいま源氏物語(現代語訳)を延々と読んでいて、合間にそれ以外の本も読んでいるという感じ。この本はリチさんのnoteで知って読みたいと思いました。素敵な題名だし。著者がどういう人か全然知らなかったのですが。 読み始めたときは、以前読んだ星野源のエッセイみたいだと思った。若い男性がユーモアを交えながら、日々考えていることを誠実に綴っている。アルコール依存症やらいろいろな病気や怪我、離婚のことなど。ただ、この人の場合はそういう日々の思いの中に、ごく自然に彼が読んだ本の一節が出る

          宮崎智之『平熱のまま、この世界に熱狂したい』ちくま文庫

          今村夏子『あひる』角川文庫

          表題作の「あひる」と共に、連作の「おばあちゃんの家」と「森の兄妹」が収録されている。どれもは変な話だ。変だし、不気味だし、わけのわからない不安を駆り立てられるようだった。字数が少ないせいか、行間を広く取ったレイアウト。 「あひる」はある一家の話。語り手は無職の長女で資格試験の勉強をしているが、あまり進んでいない。両親は静かに暮らしていたのだが、あるときひょんなことから、あひるを一羽もらってくる。あひるはとても可愛くて、初日から家の前を通る子どもたちの人気者になる。子どもたち

          今村夏子『あひる』角川文庫

          島田潤一郎『長い読書』みすず書房

          ひとり出版社「夏葉社」を運営する著者のエッセイ集。彼の人生と、そのときどきの本の思い出をつづったもの。少年時代、大学生時代、そして小説家を目指して苦しんだころ、ブラック企業勤務のころ、そして現在。それぞれのとき、傍には小説があって、読むものも読み方も変化していく。 全体に無理のない、静かな書きぶり。決してカッコよくない、話を盛り上げようとしない、正直で淡々とした文章がつづく。自分が書くことばを、「これでよいか」と常に確認している。(こういう文章を読むと自分のnoteの雑な書

          島田潤一郎『長い読書』みすず書房

          ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』友廣純訳、早川書房

          1950年代のアメリカ、ノース・カロライナ。大西洋側の湿地が多い地域が舞台だ。親兄弟に見捨てられ、粗末な家でたったひとりで生きる少女の話。と聞いていたので、さぞ暗くて重い話なのだろうと構えていた。でも読み始めると、とても面白くてスイスイ読んでしまった。(アメリカでベストセラーになる本だから読みにくいわけはないのだ。) そんな過酷な環境で育ったということは、きっと読み書きも満足にできない、半分野性の少女なのだろうと想像していたが、途中で近所の少年に読み書きを教えてもらい、つい

          ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』友廣純訳、早川書房

          バナージ&デュフロ『絶望を希望に変える経済学』村井章子訳、日本経済新聞出版

          常々不思議に思っていた。経済学という学問があるのだから、経済学者はなぜもっと景気の先行きを予測したり、経済学知識を広めて政府や経営者にもっと賢くなってもらわないのだろう。経済学者ってふだん何をしているのか知らないけど、もっと何か世の中の実際の役に立つことをすればいいのに、と。そこへこの本の題名である。「絶望を希望に変える」って、そりゃあ読みたくなるでしょう。(よく見ると原題はGood Economics for Hard Timesだったけど。) 読んでみるととても面白かっ

          バナージ&デュフロ『絶望を希望に変える経済学』村井章子訳、日本経済新聞出版

          井坂洋子『黒猫のひたい』幻戯書房

          こないだ読んだ『はじめの穴、終わりの口』が面白かったので同じ作者のエッセイをもう1冊。『はじめの穴~』よりもやや格調が高めか。こちらもよかった。特にそのテーマが多いわけではないのだが、生と死についての文章が印象に残った。 たとえば「父のステーション」。亡くなった父親が特に社交的でもなかったのに最後に、駅に行きたい、人が見たいと言っていたこと。それが叶わず、家から出棺したときにやっと外に出られたという話だが、その終わりに作者は死のイメージについて語る。 「私には幸福な死のイ

          井坂洋子『黒猫のひたい』幻戯書房

          ポール・オースター『幽霊たち』柴田元幸訳、新潮文庫

          10年以上ぶりに読むポール・オースター。『幽霊たち』は短い小説だ。若い私立探偵が謎めいた依頼を受け、ある人物を見張って定期的に報告する。でも、依頼の目的はわからないし、その人物の向かいのビルの部屋から観察するものの、彼があまりに動きがないので報告することも特にない。そんなことが長いあいだ延々と続く。 登場人物には私立探偵が「ブルー」、依頼者が「ホワイト」、謎の人物が「ブラック」などの色の名前がついているので、寓話的な話なのだとわかる。何を寓話的に表したものなのか。ブラックは

          ポール・オースター『幽霊たち』柴田元幸訳、新潮文庫