みも

猫好き、本好き。でも読んだ本を片っ端から忘れるので、忘れないように2021年から記録し…

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猫好き、本好き。でも読んだ本を片っ端から忘れるので、忘れないように2021年から記録し始めました。 どれも勝手な感想ばかり。おまけにネタバレありなので未読の方はご用心ください。

最近の記事

きたやまおさむ『「むなしさ」の味わい方』岩波書店

著者名は「きたやまおさむ」という表記になっているけれど、わたしにとってこの人は「北山修」、それも「さん」付けしないではいられない人だ。フォーク・クルセーダーズが大ヒットしたときはたしか中学生だったと思う。ファンというよりも、彼は憧れの人だった。 ほかのメンバーたちは音楽の仕事をつづけたが、北山さんはしばらくして歌の世界からあっさり消えて、精神分析の道に進んだ。やっぱりエリートなんだな、と思った。ちょっとさびしかった。 それから何十年もたって、ある日加藤和彦の自殺のニュース

    • 藤本和子『砂漠の教室―イスラエル通信』河出書房新社

      ブローティガンやトニ・モリスンの名訳で知られる藤本和子がイスラエルに滞在したときのエッセイ。読む前から重い本だろうとある程度は予想していた。またイスラエルが狂気のような勢いでガザ侵略をつづけているいま、イスラエルについての本を読んでどう感じるのだろうという懸念も少しあった。 この本は大きく3つのパートに分かれる。最初の部分「砂漠の教室」は藤本がヘブライ語を学ぶためにイスラエルにある学校に短期で留学したときの体験記だ。粗末なホテルに滞在しながら、昼間はそこで開かれる教室に参加

      • カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』土屋政雄訳、早川書房

        長かったです。ほんとうに長かった……。途中で何度やめようと思ったことか。最後までなんとか読んだ自分を褒めたい。 寝る前に読む本としてこの本を枕元に持ってきたのは、あれはいつのことだったのか…(遠い目)。それから3ページ読んでは眠りに誘われ、2ページ読んではあくびをし、1ページ読んだだけで即、寝落ち。という夜がつづいた。ただでさえ寝つきの良いわたしである。その上に、この小説、なんだかわけがわからん。大昔のイギリスで、老夫婦がある日、「息子に会いに行きましょう」と旅に出るのだが

        • 柴崎友香『あらゆることは今起こる』医学書院

          この題名が呪文のように響いて、これは読まなくては!と思ったのだ。実は最近、自分はADHDの気があるのではと思っていた。読んだ結果、たしかに自分にその傾向があると思った。ただし軽度であるが。 ケアを開くシリーズの1冊である。以前に読んだ『中道態の世界』もこのシリーズだった。著者のADHDは重症で、医者にかかって薬をのんでいる。 その薬、コンサータをのんだとき、「小学校の修学旅行で夜更かしして翌日眠くて、それ以来1回も目が覚めた気がしなかったんですが、今36年ぶりに目が覚めてい

        きたやまおさむ『「むなしさ」の味わい方』岩波書店

        • 藤本和子『砂漠の教室―イスラエル通信』河出書房新社

        • カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』土屋政雄訳、早川書房

        • 柴崎友香『あらゆることは今起こる』医学書院

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          リチャード・ブローティガン『西瓜糖の日々』藤本和子訳、河出文庫

          これは再読。最初に読んだときに不思議な本だと思ったという記憶しかなくて、また読んでみた。なるほど、こういう本だったか。 まず西瓜糖という語に惹かれる。英語ではwatermelon sugarのようだが、西瓜糖の方が音がさわやかでいい感じだ。とにかくこれは何もかもが西瓜糖でできている世界の話である。橋も家も窓ガラスさえ西瓜糖で出来ている。1章がひどく短くて断片的だが続いているひとつの話だ。アイデスというユートピア的なコミュニティに暮らす人たちが描かれるが、それ以前は熊の時代で

          リチャード・ブローティガン『西瓜糖の日々』藤本和子訳、河出文庫

          アリス・マンロー『イラクサ』小竹由美子訳、新潮社

          さきごろ亡くなったカナダの作家、アリス・マンローの短編小説集。短編といえどもどの小説も長編の重みがあるという世間の評判どおりで、9つの短編を一気に読むのはたいへんな作業だった。9つを1冊にまとめないで3篇ずつぐらいで出版してもらいたい気がする。それぐらいの重厚さ。 マンローは「女は家にいて家族の世話をするのが当たり前」という時代の人で、実際彼女も作家になるという夢をもちながらも結婚して主婦をしていた時期が長かった。なので結婚生活を主婦の視線で(密かな性的出来事なども織り込み

          アリス・マンロー『イラクサ』小竹由美子訳、新潮社

          井坂洋子『はじめの穴 終わりの口』幻戯書房

          詩人井坂洋子の詩はドキリとするような凄みがある。その人のエッセイはどんなだろうと思って読んだ。思ったほどは過激でなく、凡人であるわたしでも充分共感できるものだった。でもやっぱり微妙に風変りで、魅力的だ。 スタイルとしては各章でまず詩を1篇引用し、その詩から思いついたことを思いつくままに綴るという感じで、文章にはきっちりとした構成はない。冒頭の詩の解釈らしい解釈も特にはない。そういうのもいい。引用した詩も有名大詩人(たいてい男性)ではなく、井坂がほんとに好きだったり面白いと思

          井坂洋子『はじめの穴 終わりの口』幻戯書房

          クラーク『幼年期の終わり』池田真紀子訳、光文社

          ずっと気になっていた。SFの古典的傑作だというこの小説。なんで「幼年期の終わり」なのか。児童心理学みたいな不思議な題名だ。いつか読んでみないとねーと思ってはや数十年。やっと手に取ったかと思ったら、数ページ読んだあと家の中でしばらく行方不明になっていた。なかなか読めないものである。やっとベッドの隙間に発見して、今回めでたく読むことができました。 ところで、わたしはSFというジャンルにはちっとも興味がないので、(あ、もちろん『スローターハウス5』とか『夏への扉』はSFと呼ばれて

          クラーク『幼年期の終わり』池田真紀子訳、光文社

          メイ・サートン『独り居の日記』武田尚子訳、みすず書房

          ものすごーく久しぶりに読むメイ・サートン。『夢見つつ深く植えよ』がよかったことは記憶しているが、その内容はほとんど覚えていない。さらには、昔つけていた読書記録によればわたしはサートンの本をけっこう読んでいたのだ(完全に忘れていた!)。『猫の紳士の物語』、『今かくあれど』、『82歳の日記』(これは死の前年の日記)を読んでいた。今回の『独り居の日記』は著者が50代のときのものだから、順番を無視して読んでいるわけだ。 以前読んでいたときは意識していなかったが、この人は若い頃にヴァ

          メイ・サートン『独り居の日記』武田尚子訳、みすず書房

          石垣りん『詩の中の風景』中公文庫

          この本、よかったなぁ。思ったよりもずっとよかった。やっぱり石垣りんはいい。 著者が個人的に好きな詩を取り上げて、その解説、というよりも個人的な思い出を書き綴っている。取り上げる詩は秋谷豊、山崎栄治、藤原定など、詩人として現在はそれほど有名ではない人もけっこういる。派手な詩はない。難解で高尚(そう)な詩も全然ない。どれも詩人であり人間である石垣りんにとって大事な、すでに自分の血肉になった詩ばかりなのだろう。 2篇を書き写す(オリジナルは縦書き)。 「樹のしたで」  大木実

          石垣りん『詩の中の風景』中公文庫

          アガサ・クリスティ『三幕殺人事件』中村妙子訳、新潮文庫

          クリスティの推理小説は安心して読める。間違いなく面白いし、不快な描写もないから。春のせわしない気分の合間に読むにはぴったり。それに大戦間期の作品が多いから、当時のイギリスの雰囲気がよく伝わるのも魅力なのだ。 翻訳は中村妙子さん。こちらも安心して読めるけれど、「~ですわ」「~しましてよ」などの女言葉がいまとなってはかなり古めかしい。ほかの翻訳者のものも読んでみようかな。田村隆一訳とかどんなだろう。 解説によれば、クリスティの推理小説の共通点のひとつに「若い恋人たちを見守る」

          アガサ・クリスティ『三幕殺人事件』中村妙子訳、新潮文庫

          岸本佐知子ほか『「罪と罰」を読まない』文藝春秋

          著者を「ほか」としてしまったが、正確には岸本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美。この4人がある日、『罪と罰』を読まないで、それがどんな本か推理しようという変な企画を思いついた。そんなの無理でしょと思うけれど、これほど有名な小説だとまったく読まなくても、たとえば主人公はラスコーリニコフという名前だとか、ソーニャという女性が出るらしいとか、金貸しの老婆を殺す話だなど、何らかの情報が耳に入っているものだ。そこから想像を広げていく。でもやっぱり無理っぽい気がするが…。 お助けの

          岸本佐知子ほか『「罪と罰」を読まない』文藝春秋

          青山南『本は眺めたり触ったりが楽しい』筑摩書房

          久しぶりにすごく楽しいエッセイ本を読んだ。内容は、本をめぐるあれこれ。具体的な作品名もあちこちに出る。後書きによると雑誌のコラムをまとめたものらしい。十数行ごとの短い文章が並び、間に数行の空白がある。短い断章がなんとなくつながっている感じだが、この空白がとてもいい効果を出していて、「そうだよねー」と思いながら、のんびりと読み進むことができた。 本を読むスピードの話。拾い読みの効用。ダイジェストとオリジナルの関係(そもそもオリジナルとは何か)。カバーをかける人、取る人。ひとつ

          青山南『本は眺めたり触ったりが楽しい』筑摩書房

          ジョイス・キャロル・オーツ『ジャック・オブ・スペード』栩木玲子訳、河出書房新社

          品のあるホラー小説を書く作家アンドリュー・J・ラッシュには、実は心に秘めた暴力性があり、最近では家族にも黙って匿名作家「ジャック・オブ・スペード」としてもホラー小説を書いている。こちらの方は、マッチョで、品性がなく、やたらと残虐に人が殺されるのだ。あるときラッシュが近所に住む素人作家の老婆に「自分のアイディアを盗んだ」と訴えられたのをきっかけに、彼の中で「ジャック・オブ・スペード」の声が大きくなっていく…。つまりこれはジキルとハイドのような人間の二面性を描いた小説なのだ。

          ジョイス・キャロル・オーツ『ジャック・オブ・スペード』栩木玲子訳、河出書房新社

          丸谷才一『輝く日の宮』講談社

          贅沢な小説だなぁと読み終わって嘆息した。日本文学の若手研究者である主人公の安佐子と、その恋人で有能なビジネスマンの長良の恋愛が中心になっている小説だ。安佐子の研究ネタである『源氏物語』がこの恋愛にだんだん重なってくる。安佐子は紫式部に、長良は藤原道長に、さらには光源氏に…。 『源氏物語』の数々の巻の中で、かつて存在していたらしいのだが、どういうものだったかわかっていない巻、「輝く日の宮」。研究者の安佐子はこの謎の巻について大胆な主張をする。学会では権威のある学者たちから冷笑

          丸谷才一『輝く日の宮』講談社

          西加奈子『通天閣』ちくま文庫

          織田作之助賞大賞受賞とのこと。なんとなく大阪に興味があって買った本である。薄いし、バッグに入れて電車で読むのに最適だ。ところが読み始めて困った。ちっとも面白くないのだ。 二人の語り手が交互に自分の生活を綴っている。ひとりは離婚した中年男。工場で働いている。ひとりは恋人と離れてしまった若い女。水商売に片足を入れている。どちらも貧乏。そのわびしい生活がリアルに描写される。水商売の下品さ、あほらしさ。痰を吐いたり、ゲロを吐いたりまで。 ほんとに面白くないし、楽しくないので読むの

          西加奈子『通天閣』ちくま文庫