カタクリタマコ

図書館司書です。本を読んで思ったこと、考えたことなどを綴ったりしています。ベストセラー…

カタクリタマコ

図書館司書です。本を読んで思ったこと、考えたことなどを綴ったりしています。ベストセラーから遠く離れた場所で、誰かに読んでもらう日を待ちわびている。そんな片隅の本を紹介できればな、と思います。好きな作家は開高健とヘミングウェイ。みすず書房と新潮クレストのファンです。

マガジン

最近の記事

作家と恋をするということは。

古今東西、どんな人とでも恋愛関係になれるとするならば、私は絶対「開高健」がいい。 氏の書く文章の醸し出す得も言われぬ雰囲気と、ウィットに富んだ内容、ユーモアのセンス、すべてが好きだ。 しゃべり方も好きだ。唯一無二なハイトーンボイスも好きだ。 見た目も好きだ。 なによりも、氏の小説を初めて読んだときの、痺れるような感覚が忘れられない。言葉のひとつひとつが、雨粒のように私の中に浸み込んでいくようで。読み進めていくうちに、もう、彼は私の血液になった。 ああ、もう一生引きはがすこと

    • ビジネス書って、おかんの味がする。

      ふだんは専ら小説ばっかり読んでいるのだけれども、ふと、ビジネス書の棚に吸い寄せられることがある。 そういう時は、たいてい心にモヤモヤがあるときで。 ビジネス書のタイトルは、ちょっとした応援歌だ。 眺めているだけで元気がもらえる。 たとえば 『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』(草薙龍瞬 KADOKAWA) 『限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン かんき出版) 『「後回し」にしない技術』(イ・ミンギュ他 文響社)・・・。 力強いフ

      • 「光る君へ」の艶めかしい小道具、手紙。

        気が付くと、日曜日を心待ちにしている自分がいる。 今年の大河ドラマ「光る君へ」が楽しみで仕方がないのである。 文学ヲタクの自分にとって、主人公が紫式部というだけでも「要チェックや!」なのだが、もう初回から度肝を抜かれた。 いきなりの超衝撃展開。(ネタバレなので詳細は伏せます) その結果、心に影を背負うことになる主人公のまひろ(後の紫式部)。 文学を志すものは、たいてい何かしら闇を抱えているものだが、おお、まさか紫式部にこんなにハードな闇を背負わせるとは・・・。 吉高由里子

        • 本のミライのために、できること。

          スターツ出版という出版社をご存じだろうか。 透明感のある綺麗で可愛らしい表紙と、少女漫画的展開がてんこもりな小説が売りの出版社である。(たぶん。読んだことないけど) 最近だと『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が大ヒットした。 映画もかなり長いことランキングに入っていたと思う。 (たぶん。観たことないけど) むかーし昔、その昔、『恋空』というケータイ小説が流行ったが、あれの出版社でもある。 当時、私は書店員として働いていた。 そのころから、すでに出版業界はジリ貧

        作家と恋をするということは。

        マガジン

        • 私のライフラインな記事
          3本

        記事

          『推し、燃ゆ』のあのセリフって、こういうことだったんだわ。

          昨年末からずっと、鬱々として過ごしていた。 何にもやる気が起きない。 何を食っても美味しくない。 本を読んでものめり込めない。 noteに記事を書くどころか、パソコンを開くのさえ億劫。 ああああああ、私、一体どうしてしまったんでしょう。 はっ、まさかコレがうわさの更年期ってやつ???? 体調もすこぶる悪かったので、とりあえず医者に診てもらう。 丁寧な問診の結果、不眠症とのこと。 軽い睡眠導入剤を処方され、一月ほど飲み続けていた。 これがまあ、素晴らしく効く。 ベッドに入っ

          『推し、燃ゆ』のあのセリフって、こういうことだったんだわ。

          初めて読んだときのこと。

          何年も、通い続けているごはん屋さんがある。 大通りから少し内に入ったところにある、小さな四川料理屋さんだ。 そこの水餃子が、絶品なのである。 特製ラー油と黒酢がたっぷりかかった、金魚みたいに可愛らしい水餃子。 いつ食べても、何度食べても、本当に美味しい。 あんまり美味しいので、どうしても声が出てしまう。 「ほんっとうに、ここの餃子は美味しいですね!」 給仕のお姉さんは、忙しそうに動き回りながら、それに笑って応えてくれる。 こんなに美味しい餃子に出会えて、私は幸運だ。 と、思

          初めて読んだときのこと。

          クソみたいに報われない仕事について。

          しんどい。 シット・ジョブで働くってことは、とんでもなくしんどい。 まるでボクシングだ。 シット・ジョブというリングに立ったら最後、身も心も打ち砕かれる。 完膚なきまでに。 『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』(ブレイディみかこ著 KADOKAWA)は、読んでいるこちらまで真っ白に燃え尽きそうになってくる一冊だ。 シット・ジョブとは、クソみたいに報われない仕事のことをいう。 社会的ヒエラルキーがクソだったり、お給料がクソだったり(仕事のキツさに対して割に合わない)、人間関係

          クソみたいに報われない仕事について。

          ピュリツァー賞作家だろうと、書くことは難しい。

          毎年、年始の目標に 「noteを毎週更新する」 を掲げている。 それをもう三度も繰り返してきたのだが、一度も達成できずにいる。 なぜか。 書けないからだ。 どうしても。 書くことがないのではない。 書きたいことはある。 が、「書きたいように書けない」のである。 私がnoteに綴るのは、ほとんど読書感想文だ。 なので、本を読めば自動的に書きたいことは増える。 私は本を読みながらメモをつける習慣があるので、それを見返せば何かしら文章は紡げるはずなのである。 それなのに、

          ピュリツァー賞作家だろうと、書くことは難しい。

          読書は決して穏やかな趣味じゃないぜ?

          はじめまして。カタクリタマコです。 小さな町の図書館で、司書として働いています。 趣味は読書です。よろしくお願いします。 はい。ここであなたに質問。 今、あなたの頭の中に浮かんだ「カタクリタマコ」像ってどんなんですか? おそらく八割がたの人が、黒髪、メガネ、紺かグレーのセーターに黒のスカートを合わせちゃう感じな地味子で、声は小さめ。クソ真面目というか、単に頭が固くてたぶん卑屈、休みの日は家から一歩も出ない超インドア派な、イマジナリーフレンドはいっぱいの陰キャを想像したので

          読書は決して穏やかな趣味じゃないぜ?

          本を読んだら人生変わるっての、ホントだった。

          その本を読んで迎えた次の日の朝。 休日だというのに、私はいつもより一時間早くベッドから起きだした。 カーテンの隙間からのぞく空の色が、特別に青く澄んで見えたから。 私の休日は、もっぱら「丸一日パジャマでごろ寝」なのだが、今日の私はちょっと違う。 一張羅のワンピースを着込み、きちんとメイクをして、県でいちばん大きな街へ行く。 そこで開かれるお祭りに、十年ぶりに行ってみようと思ったのだ。 人混みが苦手な私にとって、お祭りに行くというのは、かなりの心づもりを要する。人と約束でもし

          本を読んだら人生変わるっての、ホントだった。

          私の中のあなた。

          20代のころ、私は毎日日記をつけていた。 当時、文章でなにかしら職を得たいと思っていたので、心の整理が5割、文章修行が5割という、フィクション臭がする日記であった。 時々、押し入れの奥からそれらを引っ張り出して読み返してみる。 「おー、あのころはこんなつまんねえことに悩んでいたのかー、若いね」 「ああ、当時は三代目にゃんこ、元気だったんだなあ」 なんて感慨とともに、私は自分が綴った文章の中にいる「あなた」の存在に赤面してしまう。 モレスキンのノートに、ブルーブラックの万年筆

          私の中のあなた。

          たぶん、誰もが楽園を探してる。

          ゴーギャンの絵を初めて目にしたのは、たぶん、小学生の時。 美術の教科書で、だったと思う。 タイトルは忘れてしまったけれど、たしか女の子の絵だった。 物憂げな瞳で、こちらをぼんやり見つめている。 その彼女の顔の暗さと、全体の色彩の淀みが、私にはとても怖かった。 お化けとか、妖怪とか、そういった類の怖さであるとともに、見てはいけないもの、いかがわしいものが持つ禍々しさがあった。 まさかそれが、彼の女神で、彼の楽園を描いたものであったなんて、当時の私が知ったらどう思っただろう。

          たぶん、誰もが楽園を探してる。

          君を取り巻くすべてをも。

          実に難解である。 そして、信じがたくもある。 メルヴィルの『白鯨』には、たいてい「難解である」との評がつく。 自分の脚を食いちぎった白鯨「モービィ・ディック」を仕留めるため、老船長エイハブは、狂ったように太平洋を駆け巡る・・・。 というのが話の筋である。 実にシンプルだ。 『白鯨』が難解と言われるのは、その語りによる。 主人公はエイハブではないし、かと言って語り手が常に一定というわけでもない。突然、作者であるメルヴィルが物語世界にしゃしゃり出てくるし、小説だと思って読み進

          君を取り巻くすべてをも。

          またやべえ作家を見つけてしまった。

          私は今、猛烈に嫉妬している。 もし、私に彼女なみの文章力があったならば、絶対ぜったいZETTAIに、私の内なる「中年男性の背中フェチ」を幻想的かつ耽美的に小説として昇華できたであろうに!!!! 私は小学生のころから、オジサンの背中が好きだった。 同級生が好きなふりをして、実はそのお父さんの背中を眺めたくて足しげく彼の家に通ったりしていた。 私をもっともゾクゾクさせるのは、30代後半から40代前半までの小太りで、しかし肩甲骨のあたりにはぜい肉ではなく適度に筋肉が浮き上がると

          またやべえ作家を見つけてしまった。

          『インド夜想曲』という白昼夢。

          旅行をするなら、なるべく「まっさらな状態」がいい。 これから訪ねる場所について、県名と、名物のひとつぐらい知ってるていどの、ぼんやりした感じでいい。 知らない街を、てきとーにぶらぶらする。 大抵、迷う。 でも、スマホがあるから私はちっとも慌てずに、むしろ優雅に、思う存分彷徨える。 住宅街のまん中に、突如行列。 おお?! 何だなんだ、隠れた名店ってやつか??? ビルの隙間に、お稲荷さん。 わわっ、ミスマッチだけどそれが良い感じ! 謎の銅像。 えっ?? だ、誰なの??? 唐

          『インド夜想曲』という白昼夢。

          指が繋ぐ。指が紡ぐ。

          先日、右手の指を骨折した。 私の利き手は右。その小指の機能を失うことは、想像以上に大変だった。 (現在進行形なのだけれども) 日常の、ほんのささいなことが、上手く出来ない。 箸が持てない。(左手で箸を持ってみて、外国人が「チョップスティック難しい」って嘆くのがよく解ったし、二本の棒でご飯が食べられるのって特殊能力なんじゃないかと思ったりする) パソコンのキーボードを打つのが激ムズ。(一文打つのに普段の五倍はかかる上に、誤字脱字だらけ) 運転も無理。お風呂も至難、猫にご飯をあ

          指が繋ぐ。指が紡ぐ。