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宝くじで高額当選したら、こういう本屋さんを開きます。絶対。

学生時代、私は「ぼっち」であった。
教室のすみっこで、一人ぼーっと本を読んでいるのが何より好きだったのだ。

本音を言えば、誰かと話したくはあった。
「聞いて聞いて、昨日さ~志賀直哉の『暗夜行路』読んだんだけど、アレ、マジで最高だったんだけど!」とか
「私の夢はさ~谷崎潤一郎の『痴人の愛』の譲治になることなんだ~。ナオミじゃなくて、ジョージの方ね。隷属したいのよ~」とか
「川端康成の『伊豆の踊子』の書き出し、神じゃね? あーゆーの書けたら死んでもいい!!!」とか。

教室のまん中に陣取っている子たちが、ドラマとか漫画とかアイドルとかを論じているのと同じように、私は文学について話したかったのだ。

しかし、まあ、そんな奴はいなかったので、私は黙っているしかなかった。
他のコトには興味がなかったうえ、もともとコミュ障でもあったので、無理に人と話さなくてもいいという結論に至った。
「読書というのは、孤独な趣味なんだ」。
そう自分に言い聞かせて、ぼっちを正当化していた。
そのくせ、妄想だけはしていたのだ。
昭和文学によく出てくる「文学サロン」、そういうものがこの世のどこかに存在していて、いつか、私もそこに行っておしゃべりするんだと。

そういう場所は、おそらくハイソでセレブな人たちが集うお洒落なところ、うーん、よくわからないけど、東京のどっかだろう。
港区? とか? 代官山? とか?
まあ、間違ってもうちの住んでるような田舎にはないだろう。

と、思い込んでいたのに。
いやあ、信じられない。田舎にあったのだ、文学サロン的本屋さんが!

『町の本屋という物語 定有堂書店の43年』
(奈良敏行 著 三砂慶明 編 作品社)
では、私がずっとずっと夢見ていた本屋さん、その始まりと終わりが綴られていた。定有堂書店があるのは、鳥取県鳥取市だ。

そこでは、人文書の知識を活かすための講座が開かれたり、読書会があったり、映画を語る会があったりする。
お勉強会というよりは、好きな本を好きなように持ち寄って、みんなでワイワイやるようなイメージだ。
子どものころの、駄菓子屋に近いかもしれない。
そこに行けば誰かしら友だちがいるし、大好きなお菓子も食べられる。

わー、こんな本屋さんがあるなんて羨ましいなあ。いいなあ。
そんな軽い気持ちで読み始めたのだが、ページを繰るうち、もう胸の高鳴りを抑えられなくなった。

すごい。本当にすごい。
本を愛するとは、こういうことを言うのだろう。
定有堂書店では、本が生きているのだ。息遣いが聞こえるのだ。
無機物じゃない。ちゃんと血が通ってる。

本は、道具だと思うのだ。
考え方を深めたり、物の見方を変えてくれたり、𠮟咤激励してくれたり。
自分の中身を磨く道具。
でも、この道具は使い方が特殊なので、多くの人は面食らう。

メイク道具と同じだ。カーラーとかブラシとか、女子力マイナスな私にはそれをどう、何に使うのかさっぱりわからない。
なので、美容部員さんにレクチャーしてもらう。

これはこういう道具で、目を大きく見せるのに使います。
これはここに塗って、鼻を高く見せるのに使います。

定有堂書店は、この美容部員さんの役割を担っているのだ。

この本は、こういう知識を授けてくれます。
この本は、こういうふうに人生に応用できます。

使い方がわかると、もっといろいろ試してみたくなる。
今度はこういうふうに使ってみようかな?
次はちょっと違うものも挑戦してみようかな?
そうやってアレコレいじくっているうちに、いつの間にか楽しくなってくる。スキになっている。
気付けばどっぷり、沼ってる。

本を読む人口が減っているとは良く聞く話だが、それは本の使い方をレクチャーしてこなかったせいじゃないかと私は思っている。
何の説明もなしに、本を手渡されて、
「はい、とりあえず読んでみて」
と、放置される。
これが、今の本をめぐる環境じゃないだろうか。
なんだかよくわからない物を手渡されて、好きになってね、なんて虫が良すぎる。というか、ほとんどの人はたぶん本をキライになる。
子どものころ、ルールを知らないまま対戦相手にさせられた将棋。私は今でも苦手を通り越して拒否反応が出てしまう。

何かを愉しむためには、チュートリアルが必要なんだと思う。
本もそう。
その役割を担う場所が身近にあったらいい。

定有堂書店は、まさにそういう場所だ。
本の使い方を教えてくれる場所だ。
一冊の本が誰かを感動させ、その誰かが別の誰かに感動を伝える場所。
人から人へ。手から手へ。本がどんどん繋がっていく場所。

ああ、本が生きているな、と思う。
本に血が通ってる。心がこもってる。

私も、こんな深い愛を持って、誰かに本を届けたい。
そういう場所を提供したい。
もし本の神さまがいらっしゃるのならお願いします。
どうか、どうか、私に宝くじで高額当選させてください!
そうしたら絶対、定有堂書店みたいな本屋さんを開きます。
絶対開きます。必ず。

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最後までお付き合いいただきありがとうございます。 新しい本との出会いのきっかけになれればいいな。