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ウィリアム・モリスの小説、読んだことある?|絵画と文学

ウィリアム・モリスの手がけたデザインが一大ブームとなって久しい。最近、100円ショップにまで《いちご泥棒》をあしらったグッズが登場していておどろいた。

モリスといえばあのテキスタイルが真っ先に思い浮かぶ方も多いと思うが、今回取り上げるのはモリスの作家としての顔である。

ウィリアム・モリスってどんな人なの?

モリスはたしかに芸術家であるが、実業家、作家などなど二足の草鞋どころではない状態で多忙な日々を送っていたのであった。

彼は「アーツ・アンド・クラフツ運動」を唱え、優れたデザインを生み出し、芸術が根付いた生活スタイルを提案した。
彼が営むモリス商会は、タペストリーやステンドグラス、壁紙などをはじめとする製品の販売で成功。
言ってみれば、《いちご泥棒》や《ひなげし》などのデザインは、現代・日本でも「アーツ・アンド・クラフツ運動」を起こしているといえる。

モリスの自宅「レッド・ハウス」は、芸術と実生活が共存する空間となっており、まさに「アーツ・アンド・クラフツ」。

そんなモリスは、実は詩人としても爆売れしていた。テニスンに次ぐ桂冠詩人にどうか!と推薦されたのに、本人は固辞したという。

私生活はというと、妻ジェーンとラファエル前派の画家ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの泥沼不倫に悩まされていた(こんな素敵なおうちに愛憎が渦巻いていたようには思えないが)。

芸術家、経営者、詩人、作家、思想家。
モリスはいろいろな顔を持つ男なのである。

モリスの小説『世界のかなたの森』

『世界のかなたの森』は1894年の作品。晶文社の訳本の在庫はすでになく...今回はメルカリで入手した。

名門の生まれの美青年ウォルターは、故郷を離れまだ見ぬ土地を目指して船出した。
迷い込んだ「世界のかなたの森」で美しい侍女と出会うが、彼女は冷酷な「女王」に支配されているという。ウォルターは「女王」の従者として仕えることになるが...

あらすじ

『世界のかなたの森』はファンタジー小説としてかたられる。冒頭には怪しい雰囲気が漂う挿絵。これもモリスの作品。

イギリスの冒険小説とファンタジー

帝国主義時代真っ只中のイギリスでは、『ロビンソン・クルーソー』や『オリバー・ツイスト』、『洞窟の女王』など、故郷から遠く離れた未開の地を探検する小説が盛んに出版された。

特に『洞窟の女王』とは、着いた先に驚くほどの美貌の女王が存在していることや、彼女がこれまた美男子の探検者に惚れ込んでしまうことなど、設定が類似している点も多かった。

しかし、『世界のかなたの森』が冒険小説かと言うと、そういう分類はなされてこなかったようで。
たしかに、船旅の困難や他民族との戦いなどのはらはらする場面よりは、随所にちりばめられている神秘的な描写のほうが印象的だ。特に草木の鮮やかな描きぶりは、おぉっ、となった。これがファンタジー小説か...と思ったり。

また、ぞっとするような、おもわず吸い寄せられてしまうような女性の魔性性(ファムファタル的な側面)を描く時、ラファエル前派の影響なのだろうか絵画的な美しさがあった。
「女王」そして「侍女」のころころと変化する表情やことば。ウォルターの見ている景色が脳内に投影されていくような感覚に、読者のほうもどんどん飲まれていくようだ。

日常をはなれ、幻想的な世界に意識を飛ばしたい方にはとってもおすすめ。いつのまにか「世界のかなたの森」に囚われているかも。

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