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#海外文学のススメ

おすすめの作品や作家、注目している国や地域を教えてください!

急上昇の記事一覧

失った煌めきを求める、物語。

題名も作者名もあらすじさえも知っているのに、読んだことのない小説。 ふだんの読書では、国内の作品を読むことが多いので、海外文学の、いわゆる"古典"と呼ばれる作品の中には、そんな小説がたくさんあります。 フィッツジェラルドの「グレート・ギャッツビー」も、その中のひとつだったのですが、myさんの記事を読んで心を惹かれ、手に取りました。 myさんの記事にコメントを送った後で思い出したのですが、わたしも二十代の頃に読もうとして、一度挫折しているのですよね。 翻訳された作品を読むと

今日の英単語(10/1) | ゴーゴリ「鼻」より。

as it happens  たまたま、偶然だが、折よく、あいにく shrug one's shoulders  肩をすくめる in a smug voice  いやに気取った声で pastry [ペイストリィ] 練り粉、生地 station oneself  配置につく be all smiles  上機嫌である tears streamed from one's eyes 涙が~の目から流れた chamois [シャミ、シャムワー] シャモア(欧州・カフカ

ハックルベリーが会いに来る(小説をめぐる冒険)

小学6年のとき、朝の読書の時間が終わって『トム・ソーヤーの冒険』を片づけていると、女子に話しかけられた。 「子供っぽいやつ読んどるんじゃね」 おせっかい焼きの島田さんだった。「それ終わったら、これも読んでみんさい」と本を渡された。 「ハックルベリー・フィンの冒険……?」 私がたどたどしく書名を読みあげると、「『トム・ソーヤー』の続編なんよ」と島田さん。「こっちは大人向けじゃけえ」 5年生のとき、島田さんと同じ図書係で『星の王子さま』をすすめられたことがあった。私が小

『カラマーゾフの兄弟』再読感想文 その8 脇役の魅力④ 「人間はだれだって必要なのよ。」 (全12回)

※これから読む方々のためになるべく物語の結末部分に触れないようにしたいと思っていますが、説明上どうしても物語の流れや途中のポイントなどネタバレしてしまうと思います。少しでもダメな人はご遠慮ください。 その8   脇役の魅力④「人間はだれだって必要なのよ。」    カラマーゾフ再読感想文。再開です。  さて今回も。  私の好きな脇役をご紹介します。  それは  マクシーモフ。  でもマクシーモフってだれ? となるかもしれませんね。  彼自身が何か事件を起こすわけで

小説にあって物語にはないもの(文字について・03)

 小説にあって物語にはないものがあります。今回は、誰が見ても明らかなもの、誰の目にでも付くものを挙げてみます。  空白と黒いページです。  読んでいて不意に現れる白い部分、真っ黒なページですから、目に付くはずです。  こうしたものは、物語にはありませんでした。あり得なかったというべきでしょう。  ここで言う物語とは、もとが口頭で語られ、長い間口頭で伝えられていたものです。口承文学とも呼ばれています。それが写本や版画の類いを経て、現在は印刷物として文字(活字)になった形

♡今日のひと言♡バーナード・ショー

バーナード・ショー(1856- 1950~アイルランド・文学者、政治家) ヴィクトリア朝時代から近代にかけて活躍、53本もの戯曲を残し、「他に類を見ない風刺に満ち、理想性と人間性を描いた作品を送り出した」として1925年にノーベル文学賞を受賞した。 代表作「ピグマリオン」(1912)は、オードリー・ヘップバーン主演の映画「マイ・フェア・レディ」の原作として知られている。

とても素敵な考え方を【800文字の短編小説 #42】

僕は文字どおり、一瞬だけその女に夢中になった。 十年前、僕がまだ十九歳のときの話だ。夏の昼下がり、僕はグラスゴーの通りを歩いていた。向かいから歩いてきた女性と思いがけずぶつかり、彼女が持っていたコーヒーが僕のTシャツにかかってしまった。 彼女は慌てて「ごめんなさい。お詫びをしなきゃ」と言った。 「でも、僕は大学に行かないと」 彼女は少し考え、鞄からペンを、財布からレシートを取り出して「じゃあ、時間があるときにここに連絡して。きちんとお詫びをしたいから」と電話番号を渡し

[西洋の古い物語]「違う葉を欲しがった木」

こんにちは。 いつもお読み下さり、ありがとうございます。 今日は、今つけているのとは違う葉を欲しがった小さな木のお話です。 ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。 画像は、今年初めて見つけたヒガンバナです。 やっと秋がきましたね。   「違う葉を欲しがった木」   森の中に小さな木がありました。お天気の良いときも嵐のときもその木はそこに立っておりました。その木は上から下まで、ふつうの形の葉ではなく、針のような葉で覆われておりました。針のような葉は鋭くてチクチクするものです

旅をすること。本を読むこと。

『グッド・フライト、グッド・シティ パイロットと巡る魅惑の都市』 (マーク・ヴァンホーナッカー 著 関根光宏 三浦生紗子 訳 早川書房)という本を読んでいて、ふと思った。 旅をすることと、本を読むことは、よく似ている。 『グッド・フライト、グッド・シティ』は、現役パイロットでもある著者が、フライトで立ち寄った都市を思い出と共に綴ったエッセイである。 そう書くと、旅行記のように思われるかもしれないが、ちょっと違う。 たしかにその趣もあるのだけれども、重きが置かれているのは

主語の問題

 このnoteのページで、何度か現在翻訳中の『7』(トリスタン・ガルシア)について触れました。  六五〇ページにおよぶ大著の翻訳もようやく最終盤に入り、残すところ七〇ページほどのところまでたどりつきました。年内には初稿を上げるつもりです。来年中に本が出るか出ないかは、編集者のタイムスケジュール次第となるでしょう。  と、こんなふうに今回の投稿を書き出したのは、じつは十一月の初旬に東京の日仏学院で催される「翻訳者養成プログラム」の担当編集者との対談企画のあとに、一時間程度の「ミ

アフロディーテ&アレース|ギリシャ神話随一の"美しすぎる"カップル

⭐ はじめに(読み飛ばしOKです)  『アモールとプシュケー』物語本編を掲載したのは6月のことでした。ありがたいことに、いまも読んで下さっている方がいるようで、ごくたまにスキをくださいます。  スキ通知を見て、あとがき&設定資料のうち、下書きに眠らせたまま放置していたこの記事を思い出したので、遅ればせながら完成?させました。  また時々、自分のホームに固定表示しておこうと思うのですが、実は〈2〉を貼りたくて。  本屋さんで品定めするとき、パラッと広げて途中を読むこと、

「モリー先生との火曜日」(2007年読書記録)と2024年の感想文

1冊目(「2007年読書記録」について)の紹介はこちら。 2007年の記録 当時の(自分の)容赦ない評に苦笑して😅、どんな本だったのか読み返してみた。 2024年の感想文読み直してみて「含蓄のある本」。 著者ミッチが、ALSで余命短いモリー先生から生き方の教えを学ぶ。 その教えの数々が、心に響く言葉。 「2007年の感想は間違いだったの?」と、思いながら読み進むとKindle進捗80%のところに、その件(くだり)が出てきたので引用する。 モリー氏は1994年8月に77

読書記録「星の王子さま」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です! 今回読んだのは、サン=テグジュペリ 河野万里子訳「星の王子さま」新潮社 (2006) です! ・あらすじ 僕が「星の王子さま」に出会ったのは、操縦していた飛行機がサハラ砂漠に不時着した時のことである。 この広大な砂漠で、僕は飛行機の修理をしなければならなかった。食糧や水はもって1週間。生きるか死ぬかの問題だった。 その時、突如として男の子から声を掛けられる。こんな人が住む場所から数千マイルも離れた場所で、「ヒツジの絵を描いてほし

Kindle Unlimitedならタダで読める!これだけは抑えておきたいロシア文学

 プーシキンの時代から現代に至るまで、ロシア文学は数々の名作を生み出してきました。  ドストエフスキーはもちろん、クラムスコイの絵画で有名なアンナ・カレーニナ(トルストイ)。彼らに最も影響を及ぼしたゴーゴリ。  オーウェルやハクスリーとならぶディストピア小説のザミャーチン。ノーベル賞のソルジェニーツィン。  あなたはどれくらいロシア作家を知っていますか?  ロシア文学……と聞くと、ロシア共産党の文化政策に依拠したヤバそうな文学だという先入観がありませんか?  いいえ、

「犬を連れた奥さん」新訳:チェーホフの傑作を再発見

この作品について アントン・チェーホフの「犬を連れた奥さん」は、人間の感情を深く掘り下げ、孤独な二人の不倫の物語を描いた感動的な作品です。ヤルタの美しい景色を背景に、愛、後悔、そして人生の意味を追い求める姿が描かれています。チェーホフの巧みな人物描写は、永遠に色あせない人間の本質についての短編作品を作り上げています。 登場人物 ドミートリイ・ドミートリッチ・グーロフ: 人生に幻滅し、思いがけず本当の愛を初めて経験する男。 アンナ・セルゲーエヴナ: 結婚しているものの、道徳的

2024年ラテン音楽トレンド:インディーズアーティストが知っておくべき最新動向と成功戦略

2024年、ラテン音楽は世界中で注目を集め、ますますその影響力を強めています。特に、リージョナル・メキシカン音楽やレゲトンといったサブジャンルが急速に成長し、若者を中心に新たなリスナー層を獲得しています。この背景には、TikTokやInstagramといったソーシャルメディアの力が大きく関わっており、ラテン音楽は多くのプラットフォームでバイラルヒットを生み出しています。インディーズアーティストにとって、こうしたラテン音楽市場の成長は新しいチャンスであり、世界に音楽を広める絶好

読書日記2024年7月16日〜8月17日

和歌山日帰り旅毎週楽しみに聞いているポッドキャスト番組があります。和歌山市の本屋さんが喋っている番組なんですが、いつか和歌山に行ってみたいなと思っていました。平日に1日空いたので思い立って行ってきました。シネマ203という席数10席ほどの映画館でヴィム・ヴェンダース監督の『アンゼルム』というひどく美しい映画を見て、グリーンコーナーという名古屋でいう寿がきやみたいな店でワンコインランチと抹茶ソフトを食べ、和歌山県立近代美術館は休館日だったので外から眺め、幸福湯で和歌山でかいた

『百年の孤独』初読感想文 前編 〜「象徴」と「止まらない流れ」と「おとぎ話」〜

※これから読む方々のためになるべく物語の結末部分に触れないようにしたいと思っていますが、説明上どうしても物語の流れや途中のポイントなどネタバレしてしまうかもしれません。少しでもダメな人はご遠慮ください。 ※ 同時に公開中の後編はネタバレ全開です。ネタバレ大丈夫な方はそちらも読んでいただけると嬉しいです。 はじめに  まずは文庫化!   嬉しいです。  次は『薔薇の名前』の文庫化を希望します!  ジョン・アーヴィングの『また会う日まで』の後の、文庫化していないもの全てと、す

輝く季節を旅する -フォークナーの小説『八月の光』の美しさ

    【水曜日は文学の日】     光あるところに影があるように、物事には、二つの対照的な側面があります。   しかし、例えば一つの小説の中で全く対照的な物語を進めることは、案外困難で、少ないように感じます。 アメリカの小説家ウィリアム・フォークナーの1932年の長篇『八月の光』は、二つの異なった物語を合わせた傑作であり、しかも、驚くべき後味のよさを持つ作品です。 物語は、リーナ・グローブという少女の話から始まります。身重の身の彼女は、お腹の子供の父親であるルーカス・バ

推し活翻訳20冊目。The Way Past Winter、勝手に邦題「ミレンカは冬をこえて」

原題:The Way Past Winter 原作者:Kiran Millwood Hargrave 勝手に邦題:ミレンカは冬をこえて   概要と感想   みな、あの冬のことをよく語る。あまりに不意に厳しい冬がやってきて、小鳥たちは枝にとまったまま凍りつき、川のしぶきは一瞬で霜となって、流れを止めた川面に、かすむ結晶のように降りそそいだ。あの冬が来て、そして、冬は終わらなかった。   3年、5年と冬が続くにつれ、人々が使う荷車はそりに代わり、美しい馬は使いものにならなくなった

ベロニカは死ぬことにした【死が差し迫る時アナタなら…】

"死ぬことにした" ってなかなか強烈なタイトルですよね。 普通に生活していると、"死"を意識することはほとんどないと思います。 "死ぬ気で頑張る" "死に物狂いで努力する" という言葉もありますが、これらで使われる"死"という単語は、もはやただの形容詞のようなものです。 最近では、ビジネス書や自己啓発本で、 ・自分がいつか必ず死ぬことを意識して今を精一杯生きよう ・明日死んだとしても後悔しないような生き方をしよう というメッセージを謳う本もあります。 それはきっと正しい

小説のなかに流れる音楽、うつる映像: "Other Voices, Other Rooms" by Truman Capote / "elephant" by Raymond Carver

 心地いい秋晴れ、乾いた空気とカエデの葉、澄んだ空気に浮かぶ月に恵まれ、読書がかなり捗る季節になった。冷房のついていない書庫もかなり過ごしやすくなってありがたい。最近読んだ本は2冊、どちらも20世紀のアメリカ文学で、ずっと忘れられなくなるような作品たちだったので記事にすることにした。一冊はTruman Capoteのデビュー作、"Other Voices, Other Rooms"。これに対するもう一冊は、Raymond Carverの遺作というべき最後の短編集"elepha

海外文学 古典コテン(一)

全く手入れをしない自分の本棚を人様にさらすなどはみっともないことと重々承知はしているのたが、常々疑問だったことを書いてみようと思い立った。常々疑問つったって自分の本棚に疑問などあるはずもなかろうと、それもまたご尤もであるが疑問なのだから仕方がない。 タイトル画像は私の本棚にある有名な海外古典作品なんであるが、さっぱり記憶にないんである。内容を覚えていないということはままあることではあるんだが、内容どころか読んだ記憶さえない。いやいや、それどころか買った記憶も、ない。買った記

『百年の孤独』初読感想文 後編 〜「英雄」と「母」と「サンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエダ」〜

※ やっぱり有料記事を無料にしました。私が好きな「サンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエダ」について、読んでいただけたらと思って。 ※ ネタバレ全開なのは変わらないので、これから読む方でネタバレダメな方はご遠慮ください。  さて。 『百年の孤独』初読感想文。後編です。  前編では、私が好きなところをたくさんお話ししました。  「冒頭の一文」とか。  「改行無し」の「淡々した語り口」が止まらないとか。  「おとぎ話的表現」の効果とか。  後編では。  予告した通り。登場人物の魅

波の中の失われた愛 -デュラス『アガタ』の魅惑

    映像と言葉とは、本来別のものです。   私たちは映像に言葉を載せて一致させる、「映画」を何の疑いもなく享受しているけど映像と言葉が切り離されたらそこに何が生まれるのか。   フランスの小説家マルグリット・デュラスが監督した一連の映画は、そうした部分を探究する大変興味深い映画です。   そして、私が好きな1981年の『アガタ』は、原作の戯曲もデュラスが監督した映画も、言葉と映像が、魅惑的な関係を結んでいます。キーワードは「愛が失われること」です。 マルグリット・デュラ

海外文学 古典コテン(二)

まぁ、この際なので勢いで(笑)。 前回はこちら。 残りを列挙してしまいましょう。 同じく右から。 何年か前に再チャレンジしたことは覚えている。 紐栞が18頁に挟まっているので、ここらへんで挫折したのだろう。 これは覚えている。再読もした。不死の薬を煽って死ねなくなった男の話。剃刀で喉をかき切るシーンは忘れられない。 SFを読みたいと思ったんだろう。 これも覚えている。 死んでしまった愛する女性を土に埋めて、その土の上に横たわる。 30を過ぎてからもう一度読み返し

【英語で読書感想文】Klara and the Sun by Kazuo Ishiguro カズオ・イシグロ『クララとお日さま』

Title: Klara and the Sun Author: Kazuo Ishiguro Klara and the Sun is Kazuo Ishiguro’s first novel in six years. I appreciate that he released the new book sooner than I expected because he is one of my absolute favorite authors but also kn

フランス詩人マックス・ジャコブの詩からポルトガルのファドを考察する

こんにちは。 「墓の魚」の作曲家です。 私達「墓の魚」は 19世紀頃の ポルトガルの漁師達の生活の中にあった 貧困への風刺や、信仰、 彼らの生活の中に打ち捨てられた 海洋生物の死骸 などを題材に作品を作り、 オリジナル作曲の ファドやカンツォーネを歌う 世にも珍しい 海洋のオーケストラです。 ポルトガルの 港町リスボンのファド(FADO)を 自作曲する事で生まれた 私達の歌う ファド・エンテーホ(Fado Enterro)は、 通常のファドよりも、 より死(メメント・モリ

文学によって人生を見直す父と娘「リーディング・リスト」レスリー・シモタカハラ著、加藤洋子訳

文学ラジオ第169回の紹介本 文学によって人生を見直す父と娘 「リーディング・リスト」 レスリー・シモタカハラ著 加藤洋子訳 北烏山編集室 パーソナリティ二人で作品の魅力やあらすじ、印象に残った点など、読後の感想を話し合っています。ぜひお聴きください! 知ったきっかけは越前敏弥さんのYouTube番組/本好き、文学好きはハマる/しっかりとした自伝小説であり文学ブックガイドでもある/著者&作品紹介/人生に重ねられる13冊のブックガイド/1900年代初めからのファミリー・ヒ

アメリカで本が消えていく?【アメリカ留学日記】#禁書ウィーク

 今、アメリカの学校から次々に本が消えています。  この状況をご存知でしょうか?  NHKの報道によると、  2022年に「禁書」となった本はなんと1835作品。  「アンネの日記」やノーベル文学賞作家の作品なども対象になったといいます。  自由の国・アメリカで一体何が行われているのでしょうか? *前回の留学日記はこちらから。 禁じられた本とは?  みなさんは、禁書という言葉を聞いたことはありますか?    オックスフォードの辞書によりますと、  と定義づけされて

汝の喉に尋ねよ【一二〇〇文字の短編小説 #21】

祖父が体験した、いかにも奇妙な話をしたい。 僕が生まれたのはグレートブリテン島のずっと北のほう──つまりは、スコットランド北端の片田舎だ──で、まさに人里離れた寒村である。ずいぶん前から時代に取り残されていて、生きること以外にすることはほとんどない。退屈極まりない場所だ。父も母もいるのに、僕は大学進学をきっかけにグラスゴーに出てきてから十五年間、一度も帰っていない。 祖父が若いころには、もう時代錯誤の場所だった。代々続く伝統が残っていて、今は断ち消えたそのしきたりによれば

ロシア文学秘話:プーシキンとゴーゴリ

 十九世紀に活躍した詩人で小説家のアレクサンドル・プーシキンはロシア文学の祖と呼ばれている文学者である。ロシア文学はプーシキンが一人で作ったものと言っていい。勿論彼と同時代にも文学者はいた。しかしそれら作家や詩人の作品はフランスやドイツものの模倣でしかなかった。プーシキンはロシア語でロシアに生きる者たちの姿を描いた最初の文学者であった。彼以降に出てきた文学者は皆プーシキンが切り開いた道を歩んで行った。それはトルストイやドストエフスキーのような世界文学の最高峰に立つ作家も例外で

ロシア文学秘話:ドストエフスキーとツルゲーネフ

 ドストエフスキーとツルゲーネフの仲が悪かったのは有名で、特にドストエフスキーは激しくツルゲーネフを憎み自作の小説で彼のスキャンダルさえ取り上げてぼろくそに貶していた。ツルゲーネフもまたドストエフスキーを軽蔑し彼の性格とその小説をロシア版サドだと言って忌み嫌っていた。  しかしこの二人は最初のうちは互いに非常に好意を持っていたのである。処女作『貧しき人々』を出した新人作家ドストエフスキーは兄への手紙でツルゲーネフが自分の作品を激賞してくれた事を綴っているが、その褒められたこ

いま借りている本。ギャレット・フレイマン=ウェア『マイ・ハートビート』、テレサ・トムリンソン『水のねこ』、アーモンド『星を数えて』『肩甲骨は翼のなごり』、オッペル『エアボーン』、ウェストール『ゴーストアビー』、メリック『だれかがドアをノックする』、ハーン『時間だよ、アンドルー』

書評。物語はこんな宇宙#07 「タタール人の砂漠」

タタール人の砂漠 著ディーノ・ブッツァーティ 訳脇功 岩波書店 しかし悲しいもので、忙しいのにも暇なことにもこの体は耐えられなかった。体は、常に一定の圧力と壊れたハンドルの遊びのような逃げを、同時に必要としていた。だが悲しいことに、そのような複雑なものを乗りこなすほど、私はさして太古から進化していなかった。私もその意味では正しく人間だった。 起こりうる物事を考えるには、真摯さが必要なのは多くの人々が認めているだろう。しかし行き過ぎた狂気としなやかな諦念を身につけ、飼い慣らす

芳香剤 流用/peter rabbit

手帳📆は電子なので持たないが 伯母がくれたので フォト洋書と飾る 瓶:余った芳香料は移し重り&飾りに 芳香料:ワセリンに混ぜ香水に 服 鞄 タオル 本 トイレロール芯へ1滴 芸能人アイドルの過激なファン 世間に一定数いるの驚く 趣味押付け 貯金 節約せず金時浪費 すべき事せずsnsに張付き 追っかけ   ピーターラビット'18~ 几帳面ハロッズ店員 グリーソン ハマり役 終始ネタでも原作 原画 尊重 湖水地方で庭仕事 絵を描き暮らす夫婦 素敵 ピーター役コーデンの主題

ロシア文学秘話:マヤコフスキーの後悔

 ロシア革命が起こり人類初の社会主義国家ソビエトが誕生してから五年以上経った。革命の熱狂はすでに去り、政府が新しく始めたネップ政策などで経済は発展しつつあった。しかしそのネップ政策の恩恵を与かったのは特定の人間だけであり、全ての人民に富は生き渡らなかった。すべての人民に平等に富を分け与えるために革命を起こしたはずであったが、その革命の成熟の結果起こったのは新たな階級制の誕生であった。富める者はますます富、貧しきものはさらに貧しくなってゆく。それは革命に参加し理想を国家を築き上

「失われた時を求めて」を巡る冒険⑨

↓を読了しました。 全14巻の後半戦へ突入です。 今作の重大なテーマのひとつである「同性愛」が出てきました。 訳者のあとがきによると、小説の舞台となっている19世紀末のフランスでは、同性愛は差別と迫害の対象だったようです。イギリスでは1886年から男性同性愛が非合法とされ、1895年に逮捕されたオスカー・ワイルドは2年間の獄中生活を余儀なくされました。 プルースト自身も公には認めていなかったようですが同性愛者で、それゆえに受けた誹謗が原因でジャン・ロランと決闘をしてい

誰にも言わない【二〇〇〇文字の短編小説 #26】

大学最後の年が近づいた夏、ティムは三人の友人たちとリヴァプールに一軒家を借りた。一カ月ほどロンドンから離れ、リヴァプールを拠点にマンチェスターやリーズ、湖水地方やマン島をめぐるためだ。移動手段にはパディの父親のキャンプ用バンが選ばれた。ティム、パディ、ギャズ、ブレットはいずれも計画性がなく、行き当たりばったりの一カ月となりそうだった。 ロンドンのエルム・パークにあるギャズの自宅前に集合した一団は、予定の九時よりちょうど一時間遅れて出発した。運転はブレットを皮切りに順番で担当

スティーヴン・キング『ジェラルドのゲーム』

ポー『大鴉』?小説の中にエドガー・アラン・ポーの『大鴉』がでてきます。キングの小説は古の名著の影響を受けていることが多く、今作もそんな不雰囲気がします。主人公のジェシー・バーリンゲームが大学時代のルームメイトであるルース・ニアリーの亡霊のようなものと頭の中で会話するところはまさしくそうでしょう。また、手錠でベットにつながれたジェシーの前に現れるスペースカウボーイの存在もその影響下にある登場人物です、存在する生物なのかもしくはジェシーの幻覚なのか謎のまま話は進みます。しかし、

手の施しようがないくらい不幸な物語なのに、読後感が爽やかってのは一体なぜなんだって話。

「他人の不幸は蜜の味」なんて言うけれど、その他人が全く知らない人だったとしたら、蜜の味なんてしないのではないだろうか。 どこかでその他人を知っていて、少なからず面白くない存在だと思っているからこそ、その人の不幸は蜜の味がするのだ。 因果応報。そう思いたいから。 もしその他人が、無辜の、善良な、毎日を一生懸命ひたむきに生きている真面目な男だったとしたら、どうだろう。 何一つ落ち度がないにも関わらず、彼の身には次から次へと不幸がのしかかってくるのだ。しかも、彼がどんなに努力をし

書いて私を発見する -ジッドの小説『狭き門』の魅力

    【水曜日は文学の日】     なぜ私たちは書くのか。勿論、人によって様々な理由があります。 しかし、書くという行為には、根本的に「信仰告白」のようなところがあって、自分が生きて信じているものを、何かの形にしたいという欲望が込められているのは、間違いありません。   フランスの小説家、アンドレ・ジッドの小説『狭き門』は、そうした信仰告白を、捻れた形で凝縮して小説にした名作であり、書かれている事柄は古くても、今とてもアクチュアルに読める作品に思えます。 語り手のジェロ

メランコリー、そして人生は続いていく【八〇〇文字の短編小説 #40】

二〇〇一年の夏、古本屋が並ぶロンドンのチャリング・クロスの街で、作家志望のジョン・ドゥーはその一冊に偶然出会った。音楽にはさして興味はないのに何気なく足を踏み入れた楽譜専門の古本屋で、ひときわ目を引いた一冊があった。 地下へ降りる階段に積み重なる本の山に『メランコリー、そして人生は続いていく』というタイトルが見えた。どう考えても楽譜には思えない。だいぶ寂しくなった白髪を後ろになでつけ、腰の折れ曲がった店主に尋ねると「仕入れた記憶はないな」と首をひねった。 百年近くも前の作

ZINEフェス吉祥寺で出会ったひとたち、なぜひとり出版社をやるか

土曜日は、雨雲出版の何度目かのイベント出店だった。 武蔵野公会堂で開催されたZINEフェス吉祥寺は、大勢の出展者と来場者でにぎわっていた。 イベント出店のたびに多くの方と交わす会話が、雨雲出版にとってもわたし自身にとっても貴重だなぁと毎回感じている。 それぞれ、アフリカに関する思いだったり、雨雲出版のキーワードで思い起こされるご自身のことだったり。そんな言葉を交わす中で、様々なひとの人生にほんの少し触れるようにも感じられるし、そこから生み出される何かがあるようにも思える。

102回目 "Raw Material" & "Mayhew" by W. S. Maugham(first published in 'Cosmopolitan' magazines in 1920s)を読む。娯楽用の短編を楽しみます。

今回の記事、私の英語理解(深読み)には異論を覚えられる方もいらっしゃるでしょうが、今回は恥を忍んで私の楽しみ方を公開してみます。面倒をいとわない方はぜひその異論をコメント欄にてお聞かせください。読みが一層深まることを願っています。 《 英語の勉強 1 》定期的に刊行されていた雑誌 "Cosmopolitan" に毎号1編ずつ公開されていたことから、Short Stories from Cosmopolitans という複数形の Cosmopolitans が使われています。

もう朝はやってこないよ

 私はスマホを手にしてから、手元でページをめくりながら読む本よりも、片手でスクロールをして文字を目にうつすことが多くなった。 万歳、現代社会。なんてすばらしい世界なんだろう。  多様な小説サイトには様々なジャンルの小説が投稿されており、そのほとんどを無料で読むことができる。たとえ作家の質がジャンルやサイトによってまちまちだったとしても、気軽に文字を読むことができるという点で私は毎日ネット小説を読んでいる。  それでも小説として書店に並んでいる本の完成度はやはり筆舌を尽くしがた

スナップ写真のように。

時々、子どものころの写真を見返してみる。 なにかの記念に撮った、かしこまった写真ではなく、「写ルンです」でいたずらに撮った、なんでもない日のスナップ写真。 庭にしゃがみこんで、土だかなんだかをこねくり回している3歳くらいの私。 畳に寝転がったまま、ガリガリ君を頬張っている7歳くらいの私。 祖母の家の台所から撮ったと思しき、木蓮の幹だけが映ってる写真。 どこかの山。 ただの青空。 りんごの包装紙だけが映ってるのもある。 そんな、日常のきれはしみたいな写真を前に、私は切り取ら

[西洋の古い物語]「真実を述べた鳩」

こんにちは。 いつもお読み下さり、ありがとうございます。 今日は、鳩と蝙蝠のお話です。 ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。 ※ 画像はフォトギャラリーからお借りしました。美しく、少し悲しげな鳩の姿に心惹かれました。ありがとうございました。   「真実を述べた鳩」 あるとき、鳩と皺の寄った小さな蝙蝠が一緒に旅に出かけました。夜が近づくと嵐がわき起こり、二羽の旅の道連れはあちらこちらと身を寄せる場所を探し求めました。しかし、鳥たちは皆巣の中でぐっすり眠っておりましたし、

なにがなんでも入手せねばならぬ

今月末から4年9か月ぶりのトルコでして、最後にかの地を離れて以降、現地で出版された関連書籍のほとんどに目を通せずにおりました。ですので、今回は予算の許す範囲で本を買うだけ買って帰国するつもりでおります。 これはまあいつも通りのことなのでよいのですが。某SNSで、ノガイ語辞典と、トゥヴァ語辞典が出版されたというおそるべき情報を得ましてね…?? こんな俺得の辞書を出版するのは、トルコ言語協会以外にありますまいな。 で、アンタトルコ語以外に普段触れるテュルク系の言語っていって

【LPP蒐集日記】足元 is 見られている

とあるコレクターの先輩に、イランやアフガニスタンの諸言語に翻訳されたLPPを販売しているウェブサイトをまた一つ最近教えていただきました。ありがてえありがてえ。持つべきはこの道に詳しい知り合いですな。 実際検索してみましたら、思わず声が出そうな言語のものが多数売られていました。これはたしかに「買い」だなと思いました。思いましたのですが、金額…金額がやばい…。 送料込み、8冊で65000円とかおっしゃってるんですけど。 ろろろろろ65000円!!!!! いや、こう見えて私