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STOP the 地球温暖化

熱く、力強く、地球温暖化について語る男がいた。
男の熱弁はまるで、当選後には何をしているんだかさっぱりわからなくなる、選挙の時だけやたらと熱く語る候補者のようだった。

突然やってきて『1枚くれぃ!』とおじちゃんは、三代続いた生粋の江戸っ子さながらの口調でそう言った。

『只今発売中のクジは、1枚100円のがございますが、それでよろしいですか?』に、おじちゃんは『おぅ!それでいいよ、1枚ね』と、人差し指を立て、その指を振っている。

70代前半くらいかな。ラフな恰好。

100円玉を置いて、1枚のクジを手にしたおじちゃんは『このクジが一等当たったらよぉ、俺は全額、地球温暖化のために寄付するから!』と言った。

『あっ、そうなんですね』

ちょっと目が血走っているようで、イカれた凄みのあるおじちゃん。へんな人かも。

でも大丈夫!!
詳しいことは書けないが、この箱のような売店は、かなりのセキュリティで守られているのだ。
そこまでしてあるの?と驚くほどで、ガラス面は特殊加工されているらしく、ちょっとやそっとでは割れることもないから、中にいれば安全だと説明されている。
通勤中も防犯ベルを持ち歩くことが義務付けられているくらい、防犯対策は徹底されている。

『あんた知ってる?温暖化で今地球がとんでもないことになってんだよ!
南極の氷なんかどんどん溶けちゃってんの!
海面が上昇しちゃうんだよ!もうすぐそれで沈んじゃう島や国があるんだよ!
今のうちになんとかしなきゃ、地球は滅んじゃうんだよ!』

『はぁ…』

おじちゃんの目つきが鋭さを増してきている。
熱を帯びた演説が長々続く。

『あんた、ク、ク、ク、クンベルちゃん知ってるだろ?』

『えっ?クンベルちゃん?』

ここで、若い男性のお客さんが来てくれてホッとする。

『そうだよ、クンベルちゃん!!知ってるだろ?
あんた知らないの?あんたクンベルちゃん知らないの?』

おっちゃんの声にイライラが混じってきた。

(クンベルちゃんてだれ???あっ!もしかして!)

『あぁ、ヨーロッパのどこかの活動家の女の子のことですか?』

『そうそうそう、そうだよ!クンベルちゃん。あの子はたいしたもんだよ〜』

(〝そう〟が多い。当たった〜、けど、あの子クンベルって名前だったっけ?最近彼女のニュースってあったかなぁ…)

おじちゃんと私の会話を聞いて、数選式クジのカードに記入している若い男性の肩が小刻みに揺れている。
笑いを堪えているのだ。

『とにかく、とにかく、一等が当たったらオレは全額寄付するからよっ』

はいはい。

やれやれだよ。


若い男性は、堪えていた笑いを吐き出すと『ボクももし一等が当たったら、地球温暖化のために寄付しますから』と言った。

『ぜひ、そうして下さいね!よろしくお願いします』と言って吹いてしまった。

(おじちゃん、仮に一等が当たったとしてよ、温暖化のための寄付って、どこに寄付するの?まったく…)

しばらくして、おじちゃんがまた来た!

ギクッ。

『さっきのクジってさぁ、抽選日はいつよ?』

『◯月◯日です!クジに書いてありますよ』

『おぅ、そうか!わかった!じゃあなっ!』
おじちゃんは勇ましく去って行った。

『ありがとうございました!』

おじちゃん、調べたよ!
クンベルちゃんではなく、グレタ・トゥーンベリちゃんね!
トゥーンベリちゃんて言いたかったのか?
せめてグレタちゃんの方で言って欲しかったよ。

あ〜 やれやれ。

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