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未来の味蕾・artworks

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現代詩作品と写真加工した作品を中心にまとめていきます。
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詩『量産型社会』

詩『量産型社会』

私を大量生産するために、わたし、は産み落とされた。わたし、でありつづけることに、息が切れる上り坂。後ろ向きに転がり落ちないように、爪先にちからを充填してゆく。両足のブレーキを踏みしめながら、ぐっとこらえる。ご機嫌ななめな爪をなだめるためのフットネイル。曲がった足の親指。外反母趾が疼く。じり、じり、汗が時計に滲んでいる。手首に革ベルトの痕跡。押し返す弾力のある肌。生きている証明の生中継(L・I・V・

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詩『砂のみちしるべ』#シロクマ文芸部

詩『砂のみちしるべ』#シロクマ文芸部

始まりはいつも砂まみれ
あしあとを拾いあつめながら
俎板の上で道標を刻んでゆく
トントントン、トントントン
生の向こうに待つ死を凝視する

指先を突いた針先
小鳥の舌のような鮮血が広がる
自転車に乗った少年が赤血球を漕ぐ
全身を循環して巡回して 
温度が上昇しているのだ

茶封筒に記憶を封入してゆく
刺身みたいな生の記憶も 
煮物みたいな熱の記憶も
受信者の箸で摘まみあげられて
時間をぐるぐる巻き

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詩『おさかなエレジー』#シロクマ文芸部

詩『おさかなエレジー』#シロクマ文芸部

桜色。はるを彩るさかな、桜鯛。花吹雪。はなびらが風に舞う。

※1

昨夜、死んだはずの桜鯛が皿の上で嗤った。俺の眼を見つめながら、喰えるものなら喰ってみろ、と啖呵を切った。売られた喧嘩は、買わなくちゃなんねえ。腕まくりして、一膳の箸を掴んだ。生きた魚は『ひとつのいのち』で、死んだ魚は『たべもの』になっちまう。いつか海水浴にいったおいらたちも、巨大な鮫に食べられちまうかもしれねえな。そんな映画もあ

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詩『春のパレットを広げよう』#シロクマ文芸部

詩『春のパレットを広げよう』#シロクマ文芸部

朧月。夜明けが足音を立てて、近づいている。風が春を孕んで、色彩を連れてくる。首元が緩んで、ぐるぐる巻きマフラーがほどけてゆく。袖口も呼吸をして、あたたかい息遣いで、肌に接吻する。衣服も着られるばかりではなく、季節とともに生きている。パフスリーブは膨らんでは萎む蒲公英の綿毛のように。



(case-A)
(x-ray、32歳女性、独身)

/朝一番に/はちみつレモンを摂取しよう/うっかり蜜蜂が

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詩『2月29日のballad』#シロクマ文芸部

詩『2月29日のballad』#シロクマ文芸部

閏年
四年に一度しか
祝ってもらえない誕生日
夏季オリンピックと同じ年の
透明な2月29日
風景に擬態して
輪郭も曖昧になってゆく

みえない年を四層に重ねて
響いているカルテット
硝子製のジグソーパズルを
未完成な心臓に嵌めこんだ
細胞の核に
地雷を隠し持っている

ふわり、
そよ風の袖に手を通す
太陽の微笑みが乱反射する
樹々が揺れながら
ハッピーバースデーを歌ってくれる
(ーーー歓声ーーー)

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詩『切手に接吻をひとつ』#シロクマ文芸部

詩『切手に接吻をひとつ』#シロクマ文芸部

布団からすこし頭を出して
微熱混じりの手紙を綴る
言葉を重ねるから
文面が透明になってゆく

吐息で眼鏡が曇る 
書けば書くほど見えなくなる
行間と行間の森に迷いこんで
ごきげんよう
あなたの分厚い玄関をノックして
ごきげんいかが?
文字を搔き分けて進む

ちいさい文字が鳥になる
眠っているひかりを摘まんで
文字の鳥に乗せてゆく
パタパタ、パタパタ、
ママが早朝から
スリッパで駆けてゆく音
やわら

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詩『鬼と茱萸(ぐみ)』#シロクマ文芸部

詩『鬼と茱萸(ぐみ)』#シロクマ文芸部

新しい空の皮膚に噛みつく
酸素が血を垂らした夕暮れ
空白の絆創膏を貼りつける
花に巻かれた消毒液の匂い
花弁はつん、と染みてくる

化膿した記憶は乾いてゆく
砂の感触が肌を舐め回して
汗の質感は蒸発していった
指の痕跡がわずかに残って
あつい火花をかくしている

その温度は確かなあしあと
爪を研いで拾い集めようか
ぺりり、と表面から剥いで
とおい郵便番号を割り振る
返送作業はなかなか捗らず
私の周

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詩『南下する季節』#シロクマ文芸部

詩『南下する季節』#シロクマ文芸部

振り返ると
部屋にゆきが降り出した
雪搔きしても追いつかない
雪雲がつきまとって来る
私が埋まってしまう

レントゲン検査を受けにいった
肺の中心に冬が降り積もっていた
身体の芯が冷えて
中心から暮れてゆく

曇っている硝子
指で文字を書く
昨日からの伝言
明日へのエール
バトンタッチしたい声
喉がくっ、と締まってくるので
レントゲン写真を雪搔きした

晩ごはんが寒々しいので
温かいお茶を淹れて

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詩『SANAGI#~#最後の日~』#シロクマ文芸部

詩『SANAGI#~#最後の日~』#シロクマ文芸部

最後の日、私がとうとう羽化するカウントダウン、2023.12.31.23:59。新年まであと一分を切った。毎年、ひとり寂しく年を跨いだ10年間の匂いと色と汗が染みついたしろい部屋。所々、壁が汚れて、凹んでいる。狭い洋式トイレの便座は、夜中にふらふらで覚醒したときに、崩れおちるように座って割れてしまった。もがき続けたもうひとりのわたし、の胎動の痕跡とその証明書。

(目覚メナサイ、時ハ満チ満チタ)

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詩『オムライス天国』#シロクマ文芸部

詩『オムライス天国』#シロクマ文芸部

ありがとう
今日、失われていった命へ



(コケコッコー)
朝一番に鶏が鳴く
朝引きされた鶏が
羽根をわさわさ毟られて
部位ごとに解体されてゆく

家畜を屠殺する現場を
知らないひとびとが増えた
スーパーでは魚や肉が
清潔なトレイに入れられて並ぶ
魚の切り身が泳ぐ絵を
ある小学生が描いたそうだ

廻る、廻る、いのち、

金色の地球儀を片手で回したら
黄色いたまごがぱかっと割れた
いのちのオムラ

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詩『瑠璃色のたまご』

詩『瑠璃色のたまご』

爽やかな薄い青空を干す
花が洗ったばかりの空を
たんまり吸い上げてゆく
移り変わる花びらのいろ
細かく千切れた雲の群れ
茎のなかから突く啄木鳥
鮮やかに焼けてゆく挨拶
赤く染まった風を羽織る

雲がのんびり、と泳いでゆく
無記名の伝言を読もうとする
羊やソフトクリームの形の雲
ゆっくり結合したり分離して
さまよっている不定形の魂よ
あおい果実の形はないかしら
匿名のリクエストを発射する
熟す未来を

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藤井風さんの花(MV)へのオマージュ詩『砂漠のはな』

藤井風さんの花(MV)へのオマージュ詩『砂漠のはな』

いつか風に吹かれて
砂漠の灰になりゆく
美しい花も美しい光も
美しい体も美しい骨も
夜の底へと沈んでゆく

命も砂も一箇所には留まらない
だから美しい
だから愛おしい
だから生きてゆく
それでも生きてゆく

砂漠の足跡はやがて消えて
強い風が吹き荒れるだろう
わたしたちは消えゆく生命
燃え上がれ暗闇のほのおよ

毎日、いのち、を上書きする
永遠の終止形は存在しないから
永遠の未然形を夢想するだろう

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詩『絆創膏のbouquet』#シロクマ文芸部

詩『絆創膏のbouquet』#シロクマ文芸部

逃げる夢
逃げ続ける夢



休憩時間
教室の片隅で
俯いて直立しているぼく
嗤っているクラスメイト
 


眠れない夜
羊を数えながら
柔らかく反発する枕に
耳をうずめて目を瞑る



 暗闇の絆創膏に光っているのは、いつかどこかで産み落とされた石垣。誰にも知られずに、ひっそりと眼鏡に皹が入って、見るものすべてに亀裂が生まれる。じゃあ、眼鏡を買い替えろ、ときみたちは言うのだらう。勿論、何度

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