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小説作品

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Amazonのkindleストアで、短編小説集を電子書籍で販売しています。「木下裕治 本」で検索すれば出てきます。クリスマスストーリー、サリンジャーや中井英夫のような短編です。宜… もっと読む
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<ラグビー及びエッセイ>『スワーブをきりながら(私とラグビーとの長い旅)』

<ラグビー及びエッセイ>『スワーブをきりながら(私とラグビーとの長い旅)』

 2024年4月4日、『スワーブをきりながら(私とラグビーとの長い旅)』というエッセイを、Amazonの電子書籍及びペーパーバックで出版しました。

 これは、私が大学時代にラグビーに出会ってから、その後社会人(国家公務員)となり、いろいろな海外で勤務をしながら、現地でラグビー、タッチフットなどをしてきたこと、そして息子の(全国大会出場経験のある)高校ラグビーの父兄としての経験など、40年にわたる

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自由律俳句(その九)『日々唯不死』

自由律俳句(その九)『日々唯不死』

無心如意(無の心を意の如くに)

〇 2023年12月、古い都営住宅をとり壊した後の更地を囲む、冷たい無機質の金属フェンスの下から、たぶん昔の住人が植えていたと思われる、紫の朝顔が花を咲かせていた。

道端に咲く朝顔に 住んでいる人の顔が見えた

瓦礫に佇む重機は 古の恐竜のように咆哮している

古いから壊す 新しく作ったものに心は住めない

〇 2023年12月、銀座の「ガスト」で飲み、さらに有

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<短編小説>ヴィヴァルディ『四季』協奏曲第4番「冬」から

<短編小説>ヴィヴァルディ『四季』協奏曲第4番「冬」から

 ヴィヴァルディの『四季』と言えば、出だしのところしか知らない人が多いと思う。同様に、ベートーヴェンの第5交響曲やチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番も出だしのところはよく知られている。またCMやドラマなどにもしばしば使われる。一方、ベートーヴェンの第9交響曲は、出だしのところではなく、最後の第4楽章(特に合唱部分)が有名だ。そこが最も盛り上がるように出来ているからだ。同様に出だしが有名なベートー

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短編小説集出版のお知らせ(宣伝です)

短編小説集出版のお知らせ(宣伝です)

 この度、Amazonのkindleストアから、電子書籍として二冊の短編小説集を出版しました。一つは、長年書き溜めてきたクリスマスストーリーから9編を選んだ『クリスマスストーリーズ』。もう一つは、J.D.サリンジャーの『ナインストーリーズ』や中井英夫の『とらんぷ譚』(特に『幻想博物館』)のような作品をイメージした、九つの短編を選んだ『九つの物語』です。

 これまで、noteでいくつかの作品を投

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<短編小説>聖母またはある女優が見た夢

<短編小説>聖母またはある女優が見た夢

 2000年11月のある満月の夜。池村桂子の所属する劇団は、20世紀末を彩る演目ととして選んだ「サロメ」の、最後のリハーサルを終えた。まだ師走までには時間はあるが、急に冷え込んできた夜の街には、どこか忙しない人の姿が多く見えた。桂子はそんな人たちの中を、まるで急流に逆らうようにして家路を急いでいた。
 
 次々と自分の進路を妨げるようにしてくる人並みを避けながら、桂子は「そういえば、去年は1999

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自由律俳句(その8)

自由律俳句(その8)

〇 2023年9月27日。酷暑の夏が終わり、久々に公園を散策する。季節的に花は少ないが、曇天の中に見える太陽が力強い。そして、トンボが飛び、鈴虫が草の中で音楽を奏でる。ふと見ると、大木の下に草花の芽が大きく出ていた。私もようやく芽が出るのか?散歩をすると、詩作が浮かぶ。不思議だ。

腰が伸びない私を 傍で見守るトンボよ お前よりは長生きしているぞ

無視すれば近寄り 探せば逃げるトンボ お前の名は

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自由律俳句(その7)

自由律俳句(その7)

〇 2023年7月14日、連日の猛暑が一休みするが、猛暑の時と同様、ひたすら眠い。そして、難解な哲学書を読んだ後は、必ず睡魔が襲ってくるのは、おそらく脳が処理可能な量を越えた情報をインプットされたためだと、妙に納得する。

朝 目が覚めたとき そこが浄土であればといつも願う

我が魂は もうこの身体に飽いている では次はどうするのだ

結局この世で得たものは なんだったのだろう 答えはでない

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<短編恋愛小説?>夏次郎の恋

<短編恋愛小説?>夏次郎の恋


はじめに

 「恋愛小説を読ませてください」というリクエストをもらったが、私には恋愛小説とか恋愛ドラマとかは、まったく苦手な世界で、苦手ということではカラオケ、ディスコ・クラブ、ポピュラー音楽のコンサート、盆踊りと同じくらい、はっきり言って「嫌い」な分野だ。

 例えば、不良の男子高校生に勉強のできる女子高校生が惹かれて、パターン化したキャラクターの同級生・教師・家族を巻き込む話、大学のサークル

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自由律俳句(その6)

自由律俳句(その6)

〇 6月7日 雨が続いたため、久しぶりに公園に行く。雨上がりのせいか、鳥の声が沢山聞こえる。

公園で迎えてくれる かまびすしい鳥の声 私はまだ死んでないよ

いつの間にか逃げなくなった鳥たちよ やっと友になれたのか

草むら入り 足を掻く そこにも命が生きていた

〇 6月12日午後3時 霧雨の中を近所のスーパーへ買い物に行く。下校途中の小学校低学年が沢山歩いている。

先になり後になり でも私

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<芸術一般・エッセイ>ナンデ君とダカラ氏との12の対話(そしてときどき、ワカッタ嬢の闖入)(後編)

<芸術一般・エッセイ>ナンデ君とダカラ氏との12の対話(そしてときどき、ワカッタ嬢の闖入)(後編)


6.ナンデ君「なんで、生き物を殺したらいけないのですか」

 ナンデ君、少しわかったような顔をしながら、今日もダカラ氏の家を訪ねてきた。

ナ「死ぬことを避けなきゃというのは、なんとなくわかったんだけど、じゃあ、今度は殺すこと、もちろん人を殺すのはいけないのはわかっているけど、他の生き物、例えばハエや蚊、そしてゴキブリとかは、普通に殺していますよね。・・・これって、どうなんだろう?」
ダ「うん、

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<芸術一般・エッセイ>ナンデ君とダカラ氏との12の対話(そしてときどき、ワカッタ嬢の闖入)(前編)

<芸術一般・エッセイ>ナンデ君とダカラ氏との12の対話(そしてときどき、ワカッタ嬢の闖入)(前編)

(前口上として)

 ある本(『日本人にとっての東洋と西洋』谷川徹三・福田定良 法政大学出版局)を読んでいたら、問答と対話とは異なるものだと説明されていた。それによれば、問答とは仏教、なかんずく禅の基本としてあり、師が弟子の問いに答えるものだそうだ。そして、この場合は、師が弟子に一方的に答えを伝え、弟子はその答えに疑問を挟んだり、さらにヘーゲルの弁証法のように、アンチテーゼ(反対となる命題)を提示

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クリスマスストーリー2020 
神の代理人 PART1

クリスマスストーリー2020  神の代理人 PART1

 太陽系第3惑星の地球では、2万年にわたって地上世界を支配した人類が、自らの時間管理として2020年と称する年になっていた。しかしこの年、人類に対して、長年にわたる感染症の猛威がより強力に振るったように見えていた。

 いや実際には、そのCOVID19と名付けられたインフルエンザウイルスの一種に対する、人類の過剰なまでの反応が、自らの首を絞めたものとして歴史に記録されることになったというのが、より

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<散文詩>「前奏曲集第1巻」

<散文詩>「前奏曲集第1巻」

 クロード・アシル・ドビュッシー作曲「前奏曲集第1巻」から,その各曲の題名と曲想をイメージした散文詩を作ってみた。これは,ドビュッシーの世界でもあり,私の世界でもある。

1.デルフィの舞姫

老夫婦は,エーゲ海の小さな島を訪れた。
デルフィという名の島だった。
二人は言葉を交わすこともなく,
島の中央に残る古代の神殿跡を目指した。

神殿跡には,
腰掛けるのにちょうどよい大理石があった。
二人は

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〈短編小説〉ある平凡なラガーマンの話

〈短編小説〉ある平凡なラガーマンの話

(はじめに)

 昔競馬好きの作家山口瞳は、いつものように府中競馬場でダービーを見たとき、スタンドにあふれる若い観客が、優勝した騎手の名を、まるで芸能人のコンサートのように大声で連呼しているのを聞き、「僕たちの競馬はもうなくなってしまった」と「男性自身」に書いた。

 競馬と競馬場は、忌避される賭博場として、反社会性と非日常の場所であった時期が長く続いた。寺山修司の競馬関係の著作を見れば、それは一

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