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夕遊の映画座

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マガジン機能の練習中。見て良かった映画の感想をまとめています。おすすめを紹介していただけると、喜び踊ります。
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2022年7月の記事一覧

ソマリア内戦であったこと。映画『モガディシュ 脱出までの14日間』韓国、2021年。

ソマリア内戦であったこと。映画『モガディシュ 脱出までの14日間』韓国、2021年。

1990年、国連加盟を目指していた韓国と北朝鮮は、アフリカでロビー活動に励みつつ、足をひっぱりあっていました。中国と同様、北朝鮮もアフリカとの関係は冷戦時期から長いものがありますが、ソマリアの首都モガディシュでは、韓国は新参組で不慣れな感じが最初のシーンから見て取れます。

でも、どちらも大使より、その下の優秀な若い部下が、策に溺れている感じも見て取れます。例えば、お金を払って韓国大使の足をひっぱ

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絡み合ったケーブルが暗示するもの。映画『最愛の子』香港・中国、2014年。

絡み合ったケーブルが暗示するもの。映画『最愛の子』香港・中国、2014年。

この映画は、2008年に誘拐された男の子が、3年後に見つかったという実話をもとにしています。深センの町中で誘拐されたポンポン(3才)。慌てて探した父親ティエンですが、警察は24時間たたないと捜査に着手できないといいます。そのせいで、ポンポンは駅から遠い場所へ連れ去られてしまいました。残されたのは、監視カメラの映像だけ。

インターネットで捜査への協力を呼びかけると、懸賞金目当ての詐欺師たちが偽の情

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メディアが煽った戦争。『帝国日本のプロパガンダ』貴志俊彦

メディアが煽った戦争。『帝国日本のプロパガンダ』貴志俊彦

『ゴールデンカムイ』に石川啄木が出てきた話のとき、ちょうど国内外の新聞に写真が載せられるようになって、部数を伸ばしていたという話がありました。かわら版や錦絵なんかは、先日の『もしも猫展』でも見ましたが、庶民の大好きな情報源。幕末から明治の前半まで結構売れて、その後、リトグラフやコロタイプ印刷なんかの技術が発展したそうです。

おかげで、日清戦争(1894-95)の時期には、錦絵がリバイバル。技術の

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年とってもイケオジってすごい。『おじいちゃんはデブゴン』香港・中国、2016年

年とってもイケオジってすごい。『おじいちゃんはデブゴン』香港・中国、2016年

サモ・ハン・キンポーは有名で、『燃えよデブゴン』も有名ですが、実は、彼の映画は全く見たことがなかった私。今回、彼が主演の映画ということで、友達と一緒に見に行ってきました。ちなみに、顔はなにかの動画で知っていました。

香港のアクションコメディ映画とかで、必ず必要なボリューミーな俳優さんです。修行時代からジャッキー・チェンと一緒。その後、ジャッキーは世界的な俳優さんになりました。でも、往年のカンフー

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彼女たちの闘い。私たちへの問い。映画『メイド・イン・バングラディシュ』フランス・バングラデシュ・デンマーク・ポルトガル、2019年。

彼女たちの闘い。私たちへの問い。映画『メイド・イン・バングラディシュ』フランス・バングラデシュ・デンマーク・ポルトガル、2019年。

「世界の工場」だった中国が経済発展したことで、中国は「世界の市場」になりました。まだまだ、電子部品とか精密機械の組立工場、例えばiPhoneなんかの組立工場は中国にありますが、利益の薄い軽工業は例えブランドでも別の国に工場が移転移転しました。

日本の無印良品やユニクロなんかも、タグをみればメイド・イン・チャイナはかなり少なくなって、東南アジアの国の名前が印刷されています。映画の舞台はバングラディ

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ホーキング博士の伝記映画『博士と彼女のセオリー』イギリス、2014年

ホーキング博士の伝記映画『博士と彼女のセオリー』イギリス、2014年

大学生のときに『ホーキング博士 宇宙を語る』を読んだはずなのに、内容すっかり忘れています。きっと、全然理解できてなかったんですね。その後、なにかのニュースでホーキング博士が離婚して、再婚したことを知りました。学者さんの離婚や結婚が世界的なニュースになるなんて、映画スターみたいだと思ったのを覚えています。

ホーキング博士の離婚と再婚、そしてまた離婚のエピソードを知っていたので、この映画のポスターの

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バレエにかける男の子の青春。映画『バレエボーイズ』ノルウェー、2014年。

バレエにかける男の子の青春。映画『バレエボーイズ』ノルウェー、2014年。

なんの予備知識もなく、ポスターをみたわけでもなく、ただ、仕事の後の心地よい疲労感の中で、タイトルだけで見ると決めた映画です。映画『ウォーターボーイズ』(矢口史靖監督、2001年)みたいな、コメディ映画と勘違いしたことは否定しません。

ところが、最初のシーンからいきなりノルウェーの中学生の男の子たちのインタビューが始まります。どの男の子もまじめに「バレエが好き!」と答えているし、家族は「勉強してく

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苦労人の元大統領がモデルの映画。『弁護人』韓国、2013年

苦労人の元大統領がモデルの映画。『弁護人』韓国、2013年

大好きなソン・ガンホの映画『弁護人』です。先日、カンヌ映画祭に出品した『ベイビーブローカー』で最優秀男優賞をとったお祝いではないですが、彼の作品を紹介したい病がになってます。名作・佳作がたくさんあるソン・ガンホですが、これもその1つ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(2003‐2008)の若い時代の話がベースの映画です。

主人公のソン・ウソクは、第二次世界大戦直後に貧しい家に生まれました。頭がよかっ

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やっぱり古書も好き。『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ・Ⅲ』三上延

やっぱり古書も好き。『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ・Ⅲ』三上延

自粛の間、ずっと中止だった古本市が、ようやくこの春からあちこちで再開されました。遠方はなかなかいけませんが、今年は初めてGWの四天王寺の古書市に行ってみました。戦前の本どころか、和綴本まで大量にあって、驚きました。神田の古書街とはまた違った趣がよかったです。

さて、一応シリーズが完結した後も、続編が続いてくれた『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ』。栞子さんと大輔の娘の扉子が登場します。コミカライズにド

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文化工作だった映画や小説やまんがやアニメ。『大東亜共栄圏のクールジャパン』大塚英志

文化工作だった映画や小説やまんがやアニメ。『大東亜共栄圏のクールジャパン』大塚英志

第二次世界大戦のときに、映画や小説が「文化工作」――作品としての価値よりも、「宣伝」としての役割を重視され、作家や監督たちもそんな時流にのって作品をつくったということは、これまでも散々言われてきたし、専門書もたくさん出ています。

でも、マンガやアニメといったサブカルチャーまで含めて、しかもプロの作家だけではなくて、たくさんのアマチュアも参加して、東南アジアや朝鮮半島、「満州」、中国向けにメディア

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コミュニケーションの手段は数学。映画『僕と世界の方程式』イギリス、2015年。

コミュニケーションの手段は数学。映画『僕と世界の方程式』イギリス、2015年。

映画の舞台はイギリス。主人公のネイサンは自閉症ですが、数学の得意な父親とは数学でコミュニケーションがとれていました。ところが、小学生のとき、ネイサンは交通事故で突然父親をなくしてしまいます。ネイサンは、父親なしでまわりの人とコミュニケーションがとれません。とくに母親とはギスギスした関係です。

ネイサンに数学の才能があると知った母親は、小学生のネイサンに特別クラスで数学を勉強させます。かつて数学オ

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生まれてきてくれて、ありがとう。映画『ベイビーブローカー』韓国、2022年

生まれてきてくれて、ありがとう。映画『ベイビーブローカー』韓国、2022年

ソン・ガンホファンの私としては、絶対に外せない映画なので、家族で見に行きました。夫もファンですし、娘にはソン・ガンホの魅力を伝えるのが母の役目です(本当?)。

この映画は、公開直前に第75回カンヌ国際映画祭で、ソン・ガンホが最優秀男優賞とエキュメニカル審査員賞の2冠をとりました。ソン・ガンホ作品に(ほぼ)ハズレはないはずだし、是枝裕和監督の映画ということもあって、普通の韓国映画の倍以上の映画館で

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