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書評

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過去にした書評のまとめです。
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世界は贈与で出来ている。資本主義の「すきま」を埋める倫理学 近内悠太

世界は贈与で出来ている。資本主義の「すきま」を埋める倫理学 近内悠太

1.要約 本書は、哲学・思想ににおける古典的なテーマである「贈与論」を現代社会を舞台に置き換えて語ったものである。贈与論が語られる時は、モース、レヴィ・ストロース、バタイユ往々にして未開社会について語られ捉えにくい事があるが、本書にそんな心配は無用であり、分かりやすく、読みやすかった。

 資本主義の基本原則は交換である。その交換原則は現代社会を覆い尽くしている。しかし、著者はそんな交換原則一辺倒

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性風俗のいびつな現場 坂爪真吾

性風俗のいびつな現場 坂爪真吾

 コロナ禍で様々な業種が営業自粛を余儀なくされている昨今、性風俗産業に補助金を給付すべきか否か、という問題が立ち上がっている。
 地上波では取り上げられにくい話題ではあるが、ネットではかなりの盛り上がりを見せている。
 この問題を誤解している人も多いので、述べておくと、風俗店舗の経営する事業者に補助金は支払われない一方で、風俗嬢には補助金の支払いの対象となっている。ゆえに一番救済されるべき困難にあ

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『「てんぷら近藤」主人のやさしく教える天ぷらのきほん』 近藤文夫

『「てんぷら近藤」主人のやさしく教える天ぷらのきほん』 近藤文夫

 昨年の秋頃、滋賀に観光に行ったとき大津プリンスホテルに宿泊した。琵琶湖の畔に建てられた地上38階建の建物から眺める景色や系列のホテルには幾度か宿泊していたこと。そして、朝飯付きて1人8千円。僕の目には魅力的に映ったわけだ。

 しかし、この大津プリンスホテルが不便な立地にあることは泊まってから気づいた。琵琶湖を眺めるロケーションは最高なのだが、周囲に食べるところがほとんど少ない。
 そのため、宿

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『サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~』鈴木智彦

『サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~』鈴木智彦

 1.前文
 徳島県県道120号線、徳島県徳島市万代町から小松島市大林町へ延びる道路であるが、元々は、国道55号であった。1996年の徳島南バイパスの全線開通に伴い、国道から県道に変更された。
 新国道55号線では、ひどい渋滞が頻発することや、徳島市から南東へ延びる道がない等の使い勝手の悪さもあり、現在でも県道120号線は生活道路として親しまれている。

 そんな地方都市によくある道路であるが、南

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『遅いインターネット』 宇野常寛

『遅いインターネット』 宇野常寛

 

 過去、宇野常寛は、サブカルチャーを通じて社会を語ってきた。彼の代表作『ゼロ年代の想像力』や『リトル・ピープルの時代』はもちろん、全ての作品がそうである。
 しかし、今回は違う。編集の箕輪厚介がサブカルチャーで社会を語ることを禁止したのだ。

 さて、宇野はどのようにして新しい言葉で語るのか。著者を追い続けている僕にとっては非常に興味深い一冊である。

 
 宇野常寛が語る、「セカイ」ではな

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『炎の牛肉教室』 山本謙治

『炎の牛肉教室』 山本謙治



 
 僕の熟成肉への強い憧れは3年前に見た『カンブリア宮殿(テレ東)』のせいなのだと思う。

 もっと具体的に言えば、2017年3月16日放送の『熟成技術で絶品肉を作り出す肉おじさん!田舎の畜産農家を救う牛肉革命』

https://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/smp/backnumber/2017/0316/

 この回のせいだ。

 そこに出演していたのは、株式会

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『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』速水健朗

『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』速水健朗



 1.要約『本書はショッピングモールを通して、最終的には都市のことを考えたいと思っています』Kindle版39頁

 地方都市の画一化、商店街VSショッピングモール、アメリカの外圧による大規模小売店舗法の制定。ショッピングモールが語られる時、大抵の場合、以上の論点が挙げられる。
 このような手垢のついた議論は、お茶を濁したものか、時代に逆行する実現不可能な結論しか生み出さない。同じ話を延々と繰

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『ラーメンと愛国』 速水健朗

『ラーメンと愛国』 速水健朗



 もう10年近く前に読んだ本だ。読んだ時の感想は覚えているのだが、面白い仕掛けの本だなあ、という感想だった。

 昔読んだ本のレビューを意味もなく眺めることが最近の日課なので、いつものごとく、本書の感想やらレビューを検索した。
 読書メーターやらAmazonレビューやらを見て、愕然とした。
 この本の真意が全く理解されていなかったのだ。読書メーターには約250件近くレビューがある一方で、この本

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『女帝 小池百合子』 石井妙子

『女帝 小池百合子』 石井妙子

 2020年5月に発売された本書は、現在では売上は30万部を超え、政治系の本としては異例のベストセラーとなっている。
 もちろんこれは、同年7月に行われる東京都知事選挙を見越しての発売という文藝春秋の販売戦略の巧みさによるところは大きい。
 しかし、そのような販売戦略を取られなくても、本書は話題の1冊になっていたことは間違いないだろう。
 
 『小池百合子』という記号

 この記号を大きくしたのは

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『小池百合子 権力に憑かれた女 ドキュメント東京都知事の1400日』 和田泰明

『小池百合子 権力に憑かれた女 ドキュメント東京都知事の1400日』 和田泰明



【前文】 為政者という立場である以上批判はつきものである

 『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』横田一

 『女帝 小池百合子』石井妙子

 『小池百合子 権力に憑かれた女 ドキュメント東京都知事の1400日』和田泰

 2020年に出版された小池百合子に関する本は強烈だ。タイトルで好意的でないことがわかる。

 『女帝 小池百合子』は、小池百合子の凄まじい権力欲と、虚飾の経歴を克明に描いた傑作

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『前祝いの法則: 日本古来最強の引き寄せ予祝のススメ』ひすいこたろう 大嶋啓介

『前祝いの法則: 日本古来最強の引き寄せ予祝のススメ』ひすいこたろう 大嶋啓介

 「アヤコ🍼“元気“を味付けするエッセイスト」さんから依頼があったため、書評しました。
 どなたからでも書評依頼受け付けているので応募していただけたらと思います。

 さて、今回書評するのは『前祝いの法則: 日本古来最強の引き寄せ予祝のススメ』です。

 
 前祝いの法則、引き寄せ、予祝。

 聞き慣れない言葉が並んでいますが、一体どんな意味なのか。
 読んでいきましょう。

【要約】

 冒頭

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『ブラック霞が関』 千正康裕

『ブラック霞が関』 千正康裕

【前文】 

 以下は繁忙期の財務省主計局でされている会話だ。

 『「ゆうべはオークラですか?」と尋ねると
  「僕は帰ったけど泊まったやつもいる。今夜は長いよ。」』
 【庁舎地下のホテル「オークラ」】毎日新聞2020年12月8日朝刊8面

 オークラといえば、港区虎ノ門にある41階建ての高級ホテル『ホテルオークラ』を普通思い浮かべる。

 が、官僚の言うオークラは、それとは違う。

 オークラ

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『元プロボクサーが発案 売れる営業に変わる37のトレーニング』西野龍三

『元プロボクサーが発案 売れる営業に変わる37のトレーニング』西野龍三

 
 依頼があったため、書評させてもらいました。

 どなたからでも書評依頼受け付けているので御依頼していただけたらと思います。

 さて、今回書評するのは、西野龍三さんの『元プロボクサーが発案 売れる営業に変わる37のトレーニング』です。

 僕自身は、営業のみを専門にやっているわけではないのですが、どういう内容か気になります。

 読んでいきましょう。

【解説】
『本書では、対戦相手と直接や

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『宗教化する現代思想』仲正昌樹

『宗教化する現代思想』仲正昌樹



【まえがき】

 現代思想を好む読者を敵に回しそうな、センセーショナルな表題だ。

 筆者は現代思想界隈では、初学者向けの解説本を多数出版している(『集中講義!日本の現代思想――ポストモダンとは何だったのか』、『今こそアーレントを読み直す』及び『プラグマティズム入門講義』等)ことで有名であり、現代思想を批判する立場というよりは、むしろ現代思想そのものを養護する立場である。

 不思議なタイトル

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