病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈39〉

 グランの証言によれば、コタールは「何かしら心にとがめることのある人」だということである。事実コタールにはたしかに「心にとがめる」事情があった。そしてその事情がさらに、彼の精神をいびつなものにしていく悪循環に至らせていたのだった。

 まずは少し、グランによるコタールの人物像の描写を見てみよう。
 コタールは、「表向きは、酒とリキュール類の代理販売業者となっていた」という。彼の元へ「たまに、顧客ら

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈38〉

 コタールのように、ペストに乗じて個人的な欲望を果たそうという「小悪党」は登場しても、なぜかこの『ペスト』という作品には、病禍とともに本当に町を全滅させてしまおうなどというような、悪魔的な発想をする者は現われてはこない。もちろん、そういう意図をもって何らかの行動を実際に起こすまでには到らなくても、「世界は滅びよ、たとえ正義はなされずとも」くらいのことをちょっと口に出してみるとか、あるいは頭の中でふ

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現代哲学による「正しい歴史認識」入門

はじめに

 「正しい歴史認識」この言葉はこの数十年のトピックであり続けた古くて新しい時事問題です。

 2021年4月現在の状況では2020年より更にニュースがフェイクニュース化しもはやニュースというものを信じられない状況になりました。

 これはとても面白い状況です。

 更に現代思想の考え方にぴったり合う考え方です。

 現代哲学をベースとする現代思想ではもともとニュースだけでなく文字通り全

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現代哲学における大人の倫理・道徳入門

はじめに

 
「倫理」は狭い意味では正しい生き方、広い意味では人の思いなしを意味します。

後者は「倫理」という言葉を現代哲学など新しい考え方を取り入れてより厳密にしたもので「倫理学」という人文科学の分野や高校の社会科の倫理など学問的に抽象化した場合の使い方であり、普通「倫理」と言えば狭い意味での「人として正しい生き方の理」を指します。

一方「道徳」という言葉は行動に関する倫理です。

「道徳

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈37〉

 自分がいかにして世の中の役に立つのかよりも、逆に世の中の方がどれほど自分のために役に立ってくれるものなのかということを、何よりもまず念頭に置く。そういった考えを持つ者というのは、実際の世の中においても少なからずいるはずであろう。むしろ「普通の人々」というのは、まずはそのような世間と自分との間にある利害の関係性について、当然自分の方に多く利があるよう算段をめぐらせるものなのではないだろうか。
 し

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わからない日本の姿

理(り、Lĭ)とは、中国哲学の概念。 「地理」「肌理(きり)」(はだのきめ)などのように、ひろく事物のすじ目も意味するようになる。 それが抽象化され、秩序、理法、道理などの意に使われるようになった。

儒教においても

儒教は、五常(仁、義、礼、智、信)という徳性を拡充することにより五倫(父子、君臣、夫婦、長幼、朋友)関係を維持することを教える。

と、日本人の思想の源流にあるのは、中国哲学からの

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ロクス・ソルス=人里はなれた場所(古典ラテン語)
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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈35〉

 自身による二度目の説教会から数日後、パヌルー神父の身体に異変が生じた。
 下宿先のベッドに臥せった彼は、家主の老婦人が心配して「医者を呼ぼうか」と問いかけても、頑としてそれに応じなかった。老婦人は、この下宿人がとりとめもない弁明を付け加えつつ、それでもなおはっきりと医師を拒み続けているのは、どうやら「彼の主義と一致しないからだ」ということを察しよく理解してはいたのだったが、きっとそれは熱に浮かさ

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈34〉

 オトン少年の死は、パヌルー神父の内面に対しても確かな影響を与える出来事となった。
 少年の死が確認された直後、それに引き続いて交わされた対話があって、またさらにしばらく経ったある日、彼は自身が現在執筆しているという一つの論文についてリウーに語った。そのテーマを相手が尋ねると、それは「司祭が医師に診察を受けることの是非について」だというように、少し冗談めかしてパヌルーは答えるのだった。
 パヌルー

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「現代思想」買ってみた。哲学勉強しよ。

「現代思想」って知ってますか。

私は全く知らなかったんですけど、多分、哲学者のコラムやら対談やらが掲載される、月刊誌なんでしょうね。(適当)

その現代思想を買ってみました。

今見てみると、2019年11月号でした。びっくり。

何故買ったのかと言うと。

「仕事を辞めるな」と捲し立てた友達に、「勉強しなよ」と言われ、「確かに、勉強してもいいな」と思ったんですね。

勉強自体は嫌いじゃない。

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病と戦のあいだには−−カミュ『ペスト』論考−−〈33〉

 リウーのパヌルー神父に対する反発と敵愾心は、オトン判事の息子がペストによって死に至る場面において、そのピークに達する。
 老医師カステルの手によって完成された血清は、そのときすでに「もはや絶望的なほどに重篤な状態」と診断されていたオトン少年に、ある意味「実験的」に投与されることとなった。一方でリウーは、内心この血清投与に、この行き詰まった状況を打開する最後の希望を託していた。
 しかし、投与を終

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