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本や映画のおはなし

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大好きな本や映画、作品にまつわる「人」のお話。
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#韓国文学

祝!本屋大賞を受賞した韓国小説と作家たち

祝!本屋大賞を受賞した韓国小説と作家たち

 ポッドキャスト第41回、配信しました。

 今回は先日発表された「本屋大賞」の翻訳小説部門で、韓国の小説が1位と3位に選ばれたというニュースを受けて、私が最近読んだ小説『不便なコンビニ』や『アーモンド』にまつわるお話をしています。今回大賞を受賞された『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』については、過去の配信やnoteの記事をご参照ください。

 作家さんたちがどういう場所や環境で作品を生み出しているの

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韓国小説 『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』に救われた年末年始

韓国小説 『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』に救われた年末年始

流行りに乗り遅れるタイプの私は、ここ数年話題になった韓国のドラマや映画、小説、エッセイなどをたぶん、ほとんど観たり読んだりしていない。流行れば流行るほど関心が失せていくというか、「こんなに注目されてるんだから今はいっか」という気持ちになってしまうのだ。何十万部売れた、芸能人の誰々が紹介していた、というお決まりのフレーズにも残念ながらあまり心ひかれない。

それよりも、書店や図書館に出向いて、宝探し

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人生を変えた「ソウル国際図書展」へ。おすすめ韓国小説も

人生を変えた「ソウル国際図書展」へ。おすすめ韓国小説も

 先日、8年ぶりにソウル国際図書展(以下、ブックフェア)へ行ってきました。場所は江南に位置する総合展示場、COEX。後日新聞記事で、国内外36か国、530の出版社が参加し、5日間で約13万人が訪れていたと知りました。

 私が行ったのは最終日、かつ日曜日ということもあってか、10時にオープンする前から行列ができ、会場は人、人、人で溢れかえっていました。

 このブックフェアとは、読者と作家、出版社

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一冊の書に歴史あり  『書籍修繕という仕事(어느 책 수선가의 기록)』

一冊の書に歴史あり 『書籍修繕という仕事(어느 책 수선가의 기록)』

 私は幼い頃から本が好きで、書店や図書館のように本がたくさんある場所も大好きです。これまでいろんな土地で暮らしてきましたが、どこに行っても私のそばにはいつも本がありました。

 こう書くと、「文学少女」や「本の虫」といった印象をもたれるかもしれませんが、実際はちょっと違います。書棚に並んだ本の背表紙をただ眺めているだけの日もあるし、本を開いたとたんに眠ってしまう日も多いし、かばんの中に本を入れたま

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韓国語の長編小説を初めて最後まで読みきった。チェ•ウニョン(최은영)作家の『明るい夜(밝은 밤)』。女性4世代の歴史を行ったり来たりしながら進む物語。家族や縁深い人との間にある絆や刺、親しみと羨望、理解のできなさと許しなどが繊細に書かれており、著者の過去2作と通じるものを感じた。

徳寿宮美術館のパク•スグン特別展へ

徳寿宮美術館のパク•スグン特別展へ

 この秋、江原道の楊口という土地を訪れたことがきっかけで、私は初めて韓国の画家、パク・スグンに出会った。

 楊口から戻ってすぐ、ソウル市庁の隣にある徳寿宮美術館(国立現代美術館)で、3月初旬までパク・スグンの特別展が開かれていると知った。「これは絶対観に行かなくちゃ」と心に決めていたものの、日増しに増える感染者数や、変異株オミクロンの登場により、美術館訪問どころではない状況に…。

 そんな中、

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映画『アジアの天使』が導いてくれた出会い

映画『アジアの天使』が導いてくれた出会い

 札幌で過ごした学生時代から、韓国に移住するまでの十数年。私の趣味は「映画館で映画を観ること」だった。ところが、韓国で妊娠・出産・育児を経験してきたこの4年。映画館にはたった3回しか足を運ぶことができなかった。

 最後に出かけたのは2年前だ。当時1歳になったばかりの息子を産後初めて夫に任せ、一人で韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』を観に行った。

 物語の中盤、私の目から涙がこぼれ落ちそうに

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あの日の私がここにいた。短編小説集『ショウコの微笑』

あの日の私がここにいた。短編小説集『ショウコの微笑』

 冬のある朝、夢の中で「ショウコの微笑」という言葉が何度も登場したことがあった。目覚めた後、夢の詳細はすっかり忘れてしまったのに、その言葉だけがはっきりと、頭の中でぬくもりを放っていた。

 布団の中でスマートフォンを手に取り、早速調べてみると、それは韓国の作家が書いた小説のタイトルだった。チェ・ウニョン著『ショウコの微笑』。

 「ああ、なんだ。本の名前か」とすっきりしたところで身体を起こし、何

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チョ•ナムジュ著『彼女の名前は』

チョ•ナムジュ著『彼女の名前は』

 先日、韓国の短編小説集『彼女の名前は』を読み終えた。『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者、チョ・ナムジュが韓国で2018年に発表した作品で、2020年に日本でも翻訳出版されている。

 9〜69歳まで60人余りの女性に話を聞いた著者が、2017年の1年間、新聞や雑誌にフィクションやエッセイを連載。それを再構成し、28編の小説集としてまとめた1冊だ。1つひとつの話はとても短く、読みやすい。でも、そ

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『82年生まれ、キム・ジヨン』を語る① 義母と私と母の物語

『82年生まれ、キム・ジヨン』を語る① 義母と私と母の物語

 50年生まれの義母 数か月前、ソウルから車で2時間ほど離れた田舎町にある夫の実家を訪ねた時、義母がこんな話を始めたことがあった。その時私は台所に立ち、義母と一緒に昼食用のチャプチェ(韓国春雨と肉や野菜を甘辛く炒めたもの)を作っていた。

「結婚して国民学校(小学校)の教師を辞めた時、お父さんがソウルで会社に勤めていたんだけど、息子が生まれて1年経った頃、突然、実家に帰って酪農をしようと言いだして

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