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毎日読書メモ

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額賀澪『タスキ彼方』(毎日読書メモ(532))

額賀澪『タスキ彼方』(毎日読書メモ(532))

額賀澪『タスキ彼方』(小学館)読了。令和5年~6年と、昭和15年~23年の箱根駅伝を中心とした物語が交互に語られ、2つの時代が繋ぎ合わされる物語。

額賀澪の箱根駅伝小説と言えば、『タスキメシ』、『タスキメシ箱根』(共に小学館)を思い出す。『タスキメシ』は管理栄養学を学ぶ学生が食というアプローチから箱根駅伝をサポートする物語だったが、今回の『タスキ彼方』は、その続編でもスピンオフでもない、独立した

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三浦しをん『墨のゆらめき』(毎日読書メモ(531))

三浦しをん『墨のゆらめき』(毎日読書メモ(531))

三浦しをん『墨のゆらめき』(新潮社)を読んだ。すっかり職業小説の達人となった三浦しをん、今回の職業はホテルマンと書道家である。
筆耕、という言葉を知ったのは、社会人になって数年目、陶磁器の展示会を開催するにあたって、展示品の品名を和紙の札に筆耕士さんに書いてもらうよう依頼したときだった。その時に、結婚式の招待状や席札などを書いているのも筆耕士さんであることを知った。更にリアルに筆耕士の仕事を感じた

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吉村昭『漂流』(毎日読書メモ(530))

吉村昭『漂流』(毎日読書メモ(530))

ちょっと遠出をするときに、道中の読書用の本、何冊も持っていけないから、と、父の本棚から取ってきた、吉村昭『漂流』(新潮文庫)を荷物に入れて行った。大正解。物語世界にぐっと引き込まれ、眠気もきざさず、途中で寝過ごしたりする心配もなく、手に汗握りつつ読み進める。
家に帰って、面白さを家人にとうとうと語っていたら、「君はこういう、極限状態にいる人が、どうやってその運命から脱出しようとする小説が好きなんだ

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井上荒野『照子と瑠衣』(毎日読書メモ(529))

井上荒野『照子と瑠衣』(毎日読書メモ(529))

年を経てきた女性たちの小説、江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』で堪能して、続けて井上荒野『照子と瑠衣』(祥文社)で更にワクワクする。『シェニール織とか黄肉のメロンとか』の登場人物たちが57歳くらい、照子と瑠衣は当年とって70歳!
照子と瑠衣、語感だけでもイメージできるように、ふたりの名前はリドリー・スコットの映画「テルマ&ルイーズ」から来ている。って、わたし見てないのですが、逃避行をする

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江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』(毎日読書メモ(528))

江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』(毎日読書メモ(528))

江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』(角川春樹事務所)を読んだ。色んな書評で好意的なコメントを見た作品で楽しみにしていたが、なるほど、年をとっていくことを肯定的に作品に反映させる、一つの試みだ、と感心する。

作家の民子、大学時代の同級生で、最近イギリスから帰国して来たばかりの理枝、専業主婦の早希。たまたま出席番号が隣り合わせで、一緒にいる機会が多かったことから「三人娘」などと呼ばれていた

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安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(毎日読書メモ(527))

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(毎日読書メモ(527))

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(集英社)を読んだ。昨年(2023年)の本屋大賞第2位(1位は凪良ゆう『汝、星の如し』)。チェロが重要な役割を果たすと聞いていて気になって、買ったまま1年間積ん読してしまったが、ようやく読めた。

子どもの頃、習っていたチェロを、ある事件をきっかけに失い、なんとなく屈折した育ち方をした主人公橘樹。全日本音楽著作権連盟という会社に就職した樹は、社内の派閥抗争のとばっ

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畑中幸子『南太平洋の環礁にて』(毎日読書メモ(526))

畑中幸子『南太平洋の環礁にて』(毎日読書メモ(526))

先日、友人の勧めで有吉佐和子『女二人のニューギニア』(河出文庫)を読んだのだが(感想ここ)、その際に有吉が寄宿した(寄宿なのか?)文化人類学者が畑中幸子さん。有吉と同い年だが存命、現在93歳。中部大学名誉教授。
有吉がニューギニアの畑中の家に滞在したのは1968年だが、元々畑中の研究テーマはオセアニア研究で、1961年から64年にかけて、実地調査を行ってきた島々の中で一番長く滞在した、フランス領ポ

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米澤穂信『可燃物』(毎日読書メモ(525))

米澤穂信『可燃物』(毎日読書メモ(525))

米澤穂信『可燃物』(文藝春秋)を読んだ。「オール讀物」に連載された、群馬県警の警部葛を主人公とした連作短編。主人公、といっても、葛の人間ドラマが主題ではない。逆に、単行本化する際に、雑誌掲載時には若干含まれていた葛の心情的な描写を意図的に削ったとのこと。
群馬県内で起こったさまざまな事件に葛がどうアプローチし、ぱっと見判然としない真相をどう明らかにしていったかが描かれる。
警察なので、被疑者を逮捕

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恩田陸『夜果つるところ』『鈍色幻視行』(毎日読書メモ(524))

恩田陸『夜果つるところ』『鈍色幻視行』(毎日読書メモ(524))

恩田陸『夜果つるところ』『鈍色幻視行』(集英社)を続けて読む。というか、この2作は、関連を持って書かれているので続けて読まなくてはならない。たまたま『夜果つるところ』を先に読んだが、正解だった。『鈍色幻視行』の中でネタバレされちゃうので。ただし、『鈍色幻視行』を先に読んじゃっていても、テキストが膨大すぎるので、ネタバレの部分を読みながらスルーしちゃっていて、気づかない可能性もあるか、そんなボーっと

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村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会

村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会

2024年3月1日、早稲田大学大隈記念講堂で開催された、「早稲田大学国際文学館主催 村上春樹ライブラリー募金イベント Authors Alive!~作家に会おう~特別編 『村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会』に行ってきた。

イベントの開催について友達が教えてくれて、速攻申し込み。というか、詳細を知らないままサイトにアクセスしたら、早稲田大学国際文学館 村上春樹ライブラリーへ寄付して、その返

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『わたしのなつかしい一冊』から、『オオカミに冬なし』、そして『時の旅人』へ(毎日読書メモ(523))

『わたしのなつかしい一冊』から、『オオカミに冬なし』、そして『時の旅人』へ(毎日読書メモ(523))

池澤夏樹・編 寄藤文平・絵の『わたしのなつかしい一冊』(毎日新聞出版)、先にシリーズ3冊目の『みんなのなつかしい一冊』を読んでいたのだが(感想ここ)、1冊目に戻ってきた。毎日新聞に毎週土曜日に連載されている「今週の本棚」という企画をまとめたもので、それぞれの本に50冊の「なつかしい本」が紹介されている。

『わたしのなつかしい一冊』で取り上げられた50冊のうち、読んだことがあったのは15冊。そして

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桐野夏生『もっと悪い妻』(毎日読書メモ(522))

桐野夏生『もっと悪い妻』(毎日読書メモ(522))

桐野夏生が昨年6月に刊行した『もっと悪い妻』(文藝春秋)を読む。表紙こわ! 人形の仮面が宙に浮かび、それを抑える指先の下に続く身体には首から上がない...。cover photograph by Miguel Vallinas Prietoとある。検索したら、やはり首のない体の上に、色んな頭部がのった写真がいっぱい出てきた...。
桐野夏生、基本長編作家の印象が強いが、今回は短編集。「悪い妻」が「

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有吉佐和子『女二人のニューギニア』(毎日読書メモ(521))

有吉佐和子『女二人のニューギニア』(毎日読書メモ(521))

年明け、友達のやっているバーに飲みに行って、最近読んで面白かった本の話をしていてテンション上がる。その時友達が面白かった、と言っていたのが有吉佐和子『女二人のニューギニア』(河出文庫)。河出文庫から刊行されたのは昨年1月(その前は1985年に朝日文庫から刊行されていたらしい。元々が「週刊朝日」の連載で、単行本が1969年に朝日新聞社から刊行されている)。有吉佐和子は今なんとなくブームなので(『青い

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待望の続編!!! 宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(毎日読書メモ(520))

待望の続編!!! 宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(毎日読書メモ(520))

宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)、2024年1月24日刊行、と聞き、書店に走って買って帰る。ぶれない成瀬に見合った、期待を裏切らない読後感。おかえり成瀬、ありがとう成瀬。

年明けてからなんだか忙しくて、昨年の読書の振り返りとかしていないのだが、昨年読んでああよかったなあ幸せだなぁ、という本を選ぶなら、津村記久子『水車小屋のネネ』(毎日新聞出版)、乗代雄介『それは誠』(新潮社)、そして宮

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