oshima5656

「なるようになる」 icon illustration by #WAN_TAN

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記事一覧

オリーブになっちゃう

シャワーを浴びているときに、気づいた。これはなんだろう? 右の足の付け根にぽっこりとできものがあった。色は浅黒く、触るとどこかこりこりとしている。内側に膿がある…

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1年前
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大人になっちゃう

三連休あけの朝だ。 休みをさんざんっぱらに楽しみ尽くして、足のかかとはひどく靴擦れ、胃が体の真ん中でどしりともたれこんでいる。母がくれたチョコレートケーキを冷蔵…

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1年前
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夏の終わりに、風

目の前に、壁があった。 それは灰色だった。材質はコンクリートだろうか。継ぎ目はなく、触れると、もろもろとした感触が指に伝わった。削っていけば、崩せるだろうか。…

oshima5656
2年前

冷や汁になっちゃう

冷や汁を作る。 冷凍庫から、鯖を取り出す。半身のさらに半分になったそれを小さなタッパーに載せて、解凍をしている間にアルミホイルを俎板の上に広げた。味噌大さじ1強…

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2年前
4

花屋になっちゃう

花が欲しい、と思った。 目を開く。日が開け切る前、曇り空。枕元のスマートホンは7時台を指している。 部屋の中はまだ灰色だった。この様子では、今日は一日空が晴れる…

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2年前
1

ヨーグルトになっちゃう

体重計に乗ったら、昨日と変わっていなかった。昨晩のドカ食いで、とんでもなく増えるかと思ったのに。胸を撫で下ろして、キッチンに向かう。 普段、朝食にはトーストとヨ…

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2年前
2

フレンズになっちゃう

朝起きて体重計に乗ったら300グラム増えていた。いらっとして、朝ごはんにおかずを3品作った。むーん、と声に出して呟きたくなったので、呟いた。 虫の知らせでスケジュ…

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2年前
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ナマケモノになっちゃう

一週間ほど前、東京には雪が降った。降り始めはちょうど出社のタイミングだった。家を出ると白いものが遠慮がちに空を舞っている。駅に着くまでにその勢いは増していった。…

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2年前
5

鐘を聴くまで

 吐き出すと息が白かった。澄んだ青空のあとは星空がきんと冷える。冬のさまざまな表情が見られた心地になる。 「ほら、ポン。行くよ」  リードを引いて、チェーンをまた…

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2年前
4

ラブになっちゃう

好きなもの。 郷土料理。生活感。旅先で干された洗濯物。使い込まれたキッチン。メロディ感のある音楽。主張が強すぎない声。広いカフェ。美味しいコーヒー。変わった国の…

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2年前

孤独のグルメになっちゃう

一人でご飯を食べるのが苦手だ。そのことに気づいたのは、大学1年生の時。2限と3限の間の一時間、お昼休みは突如としてわたしの前に立ちはだかった。幾度か教室の端っこ…

oshima5656
2年前
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旅人になっちゃう

<旅行記の真似事・情景の練習>2021/11/19 帯広出張 11:20羽田発・翌11:55羽田着 *  デジタル数字に心が折れそうになった。5:00。  アラームの音で開いた目を、も…

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2年前
4

変わり者になっちゃう

地下鉄の窓に、自分が映る。デニムシャツに黒いタートルネック。白いニット帽に髪をすべて入れて、ショートヘアのように。白のトートはくたっと汚れて、スマホを持たない方…

oshima5656
2年前
4

モーニングになっちゃう

秋晴れ。青空はいつも同じ青色なのに、どうしてか季節が伝わってくる。夏のそれとは何かが違くて、どこか爽やかさを含んだ秋の朝の空。 起き抜けに原稿を一本読んで、著者…

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2年前
4

悪者になっちゃう

これはちょっとした愚痴。自分の中で起こるグレーのもやもや。 「週刊誌撃退法」とか「週刊誌に苦言」とか、そういうニュースがここ数日目に入る。こういう記事は定期的に…

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2年前
2

27になっちゃう

10月11日。わたしの誕生日。 母親が自宅のベッドでテトリスをしているときに寝返りをうったら、股の間から突如わたしが顔を出した日。声を出さない赤ん坊に焦った父親がわ…

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3年前
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オリーブになっちゃう

シャワーを浴びているときに、気づいた。これはなんだろう?

右の足の付け根にぽっこりとできものがあった。色は浅黒く、触るとどこかこりこりとしている。内側に膿があるような気配もない。

からだを濯ぎ、脱衣所に立って、メッセージアプリをいじりながら、化粧水をほどこしていく。最近めっきり肌の調子がいい。ヘアオイルを塗って、ドライヤーを傾ける。スマホの検索欄に、「足の付け根 しこり」と入力すると、そこは鼠

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大人になっちゃう

三連休あけの朝だ。

休みをさんざんっぱらに楽しみ尽くして、足のかかとはひどく靴擦れ、胃が体の真ん中でどしりともたれこんでいる。母がくれたチョコレートケーキを冷蔵庫にしまい込んで、実家から持ち帰った冬服をクローゼットにどうにか押し込める。ぱたりとベッドに寝転び身を滑らせると、やがて左肩が白い壁の凹凸に触れた。

顔を上げると、四角い枠に縁どられた青空が見える。わたしの部屋は大きな窓が自慢で(自慢と

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夏の終わりに、風

目の前に、壁があった。

それは灰色だった。材質はコンクリートだろうか。継ぎ目はなく、触れると、もろもろとした感触が指に伝わった。削っていけば、崩せるだろうか。でもとても重そうだ。倒れてきたら、危ない。

首を動かすと、壁は右にも、左にも、見渡す限りに続いていた。箸を持つ方は平地だけれど、反対側は地面が少し山なりになっている。壁もそれに沿ってなだらかに弧を描いていた。そちらだけ、盛り上がった反

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冷や汁になっちゃう

冷や汁を作る。

冷凍庫から、鯖を取り出す。半身のさらに半分になったそれを小さなタッパーに載せて、解凍をしている間にアルミホイルを俎板の上に広げた。味噌大さじ1強を塗っていく。レシピではトースターかガスコンロでこれを炙れとあったけれど、あいにく我が家には大型の電子レンジとIHコンロしかない。一か八か、電子レンジのグリル機能を使うことにする。先程の鯖の解凍が終わったので、取り出し、アルミホイルに満遍

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花屋になっちゃう

花が欲しい、と思った。

目を開く。日が開け切る前、曇り空。枕元のスマートホンは7時台を指している。

部屋の中はまだ灰色だった。この様子では、今日は一日空が晴れることはないだろう。

昨晩、学生時代の友人と電話をした。遠方に住む彼女とはなかなか会えないから、せめて電話でも、ということになった。人生の進路を聞き、日常を報告しあい、頭の中を話す。

元来朝型だったのに、ここ最近のわたしはすっかり夜更

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ヨーグルトになっちゃう

体重計に乗ったら、昨日と変わっていなかった。昨晩のドカ食いで、とんでもなく増えるかと思ったのに。胸を撫で下ろして、キッチンに向かう。

普段、朝食にはトーストとヨーグルト、それにおかずを用意する。だけど、とにかくお腹が重い。罪悪感もあるし、夜には友達との予定があるから、それまでは軽めの食事にしよう。フルーツを多めに乗せたヨーグルト、と心の中でつぶやき洗面所を出る。

昨晩、実家に帰った。最近はよく

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フレンズになっちゃう

朝起きて体重計に乗ったら300グラム増えていた。いらっとして、朝ごはんにおかずを3品作った。むーん、と声に出して呟きたくなったので、呟いた。

虫の知らせでスケジュール帳を開くと、今週末の欄ががらんと空いていた。一緒に過ごしたいひとがいないか、考える。大学の頃の仲間は来月会う予定だ。高校の仲良しには先週会った。そもそも先々週に友人の結婚式があり、そこでわりといろいろな人に会ってしまったので、いまい

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ナマケモノになっちゃう

一週間ほど前、東京には雪が降った。降り始めはちょうど出社のタイミングだった。家を出ると白いものが遠慮がちに空を舞っている。駅に着くまでにその勢いは増していった。重たい牡丹雪ではなく、さらさらとした粉雪だった。お気に入りの緑色のコートが白色の化粧をした。

日中降り続けた雪は夜になってようやくやんだ。会社からの帰り道、大通りから自宅に向けて細い道に入る。50メートルほどの一本道には雪だるまが3体いた

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鐘を聴くまで

 吐き出すと息が白かった。澄んだ青空のあとは星空がきんと冷える。冬のさまざまな表情が見られた心地になる。
「ほら、ポン。行くよ」
 リードを引いて、チェーンをまたいだ。下を走り抜けるポンを追って、リードを潜らせる。はッはッはッと荒い息に顔をあげると、爛々とした目がこちらを向いていた。柴犬はその形にしか口を開けないとわかっているのに、この犬のそれは笑顔にしか見えない。夏に保健所から迎え入れてから六ヶ

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ラブになっちゃう

好きなもの。

郷土料理。生活感。旅先で干された洗濯物。使い込まれたキッチン。メロディ感のある音楽。主張が強すぎない声。広いカフェ。美味しいコーヒー。変わった国の食べ物。スコーン。もさもさして牛乳に合う食べ物。目が覚めて青空が飛び込んでくる朝。髪の毛を乾かした瞬間。高いところ。「おいで」と言う人。色。トルコ料理。おしゃれで大きな本屋。伝統を感じるけどモダンなデザイン。パリ。アムステルダム。ラオス。

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孤独のグルメになっちゃう

一人でご飯を食べるのが苦手だ。そのことに気づいたのは、大学1年生の時。2限と3限の間の一時間、お昼休みは突如としてわたしの前に立ちはだかった。幾度か教室の端っこでパンを齧ったのち、サークルの部室という安住の地を手に入れて4年間をやり過ごした。

がらがらと引き戸を滑らせると、8石ほどの空のカウンターが飛び込んできた。Lの字をちょうど逆にした形。短辺で割烹着姿の女性がくつろぎ、中では板前さんがまな板

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旅人になっちゃう

<旅行記の真似事・情景の練習>2021/11/19 帯広出張 11:20羽田発・翌11:55羽田着



 デジタル数字に心が折れそうになった。5:00。

 アラームの音で開いた目を、もう一度閉じる。眠気はあまりなかったけれど、まだ日の出前という事実が重い。薄いカーテンの向こう側に、夜の香りを感じる。

 支度を終えて部屋を出たのは5時半を少し過ぎた頃だった。ドアの傍からカードキーを抜くと、ほ

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変わり者になっちゃう

地下鉄の窓に、自分が映る。デニムシャツに黒いタートルネック。白いニット帽に髪をすべて入れて、ショートヘアのように。白のトートはくたっと汚れて、スマホを持たない方の手にはコーヒーを。

目に入るすべて、好きなもの。完璧だと思う。今日はそんなお話。



ここ数日、わたしは暴風雨にさらされた一反木綿のような有様だった。濡れたまま風に吹かれ、バタバタと音を立てる。

たぶんこれはここ2週間ほどやりとり

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モーニングになっちゃう

秋晴れ。青空はいつも同じ青色なのに、どうしてか季節が伝わってくる。夏のそれとは何かが違くて、どこか爽やかさを含んだ秋の朝の空。

起き抜けに原稿を一本読んで、著者に返事をし、ベッドを出た。今朝は何をしよう。ふと、最近家であまり息をしていないような気がした。息をしよう、と息をつく。



ポットに水を注ぎ、スイッチを入れる。沸くまでの間にコーヒーサーバーにフィルターを置いて、挽いた豆を三杯ほど落と

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悪者になっちゃう

これはちょっとした愚痴。自分の中で起こるグレーのもやもや。

「週刊誌撃退法」とか「週刊誌に苦言」とか、そういうニュースがここ数日目に入る。こういう記事は定期的にスマホの画面に流れてくる。なんとなく、目につく。これを週刊誌記者だった頃に目にしていたらきっとつらかっただろうな、と思った。こんなに、悪者になっちゃって。

あの頃、わたしはたくさんのひとにたくさんのひどいことをした。離婚した著名人が、

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27になっちゃう

10月11日。わたしの誕生日。

母親が自宅のベッドでテトリスをしているときに寝返りをうったら、股の間から突如わたしが顔を出した日。声を出さない赤ん坊に焦った父親がわたしの足を掴んで逆さ吊りに振り回した日。朝方の騒ぎの間眠りこけていた姉が「今朝おうちに小鳥さんが来たみたいね」という言葉を残して学校に行った日。

わたしは誕生日がだいすきだ。デジタル時計が10:11をさすとどきっとしてしまうくらい。

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