#note映画部
映画「髪結いの亭主」パトリス・ルコント〜醒めない甘美な夢
主人公のアントワーヌは12歳の頃、豊満でいい匂いのする理髪店の女主人に恋し店に通いつめていた、なかなか早熟な少年であった。
父親に「将来の夢はなんだ?」と聞かれ、「床屋の女の人と結婚すること」と答えたアントワーヌは、ぶん殴られる。
日本でも昔は "髪結いの亭主" といえば、妻の稼ぎをあてにし養われている男を意味し、いわゆる "ヒモ" を指していた。
フランスでも同じなんだろうか、と思った。
この
映画「PERFECT DAYS」〜かけがえのない毎日に、言葉はいらない
やっと観てきました「PERFECT DAYS」
ヴィム・ヴェンダースの映画を観たのはいつぶりだろう…と思い返したら「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」以来だった…。
なんとあれから20年以上も経っており、浦島太郎にでもなったような気分。
上映開始40分前に、いきなり夫が映画に行こうと言い出し、体感温度マイナス20°の中、ツルツルに凍った道を小走りし滑り込む勢いで映画館に到着したものの、慌てて家を
Chet Baker〜ブルー ヴァレンタイン ジャズ
2月14日は、こちらの国はヴァレンタインデーではなく「友だちの日」だ。
愛を告白する日でも、恋人同士が愛を囁き合う日でもなく、女性から女性、男性から男性、女性から男性またはその逆などなど、親しい友人にクッキーなどほんのちょっとしたものを贈る日なのだ。それもけっこう最近のことで、その前は只の普通の日だったので、そんなに定着もしていない。
あくまでも欧米の商業主義には迎合せず(いちおうヨーロッパなんだ
映画「ノスタルジア」 アンドレイ・タルコフスキーの内的宇宙と映像詩
30年ぶりくらいにタルコフスキーの映画を再び観た。
アンドレイ・タルコフスキーは旧ソ連出身の映画監督で、亡命後は祖国に戻ることなく1986年にパリで生涯を終えている。
「ノスタルジア」は、タルコフスキーの中でも一番好きな作品だ。
18世紀ロシアの音楽家であるサスノフスキーの足跡を辿りイタリアに滞在している、主人公の詩人・ゴルチャコフは、信仰心の厚さから世界の終末を信じ7年間も家族ぐるみで家に閉
ジョン・カサヴェテス~30年ぶりの邂逅
先日、契約しているサブスクでジョン・カサヴェテス監督の作品が配信されているのを発見し、30年ぶりくらいに鑑賞した。
20~30代の映画漬けだった頃に出会った、インディペンデント映画の父と呼ばれるギリシャ系アメリカ人のジョン・カサヴェテスの作品は、ハリウッドとは一線を画し、あくまでもインディペンデントにこだわり、自身が俳優業で得たギャラ(「ローズマリーの赤ちゃん」では夫役)、自宅も抵当に入れ、撮影場
映画「花束みたいな恋をした」~あの頃の風景
遅ればせながら、映画「花束みたいな恋をした」を観た。
この作品は坂元裕二さん脚本にしては、サブカル好きのカップルを主人公にしながらも、拗らせずに素直というかマイルドで、これはこれでスッと心に入ってきた。
"これって自分たちのことですか?" と思った人も多いんじゃないか、というような、普遍的なラブストーリーだと思った。
ところで、学生時代の恋愛がそのままスムーズに結婚へと成就したカップルというの
柳田邦男 「犠牲 わが息子・脳死の11日」〜映画「サクリファイス」 アンドレイ・タルコフスキー
自分の年齢的なこともあるのか、最近は生と死について考えることが増え、それに関する本を読むことも多くなってきた。
そんな中で出会ったのが、柳田邦男「犠牲 わが息子・脳死の11日」だ。
それまで柳田邦男氏の名前は知っていても、著書を読んだことはなかった。
本書は柳田氏の次男・洋二郎さんの記録だ。
洋二郎さんは25歳の時に自死を試み、その後、脳死となり亡くなっている。
ショッキングな題材ではあるが、洋二
映画「男と女 人生最良の日々」~53年後の男と女
フランス映画「男と女」の完結篇ともいえる「男と女 人生最良の日々」を先日観た。この二つの作品の間に「男と女 II」という続編もあったようだが、それは未見のまま。
「男と女 人生最良の日々」は、かつて愛しあった元レーサーの男と元映画プロデューサーの女の、長い年月を経た再会が描かれている。
息子に施設へ入れられたジャン=ルイは、時々記憶が飛ぶようになり、夢と現実の境界が曖昧になっている。
息子は父
映画「すばらしき世界」〜厳しくも優しくこの世は美しい
西川美和監督作品『すばらしき世界』を遅ればせながら視聴した。
今回も一人の人間の多面性と人生に深く切り込んだ脚本が素晴らしかった。
役所広司さん演じる三上は、旭川刑務所での13年の刑期を終え出所し東京へ向かう。
人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上は、今度こそもう二度とムショには戻らないと誓い悪戦苦闘しながら社会復帰を目指すが、元ヤクザの前科者である三上が堅気の世界で生きる術を見つけることはそう
霧の中に見えてくるもの
朝起きると、海の方から霧笛の音が聞こえる。
ああ、霧か…
そんな時はカーテンを開けなくとも、窓の外には煙るように白く濃い霧が、辺り一面たちこめている情景が目に浮かぶ。
私が住む場所は周りをぐるりと海に囲まれた島(と言っても街はすぐそこで、短い運河橋で繋がっているので島を意識することはあまりないが)なので、一年を通して霧がよく発生する。
霧の日は、海上を航行する船同士が衝突しないように、何度も霧笛
映画『ドライブ・マイ・カー』〜喪失と再生のロードムービー
私の住む国でも映画館で『ドライブ・マイ・カー』の上映が始まった。
だけど何度か見直したい作品だと思ったので、私は配信で鑑賞した。
冒頭、窓の外に広がる夜明けの空を背に、家福の妻・音(霧島れいかさん)は寝物語を家福(西島秀俊さん)に語る。その様子はまるでトランス状態にある巫女のようで、天から物語が降りてくるかのようだ。
しかし音は、翌日になると自分が話したことを覚えていなくて、今度は家福が昨夜の物
三浦春馬 映画「アイネクライネナハトムジーク」~小さな夜、ささやかな幸せ
『アイネクライネナハトムジーク』は、春馬くんが旅立ってから何度も観た。
ずっと感想を書こうとしていたけれど、もう春馬くんの新しい作品はないのだと思うと、残された一つ一つの作品を惜しみながら噛みしめるように、その感想を丁寧に書いてゆきたいという気持ちが強くなった。
◇ ◇ ◇
この作品の主役は春馬くんだけれど群像劇なので、一人だけ突出するでもなく、これまで春馬くんが演じた中でも一、二を争うくらい
映画「おらおらでひとりいぐも」〜老いと孤独の先に
映画『おらおらでひとりいぐも』を観た。
沖田修一監督の作品は、前作『モリのいる場所』が、こちらの国のアジア映画祭で上映されたのでスクリーンで観た。
画家の熊谷守一を演じた山崎努さんと樹木希林さんの老夫婦がとても良かった。
『おらおらでひとりいぐも』の方も、75歳の老女、日高桃子が主人公だ。
冒頭、壮大な地球創生がアニメで描かれ、ジュラシックパークのような世界が展開し、他の作品と間違えたかと思