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ドラマ・シネマローグ

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日本のドラマ・映画を中心に感想と思ったこと考えたこと。
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記事一覧

映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」〜キューバ音楽のレジェンドたち

映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」〜キューバ音楽のレジェンドたち

平均年齢70代?すでに全盛期を過ぎた、キューバのかつての大物ミュージシャン達と、アメリカ人ギタリスト ライ・クーダが出会い、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブというビッグバンドを組んだことから始まった奇跡。

アルバムを録音し、それぞれの生い立ち、音楽、人生を語り、老齢ながら精力的にツアーに出る、その模様をヴィム・ヴェンダース監督がフィルムに収めた音楽ドキュメンタリーは、世界中を虜にし、キューバ音楽

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アイヌの衣装と文化に触れて 〜北方先住民族を巡る旅  その3

アイヌの衣装と文化に触れて 〜北方先住民族を巡る旅 その3

私がこれまで目にして来た北方先住民族のアート・伝統工芸・文化などについて綴ってきましたが、最終回である本記事では、アイヌの衣装や文化を取り上げました。

第1回 イヌイット・アートについてはこちら

第2回 サーミの伝統手工芸と文化についてはこちら

本記事は4000文字を超えていますので、お時間がある時にどうぞ。

アイヌとの出会い私がはじめてアイヌの人々に会ったのは、小学生の頃に北海道旅行をし

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映画「市子」〜それでも生きる

映画「市子」〜それでも生きる

ついに映画「市子」を観た。



一緒に暮らす長谷川(若葉竜也さん)からプロポーズされた翌日、市子(杉咲花さん)は突然姿を消した。
長谷川の気持ちが嬉しくて、嬉しくて、思わず泣いてしまった彼女が、いったいなぜ?

川辺市子という女性は、存在しない
そう告げる刑事(宇野祥平さん)の言葉に、最初は事態が飲み込めなかった長谷川だが、市子を探す中で、全く知らなかった彼女のもう一つの顔が次第に浮き彫りにな

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ドラマ「すいか」〜ハピネス三茶の愛すべき人々

ドラマ「すいか」〜ハピネス三茶の愛すべき人々

夏になると思い出し観たくなるドラマ、それが『すいか』だ。
小林聡美さんが初主演を飾った2003年放映の作品だが、私の中では今も色褪せない。
脚本の木皿泉さんは、夫婦二人の共同執筆という珍しい形を取っている。私は本作で木皿さんを知り、大ファンになった。
本記事は書いてるうちに熱くなり、5000文字近くなってしまいました。
お時間のある時にどうぞ。

1983年夏、中学生の基子は、小学生の双子の女の子

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ドラマ「カルテット」〜みぞみぞする四重奏

ドラマ「カルテット」〜みぞみぞする四重奏

契約している動画配信サービスで配信が始まったので、ドラマ「カルテット」を観た。
これまで何度か配信を逃していたので、6年ぶりくらいの再視聴。
なんといってもこの物語を一言で表すカルテット(四重奏)というタイトルが秀逸で、坂元裕二・脚本の中でも自分的にはベスト3に入る大好きな作品だ。
本作の魅力は、偶然の出会いから軽井沢の別荘で奇妙な共同生活を送りながら、ドーナツホールというグループを組むことになっ

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映画「コンパートメントNo.6」〜旅は道連れ世は情け

映画「コンパートメントNo.6」〜旅は道連れ世は情け

映画「コンパートメント No.6」を観た。
監督は、アキ・カウリスマキを継ぐ次世代と言われているユホ・クオスマネン。
今作はロシアを舞台にしているが、フィンランド映画だ。
劇中音楽のセレクト、キャストや映像の雰囲気は、たしかにカウリスマキを彷彿とさせるものがあった。

モスクワに住み、考古学を専攻するフィンランド人留学生のラウラは、共に旅するはずだった恋人イリーナにドタキャンされ、一人で出発するこ

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サーミと私、伝統手工芸に導かれ 〜北方先住民族を巡る旅  その2

サーミと私、伝統手工芸に導かれ 〜北方先住民族を巡る旅 その2

これから3回に渡り、私がこれまで目にして来た北方先住民族のアート・伝統工芸・文化などについて綴ってゆきたいと思います。

第1回の記事はこちら

第2回は、ヨーロッパで唯一の先住民族サーミについて。
4000文字近くありますので、お時間のある時にでも、お読みください。

サーミとの出会い私とサーミとの出会いは、まだ結婚する前、夫の生まれ故郷である北極圏の街を訪れたことからだった。
その日、夫は用事

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映画「髪結いの亭主」パトリス・ルコント〜醒めない甘美な夢

映画「髪結いの亭主」パトリス・ルコント〜醒めない甘美な夢

主人公のアントワーヌは12歳の頃、豊満でいい匂いのする理髪店の女主人に恋し店に通いつめていた、なかなか早熟な少年であった。
父親に「将来の夢はなんだ?」と聞かれ、「床屋の女の人と結婚すること」と答えたアントワーヌは、ぶん殴られる。
日本でも昔は "髪結いの亭主" といえば、妻の稼ぎをあてにし養われている男を意味し、いわゆる "ヒモ" を指していた。
フランスでも同じなんだろうか、と思った。

この

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ドラマ「季節のない街」〜どこへも行けない、どこにも行かない

ドラマ「季節のない街」〜どこへも行けない、どこにも行かない

ずっと観たいと思っていた、宮藤官九郎 脚本・監督「季節のない街」が、やっとテレ東でも始まり、毎週楽しみに観ている。

このドラマはクドカンが長年温めていた企画であり、原作は彼が演劇を始めるきっかけになったと言う山本周五郎の同名小説。
すでに黒澤明監督が「どですかでん」で映画化しているが、今作では、12年前に起きた”ナニ”の災害によって被災し、仮設住宅に暮らす人々に設定が置き換えられている。

主人

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ドラマ「最高の離婚」~それぞれの夫婦のかたち

ドラマ「最高の離婚」~それぞれの夫婦のかたち

春の連ドラ開始の狭間に、先日10年ぶりくらいにドラマ『最高の離婚』を観た。
当時も、坂元裕二さん脚本の醍醐味であるセリフの秀逸さや、夫婦の悲喜こもごもをユーモラスに描いていて、その面白さに惹きこまれたけれど、結婚してまだ数年で子育てに追われていたこともあり、夫婦とは…なんてそんなに深く考えてはいなかった。
しかし今改めて観ると、夫婦ってなんだろうな…としみじみと思うところがあった。

真面目だけど

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映画「土を喰らう十二ヵ月」、水上勉「土を喰う日々 わが精進十二ヶ月」~滋味深く生きること

映画「土を喰らう十二ヵ月」、水上勉「土を喰う日々 わが精進十二ヶ月」~滋味深く生きること

映画『土を喰らう十二ヵ月』を観た。

作家のツトム(沢田研二さん)は、愛犬の "さんしょ" と信州の山奥にある山荘で暮らしている。
ツトムは季節ごとの山の恵みを享受し、小さな畑を耕し、子供の頃口減らしに出された京都の禅寺でおぼえた精進料理を自ら作り、喰う。

映画の中では四季折々の山の風景が映し出され、季節の移り変わりを表す二十四節気を示す構成は、まだ雪深い立春から始まり、啓蟄、清明、立夏、芒種、

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ドラマ「お別れホスピタル」〜死ぬってなんだろう

ドラマ「お別れホスピタル」〜死ぬってなんだろう

苦しくなるほど胸を締め付けられたドラマ「透明なゆりかご」につづき、原作:沖田×華さん、脚本:安達奈緒子さんが再びタッグを組んだドラマ「お別れホスピタル」
前作は命の誕生と死を見つめる小さな産院が舞台だったが、今回は末期がんなど死と向き合う患者とその家族を見つめる療養病棟が舞台だ。

主人公の辺見歩(岸井ゆきのさん)は、療養病棟で働く看護師。
病院では吸えないので、毎朝出勤前に海辺で車を止め電子タバ

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映画「PERFECT DAYS」〜かけがえのない毎日に、言葉はいらない

映画「PERFECT DAYS」〜かけがえのない毎日に、言葉はいらない

やっと観てきました「PERFECT DAYS」
ヴィム・ヴェンダースの映画を観たのはいつぶりだろう…と思い返したら「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」以来だった…。
なんとあれから20年以上も経っており、浦島太郎にでもなったような気分。

上映開始40分前に、いきなり夫が映画に行こうと言い出し、体感温度マイナス20°の中、ツルツルに凍った道を小走りし滑り込む勢いで映画館に到着したものの、慌てて家を

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Chet Baker〜ブルー ヴァレンタイン ジャズ

Chet Baker〜ブルー ヴァレンタイン ジャズ

2月14日は、こちらの国はヴァレンタインデーではなく「友だちの日」だ。
愛を告白する日でも、恋人同士が愛を囁き合う日でもなく、女性から女性、男性から男性、女性から男性またはその逆などなど、親しい友人にクッキーなどほんのちょっとしたものを贈る日なのだ。それもけっこう最近のことで、その前は只の普通の日だったので、そんなに定着もしていない。
あくまでも欧米の商業主義には迎合せず(いちおうヨーロッパなんだ

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