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映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」〜キューバ音楽のレジェンドたち

平均年齢70代?すでに全盛期を過ぎた、キューバのかつての大物ミュージシャン達と、アメリカ人ギタリスト ライ・クーダが出会い、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブというビッグバンドを組んだことから始まった奇跡。

アルバムを録音し、それぞれの生い立ち、音楽、人生を語り、老齢ながら精力的にツアーに出る、その模様をヴィム・ヴェンダース監督がフィルムに収めた音楽ドキュメンタリーは、世界中を虜にし、キューバ音楽を世に知らしめた。
ついにはカーネギーホールでのコンサート、オバマ大統領からホワイトハウスに招かれ、キューバ在住のミュージシャンとしては50年ぶりの演奏を成功させるのだった。


「Chan Chan」


キューバの伝統音楽であるSon(ソン)は、最高齢のコンパイ・セグンドの奏でるどこか哀愁の漂うアルモニコの音色、ビート、歌声にシビれる。

1950年代くらいで時が止まっているかのような、古めかしい下町風のハバナの街並み、カラフルなクラシックカー、熱い太陽に照らされ人々は道端にたむろし、街のどこからかメロディが流れてくると、リズムに身をまかせ踊り出す。
そんな情景を眺めていると、南米で生まれ育ったわけでもないのに、胸がギュッとして懐かしい気持ちになる。
ラテン音楽は、子供の頃から家で日常的に流れていた、というか父親が好きだったので、ほぼ強制的に聴かされて育った。
父が若い頃、昭和30年代にもラテン音楽が流行り、キューバ出身のマンボの王様ペレス・プラード(ただし本国よりメキシコ、アメリカで活躍)は父のヒーローだったらしく、ダンスホールで盛り上がり踊り狂っている若い父の写真も残っている。
そんなわけで、本作で流れる音楽を聴いていると、勝手に体が揺れだし、郷愁のような感情が腹の奥底から湧き上がってきて、思わず涙ぐんでしまう。


イブライム・フェレールのソフトで伸びやかな美声と、オマーラ・ポルトゥオンドの酸いも甘いも嚼み分けた深みのある声にも、心掴まれる。
互いの顔を見つめ合いデュエットしているライブ映像は、旧知の仲である二人の信頼関係と愛が伝わってきて、ハグし合う姿に胸がいっぱいになる。

「Silencio」


オマーラは、長い間ずっと第一線で活躍してきたキューバを代表する歌手だが、イブライムの方は実力が有りながらもなかなか芽が出ず、音楽に失望し世間からも忘れ去られ、生活にも窮し靴磨きをしていた身の上。
70歳を過ぎてからブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブへ参加の声が掛かり、復活。この年で有名になるなんて、声も衰えたし足腰も萎えた…と初めは当惑気味だったが、その後の活躍は、本人も夢を見てるようだと言っていた通り。
控えめな性格のイブライムが、周りのミュージシャンからも励まされ、どんどん元気を取り戻し、堂々とセンターに立ち歌い踊るようになってゆく誇らしげな姿は、人生の光と影を見るようで、勇気づけられ見ているこちらまで嬉しくなってくる。
人は何歳になっても、光の当たる瞬間があるのかもしれない。
ついにグラミー賞まで受賞するも、ビザが却下され授賞式には参加できず…「なぜ?」と悲しそうなイブライムの表情に、こちらまでシュンとしてしまう。そんな彼を気遣い、イブライムを讃える主催者からの手紙を読みあげる仲間達。

ステージに上がる前はいつも、母の形見であるステッキに口づけするイブライム。もう一度音楽の世界に戻ると決めた時、さっそく仕立て屋に行き真っ赤な布でシャツを新調する場面では、派手すぎない?と思ったが、彼が着るとすごく似合っていて素敵だった。
ハンチング帽がトレードマークのイブライムはじめ、キューバの老ミュージシャン達は、皆んなとってもお洒落。中折れ帽にパリっとした真っ白なスーツで葉巻を咥えていたコンパイといい、粋でダンディなのだ。
それまでの人生が滲み出たかのような、それぞれの面構えも、味わい深い。



実は途中まで、1999年製作の「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を25年ぶりに観なおしてると思ってた(苦笑)
後半に2016年という数字が出てきてから初めて、あれ?と思い、タイトルをガン見したらやっと、本作は18年後を収めてあることに気づいた…(おいおい)
続編の監督はルーシー・ウォーカー、ヴィム・ヴェンダースは製作・総指揮を取り、グループとしてのラスト・ステージまでを記録している。

世界中を席巻した熱狂から数年が経ち、ドキュメンタリーも終盤になってくると、次々にメンバーが旅立ってゆく。
渋くて頑固なギタリスト コンパイ・セグンドは95歳で。
認知症に侵されていても、ひとたびピアノの前に座ればシャキッとし流麗な演奏を聞かせてくれた、偉大なるピアニスト ルベン・ゴンザレスは84歳。
ヴォーカルのイブライムも、周囲が止めるのも聞かず最後のステージに上がった4日後に逝った。78歳であった。
盟友イブライムを偲び歌う、オマーラによる追悼公演に落涙。



皆んな死の直前までステージに立ち続け、まさに音楽と共に生き、あの世でも変わらず演奏しているのだろう。
永遠のレジェンドとなった。





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