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#小説

ラベンダー畑の約束【ショートショート】

ラベンダー畑の約束【ショートショート】

ラベンダー畑と一緒に見た夢がある。夏の日差しが降り注ぐ、何もない平原。遠くまで続くラベンダー畑が広がっている。

風が吹くとラベンダーの香りが全体を包む。瞬きする度に香りが増してくる。風が吹くと香りが強くなるのだ。

僕たちはそこで約束を交わした。二人だけの秘密の約束。一緒に畑を歩く約束。約束は簡単だけど、心は深い。

彼女が笑うと、全てが明るくなる。その笑顔が、僕の世界を照らす。何かを失った時、

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【1分小説】きみのもとへ

【1分小説】きみのもとへ

彼はもう、どれくらいここにいるのか覚えていなかった。

覚えているのは、彼には
とても大切な人がいるということだけだった。

その大切な人が誰なのかもわかっていないけど、ずっと呼ばれているような気がしていた。

そして、彼自身も
その人に会いたかった。

でも、彼には足が無かった。

「神様、僕に走れる足をください。」

彼は、天に向かってお願いをした。

すると、神様が
大根の足を授けた。

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恋をして蝶になった主人公

恋をして蝶になった主人公

 きっと貴方は忘れているのでしょうね。

 とうの昔から私の胸にある、この温かい想いを。
 どのような言葉で表したら良いのか、自分では分かりかねます。
 ですが確かな事は、酷なこと、不愉快に思ったこと、怯えたこと。
 そのような時間は存在しておりません。

 間違い無く貴方は私にとって、大切な気持ちを『香り』と共に心へ運んで下さいました。

 どれだけの刻が経とうと、忘れる事など無いでしょう。
 

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【掌編小説】魔法使いの弟子

【掌編小説】魔法使いの弟子

 数多くのモンスターを倒してきた魔法使いミラベーユの弟子になって、はや二年。
 なのに今の自分に出来ることといったら、小指の大きさの炎がポッと出て、三秒後には消えてしまう程度の魔法。これじゃ、モンスターになんのダメージも与えられない。十二名いる弟子の中で俺が一番下手くそだ。
「俺、才能ないみたいです。役に立たなくてごめんなさい」
 師匠に弱音を吐いてしまった。
「見てやるから、もう一度やってごらん

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【短編小説】街を廻せば④

【短編小説】街を廻せば④

みんなを幸せにしたはずだ。

なぜ俺は殺されるんだ?

猫を探す呪文女
杖が折れた魔女婆
プロポーズができなくなったドラキュラ男
財布をなくした鬼女
カツアゲされた亡霊青年
プロレスしたくてたまらない河童

全員助けたはずだ。

そう、全員…

そうか…

1人だけ忘れていた…

俺を刺した犯人も
幸せにしなければいけなかったのか。

でも、この状況でこんなヤバイ奴
幸せにできるのか!?

そもそ

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【詩】手をつなごう

【詩】手をつなごう

人は社会性を持つ生き物だ。

そこには人と人の繋がりがある。

赤い糸という、小さな願いにも似た細い線。

見えない鎖という、義務感や恐怖心などの束縛。

琴線もある。「人に感動や共鳴を与えること」を”琴線に触れる”と言うが、
多くの方が「怒りを買う」という意味で誤用している。

ただ、感情のプロセスを考えてみると、いずれも正解なんじゃないかと考えられる。

例えば、絵を書く師匠と弟子が居たとして

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ギフト

ギフト

フィンランドのとある島。

三人の男達が漂流した。

身体の強い男。
頭の賢い男。
生まれつき足の悪い、杖を持った男。

人の気配は全くしない。

冬至を迎える極夜に曇り空。一日中暗い。

絶望の演出を際立たせるように
さらに濃霧は男達を包み込む。

隣の男の顔すら朧げである。

悴んだ指を擦り合わせて暖を取る。

遠くに微かな白い灯りが目に入った。

灯台ではないか?

三人は希望の光を見た。

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【詩】セレクションバイアス

【詩】セレクションバイアス

1億円あげる代わりに未来を頂戴?

明日来ないのと1億円どっちがいい?

ちょっと、少なかった?

じゃあ1兆円でどう?

貴方が思う命の価値はお金に変えられない。

だけど、他人の命の価値は値付けされていて、

裁判で、大体このくらいって計算される。

なんでかな?

私が選んだ貴方だから。

そんじょそこらの人とは違う。

恋は盲目。

網膜には光の受容体があるけど、
一か所だけ、神経が集まっ

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映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」今は亡き完全アウェイの議論の美学に刮目せよ。

映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」今は亡き完全アウェイの議論の美学に刮目せよ。

誰も知らない三島由紀夫の姿がここにある。

憎しみの連鎖が止まらないSNS上で巻き起こる

誹謗中傷を言っては逃げるヒットアンドアウェイで撒き散らされた無責任な言葉たち。

あれは人が人として発した言葉なのだろうか。

多種多様な意見や価値観を持つ人と人が

この世の中にいて当然だ。

対峙するテーゼをぶつかり合わせて

もう一つの何かを見出す議論でもない。

昔、SNSはおろかインターネットさえ

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