恋をして蝶になった主人公
きっと貴方は忘れているのでしょうね。
とうの昔から私の胸にある、この温かい想いを。
どのような言葉で表したら良いのか、自分では分かりかねます。
ですが確かな事は、酷なこと、不愉快に思ったこと、怯えたこと。
そのような時間は存在しておりません。
間違い無く貴方は私にとって、大切な気持ちを『香り』と共に心へ運んで下さいました。
どれだけの刻が経とうと、忘れる事など無いでしょう。
貴方の香りに包まれていた、あの心地の良い空間はフワリとしておりました。
地をも感じさせない羽根をつけた蝶のように私は、舞い上がっておりました。
音が流れれば、観るものがあれば、お話する時間があれば…。
貴方の空間に入り、抜け出せなくなっておりました。
舞っていた私の心には小さな芽が新しく育つのです。
『どなたにでも』なんて事は全く無く。
私が羽根を付け、舞っている時間に根を伸ばし、芽を開く場所は必ず決まっておりました。
きっと貴方は私の想いを知る事なく、この先の人生を過ごすのだと思います。
本当に何も知らないまま…。
おかしな話ですが私はそれで幸せなのです。
こんなにも人は、一人の方に想いを寄せられる事を知れたのですから。
貴方はいつも否定せずに話を聞いてくれ、笑顔で頷き続けてくださいました。
小さな芽は、照れた時の頬のような色を付け、少しずつ、少しずつ開花していったのです。
条件が重なった時だけ咲く花は、貴方の香りを隙間なく感じさせてくれました。だから人が集まり、一人になる事の方が難しい一面をお持ちなのです。
私は逆で、独りでした。
話をかけやすいベールを纏った貴方に近づく事は、容易ではありませんでしたが、だからこそ勇気を出せば二人だけの時間が生まれました。
一体どれだけ心助けられ、満たされ、自分が自分で良かったと思ったか分かりません。
そして、このような想いを持つ経験はもう最後なのです。
『恋』という名の花を咲かせ、香り放つ空間は貴方が最初で最後です。
特別で、普段と進む秒針を。
生きる時間を涙と共にありがとうございました。