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スナック系読み物

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数十秒で読める超短編小説や物語を書いています。もっとすぐ読める10秒程度のお話をまとめました。サクサク。
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記事一覧

『告白』/54字の物語

『告白』/54字の物語

君に二つの嘘をついてしまった。一つは僕は嘘つきじゃないということ。もう一つは君が僕の最後の恋人だということ。

『衝動』/ショートショート

『衝動』/ショートショート

もしも僕がオオカミだったなら。

今すぐ走り出して、君のくるくるの毛におおわれた、柔らかいからだに牙を突き立てていただろう。

それが僕の本能で、自然なことだから。

だから大丈夫。

君は泣かなくていい。

ただこの世界で、

君がオオカミで、僕が羊だった。

それだけのことなのだから。

『ラベンダー畑と私の旅』/掌編小説・ショートショート

『ラベンダー畑と私の旅』/掌編小説・ショートショート

私は数時間の旅を終えて到着した。

はじめて訪れる、きれいな土地だった。

一面に広がるラベンダー畑。

この時期にして正解だ。

鮮やかな紫が美しく私を癒してくれる。

私は背が高い。

高い靴も履いていないのだけれど、どうしても目立ってしまう。
今日もまた、すれ違う子供たちが驚いて逃げていった。

「お花を踏まないように気を付けて」
つい鋭い声を出してしまう。

気を取り直してラベンダーの香り

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『またこの世界転生』/掌編小説・ショートショート

『またこの世界転生』/掌編小説・ショートショート

僕はネズミになっていた。

それもドブネズミ。
おかしい。
大きなトラックにはねられて死んだはずなのに、またこの世界に転生していた。

いつになったら僕は、剣と魔法のすてきな異世界に転生して、魔法の才にあふれた第十王子として自由で優雅な生活をおくれるのだろうか。

この前は焦げた食パン、その前は排水溝につまった輪ゴムだった。
今回はまた生き物になれただけ、ましかもしれない。
とりあえず、腹が減って

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『あたたかい家』/ショートショート

『あたたかい家』/ショートショート

「どういうことか、せつめいして」

けわしいかおをして、お母さんがといつめる。
テーブルのうえには、すうまいのかみとしゃしんがおかれている。

「こ、これはその……」

お父さんがくちごもる。

「しごとのな、つきあいでその、なんどもあううちにだな……。いや、ちがうんだよこれは」

「しんじられない。さいていねあなた」

お母さんは、げきどしている。
お父さんは

「ユリちゃーん。お人形遊びは終わ

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『欠けた望月と満足』/ショートショート

この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる ことも なしと思へば

藤原道長が詠んだとされる有名な歌だ。

月が欠けていることを抜いて考えれば、この世は自分の世だと思うくらい栄華をほこったという意味らしい。

だけど、そんなすごい権力を持つなかで、月だけが欠けていて彼の思い通りにならなかったのは、逆にすごく良いことだったと思わない?

すべてが思い通りだったらつまら

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『マイバッハのある生活』/ショートショート

『マイバッハのある生活』/ショートショート

「聞いてくれよ。こないだやっと、念願のマイバッハを買ったんだよ。乗り心地は最高さ。まさに最上級クラスだよ」

「それは良いな。それじゃぁ俺の話も聞いてくれ。俺はマイベートーヴェンを買ったんだ。こいつも乗り心地は最高だ。このアルバムの選曲は、まさに俺専用に作られたようなもんだよな。マイベートーヴェンだよ。持ってきたから、いつもの場所でかけてもらってノリ明かそうぜ」

二人はマイバッハとマイベートーヴ

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『木魚、スイム!』/掌編小説

『木魚、スイム!』/掌編小説

ぽくぽくぽく。毎日毎日叩かれる。
ぽくぽくぽく。謎の調子を聞かされて、眠る間もなくぽくぽくやられる木の魚。
なんだか不憫になってきた。

木魚、スイム!
ほんとうの居場所を探すんだ。
木魚、スイム!
どこまでも泳いで行け。

木魚は泳き出した。
ぱくぱくぱく。たまに天井の上の方へ行き、空気を吸う。
口呼吸?木だからエラはないようだ。
ぱくぱくぱく。広間から出て長い廊下をぐんぐん泳ぐ。
透明な大きく

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『お弁当とブロッコリー』/掌編読み物

『お弁当とブロッコリー』/掌編読み物

緑のブロッコリー。

お弁当を開けると飛び込んでくる、鮮やかな緑。

緑のいつものヤツ。

偉そうに、お弁当の端を陣取って、窮屈そうにしている緑。

緑、緑。こんな鮮やかな緑って。

赤いトマトと隣同士。

季節外れのクリスマスカラーだし。

こんな真夏に、食欲湧かない。

緑のブロッコリー。

ああ、今日も蝉がうるさくて厭。

『村上春樹ファンの休日』/掌編読み物

『村上春樹ファンの休日』/掌編読み物

パスタをゆでる。そう、あのパスタ。
たっぷりとお湯のはいった大きな鍋で、
透き通った小さな気泡ときれいな小麦色の麺がダンスする。

これを食べたら運動へ。やれやれテニスかランニング。

普段は聞かないラジオ番組の、バックナンバーの放送を漁って数時間。

なんとか見つけた1曲の、お気に入りに決めたジャズを聞きながら

白いシューズのひもを通す。

『文殊の知恵』/掌編小説

『文殊の知恵』/掌編小説

にわにわにわにわとりがいた。

青空のもと、うららかな昼下がりの公園で二人の男が激論を交わしていた。

「なんで鳥が四羽なんだ! 庭には二羽鶏がいたんだから、鳥は二羽だろうが!」

「いいや違うね。にわにわにわにわ、とりがいたんだよ」

「何をいっているんだお前は」

「だから丹羽二羽、仁和二羽、鳥がいたんだよ。あわせて四羽だ」

「……お前、丹羽も仁和も、どこにある地域かも知らないだろ」

かの

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『手術室の音楽』/掌編小説

『手術室の音楽』/掌編小説

壮大なクラシックが響き渡る。

寝転ぶ患者の躯はそのまま深い闇に繋がっているようだった。
張り巡らされる血管を決して傷つけぬよう、指先のわずかな動きに集中する。

このクラシックの曲は私のお気に入りだった。不思議なことに、この曲をかけた手術の成功率は低めだったが、関係はないはずだ。

スコープを使って細部にフォーカスするほど、果てしなく広がる空間に引きずり込まれそうになる。荘厳な音楽を耳に、するす

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『闇鍋宇宙』/掌編小説

『闇鍋宇宙』/掌編小説

つまみ上げたのは土星だった。

ワッカの部分が箸に引っ掛かっている。

「月が良かったなぁ。あれは黄色くてモチモチしていて旨いんだ。」
文句をいいながら、土星を小皿の塩にちょちょっと付けて口にほおりこむ。

サク、サク。
「意外にいけるわ。もっと土っぽいかと思った。」

次の宇宙人が鍋をつつく。

青と緑がきれいな惑星だ。
「わ!地球はナシで。水っぽいし、なんだかしょっぱいし、森が喉に刺さって痛い

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