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『手術室の音楽』/掌編小説

壮大なクラシックが響き渡る。

寝転ぶ患者の躯はそのまま深い闇に繋がっているようだった。
張り巡らされる血管を決して傷つけぬよう、指先のわずかな動きに集中する。

このクラシックの曲は私のお気に入りだった。不思議なことに、この曲をかけた手術の成功率は低めだったが、関係はないはずだ。

スコープを使って細部にフォーカスするほど、果てしなく広がる空間に引きずり込まれそうになる。荘厳な音楽を耳に、するすると無限の闇に捕まれて消えていきそうな灯火を、なんとか手繰り寄せた。

数時間後、全身麻酔から覚めた患者は言った。
「先生。魔王に連れ去られそうな、ひどい悪夢をみたんですが。」


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