2.不気味な天気と、自給自足的な幸福

美容室に行くために10時頃家を出た。すでに遅刻するかどうか危うい時間だ。なぜ毎回こうなのか?

それはともかく、今日アパートの一室から外に出て感じたのは空気の不気味さだ。

家の中にいる時は

「あぁ今日は風が強いな…こんな天気、好きだぜ…オレ」

なんて、ニヒルな風を自分でも吹かせていたが、外に出て感じたのは異様な静けさと、ぬるい風、空気に漂う雨の雰囲気だ。

まるで古典的な怪談話の中にいようで

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今日もなんとなく頑張ります!
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竜の仔の物語 −第四章|2節|−女神の庭

竜の仔の物語 −第四章|2節|−
女神の庭−その1−ラームの面々

 

 時は戻り紫千鳥十の月。

 ラームに舞い降りたクゥピオは、砦前の小屋に着陸する。すぐにウンナーナ団長が出迎え、皆を歓迎すると、飛び降りたフリセラがさっそく彼と何やら話しはじめる。ドンムゴは小屋の裏手に回り、三匹の山羊を連れてくる。すると喉を鳴らし鎌首を持ち上げたクゥピオが素早く山羊をついばみ、一瞬で丸呑みする。

 ラウと

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ありがたいことじゃ
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【東京が雨の日にだけ投稿される小説】~序~ 白雨は隠す

「いいや、今日初めて入った。ずっと気になっていた店だから、いつか入ってみたいと思っていたんだ」

狭く、天井の低い店内。お互いの声も小さくなる。何のうしろめたさもないのに。気が付くと、店主に聞こえないように話をしている。

L字型のカウンターの中からは、包丁で何かを切っている音がする。

「そんなに長いこと気になっていたなら、もっと早く入ればよかったじゃないですか」
「いや、それがなかなかタイミン

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-R-

寒空の下、息を切らしながら僕は黙々と歩き続けている。

そうして。

らしくないなと思いながら、ボクは彼女の手を掴んだ。

どちらが先に入水するか、したかなんていうのは今はよくわかってない。

けれど、僕は彼女がをあいしていたことを知っている。

だから、僕は雪のように白い腕を掴んで、彼女を強く抱きしめた。

どうして、あんな風になったのか……。

今の僕にはわからない。

けど、「愛しているよ、

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-A-

ある日、唐突に現れたモノでも。

時とともに馴染むモノがある。

この世界においてAというものは最初を意味するらしいが、

ワタシたちにはそもそも名前というモノがなかったので、

人に似せた時点で識別ができるようにしなければいけないらしかった。

ということでエーさんと呼ばれていたワタシ、

【人類側黒虹体0号】という名称から、

ワタシには正式にARIS-アリスという名前が付いた。

rainb

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散々と降るさくらよ君は

どうしても伝えたいことがあったんだ。

初めて君を心の中に入れたとき、

どうしようもなく錆びついた心の中に、

急速に電気が流れた様な熱量を感じた。

そうしてボクはまた一つ人間に近くなったこと。

時計の針が進むたびに、

周りの景色や風の匂いが変わっていくことが、

ボクにはどうしても耐えられなかったこと。

どうしても伝えたい言葉がたくさんありすぎて、

こんなにも時間がかかってしまったこ

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「茜の鏡面・後編」

前編はこちら

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3.

幼い日の痛みと、息の苦しさを、忘れる日はありません。
一面隔てたおそらは、もうわたしのもとへ訪れることはありません。
いい聞かせて、それでも今日も明日も、おそらを見上げます。

「どうですか」
思わず、痛そうですね、と、男は眉を顰めました

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読んでくださってありがとうございます!
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#14『イマジン』【講談社受賞作家が、100編短編小説を書く夏】

若さが砂時計みたいにどんどん減っていく。

私はまだ、夢のしっぽを掴んだかどうか、くらい。

砂時計を確認しては焦る。焦って走り出すのに、たまに、突然止まってしまう。

―このまま歩いた先にあるものは、なんだろう?

傲慢かもしれないが、先にあるものは、完璧な幸せでないといけない。愛せる人に囲まれて、素敵な空間で呼吸をして、湯船につかりながら「ああーすごいな、いい人生だなほんとに」ってにんまりする

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覇道の徒路 −終話−見つめるその先

竜の仔の物語 −第四章|1節|−
覇道の徒路
−終話−見つめるその先

 

 突然現れ、そして去っていった戦神のあまりに常軌を逸した凶事の後で、そこにいる誰しもが呆然と立ち尽くし動けない。かなりの間が空き、ひとりの兵が我に返る。隣の者の肩を叩き、その者が別の者の肩を揺する。そうして、時が完全に動き出すまでには、かなりの時間を要する。

 メイナンドは折れた脇腹を押さえて、マールの肩に手を置く。声

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おぬしは!・・まさかな・・・、だが、とりあえず礼は言っておこう
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#13『目が覚めて』【講談社受賞作家が、100編短編小説を書く夏】

「あ、あなたが」

私を見上げた、知らない女の子。

緊張と余裕が、丸くて大きい瞳の中で揺れている。

―ああ、この子が、祐介の新しい彼女か。

私はスロープをゆっくりとあがってこちらに近づいてくるその子を見て、冷静にそう思った。

タイトなジーンズにパフスリーブの黄色いブラウス。

ヘルシーなその子はきっと21歳か23歳かで、大きな瞳が特徴的だった。

祐介は、やけに堂々とその子を私に紹介した。

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