矢入えいど@『ファースト読み物』

すきま時間にさっと読める、超短編のお話を書きます。…食べ物や飲み物のように、数十秒で摂…

矢入えいど@『ファースト読み物』

すきま時間にさっと読める、超短編のお話を書きます。…食べ物や飲み物のように、数十秒で摂取できる文章。栄養価は不明。短詩型、イラストも。 みんなのフォトギャラリーからお写真お借りします。

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『若返りの湯』/掌編小説

若返りの湯。なんとも素晴らしい響きだ。 今巷で大人気となっているのは、数ヶ月前に新しく沸き出した温泉で、なんとその湯には文字通り若返り効果のあることが、専門家によって発表された。 猫も杓子も温泉を求める、空前の温泉ブームが巻き起こっていた。 そしてこの男も若返りの湯を求め、滅多にとれない休暇を利用して温泉地にやってきた。 この男が訪れたのは、大きな声では言えないが、効果の程度が未知数だと危惧する研究者たちによって違法とされた「源泉掛け流し」の湯であった。 きっと絶大な効果

    • 耳ながうさぎ/#推し短歌

      推し短歌に参加します。推しは万年筆です! 文房具沼を覗いて以来ハマった万年筆のことを詠みました。万年筆の解説文付き。 歩道橋ポケットにあるあたたかい黄色いLAMYをあるいてわたる LAMY safari yellow ラミーの定番シリーズ。軽くて学校でもピクニックでも、どこへでも持っていけそうな万年筆。プラスチックのボディと大きなクリップがカジュアルで使いやすい。カラーもたくさんあって楽しい。ペン先はスチール。 ペリカンの白はやさしい回復魔法補充して手にとても良い

      • 『探し物』/ショートショート・掌編小説

         見たところ、パーツの数は数百だった。  陽が沈まないうちに、なるべく平らな場所へ並べて、ひとつずつじっくりと手入れする。組み立てるときの順番も大切だ。わからなくならないように、足の先から、少しずつ解体して並べた。真鍮製のパーツが陽を受けてゆるやかに光っている。とはいえ、ずっと動きつづけてきたパーツは曇りを帯びて、ところどころに錆びもあった。これを布でこする。  すこし軋むような音が気になって、なんとなく手入れすることにしたけれど、まだまだ時間がかかりそうだった。けれど、

        • 『嫌な一日』/掌編小説(ノベルアップ+)

          小説投稿サイト、ノベルアップ+さんで開催中の、イヤミス短編小説コンテストに参加しました。 イヤミスとは、読んだ後にイヤな気持ちになるミステリーのジャンルです。 湊かなえ先生の「告白」が有名です。映画化した作品を見たことがありますが、先が気になるストーリーやラストも含め、とても印象に残る作品でした。 投稿したのは2,000字以内の短い話ですが、 嫌な気持ちになる方がいるかもしれません。(注意) 暴力描写を含みます。 下のリンクから

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        『若返りの湯』/掌編小説

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          『364日のボトルメール』/掌編小説(pixiv)

          pixivさんのpixiv小説1000億字突破記念「1000字コンテスト」に参加しています。 テーマはボトルメールで、1000字以内です。 下のリンクから

          『364日のボトルメール』/掌編小説(pixiv)

          『この世界は間違っている』/掌編小説(NOVEL DAYS)

          小説投稿サイト、NOVEL DAYSさんのコンテストに応募したものです。 お題は「猫」「チョコレート」「目覚まし時計」の3つ。 下のリンクから

          『この世界は間違っている』/掌編小説(NOVEL DAYS)

          『地球は球体か平面か?新説「ドットアース」提言』/掌編小説

          pixivの小説投稿企画に参加しています。 下のリンクから

          『地球は球体か平面か?新説「ドットアース」提言』/掌編小説

          『ダイイング・メッセージ』/掌編小説

          密室で、ひとりの男が死んだ。 男が発見された部屋には内側から鍵がかかっており、南側にある窓も二重に施錠されカーテンが引いてあった。部屋のカギは机の引き出しにしまわれていて、外から開けることはできない。 部屋には毛足の長い赤い絨毯が敷かれ、木製の茶色い机が一つと、その上に万年筆やボールペンなどの筆記具が置かれている。 男の遺体には、後ろから鈍器で殴られたような跡も、ナイフで刺されたような傷もなく、ただ一点を除いては、特に目立った傷がなかった。 ただ一つあったのは、喉のあ

          『ダイイング・メッセージ』/掌編小説

          『告白』/54字の物語

          君に二つの嘘をついてしまった。一つは僕は嘘つきじゃないということ。もう一つは君が僕の最後の恋人だということ。

          『衝動』/ショートショート

          もしも僕がオオカミだったなら。 今すぐ走り出して、君のくるくるの毛におおわれた、柔らかいからだに牙を突き立てていただろう。 それが僕の本能で、自然なことだから。 だから大丈夫。 君は泣かなくていい。 ただこの世界で、 君がオオカミで、僕が羊だった。 それだけのことなのだから。

          『衝動』/ショートショート

          『ラベンダー畑と私の旅』/掌編小説・ショートショート

          私は数時間の旅を終えて到着した。 はじめて訪れる、きれいな土地だった。 一面に広がるラベンダー畑。 この時期にして正解だ。 鮮やかな紫が美しく私を癒してくれる。 私は背が高い。 高い靴も履いていないのだけれど、どうしても目立ってしまう。 今日もまた、すれ違う子供たちが驚いて逃げていった。 「お花を踏まないように気を付けて」 つい鋭い声を出してしまう。 気を取り直してラベンダーの香りを楽しむ。 ひざを曲げて中腰になると丁度いい高さだ。 良い香り。花は素晴らしい。

          『ラベンダー畑と私の旅』/掌編小説・ショートショート

          『フェイスパックが剥がれない』/掌編小説

          フェイスパックが剥がれない。 夜通しつけたまま寝てしまったのが悪かった。 たくさんの美容成分を含んでぷるぷるだった白いパックは、今朝私の顔の上でひからびていた。 お風呂上がりにフェイスパックをつけて、ベッドの上でASMR動画をみていたら、いつの間にか寝てしまったようだ。 うとうとと、顔の上に何度もスマホを落として目が覚めたとき、起きあがってパックを剥がすべきだった。 間の悪いことに今日は月曜日。週の始めから仕事を休むわけにはいかない。 世のサラリーマンがもっとも憂鬱な月

          『フェイスパックが剥がれない』/掌編小説

          『またこの世界転生』/掌編小説・ショートショート

          僕はネズミになっていた。 それもドブネズミ。 おかしい。 大きなトラックにはねられて死んだはずなのに、またこの世界に転生していた。 いつになったら僕は、剣と魔法のすてきな異世界に転生して、魔法の才にあふれた第十王子として自由で優雅な生活をおくれるのだろうか。 この前は焦げた食パン、その前は排水溝につまった輪ゴムだった。 今回はまた生き物になれただけ、ましかもしれない。 とりあえず、腹が減っては戦はできぬ。なにかおいしい食べ物を探しにいこう。 僕は暗い下水道から這い出し

          『またこの世界転生』/掌編小説・ショートショート

          『音楽室のなにか』/掌編小説

          不思議なピアノだった。 音楽室のさらに奥の部屋にある、もう一台の白いピアノ。 校舎が建ったときにはなかったはずのこの部屋は、誰も知らぬうちにできていた。 この部屋のピアノの椅子に座ると、楽器を弾いたことのないものでもポロポロと指が動き、きれいな旋律を奏でる。 奏者の感情を汲み取ってそれを音へと変換してくれるようだった。 弾いている本人でもわからないほどの心の内の深い想いが旋律となる。 奥底に隠していたトラウマも傷も、激しく静かで荒々しい曲調となって鳴り響いた。 音楽室の方か

          『音楽室のなにか』/掌編小説

          『シール1枚日記』/掌編小説

          姪っ子がシールにはまっている。 小学三年生の元気な女の子だ。 姉の住む家と私と両親のいる実家は近く、姉は姪っ子を連れてしょっちゅう家にやってきていた。私も仕事が休みの日には姪っ子と一緒にゲームをやったり、絵本を読んだり、楽しく過ごしている。 そんな姪っ子の今のブームが、かわいいキャラクターのシールを集めること。姉に文房具屋さんや大きな本屋さんで買ってもらったシールを大事にシール手帳へ貼って、いつも眺めていた。一緒に出掛けたときには私も何枚か買ってプレゼントしている。 「これ

          『シール1枚日記』/掌編小説

          『符丁を集めて旅する話』/短編小説

          世界と符丁 符丁だ。世界は暗示と符丁に溢れている。 それらをあつめて進んでいけば、いずれ大きな幸せにたどり着けるのではないか。 それが大学四年間で僕が没頭した研究したテーマだった。 量子力学研究によれば、あらゆる可能性は同時に存在しており、客観的なただひとつの世界というものは存在しない。不確定性原理の示すように、あらゆるものは不確かで、多重に存在する世界を観測して固定するのは、紛れもない僕自身だ。僕の目についた符丁をもとに人生を歩むことは、至極真っ当な考えだと思った。 そ

          『符丁を集めて旅する話』/短編小説