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#ショートショート
毎週ショートショートお題 「この中にお殿様はいらっしゃいますか?」
機内にCAの緊迫した叫び声が響いた。
「この中にお殿様はいらっしゃいますか!?」
乗客達は一瞬唖然とした表情を浮かべ、数分前に体調不良の外国人らしき男性客がCAに付き添われ移動していたのを思い出した。きっと慌てたCAが間違えて口走ってしまったのだろう。
私はゆっくりと立ち上がり、CAの元へ向かった。
「私は大学病院で医者をしている者だが」
名乗り出た私の頬をCAは思いっきり平手
毎週ショートショートお題 「それでも地球は曲がっている」
男は宇宙ステーションで長く生活をしていた。
一度の滞在期間は半年ほどで宇宙の環境を利用した実験や研究を行う傍ら、男は毎日のように地球を眺め観察していた。最初のうちは故郷である地球への愛と畏敬の念からくるものだった。しかし二度目の宇宙での活動が始まってすぐに、男はある異変に気付いた。
地球が本来の楕円体から、内側に凹むように曲がり始めているのだ。
それは誰よりも地球を観察している男にしか気
毎週ショートショートお題 「夜からの手紙」
先日の飲み会での話ですが、やはり少し訂正させて頂きたくて手紙を書きました。
別にあなたの言ったことに怒りを感じているとかではなく、ほんの少しだけあなたにも分かって欲しいと思ったのです。
あなたは私を陰気だと、そこは希望のない世界だと仰いました。もちろん陽の光が差し込むあなたの世界は希望に満ちていると思います。人々は笑顔で挨拶を交わし、素晴らしい一日を始めることが出来るのだから。
けれどそ
毎週ショートショートお題 「残り物には懺悔がある」
暗闇の中で目を覚ました。
酒を飲み酷く酔っぱらった記憶だけが頭には残っていて、今がまだ夜なのか、それとも昼間なのかも分からないまま、頭の下にある枕の手触りでここが自分の部屋なのだと認識する。
時間を確認しようとスマホに伸ばしかけた手を、そのまま眼前に広がる闇の中へ差し出してみた。
時間が抜け落ちてしまったこの空間は、まるで世界の終わりのようだ。この静かな世界の終わりに、なぜ僕は生き残ったの
毎週ショートショートお題 「ときめきビザ」
留学して間もない不安と緊張の中で、仲間達が開いてくれたパーティーが嬉しくて飲みすぎてしまった。
スマホも財布もバッグの中に入っていたが、その中に入れていたビザが見当たらない。昨日の服のまま目覚めたベッドの上で、私は酔ってバッグの中身を床にぶち撒けたことを思い出した。
このまま見つからなかったらどうしよう?悪用される可能性は?
一気に押し寄せる不安の中で突然インターフォンが鳴り、モニターを
毎週ショートショートお題 「黒幕甲子園」
「あれ?古田さん、ここで何してんすか?捜査の一環ですか?」
「阿呆、俺は休みで甲子園見に来ただけや。こう見えても昔は高校球児やったからな。てかお前こそ何してんねん?」
「いや僕は野球にはあんま興味ないけど、ちょっとおもろい噂を聞きましてね」
「なんやそれ?」
「今年の甲子園、えらい不可解な判定が多いと思いません?」
「…確かにそう言われたら、一回戦からそれ判定逆ちゃうかってシーンは多かっ
毎週ショートショートお題 「非情怪談」
タワーマンションの警備の仕事に就いてもうすぐ半年になる。
基本的には監視モニターのチェックや巡回警備と設備点検をするだけで、有事の事態が起こらなければ楽な仕事だ。ただ唯一の問題が、一緒に働く先輩である。
この先輩は三年ほどのキャリアがあり、僕に仕事を覚えさせるという名目でほとんどモニターの前から動こうとしない。
今日も夜になって突然エレベーターが壊れたのだが、住人が帰って来る度に僕は
毎週ショートショートお題 「見たことがないスポーツ・薔薇の決闘」
中世のヨーロッパでは頻繁に決闘が行われていた。
特にフィアンセを巡る男同士の決闘に至っては立会人もいないままに行われることが多く、無利益な決闘を禁止する法律が制定され、決闘の代わりにあるスポーツが生まれた。
正装をした二人の男の前には、白いドレスを着た意中の女性が一人シルバーのトレイを手に立っている。
男達の片方が赤い薔薇を、もう片方が青い薔薇を持って女性から三メートル離れた場所に並ぶ。