毎週ショートショートお題 「非情怪談」
タワーマンションの警備の仕事に就いてもうすぐ半年になる。
基本的には監視モニターのチェックや巡回警備と設備点検をするだけで、有事の事態が起こらなければ楽な仕事だ。ただ唯一の問題が、一緒に働く先輩である。
この先輩は三年ほどのキャリアがあり、僕に仕事を覚えさせるという名目でほとんどモニターの前から動こうとしない。
今日も夜になって突然エレベーターが壊れたのだが、住人が帰って来る度に僕は一人でその説明と案内に駆り出された。
深夜に僕が休憩から戻ると、モニターには住人のお婆さんが買い物袋を下げて困っている様子が映し出されていた。
先輩はモニターの前で椅子にふんぞり返ったまま微動だにしない。
「自分行ってきます!」
僕は指示を出される前にロビーに向かった。
お年寄りが困っているのになんて冷たい人間だろうかと考えると怒りが込み上げてきた。
ロビーをうろうろするお婆さん見つけ、僕は優しく話しかけた。
「すいません今エレベーターが故障しておりまして、皆様あちらの非常階段からの移動をお願いしております。荷物はお部屋までお持ちしますんで」
世間話をしながら階段に繋がるドアを開けると、スマホに先輩からの着信があった。
「おいっ!お前勝手に何してんだよ!」
「何ってあなたが動かないから僕がやってるんですよ。てかよくこの人を無視できましたね、あなたには人の心もないんですか?」
「いや、だから一人で何やってんだよ。さっきからずっとモニター見てるけど、お前以外は誰も映ってねぇぞ」
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