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蒔倉のショートショート

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私が書いたショートショートや掌編小説をまとめたマガジンです。毎週ショートショートnoteやその他お題で書いた作品も含まれます。だいたい410字〜1000字の小説となっております。
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記事一覧

永久欠番のあなたへ。【ショートショート】

永久欠番のあなたへ。【ショートショート】

 子どもの日のテーマパークは賑やかだった。3歳になる息子の一希も楽しげにはしゃいでいる。夫は仕事のため一緒ではなかったが、それでも一希とこのテーマパークに来れることは私にとって何よりも嬉しかった。

 あの日、辛うじて命を繋ぎ止めた長男は保育器の中でその小さな生涯を終えた。
「残念ですが…お力になれず、申し訳ありません」
 そう言われた時は絶望した。涙も出ないほど現実味がなく自分の心がどこかへ消え

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痩せたガールの日常。【ショートショート】

痩せたガールの日常。【ショートショート】

「聞いて!また痩せてた!500g!」

 始まった。定例のダイエット報告会。水分が減っただけだろうと思ったが、口に出したらシバかれる。私は黙って話を聞くことにした。
 彼女達3人は常にカロリー&体重と戦っている。恐ろしいのはそれだけではない。なんとグループチャットまで組んで、そこで昼食以降に食べた物の内容を報告する義務があるのだ。しかも、その義務は全員が目標体重を達成するまで抜けられないという、さ

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そんなはずがない。【ショートショート】

そんなはずがない。【ショートショート】

今日はあいにくの雨。
「圭太、早くしなさい。遅れるわよ」
「うん、今行くー!」
5歳になる息子は先日買ったばかりのオバケレインコートを嬉しそうに着ている。園のみんなに自慢したいのだろう、買った日からずっと楽しみにしていた。

通っている幼稚園は歩いて行ける距離にある。手を繋ぎ、できるだけ圭太が濡れないように傘を持った。
園に着くやいなや先生の元へ向かい自慢げに燥いでいる。
私は圭太を預け家へと戻っ

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祈りの雨【ショートショート】

祈りの雨【ショートショート】

 どうやら好きな子ができたあなたは今日も念入りに鏡と向き合っている。それから支度を終え通学鞄を手に玄関へと向かった。
「いってきます」
 その声はまるで生に満ち溢れていて、そんなあなたのこれからが気になった。さして私に力はないが、できる事をしてあげたくなり、こうして今も見守っている。

 あなたの視線の先、チラチラと目で追うあの子は楽しげに笑って過ごしている。長い髪を一つに括って、ナチュラルなメイ

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時を超えて。【ショートショート】

時を超えて。【ショートショート】

「其方、いったい何者だ」

私は…。

あれは桜が満開に咲いた頃。
田舎の神社に在る一本の枝垂れ桜。

私は一人、その場所に居た。

なぜだか不意にこの桜を見たくなった。
樹齢何百年ともなるであろう立派な太い幹に美しい桜が豪快に枝垂れる。
私は思わずその幹にそっと触れた。

「きれい…」

トクンと鼓動が鳴り、風が髪をなびかせる。まるで何かと繋がった気がした。私を覆う枝垂れ桜はサラサラと揺れ、花弁

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もう一度。【ショートショート】

もう一度。【ショートショート】

深夜のバス停。満月ガスとバスの往復が一枚綴りになった切符を握りしめる。

「あんたもこのバスに乗んの」
女がぶっきらぼうに話しかける。

「だったら何」
俺はガン飛ばしてそう答えた。

「このバスの行先、分かってんの」
「あぁ」
女はそれ以上何も聞いてはこなかった。

到着したバスへ乗り込む。
前方へ座った女は車窓を物悲しそうに眺めていた。

元よりこのバスの噂は知っていた。
一度だけ望む幻が見れ

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月夜の暗々裏。【ショートショート】

月夜の暗々裏。【ショートショート】

ようやく手に入れた三日月ファストパス。

三日月の夜。重厚な扉の前に立つ。防犯カメラに姿を捉えられ「合言葉は」と、問われた。

「暗々裏」

パスをかざすと、ギギギと音を立て扉が開く。
そこは名のある月の夜にだけ開かれる場所。

丸見えの満月も、暗闇で存在だけ感じる新月も、
裸エプロンや裸ワイシャツのような半分だけ見える上弦や下弦の月も、どれも捨て難い。

だけど俺は三日月が好みだ。
チラッと見え

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おかげさまで猫まみれ。【ショートショート】

おかげさまで猫まみれ。【ショートショート】

毎週ショートショートnoteのお題を確認する。
流行りを知らない私に訪れた『突然の猫ミーム』

猫ミームとは…。

思わず私はGoogle先生を頼る。
分かりやすく言えば、猫を動画に起用してバズる事か。

しかし、それでもやはり、なかなかピンとはこない。

そこで私はYouTube先生を頼る。
そこには、《ハピハピハッピー♪》の歌とともに、必死に上げた手で拍手をするように何かを捕まえようと、ピョン

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猫ミームでバズったのはこのオイラ。【ショートショート】

猫ミームでバズったのはこのオイラ。【ショートショート】

青天の霹靂。オイラは一躍有名になった。

オイラは田舎のその辺に住んでいる冴えないブサイクな陰キャだ。

帰り道の休憩所、振り返る姿をパシャリ。
それは一瞬の事だった。
気の抜けた変な顔とポーズ。

あの野郎、オイラの事を盗撮しやがって…!

「晒すなんてやめろ!デジタルタトゥーは御免にゃ!」あぁ、オイラの猫生が終わった…。

そう思ったが、それは逆だった。
“突然の猫ミーム”ブーム。

オイラの

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ドロドロ。【ショートショート】

ドロドロ。【ショートショート】

ある女から人を殺したと依頼がきた。俺はすぐに現場へ向う。
そこには男が血まみれで横たわっている。
俺はまだ温もりのある男をスーツケースに詰め込み、部屋の後処理をした。
殺した理由は、男の気持ちが他の女に傾いたからだった。

後日、新たな女から依頼がきた。現場の死体を確認する。殺されていた女は、先日男を殺したあの女だった。
「私の大好きな人を殺した罰よ!」と殺した方の女は叫んでいる。
俺は冷えないう

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悪魔を宿す。【ショートショート】#ですげーむ

悪魔を宿す。【ショートショート】#ですげーむ

俺は悪魔と契約を交わした。
特定の相手に呪いをかけられる契約だ。

「デス語で願いを言った後に3語の簡単な呪文を唱えるだけさ。」と、悪魔はしたり顔だ。
悪魔によると、呪文の前に言ったデス語の願いが叶うという。

これは自己犠牲からなる悪魔の呪文。
一定の寿命と引き換えに発動される。

気づかれないように、あの子の後ろに立つ。
俺は鋭く構える。

構え方について悪魔から指定はなかったが、右手が疼いた

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お子様ランチの境地。【ショートショート】

お子様ランチの境地。【ショートショート】

僕はとある酒場にいた。
「今回はどんな所を冒険してきた?」そう仲間に尋ねられる。
「今回は洞窟。」
「ほう、どうだった、何があった。」仲間は興味津々だ。

「洞窟の奥は…お子様ランチだった。」

その言葉を聞き、仲間は怪訝な顔で首を傾げた。
「お子様ランチ?」
「そう、あれは紛れもなくお子様ランチだった。」

=

人類未踏の地と名高い島の洞窟。洞窟は入り組んでおり、分かれ道を直感で突き進んでいく

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夜泣きの夜は。【詩的掌編小説】

夜泣きの夜は。【詩的掌編小説】

僕は怖かった。
眠ると真っ暗な世界に
ぽつんと一人、僕だけになっていた。
お父さんもお母さんも居なかった。

大きな戸愚呂を巻いた何が
ゆっくりと僕を飲み込むように近づいてくる。

僕はそれが怖かった。

眠っているといつも襲ってくるそれは
まるで黒い大きな怪物で
僕はすごく怖くて一人泣いた。
周りに誰も居なくて大声で泣いた。

誰かに助けて欲しくて
涙がボロボロ止まらなくて
怖くて怖くてヒクヒク

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間食はデジタルで。【ショートショート】

間食はデジタルで。【ショートショート】

経口摂取による不必要な間食はしないような世界になった。
それも、食のデジタル化が進んだためだ。

まだ身体を永久化することは叶わない昨今、脳への刺激で感覚を誤魔化す技術が作られた。

それは食べ物をデジタル化し、それを特殊な体内内蔵スキャナーでスキャンする。すると電気信号で満腹中枢が刺激され、その物を食べた気になるというものだ。

バレンタインもこれにならいデジタル化が当たり前となった。それが今日

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