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永久欠番のあなたへ。【ショートショート】

 子どもの日のテーマパークは賑やかだった。3歳になる息子の一希かずきも楽しげにはしゃいでいる。夫は仕事のため一緒ではなかったが、それでも一希とこのテーマパークに来れることは私にとって何よりも嬉しかった。

 あの日、辛うじて命を繋ぎ止めた長男は保育器の中でその小さな生涯を終えた。
「残念ですが…お力になれず、申し訳ありません」
 そう言われた時は絶望した。涙も出ないほど現実味がなく自分の心がどこかへ消えた。途端に、夢見ていた家族の姿が途方もなく遠くに感じた。
 それから暫くは生きた心地がしなかった。

 不意に一希に袖を引かれ我に返る。繋ぎ直した手にじんわりと温かさが広がり、一希の小さな手があの時握れなかった小さな手と重なった。あの子も生きていたらきっとーー。
 しかし、もうここにはいない。それでも忘れることはない。一希の成長とともにあの子の成長が私の中にはあった。

 テーマパークを目一杯楽しみ終えて、お土産を買おうと店に入る。一希は真っ先に玩具コーナーへと向かった。沢山ある玩具の中から気に入った恐竜のぬいぐるみを大事そうに抱えている。
「それにするの?」
「うん。あとね、これも」
 そういうと一希はお菓子を2つカゴへと入れた。
「2つも食べるの?」
「んーん、1個はにーの」
 一希はあの子のことを『にー』と呼ぶ。私があの子の事を伝える時にお兄ちゃんと呼んでいたからだろう。
「そっか、お兄ちゃんも喜ぶね」

 一希は知ってか知らずか、私が時折仏壇にお供えするのを見て、自分のお菓子を半分あげたりと真似するようになった。
 私はそんな一希を見る度に思う。あの子はこれからも一希の兄弟であり、私の大切な子供であり、この家の長男であり続けると。




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今回のお題
▶︎シロクマ文芸部さん『子どもの日』
▶︎青ブラ文学部さん『永久欠番のあなたへ』


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メインの小説はどうでしたか。

この後にデザートでもいかがですか。

ということで、私がこれを書くに至った経緯や意図、その時の思いや感情などを知りたいと思った方はぜひ以下リンク先の『たとえここにいなくても。【デザート】』を読んでみてください。

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