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芸術一般

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芸術について、なんでも書きます。はじめはヨーロッパ絵画をかなり題材にしていましたが、現在は映画評論・芸術論・文学論などが多くなっています。
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#文学

<書評>『悲劇の死』

<書評>『悲劇の死』

『悲劇の死 The Death of Tragedy』ジョージ・スタイナー George Steiner 喜志哲雄 蜂谷昭雄訳 筑摩書房 1979年 原書は1961年

 本書の内容は、もちろん本文が中心なのだが、スタイナーによる最後の解説的な第10章とそれを補足する訳者の解説は、最初に読むべきだと思った。最初に読んでいれば、本文の感じ方がかなり異なった気がする。

 アメリカ人ジョージ・スタイナ

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<書評>『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』

<書評>『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』

『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ Rosencrantz and Guildenstern are dead』 トム・ストッパードTom Stoppard 著 松岡和子訳 原著は1967年 翻訳は1985年 劇書房

 20世紀を代表する不条理を描いた劇作家の一人、チェコ人ながら英語圏で成長した英語作家のトム・ストッパードによる、シェイクスピアの『ハムレット』に名前だけ登場する人物二人

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<書評>『教育術』

<書評>『教育術』

『教育術Eeziehungskunst Methodisch-Didaktiscehs』 ルドルフ・シュタイナー Rudolf Steiner 著 坂野雄二・落合幸子訳 1989年 みすず書房 原著は1939年発行

 神智学(人智学)のルドルフ・シュタイナーによる、副題にあるとおり、「1919年8月21日から9月5日にかけて、シュトゥットガルトにおいて開催された14日間の講演集」の速記録をまとめ

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<書評>『デカメロン』

<書評>『デカメロン』

『デカメロン Decameron』 ジョバンニ・ボッカッチョ Giovanni Boccaccio著 平川祐弘訳 2017年 川出書房文庫全三巻 原著は、1351年のイタリア、フィレンツェ

 翻訳者曰く、ダンテ・アリギエリ『神曲』に並ぶ、イタリアルネサンスが生んだ世界的かつ歴史的な名著である。そして、巷間に流説している艶笑物語集だけではないことが、実際に全文を読むことでわかる。多くの人が、まった

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自由律俳句(その8)

自由律俳句(その8)

〇 2023年9月27日。酷暑の夏が終わり、久々に公園を散策する。季節的に花は少ないが、曇天の中に見える太陽が力強い。そして、トンボが飛び、鈴虫が草の中で音楽を奏でる。ふと見ると、大木の下に草花の芽が大きく出ていた。私もようやく芽が出るのか?散歩をすると、詩作が浮かぶ。不思議だ。

腰が伸びない私を 傍で見守るトンボよ お前よりは長生きしているぞ

無視すれば近寄り 探せば逃げるトンボ お前の名は

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<芸術一般>文学作品の評価は形式で決まる

<芸術一般>文学作品の評価は形式で決まる

 わかっている人には当たり前のことだと思うが、文学作品の評価は、書かれた内容(何を書いたか)ではなく、書かれた形式(どう書いたか)によって決まる。

 例えば、芥川賞受賞者が発表されると、マスコミは受賞作品について「xxxxのことを書いたのが評価された」云々と内容を紹介する。しかし、その書かれた内容が、どんなに特別な視点からのものであっても、またどんなに特別な(誰も知らないような)内容であって

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<散文詩>「前奏曲集第1巻」

<散文詩>「前奏曲集第1巻」

 クロード・アシル・ドビュッシー作曲「前奏曲集第1巻」から,その各曲の題名と曲想をイメージした散文詩を作ってみた。これは,ドビュッシーの世界でもあり,私の世界でもある。

1.デルフィの舞姫

老夫婦は,エーゲ海の小さな島を訪れた。
デルフィという名の島だった。
二人は言葉を交わすこともなく,
島の中央に残る古代の神殿跡を目指した。

神殿跡には,
腰掛けるのにちょうどよい大理石があった。
二人は

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<書評>『現代詩・土着と原質』

<書評>『現代詩・土着と原質』

『現代詩・土着と原質』 小川和佑著 教育出版センター 1976年

1.総論的なもの 私が明治の文芸科(小川和佑は同大同科の先輩にあたる。既に逝去されており、遅ればせながら後輩・受講生としてご冥福を祈ります)3年になったとき、文学研究のゼミが自由に選考できた。特定の希望はなかったが、友人が「小川和佑のゼミが良いから、一緒に入ろう」と誘ってくれて、それで内容を良く知らずに入った。4年次も続けて入った

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<書評>『定本 種田山頭火句集』

<書評>『定本 種田山頭火句集』

『定本 種田山頭火句集』 彌生書房 1971(昭和46)年初版 (購入は、1980年頃か?)

俳人の種田山頭火の経歴等については、私はあまり詳しくないので、以下のウィキペディアを参照願います。

 私が、物質的(貧窮)にも精神的(自分自身が見えない)にも苦悩していた、19~20歳の頃、なにか「救い」を求めて、この山頭火の句集を買い求めたが、当然のことながら、そこには「救い」はなく、むしろさらに気

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<書評>『なぜベケットか』

<書評>『なぜベケットか』

『なぜベケットか』 イノック・ブレイター著 安達まみ訳 1990年白水社 原書は、1989年にロンドンのThames and Hudson社より出版。

 ベケットは1906年にダブリンのプロテスタントの上流階級に生まれ、1989年にパリで亡くなった、『ゴドーを待ちながら』で著名な劇作家・映像作家・小説家・詩人であり、1969年にノーベル文学賞を受賞したが、授賞式への出席やインタビューは断っている

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<閑話休題>2022年のまとめと2023年の抱負

<閑話休題>2022年のまとめと2023年の抱負

 明けましておめでとうございます。旧年中のご愛顧を感謝申し上げますとともに、引き続き本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

 2022年4月以降は、定年退職して時間ができたこともあり、読書及び創作活動に勤しむことができた。そこで、2022年のまとめと2023年の抱負を書きたい。

1.読書

(1)2022年のまとめ

 なんといっても、ダンテ『神曲』を邦訳ながら読了できたこと。翻訳しているせいも

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<閑話休題>表現することの選択肢について

<閑話休題>表現することの選択肢について

(はじめに)
 私は、エッセイとして書いているつもりだが、どこか論文めいた内容になってしまうのは、私の本意ではない。私が書きたいことは、まず書くこと=話すこととしての表現は、行動すること=社会参加と同列だということなのです。

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1.「何をやったか」

 大学時代、「重要なことは、何を言ったかではない、何をやったかだ」と良く聞かされていた。それは、今流行りの言葉で言

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