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真っ白なエッセイ

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表紙のつけようがないような話ばかり。
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#日常

ピース

ピース

今年の4月の始め頃、
トロントに移住した。

玄関口のユニオン駅に降り立ち、
目の前に広がる高層ビル群と、
トロントのシンボルタワーに圧倒された僕は、
残雪の街を行き先も無く歩き続け、
初めて見る風景の中に身を委ねた。
それから暫くしてある事に気付いた。
欧米人の中に多様な民族が入り混じる特殊な雰囲気が漂うこの地で、
不思議と僕はどこか落ち着きを感じていた。
歩いていくうちにそれが何でかは直ぐに分

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チョコクロワッサン

チョコクロワッサン

僕はパンが嫌いだ。

朝食は決まって米と納豆と味噌汁。
今となっては朝食を取る習慣は無いのだが、
起きて直ぐ体に何を取り込むかと問われればそう答える。
朝だからというわけではない。
いつ何時、パンの類は求めない。
ピザもクレープも僕に言わせたら一緒である。
思い返せば、中学生以降、パンを食べたいと思ったことは一度もない。
なぜ中学生の時からなのかは分からないし、
パンに対する過去の因縁や恨みもない

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夏休み

夏休み

2021年もあと数日で終わる。

過去に意識が飛ぶと結局のところ落ち込むだけだから、
あまり1年を振り返るとかはしたくない方なんだけど、
時折無意識に過去に引っ張られて嫌になる。

聞かれはしないが、
2021年はどんな年って聞かれたらこう思ってしまう、

進んでいた物に見えないブレーキがかかって、
周りを見たら同じような現象が起きていて、
それでもどうにか前に進もうとしても中々進まない。

抽象

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ルーティーンがない

ルーティーンがない

日々の生活に充足感を感じている人、
豊かな暮らしを送っている人、
仕事もプライベートも上手くいっている人、

これらの人たちに共通していることがある。

必ずと言っていいほど、彼らの生活の中心に
ルーティーンがある。

この自己啓発本的な入りに打って変わって、

僕の生活にルーティーンはない。

ましてや、色んな偉人や成功者を列挙して
いかにそれが大事かを説いた末に、
ルーティーンのないことに罪悪

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ガンジス川を見る

ガンジス川を見る

コロナの蔓延は人の蔓延を制しした。

Go toと背中を押されても腰は重い。 

国外となれば尚更。
それでも毎日上空を浮かぶあの鉄の塊に一体何人の人が運ばれているのだろうか。

社会人である僕の場合、
どっちにしたって仕事だと諦めもつくものだが、
せっかく自由に動ける時間を与えられた人たちにしてみればたまったもんじゃんない。

僕が私立の学生だった時分、

大学とは
人生で1番海外に行ける期間だ

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老中・菅さん

老中・菅さん

江戸時代後期の話。

江戸の三代改革の一つ、
天保の改革とやらが老中・水野忠邦によって打ち出された。

天保の大飢饉とやらがあって、
食糧不足、人口増加、物価の上昇が起こって
幕府がそれに対処しようということで行った改革だ。

具体的にどんな改革だったかと言えば、

人返し令、株仲間の解散、徹底的な倹約、上知令。

簡単に説明してみる。

人返し令とは、人口増加によって食糧不足になったことをうけ、

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こんな正月

こんな正月

2020年も終わり、
2021年になったわけだが。

今年ほど年を跨いだ感の無い年はない。

そう感じたのは、

盛大なイベントも人の動きも、テレビのド派手な番組も、実家でくつろぐひと時も殆ど無かったからなのか。

コロナの感染者数が急増したせいなのか。

少なくとも、

めでたい!

と自然と沸き起こるあの正月特有の雰囲気はどこに行っても感じられなかったに違いない。

そんな年を跨いだ感の無い一

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差別の渋滞

差別の渋滞

夕方の、東京の都心。
僕は混雑のピークを迎えた骨董通りを運転していた。

なかなか景色が変わってくれない窓の外を眺めながら、
何故かは分からないがふと、

数年前に呟かれた"松本人志さん"のツイートを思い出した。

『あ、差別してる人を差別してしまった!』

というような内容だったと思う。

僕自身もそういう意味で誰かを差別してるかもしれないと、その時も思った。

差別とは違うかもしれないが、

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実家からみかん

実家からみかん

先日、母親から電話がかかってきた。

電話と言っても、

60歳過ぎた母親が
ギリギリ駆使できるテクノロジー、
LINEのあれだ。

毎度、大した用件ではないので
ながらで話を聞いている。

「みかん、送ろうか?」

「お願い」

そんな感じの会話をしたことは覚えている。

数日後、
予告通り実家から段ボールが送られてきた。

中には、
10個入りのみかんが2袋、
調味料がいくつか、
パスタ2袋、

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そして、冬

そして、冬

11月上旬。

季節の変わり目になると、
来たる季節を思い思いに口にする。

草木の香りが漂ってくれば、
「ああ、春が来た」

蝉の鳴き声が聞こえれば、
「夏が来たねぇ」

残暑を忘れ紅葉が色づき始めれば、
「もう秋か」

人は必ずその始まりを意識する。

冬の到来はかなり特殊だ。
簡単な話、
込み上げてくる思いが違うのだ。

想像して欲しい。

突然のしんどい寒さに震え
コートを持って来なかった

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