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そして、冬

11月上旬。

季節の変わり目になると、
来たる季節を思い思いに口にする。



草木の香りが漂ってくれば、
「ああ、春が来た」

蝉の鳴き声が聞こえれば、
「夏が来たねぇ」

残暑を忘れ紅葉が色づき始めれば、
「もう秋か」


人は必ずその始まりを意識する。


冬の到来はかなり特殊だ。
簡単な話、
込み上げてくる思いが違うのだ。


想像して欲しい。


突然のしんどい寒さに震え
コートを持って来なかったことを嘆き、
見上げれば街路樹やら露店やらが
これぞとばかりに電飾を纏っている。
繁華街の大型ビジョンに新垣結衣とメルティーキッスが流れる。


駅の近くは危険だ。
随分と気の早いクリスマスツリーに見つかってしまう。
信号待ちに、人目を気にせず抱き合う男女が目に入った。
金縛りにあったみたいに不思議と恋人たちから焦点が離れないのだ。
そんなに長くない嫉妬と祝福にさよならして、
凍える身体を自分で抱きながら
帰路へと戻る。


改札を抜け、
階段を上がり、
くたびれたサラリーマンの横に立って
電車を待つホームにて、
ふとこぼれそうになるのを抑える。

急いで家に帰って、
やっと自分とは関係のない世の中の事情から離脱し安堵する。

とりあえず暖房とテレビのスイッチを付け、
コートを脱いでる最中にふっと僕の視界に入る。
画面一杯にケンタッキーのCMがクリスマスを謳い出す。
油断しきった僕の身体から零れ落ちる。

「もう冬か」

こうなったらもうあれしかない。
コートを着直し家の外へと出て行く。

『恋ノチカラ』でも見るか。

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