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よすけの短編小説まとめ

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書いた小説を投稿した順にまとめています。短いのから長いの。暗いものから明るいものまで。ほっと一息つけるように。
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2022年9月の記事一覧

【短編小説】んふぇーべ

【短編小説】んふぇーべ

1,233文字/目安2分

 昨日見た夢が頭から離れない。

 心地よい風が抜ける街並みは、なんだか懐かしい香りがする。広い道の真ん中には植え木があって、ここならボウリングだってできそうだ。
 公園では小さな男の子が風船を手放しちゃって悲しそう。僕は大きいのを一つ分けてあげた。

 それはそうと、今日は電車に乗ってお出かけだ。ぐるんと一回、坂を登ると駅にたどり着く。建物はとても堅そうだ。向こうの倉

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【短編小説】めんどくさい

【短編小説】めんどくさい

888文字/目安1分

 今度はどこに行こうか。きみと何しようか。
 行きたいところがいっぱいある、きみとしたいこともいっぱいだ。
 遊園地、映画館、動物園。次々とイメージがふくらんでくる。
 他に誰もいない家デート。お弁当を持ち寄ってピクニック。ショッピングモールで買い物デート。ゲームセンター、カラオケ、ボウリング。常に二人きりのドライブデート。あ、でもまだ車の免許が取れる歳じゃないや。

 き

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【短編小説】よくばり

【短編小説】よくばり

786文字/目安1分

 人生百年時代とはよく言ったもんだ。
 十代は十年しかない。二十代も十年しかない。十年を実際に生きてみると、とてつもなく長い時間だ。だけど、生きた十年はもう戻ってこない。
 仮に残りの人生が八十年あったとして、その八十年は同じようには生きられない。十代は十代なりの生き方。三十代は三十代なりの生き方。八十代なんか生きているのかも分からない。

 できるだけいい学校に進学したい

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【短編小説】くらげになる

【短編小説】くらげになる

2,592文字/目安5分

 雨はしとしと、この町を灰色に染める。分厚い雲は喧騒すらも覆い隠した。すごく静かだ。まるで海の中にいるみたい。息が詰まりそう。
 雨は嫌い、傘は好き。
 傘を差していると、世界から遠ざけられたような、そんな気がしてくる。赤だったり青だったり、黒や透明もある。いくつもの傘が同じようにぷかぷかと浮かんでいる。
 人の声、車の音。それらすべてを雨が飲み込む。町の中を歩いている

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【短編小説】フォトアルバム

【短編小説】フォトアルバム

2,057文字/目安4分

「一つ分かったことがある」
「どうした」
「俺、アプリでいろんな子と会ってるって話よくするじゃん」
「してるな」
「その子ら一人一人、みんな生きてるんだなぁって思うのよ」
「当たり前じゃね」
「いや、そうなんだけど。そうじゃなくて、みんなそれぞれ人生があって、いろんな生き方があるんだなぁって」
「そういうことか」
「みんないい子なのよ」
「何人くらいと出会ったんだ?」

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【短編小説】だいじょばない

【短編小説】だいじょばない

584文字/目安1分

 いつもみんなに「大丈夫」って言うお前のことが気に食わない。
 勉強もできて、運動もできて、分け隔てなくてノリもいい。そんなお前だからみんなが集まっていく。
 話しやすくてなんでも聞いてくれる。だからみんな何かとお前にお願いをする。勉強のこと、頼みごと、掃除当番を代わってほしいなんてことも。どんなことでも、お前はやればできてしまう。だからみんなお前に甘えているんだ。
 俺は

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【短編小説】ホームタウン

【短編小説】ホームタウン

1,526文字/目安3分

 朝の通勤。電車は満員。これでもかというくらいに、車内は人で詰まっている。なんとか電車を降りる。後ろからリュックで押される。足が引っかかる。
 人を人と思わないみたいに、人が流れていく。
 コンビニでパンとコーヒーを買う。鳩が三羽、道端をウロウロする。公園にはタバコの煙が四つ上がっている。急いでいるスーツの人。横に広がる集団。スカートの短い女子高生。
 信号待ち。待てな

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【短編小説】焼き鳥屋の煙―店じまい―

【短編小説】焼き鳥屋の煙―店じまい―

3,087文字/目安6分

 こんな時間まで飲んでしまった。
 俺の他にも人はいたが、すでにみんな帰っている。隣のスーツを着た男も、家族の愚痴やら仕事の愚痴やら今の日本がどうだとか話している座敷の二人も、いつの間にかいない。スーツ姿の女の人は少し飲むなり出ていってしまったし、その後に来た大学生も散々泣いた後に帰っていった。

 いつもわりと静かな店の中だが、一人になると本当に静かになる。他には大将

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【短編小説】トンネルの足音

【短編小説】トンネルの足音

888文字/目安1分

 誰も通らない、先の見えないトンネルをずっと歩いている。
 消えそうな明かりが一定間隔でついているだけだから、自分の輪郭もおぼつかない。歩いた先に何があるのか、終わりがあるのか、どうしてここにいるのかさえも分からない。
 ただずっと、まっすぐ歩き続ける。

 一歩進むと足音が二つ、三つと響く。それを繰り返すと自分の歩いた距離がもう分からなくなる。
 先が見えないのに歩き続け

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【短編小説】二人乗り

【短編小説】二人乗り

457文字/目安1分

 君と自転車を二人乗り。
 わたしを後ろに乗せて、君はぐんぐんと風を切ってゆく。
 二人乗りは違法なんだよってわたしが言うと、知ってるよって君は言う。罰金になっちゃうかもしれないよってさらに言うと、俺が払うからいいなんて言う。嘘でしょ。

 わたしの行きたいところ、わたしの知らないところ、上り坂も下り坂も、追い風の時も向かい風の日も、君はどこまでも連れていってくれる。
 君

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【短編小説】かわいい

【短編小説】かわいい

3,342文字/目安6分

 朝、目が覚めてから違和感に気づくまでに、そう時間はかからなかった。
 まず一つ股間のあたり。というか股間。全然力が入っている感じがしない。自慢じゃないが俺は朝からすごい。何がとは言わんがナニがすごいのである。なのにそこにある感じがしない。
 もう一つ。寝返りの感触がなんとなく柔らかい。ふにって感じがする。
 そうは言っても違和感の正体は分からず、あくびをして、ベッドか

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【短編小説】チョコレート

【短編小説】チョコレート

610文字/目安1分

 きみからもらった、一つのチョコレート。

 普段は甘いものばかり選ぶくせに、チョコレートはビターが好きなんだ。

 口に入れると、ほろ苦さがいっぱいに広がっておいしい。

 だけど。

 わたしは甘いほうが好きかな。

 そう口にすると、きみは言葉にはせず、わたしに微笑んだ。

 その目はどこまでも深くて、ミルクみたいに優しい。

 それがきみの答えに聞こえて、嬉しくなる

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【短編小説】センチメンタルチェックイン

【短編小説】センチメンタルチェックイン

1,681文字/目安3分

「まいるよなぁ」
「一人で景色なんか見てたそがれて、何してんだよ。しかもぶつぶつと」
「うーん」
「そろそろ行かねーと。宿のチェックインの時間だぞ」
「いやさ、最近出会った子が中学の時に初恋で好きになった子に似ててさ」
「なんだよ急に」
「なんかいろいろ思い出しちゃったんだよね」
「チェックインは」
「中学の時なんか俺クソガキだったからさ」
「今もだろ」
「どう距離をつ

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