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【短編小説】センチメンタルチェックイン

1,681文字/目安3分


「まいるよなぁ」
「一人で景色なんか見てたそがれて、何してんだよ。しかもぶつぶつと」
「うーん」
「そろそろ行かねーと。宿のチェックインの時間だぞ」
「いやさ、最近出会った子が中学の時に初恋で好きになった子に似ててさ」
「なんだよ急に」
「なんかいろいろ思い出しちゃったんだよね」
「チェックインは」
「中学の時なんか俺クソガキだったからさ」
「今もだろ」
「どう距離をつめたらいいか分かんなくて、ひたすらイタズラしてた」
「ひたすらイタズラ」
「そう、そんでめちゃくちゃ嫌われた」
「ひたすらイタズラねぇ」
「その時の子が大人になって帰って来た気分」
「よかったじゃん」
「しかも性格までどことなく一緒でさ。もうなんか、本人な気がしてきて」
「名前は?」
「違うんだよ。だから別人ではあるはずなんだよ」
「なるほど」
「顔も、性格も、笑う時の口に手を当てる感じも似ててさ」
「あらま」
「しかも声。声がめっちゃ似てんのよ」
「すげーな」
「喋り方も」
「同一人物じゃん」
「そのくせ大人びてて。ちゃんと成長してる感じがもうなんか、言い表せないわけよ」
「大変だな」
「俺ばっかりあの時のまま置いてけぼりにされた感じで、なんか、みんなちゃんと大人になってるんだな」
「いやちょっと待て。別人だろ」
「そうなんだけどさ」
「なんだよ」
「周り見てると、俺ももっと人生考えないとなぁって思うわけよ」
「話が展開していくな」
「今でこそ、今が楽しければいいって思ってるけどさ」
「おー」
「あの時ああしてれば今こうなのにってのあるじゃん。ふとした時にちょっと後悔するっていうか」
「おーおー」
「てことはさ、あの時もう少し何か頑張ってたら、今がまた違ってるはずじゃん」
「うん」
「てことはだよ。今、何かやっておけば将来もっと楽しくなるんじゃないか、とも思うわけ」
「そりゃな」
「でもさ、その時その時は、未来がこうなるってわからんじゃん」
「まぁ当たり前だよな」
「ムリゲーじゃね。人生」
「なんでよ」
「だって未来がわからんのにどう頑張りゃいいのよ」
「別に今何か頑張ってたらいいじゃん」
「何かって何だよ。結局未来で後悔しそうじゃん」
「なんでだよ」
「そうでしょうよ。今どうしたらいいか分かんないのに、言ってるうちに未来がやって来ちゃうじゃん」
「落ち着けよ」
「なんだよ」
「まず未来が今存在してるわけじゃないだろ」
「当たり前だろ」
「今があっての未来じゃん」
「そらそうよ」
「で、こうしたいとかこうなりたいとか、未来のことを考えるのは自由じゃん」
「うん」
「未来が今存在するわけじゃないから、今やってることが未来をつくっていくんだろ。頑張ってようが頑張ってなかろうが。だから今から今のことを後悔したって仕方ないだろ。未来なんてすぐ過去になるんだから」
「いや意味分かんねーよ」
「ほんとだよ」
「さっきから何の話だよ」
「お前がもっと人生考えないとなっていう話だろ」
「は? 俺の最近出会った子が初恋の子に似てるって話だろ」
「なんでもいいわ」
「……」
「……」
「……」
「急に黙るなよ」
「それな」
「なんだこいつ」
「まぁ……今の子と、もうちょいちゃんと向き合おうかな。初恋うんぬん抜きにして」
「うん、そうしな」
「てか。この景色送ったろ。すごくね。めっちゃ夕焼け」
「な、これすげーよな」
「はい送信。俺はここにいるぞ、と」
「めっちゃいい写真」
「な。この旅行もその子と来たかったなぁ」
「悪かったな俺で」
「冗談だって」
「いいけど。まぁそのうち来たらいいじゃん」
「そうするわ」
「おう」
「まぁ、今ちゃんと楽しいことやってりゃ、勝手に未来も楽しくなるだろ」
「それでいいんじゃねーの」
「まぁ、ちょっとくらいは先のこと考えるわ」
「そうだな」
「てことで、未来を楽しくするために今やることかぁ」
「今はチェックインだろ」
「それだ」
「早く行こうぜ」
「あ、ちょっと待って」
「なんだよ」
「その子から返事来た」
「お、なんて?」
「あなたとはもう会えませんって」
「なんでよ」
「理由は特に書いてないけど」
「ありゃー」
「……」
「まぁ、ちゃんと連絡来ただけよかったじゃん」
「……」
「とりあえず宿行こうぜ」
「……」
「元気出せよ」

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