【短編小説】めんどくさい
888文字/目安1分
今度はどこに行こうか。きみと何しようか。
行きたいところがいっぱいある、きみとしたいこともいっぱいだ。
遊園地、映画館、動物園。次々とイメージがふくらんでくる。
他に誰もいない家デート。お弁当を持ち寄ってピクニック。ショッピングモールで買い物デート。ゲームセンター、カラオケ、ボウリング。常に二人きりのドライブデート。あ、でもまだ車の免許が取れる歳じゃないや。
きみともっと一緒にいたい。
きみをもっと楽しませたい。
だから最高のプランを用意したいけど、なかなか定まらないや。
それとなくきみに訊くと、「なんでもいいよ」って言ってくれる。
「あなたと一緒なら、校長先生が話している体育館だって楽しいよ」って。
それはさすがに違うと思うけど、何してもいいのが逆に難易度を上げているんだ。
せめてヒントでもくれたらいいのに、きみは笑う。こうやって話している今だって楽しそうに。
なんかもう。
めんどくさいなぁ。
あーあ。
一日が終わった別れ際、きみは少しムスッとしていた。やっぱり今日のプランが外れたのかな。
きみと楽しくいたいだけなのに。
それならきみだって希望の一つくらい言ってくれてもいいのに。きみは何も言ってくれない。楽しくないなら楽しくないって言ってくれたらいいのに。
違う、そんなことが言いたいんじゃない。
でもだって。
このまま別れちゃうのかなぁ。
なんだかそっけないメールのやり取り。携帯がピロンと一回鳴った。
『わたしといても楽しくなかった? わたしは今日すごく楽しかったのに。あなたが楽しくないとわたしも楽しくないよ』
あぁ
違うそうじゃないんだ。
あぁ。
きみも同じだったんだ。楽しませたいばかりで自分が楽しもうとしていなかったんだ。きみが楽しければぼくだってそう。本当はプランなんてどうだっていいんだ。
ちゃんと謝ろう。
「あなたと一緒なら楽しい」って言ってくれるのが、何よりもずっとずっと嬉しい。
『また二人でどこかに出かけよう』
きみともっと一緒にいたいから。
きみにもっと笑っていてほしいから。
今度はきみとどこに行こうか、何しようか。
めんどくさいなぁ。
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