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【短編小説】んふぇーべ

1,233文字/目安2分


 昨日見た夢が頭から離れない。

 心地よい風が抜ける街並みは、なんだか懐かしい香りがする。広い道の真ん中には植え木があって、ここならボウリングだってできそうだ。
 公園では小さな男の子が風船を手放しちゃって悲しそう。僕は大きいのを一つ分けてあげた。

 それはそうと、今日は電車に乗ってお出かけだ。ぐるんと一回、坂を登ると駅にたどり着く。建物はとても堅そうだ。向こうの倉庫の前にはトラックが停まっている。
 ホームまでは長い階段を登る。お金に余裕があればロープウェイが使えるのに。途中の売店では二人くらいが買い物をしていた。
 乗り換えの時間は短い。待合室ではみんな一生懸命勉強している。急行待ちの人でかなり混んでいるようだ。乗る電車のホームは反対側だ。狭い道を通っていく。一本乗り逃してしまったが、うまく荷物を入れられた。

 ボックス席に座ると、電車が動き出した。ここではスリッパを揃えないといけない。「次は君だよ」とおじさんに促される。下手くそながらも自己紹介をする。拍手をする人、「まだまだ」と笑う人、いろいろな反応があった。
 電車が走っている間はちゃんと捕まっていないと落ちてしまう。最後の急降下が超難関だ。何個かビー玉が落ちてしまった。ガタイのいい人が支えてくれたから、みんな無事だった。

 電車を降りた場所は田舎だ。特に駅前には公衆トイレと杉の木と小さな山があるくらいだ。僕はチケットを買って、中に入った。
 家が並び、小さな川が流れている。橋を渡ったところにある大仏はやっぱりすごい。カラオケくらい行っておけばよかった。
 友達はどんどん先に進んでしまう。僕はついて行くのを諦めて、地図を広げた。ここが正念場だ。気をつけていないと、この辺りの建物は薄っぺらい。簡単に地下に行ってしまう。広い庭のおばあちゃんちを抜けて、ようやくアイスを買うことができた。

 スーパーの駐車場はとても狭いから、どんなに用心深くしていてもはみ出してしまう。すぐそこの家にいるおじさんは笑ってくるし、犬も吠えている。仕方がないからローストビーフはやめることにした。
 いろいろな商品を扱っているとはいえ、どうしても食べたいパンがない。いくら探してもカップラーメン売場に来てしまう。
 だめだ、ふりだしだ。
 僕はスーパーを後にした。

 二階に上がり、自分の部屋に戻る。
 そうだ、机を片づけないといけないんだった。服もだいぶ減ってきている。
 ベッドに寝転んだ。天気が良かったから布団もふわふわしている。飼い犬のシェリーも気持ちよさそうだ。
 さなえちゃんに触れると「くすぐったいよ」って笑う。僕は調子に乗っていろんなところを触る。次第にお互いの体の距離が近くなり、密着するようになって、普段は触らないようなところにも手を伸ばしていく。経験したことのない感触が、何も考えられなくなるほど僕を昂らせた。

 トイレに行きたくなって目が覚めた。まだ外は暗い。窓から入ってくる街灯すらも眩しい。
 そうしてまた、布団に戻る。

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