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今年で58歳。元ミュージシャン。 現在無職。京都在住です。 大病を患い、後遺症によりそ…

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今年で58歳。元ミュージシャン。 現在無職。京都在住です。 大病を患い、後遺症によりその時間の全てを回復に注いでいる男の思いの丈を綴っていきます。実体験を元に自分の言葉でエッセイ「綿帽子」を始めました。コメント再開いたしました。いつもありがとうございます!

マガジン

  • 出逢い

    現在の自分を形成する宝箱の中の人達

  • 綿帽子【前編】

    綿帽子というタイトルで書き綴っているエッセイです。闘病期間中から現在までの出来事をありのままに書いています。自分の経験や主観でしか語っておりませんが、少しでも何かを感じ取っていただけたら幸いです。

記事一覧

綿帽子 第四十八話

その日はやってきた。 お袋と二人足取りは重く、神妙な気分でタクシーに乗りこんだ。 車内では二人とも何の会話もなく、お互い笑顔を見せるわけでもない。  俺はただひ…

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3日前
5

綿帽子 第四十七話

突然不動産屋から電話が入る。 どうしたのだろう? 予定よりだいぶ早い。 もしかして気に入らなかったのだろうか?そんな考えが頭をよぎる。 「先方さん気に入られたそう…

300
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7日前
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"Tequeolo Caliqueolo"

2017年6月30日に京都にやって来ました。 体力回復もままならず、日々の痛みに耐えながら悶々とした毎日を送っていました。 思いつくこと、できることは全て実行しました…

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10日前
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綿帽子 第四十六話

見学者がやって来た。 夫婦とその妹、子供が二人いて両親とも同居するらしい。 お袋と二人で精一杯の作り笑いをして出迎える。 不動産屋の案内で内部閲覧に入る。 俺は…

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13日前
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綿帽子 第四十五話

連絡を待っている。 これまでも何度か価格を相談しては更新をしてきたが、一向に買い手はつかない。 不動産屋曰く何の問い合わせもないらしい。 提示された金額より200…

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2週間前
4

『明日』

夕暮れ時にはそれぞれの明日があります。

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3週間前
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綿帽子 第四十四話

過ぎゆく季節は早くも五月。 鯉のぼりの日はすでに終わった。 子供の頃の俺は鯉のぼりを見るのが好きだった。 その頃は今とは違ってもう少し小さな家に住んでいたが、庭…

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3週間前
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綿帽子 第四十三話

それは突然やってきた。 記憶が鮮明に甦る。 何故今頃になって思い出したのか? 遥か彼方30年ほど昔に、一緒にバンドを組んでいたギターの彼の実家の電話番号を思い出し…

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1か月前
13

綿帽子 第四十二話

『おはようカラス』 子ガラスを助けた日から二日後。 散歩に出かけようと玄関のドアを開けると、どこからかカラスの鳴き声がきこえてきた。 「あれ?」 かなり近くで鳴…

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1か月前
18

綿帽子 第四十一話

春は瞬く間に過ぎ行き、多分近々夏が到来するであろうまだ四月後半。 継続している朝の散歩はとっくに済ませてから、一旦帰宅した。 町人達の挨拶は相変わらず続いている…

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1か月前
8

綿帽子 第四十話

今日は早めに散歩を済ませ、午後から久しぶりに自転車に乗ってみることにした。 なんだか、バランスが取りにくい。 歩いていてもおかしいのだから、尚更違和感がある。 左…

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1か月前
3

綿帽子 第三十九話

あれから、仕掛けを覗きに毎日用水路に来ている。 特に変わった変化は見られない、一箇所だけザリガニが入っている。 場所は移動させている様子で、やはり何かを捕らえよ…

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1か月前
17

綿帽子 第三十八話

『うう』 前日に入院して準備を整えてから翌日の午前中に手術をすることになっていたが、前回の入院中とは全く別次元の神対応とでも言いましょうか。 入院している病棟が…

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1か月前
6

綿帽子 第三十七話

公会堂に向かって歩く日々が続く。 もはや到着して10分もすれば町人さん達がお出迎えに来るようになっていた。 視界には入るが気にせず参拝する。 無数の光る目に見られ…

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1か月前
3

綿帽子 第三十六話

季節が過ぎ行くのは早く、そして俺の歩みは遅い。 上手く伝えることはできないのだが、2月に差し掛かった頃には、もう俺の今年は終わったなと実感した。 多分色々な出来…

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1か月前
15

綿帽子 第三十五話

「先生、それでは鎮静をかけて抜歯をお願いします」 「分かりました、それではこれで手術の予約も取れましたので、次回の受診日にまた診させて下さい。詳しい説明が看護師…

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1か月前
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綿帽子 第四十八話

綿帽子 第四十八話

その日はやってきた。

お袋と二人足取りは重く、神妙な気分でタクシーに乗りこんだ。

車内では二人とも何の会話もなく、お互い笑顔を見せるわけでもない。 

俺はただひたすらに「ミスをしないように」と心の中で繰り返し呟いていた。

家を売るなんて初めての経験だし、緊張しないはずもない。

だが、それ以上に全身の痛みが激しくて、冷静に対処する自信がない。

目的地に着いた。

初めて来る場所だ。

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綿帽子 第四十七話

綿帽子 第四十七話

突然不動産屋から電話が入る。

どうしたのだろう?
予定よりだいぶ早い。
もしかして気に入らなかったのだろうか?そんな考えが頭をよぎる。

「先方さん気に入られたそうで、他の方に取られても困るので決めたそうです」

「私も〇〇不動産の事務所に伺いますので、契約を纏めたいと思います。急ですが今週の土曜日は如何でしょう?」

良かった、想像とは真逆の答えが返ってきた。

「大丈夫ですよ、そこで直ぐに契

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"Tequeolo Caliqueolo"

"Tequeolo Caliqueolo"

2017年6月30日に京都にやって来ました。

体力回復もままならず、日々の痛みに耐えながら悶々とした毎日を送っていました。

思いつくこと、できることは全て実行しました。

毎朝の散歩は欠かさず、高野川に沿って上っては下り、出町柳までの道のりを歩き、駅にあるロッテリアの店員さんと顔馴染みになり、少しばかり会話を交わしては自分を慰める。

歩くことしか思いつかず、毎日最低10キロ、多い時には20キ

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綿帽子 第四十六話

綿帽子 第四十六話

見学者がやって来た。

夫婦とその妹、子供が二人いて両親とも同居するらしい。

お袋と二人で精一杯の作り笑いをして出迎える。
不動産屋の案内で内部閲覧に入る。

俺は各部屋の案内をして回る。
お袋は少々テンパっているのか見学者の質問にかなりあやふやな返事をしている。

「私の家だからお前は一切話すな」

と豪語したお袋だったが、かなりまずい。

暖房器具は取り外すと伝えたにもかかわらず、詳細が曖昧

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綿帽子 第四十五話

綿帽子 第四十五話

連絡を待っている。

これまでも何度か価格を相談しては更新をしてきたが、一向に買い手はつかない。

不動産屋曰く何の問い合わせもないらしい。

提示された金額より200万程高い段階で、自宅から徒歩で約2分の距離にある売り家が400万程値を下げた。

そしてそれから二週間も経たないうちに、家財道具を運び入れている場面に遭遇する。

あまりの急展開に驚きを隠せない。

不思議なのは、問い合わせをしても

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綿帽子 第四十四話

綿帽子 第四十四話

過ぎゆく季節は早くも五月。
鯉のぼりの日はすでに終わった。

子供の頃の俺は鯉のぼりを見るのが好きだった。

その頃は今とは違ってもう少し小さな家に住んでいたが、庭に丸太を埋めて柱を立ててもらい、五月五日になると大きな鯉のぼりを上げてもらった記憶が残っている。

空にたなびく鯉のぼりは子供心を鷲掴みにした。
初めて見た時の感動は例えようがない。
ただ、それも記憶にあるのは人生のうちで2回だけ。

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綿帽子 第四十三話

綿帽子 第四十三話

それは突然やってきた。

記憶が鮮明に甦る。

何故今頃になって思い出したのか?

遥か彼方30年ほど昔に、一緒にバンドを組んでいたギターの彼の実家の電話番号を思い出した。

まだ携帯電話すら存在しない大昔の、しかも彼の実家の電話番号なんて。

特に会いたいわけでもない。

だが思い出したのだ。

同時に中学時代からの友人で、唯一親友と思っていた友達の電話番号も思い出した。

二人とも30年は連絡

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綿帽子 第四十二話

綿帽子 第四十二話

『おはようカラス』

子ガラスを助けた日から二日後。

散歩に出かけようと玄関のドアを開けると、どこからかカラスの鳴き声がきこえてきた。

「あれ?」

かなり近くで鳴いている気がする。

「どこだろう?どこで鳴いているのかな?」

鳴き声に耳を傾けながら、アーチの手前まで来たところで気がついた。

「お!」

振り向けば、屋根の上に二羽のカラスが止まっている。

朝からカラスの鳴き声が聞こえるな

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綿帽子 第四十一話

綿帽子 第四十一話

春は瞬く間に過ぎ行き、多分近々夏が到来するであろうまだ四月後半。

継続している朝の散歩はとっくに済ませてから、一旦帰宅した。

町人達の挨拶は相変わらず続いているけれど、それをお袋に伝えたところで、軽くいなされるのは目に見えている。

時々、ちょっとは耳を傾けてほしいと思いはするのだが、真剣に話を聞いてくれたことはないのだ。
だからそれに関してはもう諦めた。

それでも早く体を、いや、全てを治し

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綿帽子 第四十話

綿帽子 第四十話

今日は早めに散歩を済ませ、午後から久しぶりに自転車に乗ってみることにした。

なんだか、バランスが取りにくい。
歩いていてもおかしいのだから、尚更違和感がある。
左右に少々フラついたりするがなんとかなりそうだ。

自転車のペダルが重く感じる。
やれやれ、自転車のペダルだぞ、漕ぐというよりも回転させる意識を持たないと上手く前に進まない。

筋力の衰えをひしひしと感じながら、漕ぐ。

「いや、回転させ

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綿帽子 第三十九話

綿帽子 第三十九話

あれから、仕掛けを覗きに毎日用水路に来ている。

特に変わった変化は見られない、一箇所だけザリガニが入っている。
場所は移動させている様子で、やはり何かを捕らえようとはしている。

お袋曰く

「鰻ちゃうか、この辺昔は鰻を取ってたらしいで」

そんな馬鹿な、田んぼの用水路に鰻とは現実離れしている。
お袋も奇妙なことを言うなと思ったが、念の為ネットで調べてみた。

「田鰻」

何だこれ?

なるほど

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綿帽子 第三十八話

綿帽子 第三十八話

『うう』

前日に入院して準備を整えてから翌日の午前中に手術をすることになっていたが、前回の入院中とは全く別次元の神対応とでも言いましょうか。

入院している病棟が別なおかげか、はたまた1日しか入院しないせいなのか、先手を打ってチョコの差し入れを看護師さん達のいるナースステーションに届けた効果なのかは定かではないが、別次元のような神対応に動揺を隠せない。

しかもあっという間に時間は過ぎ、手術室に

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綿帽子 第三十七話

綿帽子 第三十七話

公会堂に向かって歩く日々が続く。

もはや到着して10分もすれば町人さん達がお出迎えに来るようになっていた。

視界には入るが気にせず参拝する。
無数の光る目に見られながら、掃除の日々を繰り返す。

流石にこの頃になると、何やら毎日親子で掃除をしに来る人がいる。

「一体何処の人だろう?」と噂になっていたようだ、道行く人に話しかけられるようになっていた。

また、公会堂を管理している人達には「掃除

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綿帽子 第三十六話

綿帽子 第三十六話

季節が過ぎ行くのは早く、そして俺の歩みは遅い。

上手く伝えることはできないのだが、2月に差し掛かった頃には、もう俺の今年は終わったなと実感した。

多分色々な出来事が起こるのだろう。

しかし、変化して行くのは周りだけで俺の体と俺自身に大幅な変化が起こる兆しは全く見えず、自分に期待が持てなくなっていた。

今日は手術日が決まってから約一ヶ月後の経過観察の日。

今の所、抗生剤が効いているのか病状

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綿帽子 第三十五話

綿帽子 第三十五話

「先生、それでは鎮静をかけて抜歯をお願いします」

「分かりました、それではこれで手術の予約も取れましたので、次回の受診日にまた診させて下さい。詳しい説明が看護師の方からありますから、それまで待合室でお待ち下さい」

「はい、有難うございます。よろしくお願いします」

結局俺は鎮静剤を使って、抜歯と抜歯後の周囲をケアする手術を受けることにした。

相談に乗ってくれた精神科の先生には申し訳ないと思い

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